第03話 - 放課後の会談(本番)
花粉症が本気を出してきたみたいで、目が痒かったりショボショボしたりする日々が続いてます…投稿がいつもより遅くなったのはそのせいです(キリッ!
網谷という想定外の参加者に取り乱してしまったが、いつまでも玄関で立ち往生するわけにもいかなかった俺達は、当初の予定通りリビングへと移動することにした。この部屋は、構造上ダイニング兼キッチンとも繋がっているので、仕切りとなる引き戸を取り外してしまえば疑似的に一番広い部屋として使えるのだ。
既に今回の事の発端であるグレッグを始め、ノーマン監視役として俺とも接点の多かった計6名の陸軍兵士がダイニング側の部屋に立って待機している。椅子が足りなかったという理由もあるが、本人達が「座って寛ぐのが忍びない」と言い張るので俺が折れた次第である。
鍛え上げた肉体を持つ長身の外人イケメン達が揃って並んでいるのを見ると様になっているのだが、室内でやられると威圧感が凄い。俺達に付いてきた天野と網谷が、リビングに入った瞬間“ビクッ”ってなっていたくらいだ。
いや、実は彼らだけが原因じゃないかもしれない。
何しろ我が家のリビングは今、出向かえとして玄関に居た俺、ノーマン、莉穂姉以外の面々であふれかえっているのだから…。
「天野達も人が多くて驚いただろうが、気にせずそこに座ってくれ…って、網谷の分の座布団が無かったな。じゃあ、俺が使う予定だったのを──」
「あぁ、だったら私のを使って。私は渉の横にぴったりくっついて、二人で一緒の座布団を使うから」
リビングテーブルを挟んで天野が座る予定だった場所の対面に用意していた座布団を渡そうとした瞬間、物凄い速さで莉穂姉が動き網谷に自分が使う予定だった座布団を手渡していた。
昨日、テロリストをぶん殴った時もこんな速度で移動したのだろうか。とすると、ほぼ同時にテロリストを倒していた滝川や篠山ねーちん達の成長っぷりが凄いな。
俺もノーマンに訓練してもらった方が良いかもしれない。このままでは、“魔道具作成が得意”という以外、俺のステータスがなくなってしまう。
「あっ! 莉穂姉、それズルい!」
「なっ! 伊藤さん、それは流石に見過ごせません!」
「くっ! 莉穂…油断も隙も無いわね」
「フッ…、これがお姉ちゃんの特権というものです」
滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの三人が悔しそうに抗議するのを余所に、勝ち誇った顔で俺に抱き着いてくる莉穂姉。久々に莉穂姉との距離が近いから、顔が二ヤけそうだ。
いつもは俺の横に誰が座るか…という権利を掛けて、じゃんけんなりローテーションするなりしている彼女らだが、今回は家主の立場という事もあって素直に俺の横の座布団を譲っており、他の皆と仲良くソファに腰かけていたのだ。
ちなみに、他にリビングに居るのは美希姉、関口、妹尾といった天野や網谷とも顔なじみの面々に加え、マージちゃん、マジカルゆかりんといった初対面のメンバーも勢ぞろいしていた。
尚、マジカルゆかりんに至っては、「初見の相手だから、成長した状態で会ってもいいわよね!」という理由から、グラマラスな見た目になるよう老化魔法を使っての参加である。着用している衣類は、GW中に買いあさった物の一つらしい。
「あ、莉穂姉。それだったら私が薫と一緒に座るので、これはお返ししますね」
「…えっ?!」
「紗友莉ちゃん、グッジョブ!」
網谷の予想外且つ攻めな発言に驚愕する莉穂姉と、俺との過度の接近を阻止できたことに素直に喜ぶ滝川。よく見れば、由子お姉ちゃんとマチュアも無言でサムズアップしている。
「いや、それには及ばん。網谷には、俺にあてがわれていた座布団を使ってもらえばいいだろう。胡坐ができるなら、座布団が有ろうと無かろうと気にならないしな──って、言ってるそばから悲しそうな顔でくっつこうとするんじゃない! これだから、現実女子は…油断も隙もあったもんじゃねぇっ!」
「もぅっ! ちょっとくらいドキドキしてくれてもいいじゃない! 私、これでも人気上昇中のアイドルなのよ? “幼馴染”で“人気アイドル”だなんて、薫の好きなギャルゲーでは鉄板ネタでしょ? 何が不満なのよ?」
「先月から何度も言っているが、“現実女子”って時点で不満しかねぇっての! ホラ、こんなやり取りしてたら、本題に入る前に時間だけが過ぎるから、ちゃっちゃと座るぞ。
…そういうわけで、渉も網谷が居る件については色々と聞きたい事もあるだろうが、まずは今日の本題を済ましちまおうぜ。たぶん、俺が渉に聞きたかった事とも関連してるだろうしな。はじめましての人も、そうでない人も居るけど、こんだけ人が居るって事はそれだけ大事なんだろ? だったら、話が長くなるだろうし、網谷だって夜から収録があるって言ってたじゃないか。さっさと終わらせるに越した事は無い」
「むぅ~…」
聞いた感じだと、網谷は少し前から押せ押せな感じで天野にアタックし続けているようだが、天野の方は相変わらずな二次オタっぷりを発揮しているようで暖簾に腕押し状態といったところか。網谷も難儀なヤツを好きになったもんだ…。
あざといと言わざるを得ない表情で網谷が頬を膨らましているが、流石は人気アイドル、その姿は非常に様になっていた。
まぁ、天野が釘を刺してきた通り“網谷がここにいる理由”なども気になるところではあるが、これから話そうとしている内容はそこそこ長い話になるので、さっさと本題に入ってしまおう。
「うむ。天野の言う事は尤もだな。…それじゃ、BB。例のモノを」
「……お前に言われずとも用意する気だったさ。つか、『交渉事はBBの分野』とか言って丸投げする気満々だったくせに、なんでノーマンが仕切ってる風なんだよ。納得いかねぇ…」
「ちゃんと勉強しなさい」と親に注意された子供が、「あ~あ…。今からやろうと思ってたのに、カーチャンに言われたせいでやる気なくなった~」とか言い出す気持ちが少しだけ理解できた気がする。
まぁ、ぐちぐち言いはしたが、やる事やらないとわざわざ足を運んでもらった天野にもわるいからな。…たとえ直線距離で200mあるかないか程度の近場とは言え。
「……よっ…と。“ぱ~っぱ♪ ら~っぱ♪ ぱぱぱぱ~♪”制約魔法魔道具・改っ!」
俺はごく自然な動作で空中に魔方陣を描き、その中に手を突っ込んで改造した魔道具を取り出す。そして、「改っ!」と力強く言ったタイミングでダイニングテーブルにドンッと置いた。
目の前で起こった非日常的な事態に天野と網谷が驚いた表情を浮かべていたが、いち早く復活した天野がぽつりと一言こぼした。
「…なんで効果音はキテレツで、道具名の言い方がドラえもんなんだよ」
「うん。天野だったら、ちゃんとツッコミ入れてくれると信じてたぜ!」
「いや、そんな事より! いま渉、魔法陣めいた何かから取り出したよな?! その、占い師が使いそうな水晶玉の乗った台座っぽいの!」
制約魔法の魔道具の見た目は、人の頭ほどもある水晶玉とそれを乗せる台座がセットになったような外見をしている。天野が言ったように、いかにも占い師が持ってそうな外見をしているのだ。
「あぁ、まぁそれもこれから話すから…。まずは皆も、この水晶玉っぽいのに注目してくれ。そんじゃ、魔法発動!」
俺が魔道具に魔力を注ぎ込むと同時に改造を施した魔法陣が発動し、水晶玉から発せられた青白い色をした淡い光が部屋全体を包み込む。
実際は、水晶が乗っている部分の真下にある金属プレートに刻まれた魔法陣が効果発動と共に発光しているだけで、水晶は魔法陣を発動させた際の光を全方向へ分散させるための効果しかない。この魔法陣から発せられた光を視せる事で、その人物に潜在意識レベルでの強い暗示をかける事ができるのだ。
この改造魔法陣に仕掛けた暗示効果は、籠月学園に常備されている魔道具の効果“魔法に関する知識全般を一般人の前で口にすることができなくなる”、“魔法を倫理敵に悪用することができなくなる”という2点に加え、“伊藤渉と野間俊之に関する軍事・魔法関連の内容を、一般人の前で口にすることができなくなる”というものである。
ちなみに、この魔法の効果はかなり優秀で、制約される内容を人前で話そうとした瞬間、重要な箇所が「アレ」だの「ソレ」だのという代名詞に自動的に置き換わってしまうのだ。それでいて、魔道具の光を視た人間同士であれば、代名詞に置き換えられた内容が正確に分かるという自動翻訳機能がついている。
そして何より、忍の様な存在が近くに潜伏していた場合、たとえ話す本人が気付いていなくとも魔方陣の効果が自動的に発動するのがありがたい。一体、どのようにして本人すら認識していない存在を察知しているのか……まさに“魔法”と呼ぶにふさわしい効果と言える。
以前、沖中将が「魔女の秘密が漏洩された事が無い」という風に評価していたが、その最たる理由はこの魔導具の効果によるものだ。
今回は天野の口から俺達の秘密が漏れないよう、早めの対応策として魔法陣を改造した魔道具を使ったわけだが、籠月学園の関係者全員にも安全のために使う予定である。
学園に居る人の場合、外部の人間との接点がほぼ無いのでしばらくは安心なのだが、来月の末には夏休み入るからな。それまでには改造魔道具を使って、間違っても情報漏洩しないよう念を押しておくに越した事は無い。
「…よしっ! これでひとまずの対応完了だ」
「今ので終わり? でも、MIBみたいに、今起きた出来事の記憶があやふやになったり、消えたりはしてないぞ? …網谷もそうだよな?」
「…えっ? えぇ、私もしっかり覚えてるわ」
俺の言葉を聞いて、記憶が操作された形跡がない事に疑問を持った天野が拍子抜けした顔をする。
横に座っている網谷にも記憶の有無を確認しているが、当然記憶など消していないので俺が魔法を使った瞬間を覚えていると強く頷いていた。
「フッ…そりゃそうさ。なんせ、BBが使った魔道具は記憶を操作するものではなく、俺達や魔法に関連する事を他言できなくするための道具なのだからな」
「……だから、なんでさっきからノーマンが偉そうなのさ。魔法陣を改造したの、俺なのに…。いやまぁ、効果の説明は何一つ間違ってないから良いんだけどさ…」
「いやホラ、こういうところで存在感を主張しないと、ボケ担当の俺としては出張るチャンスがないじゃない?」
「お前ほど見た目のインパクトがデカい奴が、何を言ってるのやら…」
迷彩柄のズボンに、黒いタンクトップと迷彩ジャケットの組合せを私服として着る16歳なんて──あ、5月末に誕生日を迎えたから今は17歳か…とにかく、そんな高校生まずもって見かけないよ。それに加えて、夜だろうと早朝だろうと、寝る時以外はサングラス着用してるようなヤツだし…。
俺の溜息交じりの言葉に同意するように、ノーマン以外の全員が「うんうん」と頷いている。大抵の事はノーマンに同意しているマージちゃんや篠山ねーちんまでもが頷いている状態だ。ノーマンだけが周りの反応をみて「え~? そうかな~?」などと首を傾げている。
…こいつ、自分のファッションセンスが浮いてる事に本気で気付いていないようだ。ノーマンが転校してきた当初、クラス中が割とザワついていたんだけどな…ミリタリー柄が目立ち過ぎて…。
「…まぁ、ノーマンの壊滅的なファッションセンスについてはともかく、さっきの魔道具に関してはノーマンの説明通りだ。これといって記憶を操作するという事はしないが、これから話す内容については一般人に他言できないよう、魔法で制約を掛けさせてもらった」
「やはり、魔法だったか…。くっくっく…、お前とノーマンの件について詳しく聞こうと思っていたが、俄然そっちの方が興味深いな! だが、その前に『これから話す内容』って言ってた方を先に聞こうか。渉と連絡が取れる以上、急ぐ必要もなくなったわけだしな」
「そう言ってもらえると助かる。それじゃあ、俺とノーマンの秘密、ついでに魔法や魔女についても説明しておくとしようか…」
俺は、学園でも説明した誕生秘話やその目的を、天野と網谷に話していった。
天野達とは初顔合わせとなる由子お姉ちゃんやマージちゃんを紹介しつつ、籠月学園が魔女を養成するための学園であること、そして今現在、テロリスト達と水面下で闘っているという事も含め洗いざらい…。
天野の方は、グレッグ経由でノーマンが兵士である事などを事前に知っていたためか衝撃が少なかったようだが、6年ぶりに再会したばかりの網谷の反応は凄かった。アイドルとしての技能のなせる技なのか、それとも天然なのか、かなりのオーバーリアクションなのだが不自然に感じないという器用な反応を始終見せていた。
つい昨日の出来事までを話し終えた時にはリビングを照らしていた西日がなくなっており、外にはすっかり夜の帳が降りていた。
「──以上が、俺から話せる内容かな。ノーマンからは他に何かあるか?」
「いや、大丈夫だ。面倒な説明は、全てBBやってくれたからマジで助かる」
「…このデコ助野郎め…。んじゃあ、天野や網谷から何か質問は──って、網谷がガン泣きしてる?!」
「うぐっ…だって…。二人が産まれた理由が、戦うためだったなんて…酷過ぎて……」
昨晩も似たような反応を見たっけな…。流石に年甲斐もなく泣き出す人は居なかったけど…。
テレビに映ってる時はこんなに感情を露わにしている雰囲気はないのだが、オフだと意外と感情表現が豊かなのだろうか。
「えっと…、網谷の方は、ほとぼりが冷めるまでそっとしておくとして…天野はどうだ? 何か質問はあるか? 昼に電話を掛けた時に『聞きたい事がある』とか言ってたけど」
「あぁ、その件に関しては、さっき説明された内容で全て解決したわ。…ただ──」
「『ただ』?」
「──お前達が、まさか“平和のために戦う使命”を持って作られたなんて驚きでな。そんな秘密を聞いた以上、今後は『ハーレム系ラノベ主人公野郎』って呼び方は止めようと思う」
確かに使命っちゃ使命と言えるかもしれないが、俺達の方はそこまで重く受け止めてはいないんだよな。なんというか、「面倒事を押し付けられた」程度の気持ちだし。
しかし、天野の方はえらく真面目な気持ちで決意したようだし、本音を言ってその意気込みを折るのも無粋か…。話している内容自体は、すさまじくどうでもいい事だけど…。
「…だから、今後は『スーパーヒーロータイム野郎』って呼び方に変えるわ」
「「「ブフッ…!?」」」
恐らく、昭和の“仮面バイク乗り”っぽい使命を持っているからそのネーミングにしたのだろうが、グレッグにノーマン、ガン泣きしていた網谷までもが吹き出すほどの斜め上っぷりな呼び方である。
一瞬、ギャグか何かかと思ったが、天野の表情を見る限り本気のようだ。
「いや、天野。その呼び方にされるくらいなら、今まで通りの方がいい…」
俺は真面目な表情と声のトーンで、呼び方を戻すよう頼んだ。




