第01話 - 幼馴染に秘密がバレたなら…
今回は第3章エピローグとの2話分を同時投稿しています。
天野薫。俺とノーマンとの幼馴染にして、今となっては唯一、籠月学園に入学していない幼馴染の一人だ。
厳密に言えば他にも一人、女の子の幼馴染が居たのだが、小4の頃に引っ越してしまい、それ以降連絡が取れていない状態にある。何しろ彼女は、今となっては有名なアイドルになってしまっているのだ。
まぁそんなわけで、仮に連絡先を知っていたとしても気軽に連絡が取りづらいのである。
幼少の頃から俺やノーマンとよく遊んでいた影響で魔力保有量が高くなってたから、籠月学園に居る女性陣と同じく美少女に育ったわけだ。
これは天野にも言えることで、彼も魔力保有量が高くなっているため、中学時代からイケメンといえる外見に成長していた。ただし、度を越したシスコンの俺が言うのもなんだが、あいつも性癖のせいで見た目の良さが台無しになっているのだが…。
…と、そんな身内話は置いといて、まずは天野の件を詳しく問いただそう。
だがその前に、俺達の叫び声に気付いた兵士達の視線が集まりつつあるので場所を移すことにする。
「とりあえずグレッグ、まずは場所を移そう。話はそれからだ」
俺は土下座状態のグレッグを立ち上がらせると、この施設で最も信用のおける部屋に向けて移動するのだった。
▲▽△▼△▽▲
「……で。なぜ、ワシの部屋に?」
お髭を蓄えたダンディな小父様が、ノックもせずに部屋へ入ってきた俺達を見るなり苦い口調で問いかけてきた。
「「えへへ…来ちゃったっ♪──って、くっそ! 被った!」」
はた迷惑そうな沖中将をからかってやろうと思ったら、ノーマンと同じセリフを喋ってしまった。嫌なシンクロ率の高さを披露してしまって心が挫けそうである。
「少年二人に言われても何一つキュンとせんぞ、ワシは。…で。なぜ、勝手にずワシの部屋に入ってくるるのかね? しかも、野間特佐監視役6人も引き連れて…。キミ達は確か、『長期休暇が取れたから、しばらくは日本を満喫するぞー!』とか言ってたのではなかったかな?」
「まぁまぁ、その辺も含めて今から話を聞く必要があるんで、とりあえず部屋をお借りしますね。
そういうわけだから、皆、遠慮せず入って入って」
「いや、伊藤特佐。ここワシの部屋…」
「あ。沖中将はお気になさらず、職務を続けてください。俺達は場所だけ借りたかったんで、仕事の邪魔は致しません」
「え~…何でこの子、我が物顔でワシの部屋使う気でいるの?」
俺の怒涛の不躾な態度ラッシュに見舞われた沖中将が、精神的に疲れ果てたのかゲンナリしていた。うむ。“反論させないよう、勢いだけでごり押しして相手の気力を削ぐ作戦”成功である。
さて、これまでのやり取りからお分かり頂ける通り、俺達は沖中将の部屋に“ダイナミックお邪魔します”を決行していた。
沖中将の疲れた表情を見ていると多少良心が痛むが、信用のおける部屋となると他にパッと浮かばなかったのでやむを得ない犠牲というやつだ。
そんな沖中将を余所に、俺とノーマンは応接スペースとして用意されているソファーに隣り合わせで座り、低めのテーブルを挟んで対面にあるソファーに手を向けてグレッグ達6人に座るよう促した。
ふと、「昨晩も似たような感じで集まって話してたなぁ」と思いつつ、話を切り出す。
「それでグレッグ。“秋葉一号高等学校”に通っているはずの俺達の幼馴染“天野薫”に、どうしてノーマンの素性がバレてしまったのか、事の経緯を詳しく」
「ブホッ……けほっ…けほっ…」
俺達の横にある立派な執務机に座っていた沖中将が、盛大にお茶を吹いた。
「「ちょっと沖中将、もったいないですよ。お茶と机が──くっ…またか」」
またもやセリフが被ってしまい悔しがっている俺達に、半ギレした沖中将が口元をぬぐいながら立ち上がる。
「二人とも、少しはワシを労わってくれてもいいじゃないか! …じゃなくて、今、大変な事を聞いた気がしたが、なぜ二人はそんなに冷静なのかね?!」
「「いやまぁ、先ほど一通り驚いた後ですし。他人が慌てているのを見ると、意外と冷静になれるものですよ?」」
「そ…そういうものかね…」
「「えぇ、そういうものです。…じゃあ、グレッグ。続きを…」」
ツッコミのキレがなくなった沖中将にさらっと返事をし、グレッグに再度説明を促す。
「はい…。実は昨日、薫と一緒に秋葉原のショップをはしごして楽しんでいたのですが──」
──事の発端は昨年の夏にさかのぼる、2011年の夏コミにて壁サークルに並んでいた天野の真後ろにグレッグが並んだことがきっかけらしい。
ミリタリー柄のズボンに謎センスのTシャツの着合わせ。鍛えられた身体つきに、海外独特の堀の深いイケメン顔ということで、天野が話しかけてきたそうだ。あいつからすれば、ミリタリー柄の上下に、黒いタンクトップ、指ぬき手袋にサングラスというファッションセンスのノーマンを見慣れていたから、たぶん親近感が沸いたのだろう。
グレッグが現役の兵士である事を知り、天野は当初本気で驚いたらしいが、なんだかんだで仲良くなった二人は、「冬コミでまた闘おう」と約束を交わし、連絡先交換も行ったそうな。その延長として、ここ最近長期休暇を取得できたグレッグは、たまの土日に天野と秋葉原巡りをし、“萌え”や“燃え”を語りながらオタク仲間としての親睦を深めていった。
グレッグの話によると、昨日の秋葉原巡りで昼食を食べる場所を決める際、天野を拝み倒してメイド喫茶に行こうという流れとなったそうだ。
ここで一つ注釈を入れるとすると、天野は俺と同様オタクではあるが、あいつの場合はバリバリの二次オタである。要するに──
「現実の女性には興味ありません! この中にゲーム、アニメ、マンガの世界への行き方を知っている人が居たら、是非とも俺に教えろ下さい!」
──というセリフを心の底から言ってのけるガチの人種だ。
俺の場合は、莉穂姉とイチャイチャしていることから分かる通り、リアルの人間の方が恋愛対象となるタイプのオタクで、アニメキャラに本気で傾倒しているわけではなく“萌え”を楽しんでいるタイプとなる。そのため、天野の様にグッズ蒐集も行わないので、籠月学園のような全寮制の学校に通っていても「グッズが手に入らねぇ!」と嘆くこともないのだ。
そういうわけで、天野はリアルの女性がコスプレしているだけのメイド喫茶に行く事を渋ったのだが、グレッグの熱意に折れ、昼食をメイド喫茶で食べることに決まったらしい。その代り、軍事機密に触れない程度で仲間内の写真や、兵器の写真を見せて簡単な解説が欲しいと交換条件を出され、グレッグも提案に乗った。
念のため、問題になりそうな写真が無い事を確認した上でスマホの写真を見せつつ、銃器などの説明をしていたのだが、一枚だけノーマンと親しげにポーズを決めている写真があったらしい。
正直な話、ノーマンという存在がかなり軍事機密に触れてしまうので、この写真を見せた時点で即アウトの厳罰ものである。ただ、これが普通の人が見たのであれば「年若い兵士も居るんだな」程度で済み、慌てることなく「軍の仲間だよ~」とすっとぼけていれば首の皮一枚繋がれていたのだ。
だが、写真を見た相手が悪かった。ノーマンが海外留学という名目で中学校を去るまで、実に十年近くも一緒に遊んでいた天野だったため、一発で本人だとバレたそうな。
「『これって、ノーマン…野間俊之だよね?』と、想定外の質問をされてしまい、咄嗟にポーカーフェイスをする事も出来ませんでした。まさか薫が、特佐達の幼馴染だったなんて…。
いえ、だとしても、自分の不注意が招いた事態ではありますので、懲戒処分も覚悟の上です。軍の記憶が消される可能性があることも分かっております」
そう言って、何かを覚悟するような真剣な瞳を向けてくるグレッグ。その雰囲気たるや、まるで切腹を覚悟した侍の様である。…実際に見た事があるわけじゃ無いけど。
グレッグの横に並んで座っているスコット達は、何かに耐えるかのごとく辛そうな顔で歯を食いしばって下を向いている。
…なんだろう、この感じ。まるで俺が裁きを決めるお代官様みたいな雰囲気になっているが、俺とノーマンにそんな権限は基本的には無い。
一応、“特佐”という肩書はあるが、これは行動を共にしている兵士達に身の危険が迫った時に一斉退避を命じたりできるよう、咄嗟に命令を上書きできるという権限を持たせるために与えられたものである。あくまで、現場の状況によって臨機応変に兵士達の命を護れるようにするための応急措置でしかないのだ。通常時の扱いとしては少佐未満、状況によっては大尉以下という場合すらある。
そんな俺達に向かって、覚悟とかを語られてもな…という感じでチラリと沖中将へと視線を向けて指示を仰ぐ。
某ゲリオンに出てくる司令官の様なポーズで成り行きを見守っていた沖中将は、俺の視線に気づくと溜息と共に両目を閉じ、鷹揚に深く頷いた。……そして、部屋には静寂のみが訪れた。
「……って、頷かれただけじゃ分かりませんって! 『沖中将としては、どう対応する気なんですか?』って意味で視線を向けたんですけど?!」
「うむ。伊藤特佐、キミの判断に任せる」
「でた~。2ヶ月前と同じ、『キミに任せる』発言~。
…ったく、じゃあノーマンどうする? お前が直接的な被害者なんだし、お前が決めた方が良いんじゃないか?」
沖中将が匙を投げたので、今回の一番の被害者であるノーマンに向き直り意見を求めた。
ノーマンは俺の方に少しだけ顔を向けると、神妙な面持ちで鷹揚に頷く。……こいつも頷いただけだった。
「いや、お前までなんで俺に丸投げしようとしてんだよ! 一番の当事者じゃ──」
「薫は、『渉も無関係ではない』とほぼ確信しているようでした」
「──なん…だと…!?」
「フッ…やはりか」
ノーマンの肩を引っ掴んでガクガク揺らしながら文句を言っていたら、グレッグがまたもやとんでもない発言をする。驚きと共にグレッグを見ると、とてもシリアスな表情で俺を真っ直ぐに見ていた。
驚愕する俺、ドヤ顔でニヒルに笑うノーマン。「そのサングラス、指紋で真っ白にしてやろうか」と、半ば八つ当たり気味な事を考えてしまう。
だいたい、ノーマンがバレたからといって、俺まで芋づる式にバレるとか納得いかないんですけど…。
「なんでノーマンが得意げな顔してんだ! お前も当事者であるってことに変わりはねぇんだからな! っていうか、なんで俺まで連鎖的に疑われたのか詳しく!」
ノーマンの胸ぐらを掴み、先ほど以上にガクガク揺らしながらグレッグに問い詰める。
グレッグが顔のぶれ始めたノーマンをチラ見するが、特に心配するようなそぶりを見せるもなく天野の放った言葉を伝えてきた。
「『ノーマンと同時期に引っ越してきた幼馴染で、伊藤渉っていう超勉強が出来るヤツがいるんだけど…渉も関係者だったするんだろ?』と聞かれました。
なぜそう思ったのか…と、問いかける事自体が肯定を意味しているようなものですが、聞かないわけにはいきませんでした。そしたら、『だって、ラノベとかマンガとかではよくある展開じゃん? 何しろあいつら、小学校の頃から目立ってたし』と、さも当然の様に言われまして…」
自分ではそんなに悪目立ちしていたつもりは無かったのだが、どうやらそうでもなかったらしい。
やはり、子供の頃からサングラスを着用するようなノーマンを諌めておくべきだったかと頭を抱えたが、今となっては後の祭りである。
「あ~…、BB昔から全教科満点をずっと貫いてたしな。スポーツも上級生を相手にしても抜群に好成績を叩き出せる勢いだったし、そりゃ目立つわな」
「言っとくが、お前だって子供の頃から隙さえあればサングラスを着用するわ。ミリタリー系の知識が豊富だわ。俺以上に体育でウルトラCな技を披露するわで、相当目立ってたからな! 少なくとも、俺だけじゃねぇよ、目立ってたのはっ!」
目立っていたのはBBが悪い的な言い方で、自分を棚に上げかけたノーマンにひとしきりツッコミを入れた俺は、一度大きく溜息を吐いて心を落ち着かせた。
そう、今は責任の所在をどうこう言っている場合ではない。
まな板の上の鯉よろしく、覚悟を決めた表情で判決を待っているグレッグをどう処罰するか。
そして、天野に対してどう対応するか。
両方決めなきゃいけないのが、貧乏くじを引かされた者の辛いところだな。
「はぁ~~~…、グレッグ。お前さん、前に『渉に変身ベルトを作って欲しい』とかいう要望をノーマンに言っていたそうだな?」
「え? あ、はい」
「実のところ、変身ベルトの作成はすぐに取り掛かれる状況にあったわけだが、完成してもグレッグには譲渡しないものとし、それをもってグレッグへの処罰とします」
「……へ? それだけ…ですか? 他に、重い処罰があるんじゃないんですか?!」
グレッグが素っ頓狂な声を上げ、何かの間違いではないかという表情で俺を見上げる。
横に並んでいるスコット達も、軒並み同じ表情でこちらを見ていた。
「まぁ、正規の軍法裁判でもやれば、さっきグレッグが言ってたような処分になるだろうけど…。ココ、沖中将の執務室だし、その本人が俺の裁量に任せたわけだから、俺基準の処罰でいいでしょ。なにしろ、事の詳細を知ってる人物なんて、この部屋に居る10名足らずの人間しか知らないんだし…。……他に知っているヤツはいないよな、グレッグ?」
「は、はい! ここに居る人物だけしか、事の詳細は知らないです!」
「なら、俺達が黙っておけば、とりあえずは問題ないだろう。仮に天野が口を滑らせたとしても、俺やノーマンみたいな高校生が兵士とか、一般人はまず信じないって。
それに、幼少の頃から悪目立ちしてたのをあまり自覚してなかった俺達にも責任はあるようなもんだしね…」
やや自嘲気味に自分達の非を付け加えると、グレッグ達から嗚咽が聞こえ始めた。
まだ軍に居られる事が分かり、緊張の糸が途切れたのだろう。鍛え上げた体を持つイケメン達が、身を寄せ合って咽び泣いている。
……黒薔薇三連星が居なくて心底良かった…という感想が先に出てくるあたり、俺はあいつらの嗜好に毒されているのかもしれん。
ついこの間までは、こういうシーンですら自動的に女子に置き換えて「キマシタワー」とか言ってた気がするんだが、人と言うのは悲しいかな時の流れと共に変わっていくものなんだなぁ…と、しみじみ感じてしまった。
「さてと、グレッグの件はこれで解決として…っと」
「ん? BB、携帯なんて取り出してどうした?」
「ホラ、何だかんだで長居しちゃってたから、今って12:20を過ぎてるじゃない? となると、どこの学校でも大抵は昼休みの時間だよな?」
「あぁ、そうだな──って、まさかBB…」
「そう。グレッグの処罰は済んだし、次は天野に連絡しようと思ってね。こういうのは、勢いに乗ってるうちにやった方が楽だと思うし…たぶん」
そう言って俺は天野の番号を呼び出し、通話ボタンを押す。
数秒コール音が響き、一瞬のノイズと共に半年ぶりの幼馴染の声が聞こえてきた。
『…私だ』
久しぶりに電話に出た天野は、まるで悪の組織のボスのような尊大な口調で電話に出た。
うむ。いつも通りの天野の応答である。おかげで、俺も少し肩の力を抜くことができた。
「よぉ、天野。久しぶり。あのさ、今日、学校が終わって帰宅したら電話してくれねぇかな。話したいことがあるんだ」
『おぉ、そいつは奇遇だな。俺も渉に聞きたい事があったんだ』
よし。とりあえず、約束は取れたな。
あとは、放課後の時間になるまで色々と準備をしに学園へ戻るとしよう。




