第21話 - エピローグ
今回はエピローグが凄まじく短いので、第4章の第1話と2話分投稿しています。
─ 2012年6月10日(日) ─
──ブツッ
先ほどまで渉達と連絡していた特製通信機を切り、所定の場所へとしまう。
それを行うのは、エジプトの女王を彷彿とさせるような白をベースとしたドレスを纏った美女──渉達や信者達から“教祖アリサ”と呼ばれている人物である。
背中の半ばほどまであるダークブラウンのウェーブがかったロングヘアに、唇の左下には艶ぼくろ。肌は陶磁器の様に白く、顔立ちはフランス人を思わせる風貌である。額にはサークレットを着け、胸元には紫色に鈍く輝くネックレスが下げられている。
元々は信者達の前に現れる為の礼装に該当するものであったが、いついかなる時でもすぐに信者達の前に出られるよう常に着用している内に普段着として定着してしまった服装である。
現在アリサが居る場所は、某国の地下数百mに設けられた“テロ組織ラスト・ワン”の拠点。その一角に位置する小さな部屋で、信者が立ち入ることを許されていない彼女の私室である。
壁面は土や岩でできており、区画整備して補強された洞窟と言った方がイメージとしては近い。装飾品の類も質素で、本棚、机、椅子、簡素なベッドに卓上ライト…その程度の物しかない。
しかし、少なくとも机に関して言えば、渉の師匠に当たる“伊藤歩”がアリサのために用意した高性能な機械及び魔法陣が内蔵された一級品である。本日の体育祭へのテロリスト侵入の際に用いられた入場用チケットの画像データや個人情報に容易くアクセス可能な機構を備えている。
「さて…と。渉達には次の襲撃予定日も教えたし、それまでの間に残る信者達に日本語を教えなきゃいけないわね…」
アリサは椅子に腰を下ろし、スリットから覗く足を艶めかしく組みながら大きく溜息を漏らす。
グラビアモデルにも劣らない抜群のプロポーションを惜しげもなく披露する形になっているが、このような姿を晒すのは私室でリラックスしている時のみである。
たいていの男であれば目のやり場に困る程の魅惑的な姿だが、彼女の実年齢は既に3桁に上っている。
籠月学園の卒業生である魔女達が外見年齢を保つためや、渉と俊之がクローンゆえの短い命を繋ぎとめるために延命措置として常用している老化抑制魔法。それをアリサの持つ莫大な魔力を用いて、七十年余りの若返りを実現しているのだ。
そのためアリサは、年若い信者からは憧憬の対象として。年配の信者からは神秘の具現として崇拝されており、籠月学園への襲撃が失敗に終わろうとも「次こそは、我々がアリサ様のために勝利を導く」と、意気込む信者が増えている。
そして、そのたびにアリサのネックレスは鈍く怪しい輝きを増していくのだが、そのことに気づく信者は誰一人として居なかった。
「それにしても、残りあと36人…か。…まだ半分も残ってるのね…先は長いわ……。けど、確実にやり遂げないと、ここまでお膳立てしてくれた歩に申し訳が立たないわね。それに、胸を張って歩のもとに行くこともできなくなっちゃうし…」
そう独り言ちると、アリサは一度目を閉じてから滑らかな動作で立ち上がる。
「学園祭まであと5ヵ月弱。一般的な会話をそつなく行えるくらいには仕上げないと、見た目の誤魔化しだけじゃあ違和感を持たれるかもしれないしね。今日も気合入れて教育しなくちゃ…」
見蕩れそうなほど色気のある動作で廊下を歩きながら、諦めと意気込みが混ざったかのような独り言をつぶやいて信者の集う部屋へと向かう。
渉達が学園祭までの準備にどう対応するかを悩んでいる間、アリサも襲撃準備という戦いを日々行っていたのだった。




