第20話 - テロリスト達の引き渡し処理
もう少しで第三章が終わります。
報告会を無事……と言えるかどうか怪しい状態だったが終了させたあと、俺達は義両親達の見送りのために警備員棟の転送部屋に移動していた。
今は部屋にある待ち合い用ベンチにて、腕時計型通信機を介し沖中将に本日の報告中である。テロリストの潜入、師匠と教祖アリサとの繋がりとその目的、そしてこれらの情報を明後日にでも学園内に開示する予定であるという旨も併せて…。
尚、転移部屋には報告会に出席していた全員に加え、警備員の美沙都さんまで居る状態であり、皆に見守られながら上司への報告を行う…という図になっている。
義母さんに至っては「渉の貴重な軍事報告シーン」などと言いだし、報告が終わるまで居座る気満々だった。
「──報告は以上です」
『やはり学園に移動していたか……。伊藤特佐、及び野間特佐、対応と報告ご苦労だった。今回の件、水際で対処することができず申し訳ない』
俺の話を促すために軽く相槌を打つ程度に留めていた沖中将だったが、報告を聞き終えると同時に労いの言葉と謝罪をしてくれた。
こういう何気ない気遣いを言葉としてしっかり伝えてくれるあたり、沖中将は本当にデキた上司だと思える。音声のみのやり取りだけなので彼の姿は見えないが、通信機の向こう側では髭の似合うダンディな顔を引き締めて頭を下げている事だろう。
まぁ、ダンディでデキた上司というのは職務関係の事までで、私事となると子供っぽい一面や頼りない一面がポンポン出てくる残念なお人である。ちなみに、沖中将の奥さんと会話する機会があったのでその事を話してみたところ、「そういうとこが可愛くて良かったのよ~」とえらく惚気られたものだ。
俺も将来、莉穂姉がそんな感じで惚気てくれるようギャップ萌えを目指してみようかな…などと思ったものだが、沖中将のようにしっかりと仕事のできる人間になれるかどうか、正直なところ自信がない。沖中将は私事になるとポンコツっぷりが目立つが、職務中は極めて頼りになるダンディなカッコイイ小父様なのだ。
「いえ、ご報告した通り“師匠とラスト・ワンの教祖アリサとの目的”は、この学園の敷地内でテロリストを倒させ、彼らの“屈辱”や“無念”といった“負の感情”を魔法陣に吸収させることにあります。水際で処理されていたら、それこそ師匠達の計画が台無しになっていたかもしれません」
『そうかもしれないな。…確認だが、教祖アリサは『次回は11月の学園祭』と伝えて通信を切ったそうだが、間違いはないかね?』
「えぇ、間違いありません。野間特佐にもご確認下さい」
そう言って俺はノーマンに腕時計を向け、確認を促した。
「はい。伊藤特佐の報告通り、自分も確かに『11月の学園祭』と聞きました」
『分かった。この事は私から軍に共有しておく。伊藤特佐、野間特佐の両名は引き続き警戒態勢を維持しつつ、学園生活に戻り給え』
「了解」
「了解」
沖中将からの命令に、反射的に簡易的な敬礼をしながら返事をする俺とノーマン。世の営業さんが、電話越しに会釈をしてしまう気持ちを何となく理解してしまった…。
ちなみに、日本語発音したのが俺で、英語発音した方がノーマンの返事である。
『それでは、交信終──』
「沖中将。その前に一件、申請したい事が…」
『伊藤特佐、発言を許可する。何かね?』
「ありがとうございます。…先ほどの報告でもお伝えした通り、現在、テロリスト6名を捕縛している状況です。つきましては、明日にでも世界連合防衛軍に身柄を引き渡したく思いますので、日本軍本部への転送魔法陣の同期許可、及びテロリスト6名の収容を許可願えませんでしょうか。今回は人数も少ないため、私と野間特佐の2名で直接送り届けますので、何卒お願い致します」
警備員棟に移動するにあたり、テロリストを抱えて運ぶのも面倒だったので、俺とマジカルゆかりん、マジカルゆかりんのお母さんの三人でサクッと洗の……催眠魔法を掛ける事にした。
マジカルゆかりんのお母さんだが、さすがはマジカルゆかりんの師匠なだけあり、俺が催眠魔法を掛ける際の条件を教えるとあっという間にテロリスト2名を催眠状態にしてしまったのである。俺も前回よりは早めに催眠状態にさせることができたが、菜月母娘の手際が良すぎて、一番もたついているかのような錯覚を起こしてしまった。マジで自信を失いそうである。
ちなみに、件のテロリスト達だが、午前中から何度となくマチュアに気絶させられていたせいか、移動中の動きは精彩を欠いていた。そんなゾンビ状態の連中が居ても邪魔なので、現在は休憩用の別室で休ませている。
『あぁ、その件があったな。すまない、失念していた。転移魔法陣の同期についてはすぐに承認が下るだろうが、収容については確認に時間を要するだろう。申し訳ないが、明朝0700にこちらから可否を報告するので、それまではそちらで6名の監視を頼む』
「了解」
『それでは、交信終了』
沖中将がそう言った後、一拍置いてから俺の横に居たマチュアが回線の切断を通知してくる。久しぶりの真面目なやり取りが終わり、俺とノーマンが無意識のうちに張っていた緊張が溜息と共に流れ出た。
そんな俺達を見て、タイミングを見計らっていたらしい莉穂姉とマージちゃんが興奮気味に話しかけてきた。
「渉、凄くカッコ良かったわ」
「キリッとした雰囲気を醸し出していた俊之の方がステキよ」
「ノーマンなんて、普段は気を抜いてアホな事しか言わないんだからプラマイゼロじゃない!」
「渉だって口を開けば莉穂の事ばかりで、どうしようもないシスコンじゃない」
「「え? それのどこに問題が?」」
マージちゃんが言った一言に、俺と莉穂姉の疑問の声が綺麗に重なった。
うむ、実に素晴らしい。これぞ正にシンクロ率100%というやつではなかろうか。
「「「「ダメだこの義姉弟、早く何とかしないと」」」」
俺達の疑問に反応したマージちゃん、篠山ねーちん、滝川、由子お姉ちゃん、四人の呆れボイスが転移部屋に響き渡る。
「ダメだ」とか…言ってくれるじゃないか。だが俺は、世紀末の聖帝様のように、引く気も無けりゃ媚びる気も無いし省みる気も無い。このままずっと姉好き道を究め続けてくれる。
「それじゃあ、渉の業務モードも見られたし、ついでに莉穂と渉のラブラブっぷりも確認できたから、母さん達は研究所に帰るわね。でも莉穂、油断しちゃダメよ。奈津美ちゃんと籠月理事長は、そんな二人を知っている上であなたに宣戦布告しているのだから」
「分かってるわ、母さん」
「よろしい。渉も、誰を選ぶかはあなたの自由としても、ちゃんとケジメは付けるのよ」
「あ、ハイ」
…などと返事はしたものの、俺としては莉穂姉一択と公言しているからケジメは付けているつもりなんだがな…。
やはり、婚姻関係を結ばないとゴールと言えないのだろうか。しかし学生結婚するにしても、高校生のうちに…というのは「学園の風評に響くのでは?」とも心配しているわけで、地味に悩ましいところである。
…あ、そうか。どうすれば俺を諦めるのか、本人達に条件を確認すれば良かったんだ。
4月のテロ騒動の際、滝川が「諦めないから」などと恰好良く啖呵を切ってたから今まで流されていたが…。今度、滝川と由子お姉ちゃんに直接聞いてみよう。
いやぁ、こんな単純な事に今まで気付かなかったなんて、本当にアホだな俺。
「あの、則子副所長? 何ゆえ私と言うスーパーAIが、“渉の伴侶”という選択肢から漏れているのか詳しく──」
「それじゃあ、私と崇くんは研究所に戻るわね。…菜月さん、野間さん、お先に失礼致します」
自分が選択肢に入っていなかったマチュアが、若干震え声で義母さんに問い詰めかけるも華麗にスルーされる。そして、マジカルゆかりんの両親とノーマンの義両親に綺麗な所作で会釈をしたと思うと、義父さんの手を引いてあっという間に転移魔法陣を起動し、消えてしまった。
ちなみに、マチュアが義母さんを「副所長」と呼んでいたことから分かる通り、師匠が異世界に旅だった後、副所長だった義父さんが所長に。実力を買われていた義母さんが副所長に、それぞれ師匠から任命され現在に至っている。
腕を突き出したまま呆然としているマチュアのすぐ近くでは、一連のやり取りを見ていたマジカルゆかりんのお母さんが楽しそうに娘に話しかけていた。
「個性豊かな人達に囲まれて、なかなか楽しそうな生活送っているわね、紫」
「まぁね。…絶えないのは、主に苦笑いばかりだけど…」
「ふふ…、暇を持て余すより良い事よ。…それじゃ、私達も家に帰りましょうか、あなた」
「あぁ、帰るとしよう。…じゃあ、紫。次は学園祭の時に来るよ」
「分かったわ。でも、またテロ騒動が起きるだろうから、ゆっくり話す時間が取れるかは保証できないけどね」
娘からそんな言葉を返されたマジカルゆかりんのお父さんは、苦笑いを残しながら奥さんと共に魔法陣へ消えて行った。
そんな彼らの消えた先はイギリスである。
話しによるとマジカルゆかりんのお母さんは、9と3/4番線から行ける魔法学院が存在するかしないか確認するため、ここ数年向こうで暮らしているらしい。師匠が見つけていないのだから、恐らく他の魔女などは存在していないのだろうが、杖を使った魔法使いというものに憧れているため、自分が納得するまで調べるとのこと。
一応、籠月学園出身の魔女以外は確認した事は無いが、間違っても“純血”だの“穢れた血”だのという抗争に巻き込まれないよう注意してもらいたいところである。ただでさえ、師匠の残したテロ鎮圧作業が残っているのだから…。
さて、最後まで残ったノーマンの義両親だが──
「親父。今度、学園宛に“ジムニー シエラ”を輸送するよう手配してくれ。BBに魔改造してもらうから」
「あぁ、手配しておこう。…それと、俊之。実は、渉君に魔改造してもらいたい武装案があるのだが…」
「OK。ジムニーと一緒に送り付けてくれ。BBに丸投げするから」
「それじゃあ、ついでに私の案も…」
──この親子、図々し過ぎる。こちらの顔色を窺うことなく、やってくれるものと信じ切っているところが特に。
いやまぁ、今まで断った事も無かったし、やり始めたらやり始めたで楽しくなって完成させてしまうのが俺の性なんだけど…。
そんなこんなで、俺の作業ノルマを増やす気満々な笑顔を残し、野間夫妻は世界連合防衛軍のどこかの基地に転移して行った。
でき上がったら、完成品と一緒に作業料も請求してやる。
「ったく、ノーマン。ジムニーなんて運んでもらっても、ここには駐車場なんてないぞ。敷地内で野ざらしにする気か?」
その前に、俺達の年齢では日本国内で運転できないわけだが…。
「そこはホラ。BBお得意の魔法で、いつでも出し入れ可能な不思議空間から召喚する…みたいにすればいいじゃない。空間拡張バッグの魔法陣とか、マージの尻尾を格納しているのとか、今日の昼に弁当を取り出した時みたいにさ。
俺、国際免許持ってるし、日本以外の国で出し入れできれば好きな時に使えて便利なんだよね」
「いや、アレは不思議空間に格納してるわけじゃねぇから。魔法式こそ若干異なるけど、そこにある転移魔法の応用で、赤道付近にある無人島の倉庫に……今度、現地に連れて行って説明するわ。
それじゃあ、皆。寮に帰ろうか」
俺はそう言って転移部屋のドアに向かうために踵を返す…と同時に美沙都さんと莉穂姉から手が伸び、肩をガッと掴まれてしまった。
「「今の“無人島”について詳しくっ!」」
よく見れば二人だけではなく、他の女性陣も興味津々で俺の事を見ていた。
どうやら籠月学園のプライベートビーチでは覗き魔の目が気になるらしく、思いっきり羽を伸ばせないという思いが根底にあるとのことで、ノーマンを連れて行く時に一緒に下見に行きたいという話だった。
そうじゃなくても、赤道付近という“南国”のイメージがある島ということで、興味が尽きないとかなんとか…。
今となっては俺達の件で隠し立てする必要もなくなってきたという思いと、女性陣の鬼気迫る雰囲気に押され、俺は「No」と言えない日本人にならざるを得なかった…。
─ 2012年6月11日(月) ─
本日は振替休日である。
沖中将から時間通りに連絡をもらった俺とノーマンは、「テロリスト収容準備もOK」という許可をもらい、早速テロリストを引き連れて籠月学園の転移部屋から日本軍本部の転移部屋へと移動していた。
前回の引き渡しの時もこの手で連れて来れれば良かったのだが、あの時は30人と人数も多く、すぐに収容準備ができなかったため“輸送艦に詰め込んで数日の間お茶を濁す”という苦肉の策をとったわけだ。
いくら催眠魔法で大人しくなったとはいえ、あんな大人数の男どもを女ばかりの警備員棟に置きっぱなしにするわけにもいかなかったからな。
「テロリスト6名、確かに引き受けました。お疲れ様でした、伊藤特佐、野間特佐」
力の入った敬礼をしてくれた身柄引き渡し担当者にテロリスト達を任せ、俺達は収容施設をあとにした。
俺はすぐに学園に戻るつもりだったのだが、ノーマンが日本の本部を軽く見て回りたいと言うので散歩に付き合う事にする。
東京都内とは思えないくらい緑豊かな施設を散策する。この本部は、多くの設備が集約されているが、基本的には全て地下に設置されており、地上は兵士のレクリエーション兼ジョギングコースとして広い公園の様になっている。
建物も存在するが、ほとんどが寄宿舎である。軍用ヘリなどの格納庫も地上に存在するが、それは緊急の際にレスキュー用として発進できるよう配置された一部だけで、大半は地下格納庫に存在している。
地下格納庫から発信する際は、昭和のロボットアニメの様に公園部分が広範囲に割れてスライドし、超巨大リフトとして地下からせり上がってから発信する…というロマン溢れる仕組みとなっている。
尚、第二次世界大戦が終結してから造られた機能のため、設備の機動確認として定期メンテナンスを行う時以外にこの機構が使われた試しは今の所ない。
施設内を歩き回っていると、俺を見つけて怪訝そうに眉を寄せる兵士とよく出くわした。まぁ、次の瞬間にはノーマンの存在に気付き、俺の正体もすぐに察することができたのか驚きの表情で敬礼していたが…。
それにしても、ミリタリー柄のズボンにジャケット、インナーとして黒いタンクトップ、そしてサングラスにオールバックのヘアスタイルであるノーマンは、一発で兵士達に顔が割れるので便利だ。
逆に、私服メガネの少年にしか見えない俺なんかは、上層部の人間でもないとあまり顔を知られないから怪訝な顔をされてしまう。ノーマンと違って前線に出る機会ないしな。俺はこの先もずっと後方支援でいるつもりである。
なんだかんだで小一時間ほどぶらついた俺達だったが、転移部屋に戻ろうとメインホールのある建物に入ると同時に、正面から見覚えのある人影が慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
「はぁ…はぁ……おーい! 俊之、渉~!」
“お姉様”と書かれた謎のTシャツを着たジャパニメーション好きの兵士、グレッグである。
その背後には、短髪で爽やかスポーツマン系な金髪碧眼のイケメン、スコット。ガタイの良い坊主頭の黒人、ラング。刈り上げの入った金髪碧眼の双子、ビックスとウェッジ。黒髪ソフトモヒカンに小麦色の肌をしたイケメン、ダニー…の、計5人が揃っていた。
彼らは皆、紛争地帯最前線でノーマンが爛れた私生活を送らないかを監視するために配備してもらった人物だ。約2年の間、ノーマン監視員として俺がお世話になった連中である。
4月のテロ騒動後、身柄引き渡しの際に初めて生で顔合わせをしたので、こうして会うのは実に2ヶ月ぶりといったところか。
グレッグがやけに慌てているようだが、一体何事だろう。もしかして、以前ノーマンが言っていた“変身ベルト”製作に関する催促だろうか。だとしたら、ノーマン親子からも注文が来ることが分かっているから、早めに仕上げるのは無理だぞ…。
などと考えていた俺だったが、俺の前でジャンピング土下座をかましたグレッグの口から出た内容は、全く予想していないものだった。
「すまない! 二人の幼馴染である“天野薫”に、俊之が兵士である事がバレてしまった!」
あぁ、天野か。去年、うちの学園祭に招待した時に会ったきりだっけな。
しかしそうか、ついにアイツにもノーマンが兵士だとバレ──
「「──な、なんだってーーー!?」」
いつのまに天野とグレッグが知り合いになったのか、どうしてノーマンが兵士だとバレたのか…。色々と確認したい事は多かったが、とりあえず俺達は「なんだって!?」と叫ばずにはいられなかった。
次回の投稿も金曜日…になれるよう頑張ります。




