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オタクウィザードとデコソルジャー  作者: 夢見王
第三章 体育祭と海開き
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第17話 - 母が貴腐人なら、娘は腐女子

下痢や高熱で何日か不調でしたが、何とか金曜日更新に間に合いました。

 ノーマンの軽口に俺がジト目でツッコミを入れていると、義母さんがニヤニヤしながら口を開いてきた。


「…そうそう、渉。この通り私達も頑張ったんだし、次は『俺と莉穂姉との間に子供ができたぜ』って報告がもらえるのを楽しみにしてるわね。私達の一番下の子と、初孫との年齢差が少ないとかロマンだわ~」

「「「「「……えっ?!」」」」」


 義母さんの発言に驚いてつい絶句してしまった。

 ちなみに、声が重なっている事から分かる通り、絶句したのは俺だけはない。滝川をはじめとした幼馴染達とその両親を含め、この場に居た全員が言葉を失っていた。

 ついでに、俺達の近くで昼食を取っていた数組の家族にも部分的に聞こえていたらしく、こちらの会話に聞き耳を立てているのが雰囲気で伝わってくる。

 血が繋がってないとはいえ、親が公けに実の娘と義理の息子の恋愛事情をからかってくるとか…。まったくの想定外だ。


「もぅ。お母さんってば気が早すぎ! …でも、期待しててね!」


 いや、どうやら莉穂姉だけは絶句せずノリノリだったらしい。

 あと、よく見たらノーマンとマージちゃん、篠山ねーちんも落ち着いたものだった。

 三人が微妙にニヤニヤしているのは、この展開が面白かったからなのか、ヘタレな俺の事をバカにしているのか…。どちらであるかは定かではないが、あとでノーマンのおデコを引っ叩いておこう。

 まぁ、それはともかくだ。莉穂姉が乗り気なのは嬉しいところではあるが、まだまだ俺達は学生の身。“子育てをする上での収入面の無さ”という世間の常識もあるし、一応は突っ込んでおかねばなるまい。

 なんか周りからも興味津々といった目で見始められているし、早いところズラかりたくなってきた。


「ちょっと、莉穂姉。俺達まだ高校生だからね? 莉穂姉だって来年には大学進学するだろうし、十分な収入も無い学生の身分で、その返答はどうかと思うな、俺は」


 まぁ、俺もノーマンも世界連合防衛軍に所属しているし、ついこの間まではノーマンが現地で、俺がバックアップで…と、それぞれ仕事をしていたので給料は相当支払われている。

 資金面にいては十分すぎるほど蓄えがあるし、それはこの場に居る俺の義両親及び、ノーマンの義両親も知っている事だ。

 だが、そんな事を幼馴染の両親が居る前でいう訳にもいかないし、言ったところで「という夢を見たのか?」などと可哀想な目で見られてしまうだろう。子供の頃から知っている小父さん小母さん達からそんな反応された日には、ガチ泣きできそうな自信がある。

 この学園の関係者であれば、俺達が実際に軍の佐官と会話している姿を見ている人が多かいので、これらのことを言っても信じてもらえるだろうが、さすがにその家族にまで公けにするわけにはいかない。

 仮に公けにしたところで、信じてもらえないほど荒唐無稽な話なのだ。こうして無難な内容で話を収束させるのが手っ取り早いだろう。


「え…渉は私と子作りしたくないの?」

「したいに決まってんじゃんっ! こちとらずっと我慢して……ハッ?! いやいやいやいやいや! そうじゃなくて『時期尚早(しょうそう)だ』って言いたかったの!」


 莉穂姉が悲しそうな声色と表情で聞いてくるもんだから、力一杯本音で否定してしまった。

 小父さん、小母さん達の呆気にとられた表情が視界に映ったのですぐに取りつくろおうとしたが、義母さんやこちらに注意を向けていた外野の表情を見る限り手遅れ感が半端ない。

 この“気付いた時には手遅れ”といった感じ、まさに孔明の罠のごとしだ。


「愛さえあれば、時間なんて関係ないわ! すぐに既成事実作って、ついでに婚姻届も出しちゃいましょう!」

「莉穂姉、落ち着いて! その順番は倫理的にマズ過ぎて学園の体制や、生徒の風紀に対して風当たりが強くなっちゃうからダメ、絶対! それに日本の法律上、あと320日くらい経たないと“俺が”結婚不可な年齢だから何にせよ無理だって!」


 昼休みが終わるまであと15分を切っている。

 そのためか周囲の生徒やその家族達も弁当の片づけが済んでおり、あとは校庭に移動するだけ…という状態なのに、俺達のやり取りが気になっているのか動く気配が感じられない。

 それどころか周囲の親御さん達は、俺と莉穂姉の関係を知りたいのか自分の娘に詳しく事情を聴いている様子である。

 しかも、莉穂姉だけじゃなく俺のすぐ近くに陣取っている滝川や由子お姉ちゃんの方も気になっているらしく、ちらちらと視線が飛んで来ている。

 滝川の方は生徒として競技に参加していたし、俺のクラスメイトとして認識されているから辛うじてセーフだろう。莉穂姉のライバル的人物として映っては居るかもしれないが…。

 しかし、今朝も朝礼台で挨拶をしていた理事長である由子お姉ちゃんが、一介の男子生徒と一緒に行動を共にしているのだ。…しかも、うさぎ耳に体操服とブルマ着用の姿で。

 そりゃもう、「この男子生徒とはどういう関係なのか?!」とか「なぜ一緒に行動をして、男子生徒の母親とも親しく会話しているのだろうか?!」とか、色々と話題に事欠かないくらいのインパクトだろうさ。

 おかげさまで先ほどから、見世物状態である。


 現に俺達の周囲にはかなりの家族が立ち止まっており、成り行きを見守っている状態だ。

 俺達は現在、校舎と学園寮との中間地点にある広場──俺達の師匠が“儀式”のために用意した“巨大な六芒星を描くように歩道と芝生が配置されている場所”、その東の芝生区画に居るのだが、寮からも広場からも校庭に戻る際に近くを通るという関係上、どうしても人の目を集めやすいのだ。

 なんかもう、午後の競技から俺に視線が集中しそうで嫌だ。部屋に戻ってギャルゲーやっていたい。

 いや、実行しようとは微塵も考えてないけどさ…。


「伊藤君の言う通りです、先輩! 学園の評判を落とさないためにも、学内での不純異性交遊は慎むべきです!」

「えっ? …その声は、まさか──!?」


 学園寮の方から、ここ最近やたらめったら聞く機会の増えた声が聞こえたので振り向いて見ると、そこには仁王立で勢ぞろいした黒薔薇三連星……と、彼女らを大人にしてやや色気を増した感じの女性が三人立っていた。

 その中で一人、リーダー格の腐女子が莉穂姉に向かって“ピシッ!”と指を突き付けている。

 こうして見る分には非常に様になっているのだが、言うこと成すことBLばっかりなので、ノンケの俺からするとはた迷惑な妄想製造人間である。

 そして今、「コイツ、こんな観衆の前で何を言い出すつもりだ?!」と、俺の胸中ではドキドキが止まらない。…もちろん、悪い意味で。


「──やっぱり黒薔薇三連星…と、横に並んでいるのは母親達か? 今の加勢は素直にありがたかったけど、くれぐれもそれ以上の余計な発言はしないでくれよっ! …さ。莉穂姉、あいつらの言う通り在学中はそういう(・・・・)行為は無しで、純粋に──」

「「「そう! 伊藤君は野間君と純粋に同性交遊すべきなのです!」」」

「──だから! 『余計な発言はすんな』って言ったろうが! ちょっと、お母さん方も深く頷いてないで、娘さんのBL妄想を止めて下さいよ!」

「「「大丈夫! 私達、娘と同じで“リバ”もOKだから、攻守交代しても楽しめるわ!」」」

「母親は全員“貴腐人きふじん”かよっ! 性質たちわりぃなぁ、もうっ! しかも、1mm(ミリ)も会話になってねぇしっ! 何が『大丈夫』なんだよ! 俺の精神はちっとも大丈夫じゃねぇよ!」


 俺は頭を抱えて地団駄を踏んだ。

 彼女らを殴るわけにもいかなかったので、やり場のない怒りを鎮めるためにそれはもう全力で地団駄を踏んだ。

 彼女らのすぐ後方で、父親らしき男性陣が三人「うちの女性陣が迷惑を掛けてすまない…。でも僕らにも止める事は難しいんだ」といった表情で俺に合掌しているのが見えたが、それがより一層俺に切なさを感じさせる結果になった。

 ちなみに、彼女らの言った“リバ”とは“リバース”の略である。何が逆なのかというと、男と男の絡みで“入れる側(攻め)入れられる側(受け)の組合せ”の逆転の事である。

 腐女子達はこの組合せの好みにより、しばしば腐女子同士で意見が対立し、いつの間にか空中分解したと思ったら新しいコミュニティが産まれ、また空中分解する…という謎の破壊と創造を繰り返す性質を持つ。…のだが、この母娘は“どのような組合せでも美味しくいただける”という、全ノンケが泣きそうな始末に負えないスペックの持ち主という訳だ。

 そりゃ、旦那さん達もさじを投げるはずである。

 彼らはきっと、今までに散々ぱら“旦那同士のBL”という感じで、奥さんや娘さん達の脳内で美味しく料理され続けてきたのだろう。だって、合掌している際の彼らの目が死んでるんだもの。

 ……強く生きてくれ。


 尚、“貴腐人”というのは“腐女子ふじょし”の次のステージに辿り着いた女性を指す言葉である。

 更に歳を重ねると“汚超腐人おちょうふじん”やら“ェニックス”に至り、やがて自分の娘に“の連鎖”を任せ“腐老腐死ふろうふし”になるとかならないとか。

 正直、俺の理解の範疇に及ぶようなスケールの話ではないので、詳しくは分かっていない。ただ、一つだけ言える事実があるとしたら、リバOKな腐女子や貴腐人を相手にノンケの男が勝てるすべはないということだ。

 故に、俺は黒薔薇三連星を止めるのを諦めて、俺の横で腐女子達の悪ノリに付き合っているノーマンを止めることにした。


「ノーマン、お前もあいつらの言葉にノってテレるそぶりしてんじゃねぇっ! 周囲から誤解されっだろが!」

「ちっ、つまらん。こういう“しっちゃかめっちゃかな展開”は、盛大に楽しんでこそだろ、BB」


 まったく、自分もBLネタに使われているというのに、ちっともダメージを受けちゃいねぇ…。なんなの、このオリハルコンメンタルっぷり。

 もう疲れた。今すぐにでも莉穂姉に抱き着いて、おっぱいに頭を挟まれながらナデナデされて癒されたい!

 だが、ついさっき「そういうのは時期尚早」などと自分で言ったばかりだから、迂闊に甘えられないというジレンマ。


「あぁぁああああ…もうっ! 皆さ~ん! 俺はノーマルなんで、コイツともただの友人関係なだけです! 特に何もありませんので、誤解なさらないようにお願いします! それと、もうすぐ昼休みも終わりますので、そろそろ校庭の方に移動しちゃいましょう! …はいっ、というわけで撤収! ほら、皆、行くよ!」

[ねぇ、渉。私も一応、先生と言う立場上、そろそろ教職員用テントの方に戻った方がいいんじゃないかと思うんだけど? テロリストの監視は、寮に居る誰か複数人にまかせるとして…]


 強引に話を収集させて移動し始めた矢先、恐らく監視カメラでタイミングを見計らっていただろうマチュアから魔力通信が届く。そういや、テロリストをエンドレス気絶させる要員として、寮の在庫用倉庫に待機させたままだったか。


[マチュア。テロリストが目覚める度に的確に気絶させるという行為は、いくら魔法が使えるとは言え普通の人間には手に余る行為だ。これは、お前にしかできない大事な任務なんだ。すまないが、体育祭が終わるまで引き続き監視を頼む。…お前だけが頼りなんだ]

[!!? 渉がデレたっ! フフ…、これは私ルートになるのも時間の問題ですね。…了解しました。渉のためにこのテロリスト共が暴れないよう監視致しましょう!]


 「いや、俺がお前とゴールインする未来は今のところ永遠にねぇよ」という本心が伝わらないよう、細心の注意をしながら俺は校庭に戻った。



  ▲▽△▼△▽▲



 この日、夕飯のあとに聞いて分かった事だが、俺が黒薔薇三連星達とやりあっていた裏側で、滝川と由子お姉ちゃんも“俺を狙っている”という旨を両親達の前で宣言していたらしい。

 二人とも妙に静かだったし、俺と莉穂姉の間に割って入ってくるようなことも無かったから、「さすがに大勢の前だから自重してるのかな」とか思っていたのだが、どうも義母さんの不意の発言に驚いてタイミングを逃していただけだったようだ。

 そして、俺は俺で腐女子達へのツッコミに夢中で気付いてなかったと…。


 滝川の小父さんが体育祭からの帰り際、何かを悟ったような表情で──


「渉君がどんな選択をしようとも、小父さん達はキミの意思を尊重するよ」


 ──とか言いながら俺の肩に手を置いくるもんだから。


「ちょっ! あの腐女子共の発言は戯言ですから、小父さん達も勘違いしないで下さい! 俺は、今も昔も、莉穂姉一筋です!」


 などと全力で返答したわけだが、あれは「莉穂ちゃんを選ぶにしろ、奈津美なつみを選ぶにしろ、籠月こもつき理事長を選ぶにしろ、我々大人達は文句を言ったりしないよ」という意味で言っていたのだろう。

 通りで何とも言えない表情で苦笑いされたわけだ。


「はは…、そう言う意味で言ったわけじゃなかったんだけどね。でも、うん。キミの気持ちは分かったよ。これからも、うちの奈津美をよろしくな」

「…? えぇ、はい。そりゃ、今まで通り仲良くやっていくつもりですが?」

「…うん。よろしく頼むよ。それじゃあ、また今度は学園祭の時にね…(こりゃ、奈津美は相当苦労するな)」


 …ノーマンと俺との関係を怪しまれていると勘違いしていた自分が恥ずかしくなり、就寝前に思わず悶絶する羽目になったが、「なんにせよ“莉穂姉一筋”っていう事実を伝えているわけだし、結果オーライじゃないか」という結論に至り、本日も安眠できた俺であった。

最後の方に体育祭が終わったあとの話を書いてますが、次回もまだ体育祭当日の話になります。

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