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オタクウィザードとデコソルジャー  作者: 夢見王
第一章 テロリスト襲来
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第06話 - カオスと疑惑の平常運転

    ─ 2012年4月20日(金) 08:48 ─


「それで、クラスメイトの前で私を巻き込んだ理由は?」


 落ち着きを取り戻した菜月先生が、やや赤みの残る顔で理由を求めてくる。「足をお舐め」発言の一騒動でうやむやになりかけていたが、ちゃんと覚えていたようだ。


「それは、マジカルゆかりんにしか頼めない事だからだ。 ノーマンにも軽く説明した通り、俺よりも魔法の扱いが上手くて、もしもの事があってもテロリスト相手に後れを取らない人なんてマジカルゆかりん以外には考えられないからな」


 まずは理由をいの一番に明示し、次いでその理由をざっと述べる。菜月先生チョロインが早くも満足気な顔をするが、これだけでは終わらない。畳み掛けるように頼れる理由を挙げて、調子に乗って頂こう。


「このあとも、各教室に居るテロリストを一人一人催眠状態にしていく予定だけど、そのまま教室に放置する訳にもいかないだろ?生徒たちが怯えるから。 …かといって、保険も掛けずに2-Bに放り込んでいくわけにもいかないから、誰か頼れる人に監視を任せてクラスメイトを安心させてやりたいと考えるよな? でも、他の教室の解放を行うとなると、俺かノーマンのどちらかを監視役として残すのは難しい。 そうなると、もう一人頼れる誰か…つまり、マジカルゆかりんに白羽の矢が立つわけだが、実力を隠したまま任せるなんて周りだって不安になるだろ? だから、こうやって分かりやすく巻き込んだというわけだ」


「~~っそ、そ~ゆ~事なら、まぁ…仕方ないわね! 頼られてあげるわ! でも、これで貸し二つだからね!」


 フッ…。計画…と言えるほどのものでもないが、計画通り!「貸し」とか言って仕方ないアピールをしているが、声が裏返り気味な上、表情まで満更まんざらでもなさそうだから嬉しいってのがバレバレである。


「ありがとうっ!菜月先生なら絶対に協力してくれると信じてた」


「んもうっ!マジカルゆかりんって呼びなさいってば! …いいからさっさと、他の教室も解放してきてあげなさいっ!このはた迷惑な連中は、私がちゃんと面倒見といてあげるから」


 またまた赤くなってしまった菜月先生が、恥ずかしさを誤魔化すために追い出しにかかってくる。

 そうだな、さっさと解放しないと大学側も被害に合う可能性が……あ。


[マチュア、マチュア。 ひょっとして、もう大学校舎に移動している先輩たち、結構いたりする?]


[抜かりありません。 教職員棟が襲撃されたのを確認した時点で、学園寮の出入り口を防火シャッターで塞ぎました。 大学校舎に移動している生徒は一人もおりません。思う存分、暴れてきて下さい]


 俺への連絡は後回しにしたくせに…。いや、手を打ってくれたのは実にありがたい事だから、父親としては素直に褒めるべきだな。


[…さすがは頼りになる娘だな]


[ですから私の事は妻と──]


「よし。じゃあノーマン、さっさと終わらせよう」


「おうよ」


[──意地悪いけずっ!]


 さぁ、解放作戦の再開だ。



    ─ 同日 09:01 ─


「…『さっさと解放してこい』とは言ったけど、まさか15分足らずでここまでやるとは思わなかったわね」


 仁王立ちで出迎えてくれた菜月先生が、感心半分、あきれ半分といった表情のジト目で呟いた。

 俺も、ノーマンとの無駄話を挟まなずに淡々と作業して行けば、こうも早く片付くものなのかと軽く驚いているくらいだ。

 それにしても、金髪ツインテールで幼女体型の美少女がこうして立っているのを見ると、『足元にひざまづいて「ありがとうございます!」と叫ぶおっさんのまぼろし』がダース単位で見える気がするから不思議だ。


 先ほどのやり取りのあと、気合を入れて飛び出すこと早十数分。俺たちは2-Aを解放した要領で2-Cを1分足らずで解放し、催眠状態のテロリストを引き連れたまま4Fへと乗り込んだ。

 4Fへ乗り込むにあたり、見回りの存在が気になった俺たちは、テロリストに構成人数や役割等がどうなっているのかを聞いてみた。そしたらまさかの「見張りは存在しない」という証言が得られたのだ。念のため、精神感応魔法テレパシーでの裏付けも行っていたが、嘘ではなかった。

 今回の襲撃は厳選された30名のみで、教職員棟及び、警備員棟が制圧完了した今、リーダー経由で“教祖アリサ様”とやらに連絡が行き、次の作戦が通達される手筈てはずだった(・・・)らしい。予定では、各教室に配備されたテロリストが教室を制圧した頃にはアリサから各員に通達されるはずだったのだが、どういうわけかいまだに通達が無いとの事。

 「トランシーバーの類を持っているわけでもないのに、どうやって通達できるのか?」と問いかけたところ、今度もまさかの「魔力通信」という答えが返ってきたのだ。どうやら彼らが装備しているベルトに魔方陣が組まれているらしく、腰に巻きつけることで魔方陣としての“輪”が完成し、アリサからの通達を受信できるらしい。学園のあらゆるセンサーが効かず、ノーマンたちにも気付かれることなく侵入できたのも、このベルトの能力の一つだと言う。

 聞けば聞くほど興味の尽きない話ではあったが、詳細説明を聞くのは後回しにして各教室の解放を最優先に済ませることにした。見回りを気にする必要もなくなった俺たちは、1-C教室から順に一年生の教室を全て解放し、つい先ほど催眠状態のテロリストを引き連れて2-B教室に戻ってきたのである。


 今、菜月先生の前には元テロリストたちが4名、キリッとした顔で並んでいる。…全員目出し帽だから目元しか見えないけど。

 少し気になったので、最初に俺が気絶させたテロリストを確認してみたが、まだ黒板の下あたりに転がされたままだった。ちょっと強くやりすぎたか。


「正直、俺もびっくりしてる。 まぁ、ノーマンが居るから余裕だとは思ってたけど、ここまであっさり一年教室まで解放できるとは思ってもみなかった」


「いやBB、俺が全力を出したところで普通ここまで簡単には行かないぞ? いくら実戦経験が無いとはいえ、BBだっておかしい(・・・・)って気づいてるだろ?」


「まぁな、構成人数を確認した時から違和感しかなかったよ。校舎に見張りをつけることもせず、各教室には一人ずつしか配置しないという杜撰ずさんな体制。 その割には警備員棟に10名、教職員棟に11名と、かなり厳重に制圧して──」


「ちょっと待ったBB。確かにさっきテロリストから、警備員棟と教職員棟が制圧されているってことは聞いた。 だが、配置されている人数までは聞いてなかったよな?どうして知っているんだ? …まさかBB、監視カメラにアクセスしてリアルタイムで覗きでもしてるのか?」


 ノーマン、ここにきてとんでもない爆弾を投下するの巻。「覗き」ではなく、せめて「監視」と言ってほしかったでござる。おかげで教室内のそこかしこから、“ざわ…ざわ…”という音が聴こえ始めたじゃないか。


「いやいやいや、某作品のように電脳化もしてないのにそんな事できるわけないだろ! ちょ、皆もそんな『えっ?!盗撮?!』みたいな反応しないで!そんなことしてねぇから!」


 クラスメイトからの視線に疑惑の感情が混じり始めたので、全力でノーマンの物言いを否定させてもらった。あながち間違いでもないわけだが、俺がリアルタイムで把握しているわけではないので嘘は言っていない。もう一度ノーマンに向き直り、改めて説明する。


「確かに、学園内のセンサーやカメラの監視・・はしている。 だが俺じゃない。マチュアに任せているんだ。 一応、あの子は女性秘書というコンセプトで作り上げたからな。 …ほぼ女子校状態のこの学園を、男性の俺が監視する訳にもいかんだろ?いくら防衛のためとはいえ」


 せっかく今まで隠していたのに、こんなことでマチュアの存在を暴露させることになるとは思いもしなかったな。だが、学園内の人々に今回の事を色々と説明したり、今後の安全対策を実施する上で、どの道マチュアの存在を説明する必要が出てくるだろう。今ここでバラしたところで、大差無いはずである。


「……なるほど、マチュアがこの学園に居るのか。 確かに、機械類を監視させるには打ってつけだもんな。 …でも、いつの間に情報共有したんだ?少なくとも、今まで見てきた教室内にマチュアの姿は見かけなかったぞ?」


「これだよ。これを介して俺の部屋に居るマチュアと魔力通信を行っているんだ」


 ノーマンも、俺が率先してマチュアの存在をバラしたので、秘匿する意味があまり無い事を察したのだろう。特に言いよどむこともなく、普通に疑問に思った点を質問してきた。俺は左耳の後ろの髪を軽く上げて、隠していた魔力通信機を指して情報共有方法を説明する。


「えっ?!あのエロボディがBBの部屋に居るの?! 毎日エッチし放題じゃないか! 俺なんて、近くにマージみたいなエロボディ美少女が居ても、自家発電しかできなかったのに!BBだけズルい!」


 もうコイツさっきから何なの?一言二言、余計過ぎる。童貞をこじらせ過ぎてピンクの妄想やら、ロマンティックやらが止まらなくなってるの?

 頼むから、俺をむっつり助平すけべ扱いするのをやめてほしい。正解だから困る。


「してねぇから!俺は今でも童貞だから! だいたい、お前に我慢するよう言ったのは俺なんだぞ!その俺が自粛じしゅくしないわけねぇだろ。 …だからみんなも、そんなケダモノを見るような目で見ないで!心が痛いから。 それとそこの“黒薔薇三連星くろばらさんれんせい”! どんな妄想しているのか知らないけど、俺とノーマンで“かけ算”は発生しないからなっ!そんな熱のこもった目で俺たちのやりとりを見るな!」


「でも俺はノンケだろうとっちまえる自信があるぜ?」


 ノーマンのヤツがドヤ顔で更なる爆弾発言を投下しやがった。


「そりゃそうだろうね! お前に組み伏せられたら、どんなにガチムチな男でも抜け出せないだろうよ。 俺が魔法で筋力を限界突破させた上で、虚を突いた攻撃をしてようやく脱出できるかできないか…ってとこじゃないかな! 頼むからこれ以上、変なことを口にするのは自重してくれ!」


「BB…『口にする』とか卑猥過ぎるぜ」


 それにしてもこの男、ノリノリである。ちょっとやめて。あそこの腐女子三人組に燃料を投下するのマジやめて。


「もぅだこのカオス空間…さっさと三年教室も解放しに行きたい…」


「渉…」


 ツッコミ処が多すぎて疲れ果てた俺に、菜月先生が優しく声を掛けてきてくれた。

 やだ、このタイミングでねぎらわれたら、俺嬉し泣きしちゃうよ?


「菜月先生ぇ…」


「あなた去年、乱交疑惑が浮上したばかりだというのに、今度は盗撮疑惑と男色疑惑まで浮上させる気? ちょっとチャレンジャー過ぎるんじゃないかしら?」[それと、マジカルゆかりんって呼べと何度言えばわかるのかしら?]


「やめて。あの事件を思い出させるのやめて…」[…っていうか、わざわざテレパシー使ってまで名前の呼び方にダメ出しですか]


「ねぇ渉…」


「…滝川?」


 ここで滝川にまで追い打ちをかけられたら超へこむんですけど…。そうなったら、俺はすぐにでも駆け出して莉穂姉の胸に飛び込んで泣く自信があるぞ。テロリストを気絶するまで殴って八つ当たりしたあとにな。


「その、渉がどう──」


「BB、その乱交疑惑ってのを詳しく!」


「──ノーマン、その話はあとにして! 渉、えっと…まだ(・・)って言うのは本当なの?」


「アッハイ…本当です。というか、キスすらしたこともないです。その後の行動を自制できるか自信がないから」


 ノーマンが割り込もうとしてきたが、真剣な表情の滝川によってバッサリと切り倒された。

 クラスメイトの前で“童貞”と発言する事が恥ずかしかったのか、ノーマンに水を差されて冷静になったのか不明だが、頬を赤らめた滝川が言い直しながら聞いてくる。隠語として“チェリー”やら“DT(ディーティー)”やら言いようはあったろうに…その初心うぶさがとうとくて、つい聞かれてもいないことまでバラしてしまった。

 今日日きょうび、珍しいくらい正統派ヒロインしている幼馴染だと思う。


「ッ!!じゃあ!私にもまだチャンスはあるって事よねっ?!」


「いや、その理屈はおかしい。 あと滝川。手、痛い、ハナシテ」


 急に俺の手を握り締めたかと思うと、鬼気迫る勢いの声と表情で滝川が顔を近づけてくる。


 「チャンスって何の話?」などと鈍感系主人公みたいな台詞セリフを言ってすっとぼけてやりたかったが、普通にツッコミを入れてしまった。

 それよりも、滝川に握りしめられた右手の指先が若干赤黒くなり始めてるので、割と本気で離して頂きたい。完全に無防備な状態で握りしめられたので本当に痛いのだ。


「私、莉穂姉が相手でも、マチュアさんって人が相手でも、もう簡単に諦めないから! スタートラインが一緒だってわかった以上、諦めないから! 渉、覚悟してね」


「そんないい笑顔で告白の宣戦布告をされても…。 というか、会ったこともないのにマチュアもライバル対象なのね」


 まるで戦いにおもむくかのような凛々しい表情で微笑ほほえみながら宣言し終えた滝川は、すぐにきびすを返して席に戻って行った。つい数分前までは正統派大人しい系ヒロインだったはずなのに、今は和風戦乙女(ヴァルキリー)と言えそうな力強い背中を見せている。

 今の雰囲気のまま、カチューシャの代わりに白い鉢巻きをしてもらい、巫女服に薙刀なぎなたを持ってもらえれば、とても絵になりそうな気がするなぁ…。


 …ちくしょう、こんな状態でも冷静にアホな事を考えてしまう自分の平常運転っぷりが恨めしい。


「BB。モテる男はつらいな」


「誰のせいでこうなったと思ってやがる!」


「きっかけは俺だろうけど、直接の原因はBBが自分で“童貞”ってことをバラしたからじゃないか?」


「そ……れは確かにそうだな」


 くそっ、ノーマンの分際で冷静に状況分析しやがって。

 さっきから無駄に混ぜっ返す様な言動をしてたが、まさかこうなることを狙って発言していたのではあるまいな。だとしたら、ある意味テロリストよりも厄介な存在だぞコイツ。


「…はぁ、まさか3週間前の修羅場フラグが、ノーマンではなく俺に立つなんて…」


「ホラ、BB。しょげてないでさっさと三年の教室も解放しに行こうぜ?」


「お前…もう2~3分早くそれ言ってくれよ。場を引っ掻き回してないでさぁ…。 はぁ…まぁいいや、じゃ行こうか」


 テロリストたちの行動に違和感をぬぐえないまま、俺は疲れた精神に鞭打って2Fへと旅だった。

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