第16話 - 食後の挨拶回り
去年の夏、グァム旅行中にスマホをプールに沈めてしまいご臨終させた妹。
今年、まだ始まって間もないと言うのに「スマホ失くした!」と、他の端末を使いMessenger経由でタイから緊急連絡。
来年、吾輩の妹は海外旅行に行った際、一体何をしでかすのだろうか…。
本日起こったアレやコレなどを説明しつつ、俺達の師匠のねらいも軽く説明しながらの昼食を取ること早40分。莉穂姉達に「あ~ん」をされながらの食事だったので、いつも以上に時間が掛かるわ、仁科先生からはジト目で見られるわ…と、恥ずかしさの滲み出る時間もようやく終わった。
昼休み自体はまだ40分以上時間が残っているが、このあとも幼馴染の両親ズに軽く挨拶したり、ノーマンと俺の義両親達とも顔合わせしておきたいので、言うほど時間に余裕があるわけでもなくなっている。
それに、黒薔薇三連星の親御さんにも「娘さん達が俺とノーマンを題材に、爛れた妄想を垂れ流してくるんです! 自重するように言ってくれませんか?」と、釘を刺してもらいたいので更にゆとりは少ない。
「…はぁ。午前の競技中、すぐに皆さんの姿が見えなくなった理由はわかりました。ですが、一般人も多く居る催し物の日なのですから、まずは避難誘導の為にも警備員の皆様と協力するべきだったんじゃないんですか? 理事長」
俺達が説明している間、何度か質問をしてきたものの基本的には黙って耳を傾けていた仁科先生が、やや大き目の溜息をつきながら由子お姉ちゃんに進言した。
一般的な感覚からすれば、“危険人物が侵入してきた”となれば、まずは警察に連絡。次いで、けが人が出た場合は救急車の手配といった感じになるはずだ。
特に今回の場合は、前回とは違い人質が取られたわけでもないのだから避難誘導は安全に行えたのだ。仁科先生の意見は至極真っ当と言える。
しかし──
「常識的に考えれば仁科先生の言う通りです。
避難誘導だけであればとりあえず火災報知器を鳴らし、『火災発生による誘導』という事で対応は可能だったでしょう。ですが本日は、学園敷地外にも多くの人間がおり、火災発生が嘘であることがすぐに露見する可能性が高いのです。
それに、“火災による避難”という形を取ったところで、実際はテロリストから距離を置くための措置ですから、消防車ではなく武装した警察官を呼ぶ必要があります。そうなると、『なぜ消防に連絡しないのか』といった疑問を生むことになるのです。
もし万が一、テロリストの侵入という事が一般人に漏れた場合、我が学園に疑問が集まる可能性が高いのです。『立地的にも警備体制的にも部外者の侵入が難しい場所なのに、なぜ人の目が多い体育祭の日に侵入しようとしたのか? そこまでしようとした理由は?』といった疑問が世間に流れた場合、今の我々には納得させられるような誤魔化しの準備ができておりません。
渉君が全力を持って敷地外の一般人に“体育祭の間に起こったトラブルを忘れる”よう魔法を行使したとしても、それを行う前に目撃者がインターネット上に写真等をアップロードしていた場合、人々の記憶から完全に消去するのはほぼ不可能です。
そうなった場合、“現地に居た人々から消えた詳細な記憶”、“ネット上に晒されていた画像や動画”、“それらをすぐに隠蔽した素早い対応”これらの状況から、『魔法による記憶操作や政府が関与している』と騒ぎ出す人間も出て来るでしょう。
世間では魔女という存在が公然と認知されている状態にありますが、その全員がこの学園の卒業生であるという情報は未だ公けにはなっていません。ただの想像レベルの“疑惑”であっても、魔女と学園との繋がりを仄めかす事は可能な限り避けたい…そのための措置であったとご理解下さい」
──由子お姉ちゃんが仁科先生に説明した通り、インターネット技術の進歩により、ほんの数分もあれば注目の多い情報があっという間に多くの人間に拡散されてしまう現代である。“誰が・いつ・どこで”籠月学園の情報を見聞きし、事件について怪しんでしまうか分かったものではないのだ。
魔女として注目を集めてしまわないよう、師匠は卒業生に“認識阻害の魔法陣を刻んだ腕輪”を渡すよう徹底していた。そのおかげで籠月学園の歴代卒業生は魔女として活躍しつつ、私生活も穏やかに暮らせるようになっているのである。
その平穏を、できれば崩したくはない…これまでも、これからも。
…まぁ、その平穏を危うく崩しかねなかったのが今回のテロリスト侵入であり、その原因を作った犯人の一人も師匠だというのが頭の悪い話だ。自分で自分の首を絞めているようにしか見えない。
[…こんな感じで良かったかしら?]
[ありがとう、由子お姉ちゃん。リアルタイムで言い訳を伝えながらのスピーチだったのに、キリッとした雰囲気でスラスラ伝えられるのは素直に感嘆したよ]
そう、先ほど凛とした雰囲気で由子お姉ちゃんが伝えた内容は、実は俺が精神感応魔法経由で「こんな感じで説明して」と、仁科先生からの問いかけがあった直後に急遽お願いしたそれっぽい言い訳に過ぎないのだ。
だというのに、慌てたそぶりも見せずに対応するとは…流石は籠月学園を首席で卒業しただけのことはある。まったく、なんで俺なんぞに固執するんだか…。
確かに、「魔導具を作らせたら誰にも負けないぜ!」と自信を持って言えはするし、一応は学年一位の成績ではあるが、それは産まれた時から師匠が俺に植え付けた知識…言わばチートの産物である。実際の頭の回転自体はそこまで良いわけではない。ゆえに、もっと頭の良い人間というのは世間には割と多いはずなのだが…。
[じゃあ、私に惚れ直しちゃったかしら?]
[いや、『尊敬し直した』って感じかな?]
[もぅ! なんでなのよ!]
[そりゃあ、俺には莉穂姉が居るからね! 日本の法律では一夫多妻制も、多夫一妻制も認められてないんだし]
[くっ…、私の方が渉君と早く会っていたというのに! 若さ?! 若さが足りないというの?!]
[いや、由子お姉ちゃんが世間体を気にしないと言うのなら、俺個人としては年齢差は全然気にしてないんだけど…]
[じゃあ、私にもチャンスはあるのね!]
「…なるほど。理事長の仰りたいことはよく分かりました。確かに、後々の事を考えると水面下での対応が良かったとは思います。
…でも渉君。さっきの話を聞いた限り、前回の事件の時に使ったという通信機があったのなら、今回の襲撃日も事前に知ることができたんじゃないの? そうすれば、警備員の配置も完全に対応させて、より確実に収束できたと思うのだけど?」
由子お姉ちゃんと精神感応魔法合戦していると、避難誘導に関しては色々と納得したのか仁科先生が俺に疑問をぶつけてきた。
確かに、教祖アリサや師匠の目的が“ラスト・ワンを壊滅させる”という事であるのはほぼ間違いない。なので、こちらとしてもあちらとしても、お互いに情報共有してテロ対策を万全にしておかせた方が確実なはずだ。
そのはずなのだが…。
「それが…どういう訳か、あの日以降どんなに連絡しても応答が無かったんです。魔力通信だから電池残量は関係ないし、距離だって魔法陣の構築上問題もないはずなんですが…」
「それじゃあ、向こうからの連絡も?」
「えぇ、もちろん何もありませんでした。今日みたいにポケットの浅い服装をする際は、連絡があった時にマチュア・コピーが気付けるよう魔力通信端末の予備と一緒にしていましたので、何らかの連絡があった場合はマチュアを介して報告が来る手はずになっていましたし…」
嫌がらせサプライズをしたいのか、俺達から「ぶちのめし終わったよ」という報告しか聞く気が無いのか、毎日ほとんど肌身離さず持っているというのに、うんともすんとも反応が無いのだ。まったくもって解せぬ。
「そうだったのね…。…っと、もう昼休み終了まで30分くらいしかないけど、伊藤君達はご両親への挨拶とか大丈夫?」
「あ~…そうですね、そろそろ移動した方が良いかも」
「じゃあ、一時解散としましょうか。…構いませんよね、理事長?」
「えぇ、ご両親への挨拶回りは大切ですものね。じゃあ、移動しましょうか」
というわけで、仁科先生は教職員室へ弁当箱を置きに、俺達は自分の両親を含め幼馴染ズの両親にも挨拶をするために移動することになった。
…理事長である由子お姉ちゃんも一緒に。
獣耳にブルマ装備で生徒の両親に挨拶とか、痴女と思われても知らんぞホント。
▲▽△▼△▽▲
なんやかんやで、滝川を含めた幼馴染ズの両親への挨拶はすんなりと完遂できた。
というのも、美希姉を除いた幼馴染ズが両親を含め一堂に会していたからである。
今年から入学した妹尾家の両親とは2年ぶりの顔合わせとなるので、久しぶりの再会だったが、やはり両親ズに一番驚かれたのはノーマンだったようだ。
しかも、やたら巨乳の彼女まではべらせて。
まぁ、そんな状況を見て篠山ねーちんが黙って居られるわけもなく──
「私とマージはライバルだから! まだ、俊之はどっちとも明確には付き合ってないから! 少なくとも完全な彼女じゃないから!」
──などと両親達の前で宣戦布告すると同時に、まだ“自分も彼女にはなれていない”と自身で言った言葉に打ちひしがれるというコントのような場面も見れた。
そんな一人娘を見た篠山夫妻の反応はと言うと…。
「頑張りなさい、楓! お母さんも応援してるわ」
「俊之君をものにするとしても、振られるとしても、全力で悔いのないようにしろよっ!」
といった感じで、かなり爽やかに応援していた。
「お父さんは認めんぞ!」とかリアルで聞けるんじゃないかと思っていたのに、昔からの顔なじみであるノーマン相手とは言え、よくもまぁ爽やかに応援できるもんだと感心してしまった。
「じゃあ、私もこのタイミングで重大報告させてもらっちゃおうかしら」
その言葉を聞いた皆が「重大報告?」とでも言いたげな表情をし、声の主に注目する。
そして、その声の主はおもむろに立ち上がり、俺の前まで来るとにこやかにこう言い放った。
「渉。実は、ついこの間分かった事なんだけどね…。私、妊娠二ヵ月目なの」
途端、俺達にどよめきが起こる。
驚愕で一瞬言葉を失う俺。
嬉しさからか、満面の笑みを浮かべる莉穂姉。
「まさかっ?!」という表情で俺をガン見してくる滝川と由子お姉ちゃん。いや、俺にそんな顔をされても困る。俺だって困惑しているのだから…。
それにしても…、そうか、来年の今頃は俺も……いやそうじゃない、他に言うべきことがあった。
「嘘だろっ?! だって義母さん、今年で四十よ──いだだだだだ…」
「うふふ…。ちょっとそれ以上はお黙ろうかしら?」
そう、妊娠報告をしたのは俺の義母さん──則子である。
確かに見た目だけなら30代で十分通るのだが、実年齢は義両親ともに43歳。来月の今頃は二人とも44歳の誕生日を迎えるという、高年齢出産待ったなしの年齢である。
しかし、やってしまった。
あまりにも驚きすぎて、「おめでとう」ではなくツッコミの方を口走ってしまうとは…。おかげで、容赦のない義母のアイアンクローが俺を襲う。
「の、則ちゃん。もうそのくらいにしてあげた方が…」
「…そうね、お腹の子に響くのもアレだし、今日はこのくらいで勘弁してあげましょうか」
義父──崇の控えめなストップが入り、ようやく俺のこめかみが解放される。
義父さん、ありがたいのだけれど、できればもう少し早く止めて欲しかった。俺の伊達メガネがレンズ無しだから良いものの、レンズ有りだったら今頃は義母さんの掌紋だらけになってたところだ。
「あの…則子さん、一つ確認よろしいでしょうか?」
「えぇ、何でしょう?」
何を思ったのか、由子お姉ちゃんが義母さんに話しかけた。
「その“お子さん”はやはり…」
「えぇ、崇くん……旦那との子よ。だから、莉穂と同じく渉とは血の繋がりは無いわ」
「……ほっ。あ、いえ。夫婦仲が良くて羨ましいと思いまして…」
「今この人、あからさまにホッとしてたよな」などと考えていると、莉穂姉と滝川と由子お姉ちゃんから同時に精神感応魔法が飛んできた。
[一瞬、渉が襲われて母さんとの間に子供ができたのかと思ったわ]
[一瞬、渉が襲われて小母さんとの間に子供ができたのかと思ったわ]
[一瞬、渉君が襲われて則子さんとの間に子供ができたのかと思ったわ]
莉穂姉まで勘違いしていたのは驚きを通り越して悲しさを感じたが、滝川と由子お姉ちゃんの反応はさっきの表情から何となく勘違いしていると思っていたので想定内だった。
まったく、俺の前に来て嬉しそうに報告するとか明らかにミスリードを狙ってたろ、義母さんめ。
妊娠二ヵ月目ってことは、逆算すれば俺達が修行に訪れていたGW期間も入るし…。
それにしても、皆して俺が“襲われた”前提と考えていたあたり、“『自発的に手を出すような人間じゃない』と信用されている”と喜ぶべきか、“『義母に襲われてもおかしくない』ほど弱いと思われている”と悲しむべきか迷うな。
…などと考えていると、それまで静観していただけのノーマンが肩を叩きドヤ顔でこう言ってきた。
「とりあえず。おめでとう、BB。これで名実ともにおっきいお兄ちゃんだな」
「…上手い事言いやがって、このデコ助野郎」
ちょっとゴタゴタするかもしれないので、次回は金曜日に間に合わない可能性があります。
楽しみにしている方がいらっしゃるかは微妙ですが、もし遅れた場合はごめんなさい。




