第14話 - 午前の部、終了
ノーマンが悲しみの雄叫びを上げたため、父兄やクラスメイト達がざわつき始めてしまったので「綱引きで活躍してやろうと思っていたところ、俺達男性陣が出場不可と知ってコイツが悔しがっているだけです。御心配なく!」と、無理やり誤魔化す羽目になった。
まったく、恥も外聞も無くアホな悔しがり方をしおって…。
でも、考えてみたらノーマンの今までの生活って、こういった学生らしいイベントも少なければ、同年代女子とのラッキースケベな展開もなかったはずなんだよな。
周りに居た連中は、階級こそノーマンより下なものの、年齢的には10歳近く離れている年上の女性ばかりだったろうし。……年上好きな俺からすれば、ちょっとうらやましいと思っちゃう環境だけど。
唯一の同い年女子であるマージちゃんなんかは、女性兵士からの報告によると、夜這い未遂に、お風呂潜入未遂などを起こすという“ラッキースケベ”ならぬ“ダイレクトスケベ”メーカーだったらしい。
周囲の大人達が必死に止めたから“未遂”で済んでいたとはいえ、ラッキースケベのおあずけを食らっただけで叫ぶくらい思春期真っ盛りのノーマンが、よくもまぁ我慢しきったものである。
今となっては3年ほど前の話になるが、俺が言った注意事項をしっかりと守ってくれていたんだなと思うと感慨深いものがあるな。
「日本の法律上、俺達はまだまだ未成年なんだ。くれぐれも現地に居る女性兵士と間違いを犯すなよ! お前の化け物じみた身体能力だと、俺が全力を出しても歯が立たないんだ。幾ら兵士として鍛えている女性だとしても、『くっ殺』展開待った無しレベルで押し倒せちゃうだろう。思春期ド真ん中の俺達には酷な話だとは思うが、お前の理性ある行動を期待している」
「なるほど。つまり、男相手ならOKって事だな?」
「ハッハッハ……またまたご冗談を」
……あれ?
そういや、当時は「女性と間違いを犯すな」とは言ったが、「男性とも間違いを犯すな」とは言ってなかった気がするな。
ノーマンの監視役をお願いしたスコット達からの報告では、女性に性的な手出しをした形跡はないという話ではあった。つまり、彼らの目を盗んで事に及んでいない限り、コイツは俺と同じく童貞である。
しかし、辞書的な意味での“童貞”とは、異性と性的な関係になっていない人の事。あるいは、カトリックの修道女…という意味を持つのだ。
要するに、何を懸念しているかというと“男同士で濃厚な掘削作業を行おうと、相手が異性ではないので童貞”と言えてしまうのである。あくまで、「辞書的な意味に於いては」という但し書きが付くが…。
いやでも、俺に対してもそうだったように、なんだかんだでノーマンは“ホモォ…”な発言はするものの、本気で嫌がっている相手を押し倒すような真似はしない紳士である。ここは、人造人間仲間にして親友の俺が、ヤツの潔白を信じなくてどうするというのだ。
…けど仮に合意だった場合、ヤツは嬉々として……いやいや、やっぱ止めようこんな不毛な自問自答。
答えが出ないし、下手に真実を知ったら正気度が下がりそうだ。
「──などと伊藤氏は脳内で供述しておりますが、真相の方はいかがなのでしょうか? 四つん這いになって悔しがっている野間さん」
「…お前らは“くノ一”か何かか? つか、俺のモノローグを自然に読むの止めろや」
いつの間にか黒薔薇三連星が俺の近くまで来ていて、リーダー格がノーマンにインタビューしていた件。
どうやら、俺の苦悩を精神感応魔法でつぶさに読んでいたらしい。…研究所でも思った事だが、俺って考えが顔に出るのだろうか。そうでもなきゃ黒薔薇三連星だって、わざわざ俺が何を考えているのか確認しようとは思わないはずだし。
それにしても最近の黒薔薇三連星、俺の考えを覗く事に躊躇無さ過ぎである。
在校生はもちろんの事、歴代卒業生を含め籠月学園の関係者は皆、個々人の倫理観に基づき魔法発動を自粛できるようにする制約魔法の魔導具を使用されている。
そのため、犯罪目的やプライバシーを侵害するような魔法の使い方はできないようになっているはずなのだが…。黒薔薇三連星専用の制約魔法の魔導具を作ってみる事も検討した方が良いかもしれん。
彼女らの中では「BL作品のネタにするための精神感応魔法使用は、一種のやむを得ない犠牲であって、アウトに近いセーフ」という認識かもしれないからな。
この前のテストではカンニングしようとして精神感応魔法が使用できなくなっていたようだけど、今回使えたってことは“俺の心の声を覗き見る事”は彼女ら的に罪悪感が低いって事を証明しているわけだし。ホント、コイツらの罪悪感判定はどうなっているのだ。
……って、いかんな。今はそんな事よりもノーマンの反応だ。
俺の口から直接聞くのは色々と覚悟が要ったが、既に黒薔薇三連星が問いかけてしまっている。答えを聞くだけだったら大した精神的被害は受けない…と思う、たぶん。
「…はぁ。人が悲嘆に暮れているというのに、カマを掘ったり掘られたりしたのかを気にするとか。…ん? もしかしてBB、ついにソッチ系に目覚めちゃった? なら安心して! 俺の体が綺麗なままだからっ! さぁ、カモン!」
急に立ち上がったかと思ったら、眩しい笑顔で両手を広げながらハグするようなポーズをとりだすノーマン。
殴りたい、この爽やかフェイス。まぁ、本当にぶん殴ったら、俺の手の方が大変な事になるだろうからやらないけどね。
父兄や覗き魔達の目もあるから、乱闘騒ぎめいた事を起こすのも学園の風評に響くだろうし…。
「うん。体は綺麗かもしれないけど、思考が腐ってやがりますね。…あと、その台詞は篠山ねーちんとマージちゃんに言ってやれよ、きっと喜ぶから」
「フッ…。その二人には既にカミングアウト済みだぜっ!」
「だったら率先して体を汚すような発言すんじゃねぇよヴォケッ!」
「ハッハッハ。腐女子が見てるんだ、折角だしBLサービスしてやろうと思ってな」
この男、何だかんだでこの手のネタにノリノリである。いや、以前から知ってたけど…。
まったく、本気か冗談かイマイチ分からないから勘弁して欲しい。最近では、腐り始めた女子から変に期待の籠った目で見られるようになってきてるし…。
そして今、ノーマンの反応により黄色い声で大興奮している腐女子が三人…。
「「「キャー! ステキ! 伊藤氏、抱いちゃって!」」」
「嫌だっつの! 寧ろ、お前達がノーマンを抱いて篠山ねーちんとマージちゃんにボコられてしまえ。…まったく、ノーマンが来てからというもの、黒薔薇三連星と絡む機会が多くなっちまった。白百合三姉妹のキマシタワーな妄想を盗み聞きしていた時期が懐かしい…」
最近は莉穂姉と並んで俺に構いっぱなしの滝川だが、以前は関口と話していたことが多く、去年一年間は白百合三姉妹のカップリング妄想に良く使われてる幼馴染ペアであった。…尊い。
2年になった際、クラス替えで別々のクラスになってしまった事や、テロリスト襲撃事件のどさくさに紛れて莉穂姉へ公的にライバル宣言して俺にべったりになるなどのイベントが入ってしまい、今や関口の相棒は妹尾にシフトしてしまっている…という噂を耳にしている。それはそれで尊い。
まぁそんなわけで、去年までは彼女らの妄想に聞き耳を立てることもできたのに、今や黒薔薇三連星が同じクラスにいて、俺とノーマンという食材まで揃ってしまったせいで黒薔薇三連星へツッコミをする日々になってしまった。
今日のお昼休みに余裕があったら、恐らく来ているであろう彼女らの母親に釘を刺してもらえるよう交渉してみるか…。
「只今より、クラス対抗綱引きを開始致します。トーナメント第一試合となるクラスは──」
薔薇だの百合だのと考えていたら、いつの間にか午前最後の競技の準備が整ったらしく、校庭に放送が響き渡った。
校庭の真ん中に視線を移すと、太くて長い黄土色の綱が“デデンッ!”と横たわっている。
綱の中央には遠目にも目立つ赤いリボンが巻き付いており、生徒が握る箇所は歴史を感じさせるかのように黒ずんでいる。
「ほらほら、綱の準備ができたみたいだぞ。薔薇な事に夢中になってないで、スタンバイしてこい。俺とノーマンで応援しとくから」
「「「ちぇ~…」」」
俺が手をひらひらさせながらそう伝えると、不満そうな表情を隠すことも無く、獣耳を着けた大和撫子(見た目だけ)の三人は名残惜しそうにこちらを振り返りながら待機列に向かっていった。
…これで少しは落ち着ける。
「ゴクリ…。あの太くて長い黒ずんだモノを、うら若き美少女達が寄って集ってしごきまくると思うと、胸が熱くなるな」
「妄想癖と逆流性胃炎が主な症状ですね。お薬出しておきますので、黙って見ていて下さい」
「BBのツッコミがCOOLになった件。もっと熱くなれよ!」
「クラスの応援に熱量を使いたいから、今はエコモードなんだよ」
真剣な顔でアホな事をのたまうノーマンにさっくりと切り捨てつつ、本当に“少し”しか落ち着けなさそうだなと思う俺だった。
▲▽△▼△▽▲
全9クラス、8試合に及ぶ綱引きも見事我がクラスが一位を獲得し、他のクラスに余裕のリード見せつけながら午前中の全競技は終了となった。
「これより、90分のお昼休みとなります。本日は、父兄の方々にも学園寮2階の食堂及び、1階の物販コーナーが解放されておりますので──」
「仁科先生。これから皆とお昼を食べようと思うんですが、先生もご一緒しませんか?」[パン食い競争の前にも話した通り、“野暮用”についてもお伝えしたいので]
父兄宛の放送をBGMにしながら、仁科先生に話しかける。本来の目的の方は、念のため精神感応魔法で先生のみに伝えている。
流石に、クラス担任の先生をお昼に誘うような生徒はあまりいないのだが、このタイミングで自然に話しかけるとなると他に浮かばなかったのだ。
「……えぇ、それは構わないけれど…。伊藤君達はそれでもいいの? てっきり、親御さん達と食べるものと思っていたのだけど?」
「あぁ、俺やノーマンの家は特殊なんで、昼休みの最後の方にでもちょこちょこっ…と話に行けば十分ですよ。それじゃあ、ここで立ち話もなんですから、食べる場所に移動しましょうか」
少し困ったような、申し訳なさそうな表情で返事をくれる仁科先生。
頭に着けている獣耳も、心なしか“しゅん”としているように見えてくるから反則可愛い。いや、所詮は安物のカチューシャ式獣耳なので、そう見えるだけではあるのだが…。
とりあえず、先生の憂いをなくすためにも「何でもない」といった雰囲気で、あとで家族の所にも顔出しする旨を伝えておく。
実際、我が家の義両親は今でもラブラブなので、GWに研究所に行った時もそうだったように俺や莉穂姉が居ようと居まいと所構わずイチャつく始末。正直、一緒に居ると砂糖を吐いてしまいそうになるので、軽く話す程度にしておく方が精神衛生上楽なのだ。
ノーマンの義両親も研究所員ではあるもののかなりのミリオタ夫婦であり、師匠の研究所員という肩書を利用して各国にある世界連合防衛軍の拠点を転々としてアドバイザー的な事を行っている。本日は、一応父兄枠で来ているそうなのだが、一緒に昼食をとるとなると防衛設備面でのダメ出しをされそうなので遠慮したいところだ。
そんなわけで、どちらの義両親達とも長時間一緒にいるのはちょっと…というのが俺の本音である。
ノーマンは結構ミリタリー好きらしいので、義両親の会話も割と楽しんでいるようだが、俺はからっきしだからなぁ。
「あ…私はお弁当を取りに行くから、食べる場所を教えてもらえないかしら。あとから合流するわ」
「分かりました。それじゃあ、2-Bの教室に来てください。あとから莉穂姉達も合流しますので」
そう、現在俺の周りにいるのはノーマンとマージちゃん、そして仁科先生だけである。
莉穂姉と滝川、由子お姉ちゃんの三人は、自分が作った自慢の弁当を取りに行っており教室で合流予定。
篠山ねーちんは、名残惜しそうな表情を残しながら両親と一緒にランチをしに食堂へ移動。
関口、妹尾、マジカルゆかりんは、普通に両親の元に移動。
美希姉は、持参したお弁当を片手に大学の友人と共に移動済み。
マチュアは朝食の際に摂取した有機物が残っているので、引き続きテロリスト6名の監視である。
「あら、それなら一緒に移動した方が良さそうね。お弁当を置いてるのは職員室の冷蔵庫だから通り道だわ」
「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」
そんな流れで先生と一緒に移動しようとした時、ノーマンが不意に俺の体操服を引っ張ってきた。
「…なんだよ、ノーマン。そういう行為は、萌えキャラがやってこそ意味があるんだぞ?」
「なぁ、BB。ふと思ったんだが、先生を呼ぶことは莉穂姉達に通達済みなのか?」
「俺のボケをスルーしやがって…まぁいいけど。…先生の件は特に言ってないぞ。OKされるかどうか分からなかったからな」
「そうか…」
そう言ってノーマンは数秒黙り込んだあと、ポツリと一言溢した。
「何も起きなければ良いが…」
「不穏当なフラグ立てんな!」




