第13話 - あっけない完封劇(後編)
新年、あけましておめでとうございます。
こんな作品ですが、少しでも暇つぶしになれれば幸いです。
今年も何卒、宜しくお願い致します。
[渉! 私、やったよ! 僅差だったけど、私が一番にテロリストを撲殺できたよっ!]
[うん。ちゃんと確認していた。滝川、良くやった──って、ちょっと待て?! 今、『撲殺』って言わなかったか?!]
嬉しそうに討伐報告をしてきた滝川にツッコミを入れていると、サポートに付けていた関口から冷静なトーンで返事が返ってきた。
[安心して、渉。奈津美は気分が高揚していて変な事を口走ったけど、実際は殴って気絶させただけだから]
現在、精神感応魔法だけで会話している状態だが、俺を中継機としてやりとりしているので、個人からの連絡はグループ通話よろしく全員に共有されている状態だ。
関口からの冷静な返答も、滝川と俺とのやり取りを聞き取れているからである。
[…ホッ。そうだよな。関口をサポートに付けたんだもの、そんな悲惨な事にはならないよな。……まぁ、できればテロリストの張った魔力膜の中に手を突っ込んで、威力調節した雷撃魔法を使って気絶させてほしいところだったけどね。魔法を扱う練習として]
[え…。でも、渉でさえ『雷撃魔法の威力調節は難しい』みたいな事を、初めて襲撃された時に言ってたと思ったんだけど…]
若干尻すぼみになりながら、滝川がそんな返答をしてくる。暗に、「渉が『難しい』と言っていた事を、私ができるとは思えない」と言っているのだろう。
確かに、テロ組織ラスト・ワンが初めて襲撃してきた際、クラスメイトの前でそれっぽいことを言ってマジカルゆかりんに睡眠導入魔法を応用してもらい、気絶していたテロリストを無理やり起こしてもらった記憶がある。
精神系の魔法であれば、俺よりもマジカルゆかりんの方が上手いし、睡眠導入魔法は俺にとって少々トラウマがあるため敬遠したのだ。
[あれは“気絶していたヤツを起こす程度の威力”にするのが難しいって言っただけ。叩き起こすつもりで電気を浴びせたら、その衝撃でまた気絶させちまった…なんて拷問めいた事やりたくないじゃない?
気絶させるだけなら、死なない程度の威力を瞬間的に当てるだけでいいから、今まで授業でやっていた簡易構築でも対応可能なくらいだよ。……というか、簡易構築ってのは死人を出さないよう“威力を抑え、魔法発動を素早くするための式”として生み出された魔法式だからな。火傷とか怪我は負うだろうけど…]
[う…、そうだったのね。次回から気を付けます…]
[できれば、この次は皆の手を煩わせないようにしたいけどね…って、次があることは想定済みなのね。その辺の説明は晩御飯の時にしようと思ってたんだが、勘の良い事で…]
[[[[だって、次が無かったら挽回できないじゃない!]]]]
滝川を始め、一番にテロリストを無力化する事に失敗していた篠山ねーちん、莉穂姉、由子お姉ちゃんが熱い思いと共に精神感応魔法を飛ばしてくる。
別に、俺もノーマンも強い女性を求めているわけじゃないんだけどなぁ…。
[あっハイ。じゃあ、次回も頑張ってね…どういう状況で戦闘になるか想像もつかないけど…。
ところで、莉穂姉達はどうやってテロリストを倒したの? 皆、ほぼ同時にぶちのめしたのは確認していたけど…]
[[[魔力で強化して、物理で殴ればいいと思って…]]]
[ねぇ。ココ、魔女を育成する教育機関だからね?! ってか、理事長がそんな調子じゃ示しがつかないじゃない! 由子お姉ちゃん!]
[違うの! 渉君、聞いて。 えーっと…ホラ、今日ってば例年よりも観戦者という名の覗き魔が多いじゃない? 万が一、校舎内の私達の様子を、北西の丘から見られていたら問題かな…と思って、魔法を使わなかったのよ!]
由子お姉ちゃんの必死な物言いを聞いていた篠山ねーちんと莉穂姉が、ここぞとばかりに「そうそう!」と乗っかってくる。
だが、「どの道、何もない虚空をぶん殴るような動きをしてる時点で怪訝に思われるだろ」と俺がツッコミを入れると、三人からややしょんぼりとした反応が返ってきた。
必ず一撃で気絶させられるのなら良いが、下手すると反撃を許してしまうから魔法で確実に…という配慮からの注意なのだが、ちょっと罪悪感がこみ上げてくるのは何故だろうか。
それにしても、今日は妙に罪悪感を感じる日だな。
…そうか。今日に限っては自分が動かず、俺やノーマンに好意を持っている女性陣を働かせ、文句しか言ってないからだ。
「…まるでクズ男じゃねぇか、俺」
「BB、突然どうした?」
「いや…、ちょっと自分の状況を客観的に分析して居た堪れなくなっただけだ」
[まぁ、今回の襲撃は最速レコードの20分弱という記録を叩き出せたわけだし、次回はもっと余裕を持ちつつ、魔女らしい戦い方で最速を更新しようかね。うん。
というわけで、お疲れの所すまないけど、仕留めたテロリストを高等部校舎の玄関付近に持ってきてもらえるかな? 俺とノーマンで回収しに行くから]
[え?! 俺も行くの?]
俺の横に居たノーマンが、皆にも聞こえるよう律儀に精神感応魔法で反応してくる。
[当たり前だろう。俺一人で4人のテロリストを抱え、透明化ベルトの範囲内に収めるなんて無理だからね。おあつらえ向きに、お前が捕まえたテロリストからベルトも2本押収しているし──]
[別に、BBが二往復して持って来ればいいだけじゃん?]
──その考えは無かった。
[…無駄に時間が掛かっちゃうだろ? ホラ、二人で運べば一往復で済むんだし。それに、いくら一競技に20分前後掛ける進行予定とは言え、俺も障害物競争の次の競技に出る準備しなくちゃだし。
あっ。そういう訳だから、皆も覗き魔軍団から見えない位置にテロリストをポイ捨てしたら、奴らからベルトを抜き取ってから各々のクラスに戻ってね。あとは、俺とノーマンでふん縛っておくからさ]
[[[[[[分かったわ]]]]]]
「…先生に便秘気味って思われたらBBのせいだかンな」
銀河帝国軍の白い機動歩兵のヘルメットみたいな表情で文句を言ってくるノーマン。
…いや、サングラス越しだから目元はよく見えてないんだけど、口の形があのヘルメットみたいになっているのだ。
「大丈夫! その件に関しては、ちゃんと誤解が解けるよう俺から説明しとくっ!」
「ちなみに、どう言って説明するんだ?」
「『大学のトイレでノーマンと出くわしたついでに、ちょっと野暮用に付き合ってもらってました』ってか感じかな。父兄の耳と目があるし、皆を驚かせたくないからテロリストの事は体育祭が終わってから伝えようかと思うんだよね」
「…そんな言い訳で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない……ハズ! ホラ、先生への誤解対策も教えたんだし、さっさとゴミ収集しに行くぞ!」
「いや、先生の方を心配してるんじゃなくてだな…いやまぁ、いいか」
そんなわけで、何か言いたげなノーマンにベルトを押し付ける。
今転がっているテロリストの監視をマチュアに任せ、俺達は高等部校舎に移動した。
何だかんだ言いながらも最終的には手伝ってくれるので、ノーマンには本当に感謝している。
高等部校舎の玄関先に転がされていたテロリストと透明化ベルトを回収し、寮の在庫置き場に戻ってきた俺達は、物販のお姉さんから頂いたスズランテープで念入りにテロリスト達を縛り上げた。
もちろん、両腕を後ろ手に固定して、アニメやマンガでよく見るようなグルグル巻きにしただけである。間違っても亀甲縛りなどではない。
ちょっとマチュアが怪しい動きを見せていたので、全力で止めさせる…といったハプニングが起きた程度だ。
「渉、亀甲縛りは諦めました。ですが、彼らを社会的に潰すために──」
「なんだ、マチュア? 顔出し写真の流出でもやりたいのか? 籠月学園だとバレないようにしろよ?」
「──いえ、ここにエネ○グラがあるので、これを刺し込んだ男を最後尾にして下半身六連結男電車の写真を顔出しでうpってやろうかと」
「やめてやれ! 流石に可哀想だ!」
まったく、なんて恐ろしい事を言い出すんだ、我が娘は…。
こんな子に育てた覚えはありませんよ!
「「え~…」」
「『え~…』じゃありませんっ! つか、しれっとノーマンも混ざらないの! とにかく、騒ぎ出して父兄から怪しまれる事の無いよう、マチュアは適宜気絶させて黙らせてくれればいいんだ。くれぐれも、余計な事をするなよ?」
「渉、それは“振り”ですか?」
マチュアが物凄くシリアスな顔で俺に問いかけてきた。
コイツの記憶領域から、バラエティ番組のノリを削除してやろうかと本気で悩むところである。
「いいえ。これは“振り”ではありません──って、何だよこの中学校の英語の教科書みたいな会話は?! まぁ、そんなわけだから、変な事はしないように! こんな人気のない所から『アッー!』みたいな声が聞こえてきたら、それこそ大惨事だからな!」
「それもそうね。…じゃあ、間を取って口にガムテープを貼って声が漏れないようにしてから直結…というのはどうでしょう?」
真顔で提案してくるマチュア。
一体、“どこ”と“どこ”の“間”を取ったというのか…。
やっぱ、コイツがいつの間にか下半身に増設したというオ○ホの存在が、思考を下方向に流しているのだろうか。
「可哀想だから止めてやれつってんだろ、このポンコツ人工知能が! 今度余計な事を言ったら、オ○ホを引っこ抜くぞ!」
「了解しました。余計なことはせず、騒がれないよう見張っておきます」
「………」
自分で言っておきながら、この脅し文句はどうかと思っていたが、想像以上に効果は抜群だったようだ。
…というか、そんなに嫌なのか、オ○ホのボッシュートが…。
「BB、親子喧嘩に決着が着いたンなら、さっさと戻ろうぜ? そろそろ障害物競争も終盤なんじゃねぇの?」
「俊之、そこは“夫婦喧嘩”と──」
「そうだな。ノーマンの言う通り、さっさと戻ろう。じゃ、マチュア。あとはよろしく~」
「──もぅっ! 渉の意地悪!」
このまま戯言に付き合っていると本当に時間を取られかねないので、騒ぐマチュアをスルーして俺達は校庭に戻った。
▲▽△▼△▽▲
「──という訳なんです仁科先生。“野暮用”の詳しい内容は、体育祭が終わったあと詳しくお伝えしますので、サボっていたわけではない旨はご了承頂けますか?」
「…経緯はわかりましたが、次からは事前に連絡してくださいね。そろそろ次の競技であるパン食い競争も始まりますから、ひとまず伊藤君は列に合流して下さい」
「はい。すみませんでした」
「…何か厄介な事があったのね」と真剣な表情で呟く先生の頭を、ボブカットから覗く獣耳カチューチャが可愛らしく飾っていた。
今日は邪魔になるからなのか、チャームポイントである赤いアンダーフレームの伊達メガネを着けていない事が悔やまれる。
あとでこっそり写メ撮って、研究所の真面目系な職員数名に「彼氏として立候補する気ない?」ってメールを回しとこう。
ただ、俺が先ほど考えた言い訳を仁科先生に伝えたせいで、テロリスト潜入よりも厄介な問題が一つ発生してしまった。
それは──
「二人しか居ない男子が、トイレで出会って野暮用ですって!?」
「何をしたのかしらっ?」
「やはり、ナニをしたんじゃないかしらっ!? 結構長い時間、二人とも居なかったわけですしお寿司」
「「「……ふぅ。薄い本が厚くなるな!」」」
──黒薔薇三連星が聞き耳を立てていた事である。
ちなみに、全て小声なので傍から見れば“大和撫子な見た目の女生徒三人が、何やら可愛らしく頬を染めてはしゃいでいる”風に見える事だろう。…解せぬ。
ノーマンがさっき口ごもっていたのはコレを予見していたからだな…と気づいた俺は、競技が終わったあと即座にヤツのおでこを引っ叩いてやった。
…魔力で身体強化せずに素で引っ叩いたせいでノーマンの防御力に阻まれ、逆に俺の指が内出血で腫れる結果になってしまった。
競技自体は余裕で一位を取ったというのに、気分的には踏んだり蹴ったりな感じである。
さて、そんな体育祭の状況だが、今の所は俺が在籍している2-Bが一位をキープしており、二位とは頭一つ分くらいの差を出している。
好調な滑り出しと言えが、先ほどの腐った妄想を垂れ流されたり、ノーマンを引っ叩いて指が腫れたりと気分的には散々な午前の部だった。
でもまぁ、莉穂姉や滝川がパンを咥えるためにジャンプした際の乳揺れを堪能できたから、辛うじて+-ゼロと言えなくもないかな。…覗き魔連中も堪能していたと思うと誠にもって遺憾ではあるが。
「ところでBB、次の競技ってなんだっけ?」
「ノーマン、それくらい把握しとけよな。“クラス対抗綱引き”だ」
「「……フッ、勝ったな」」
二人して自分のクラスの勝利を疑わなかった。
だって、俺、ノーマン、マージちゃんといったガチの人外が居るんだぞ?
圧倒的じゃないか、我がクラスは!
「あ。でも渉、今年は男子は参加不可になったらしいわよ。『他のクラスと差が付きすぎるから』って理由で」
「「なん…だと…?!」」
滝川の冷静な告知に対し愕然とする俺達だったが、次の瞬間には「マージちゃんが居るから十分に勝つる!」という結論が導き出せたので慌てる事は無かった。
「…だとしても、綱引きで後ろに体を傾けた際、女子のおっぱいエアバッグに後頭部を埋めるチャンスが無くなった事は悔やまれる!」
「おいデコ助野郎、なに勘違いしているんだ?」
「ウホッ?」
「仮に参加できていたとしても、去年俺がそうしたみたいに“綱の最後尾で引く”に決まってンだろ! 自分達の後ろに女子が来ると思うなよ?」
俺がそう言うと、ノーマンは雷に打たれたかのように動きを止め──
「くそったれぇぇええええ!」
──地面に頽れながら力一杯叫んでいた。
コイツ、腐女子とは違った方向で腐ってやがる…。




