第05話 - 海開き1日目後編
マチュアの登場により前途多難になりそうだと不安な表情をすると同時に、マチュアの背後から見知った三人が走ってくるのが見えた。
一学年下の妹尾と、クラスの異なる同級生の関口、クラスメイトであり俺に精神系魔法を教えてくれた先生である菜月ことマジカルゆかりんの三人だ。
「~~っはぁ…。いきなりマチュアが走り出すから何かと思えば、ただの渉の取り合いじゃないの! 驚かせないでちょうだい!」
いの一番に追いついたマジカルゆかりんが、大きなため息とともに仁王立ちになり、俺に向かって文句を言ってくる。そんな理不尽な…。
「俺だって、『莉穂姉一筋』って公言してるのに、周りが諦めない姿勢を貫いてる事にビックリしてるっての! つか、好きでこんな状況を作ってるわけじゃないんだから、文句言わんでくれ…」
「渉の気持ちも分からないでもないけど、こっちだって文句の一つも言いたくなるってもんよ。見て見なさいよ、この水着をっ! 久恵ちゃん、カモン!」
「…ほぇっ?! あっ、はい!」
俺のぼやきに一応は理解を示してくれたものの、憤懣遣る方無いといった表情でマジカルゆかりんが妹尾を自分の方へ呼び寄せる。
GW中の修行の成果で、マジカルゆかりんは老化魔法を自在に操れるようになり、今や“ボンッキュッボンッ”のナイスバディな……ロリ巨乳金髪ツインテール姿になっていた。「…なんで、身長だけ小さくしているのだろう?」と、疑問に思ったのも一瞬で、すぐに答えにたどり着く。おそらく彼女は、去年使っていた学園指定の黒いスクール水着以外持ってないのだ。
GW中、私服を含め、アクセサリーなどの買い物を、皆と一緒に朝から晩までぶっ通しで楽しんでいたが、どうやら新しい水着を買う事を失念していたらしい。おかげで、去年のツルペタ体型を包み込んでいたスク水が、無理やり巨乳をおしこめているせいでパッツンパッツンになり、背徳感溢れる光景を作り出している。
ここに幼女愛好家の紳士が居なくて良かった。間違いなく写真撮影大会が開始され、とんでもない事になっていただろう。
一方、自分に声を掛けられると思っていなかったのか、一瞬呆けた感じに驚く妹尾だったが、すぐにマジカルゆかりんの横に移動し、手に持っていた白い紐状の何かを掲げる。
15歳ではあるものの、それ以上に幼く見える小学生のようなあどけない顔立ちと身体つき、その肢体は学園指定のスクール水着にとても良く合っていると言わざるを得ない。
学園創設時、服装から水着まで師匠が熱心に意見を述べたらしく、それを聞いた当初は「師匠も何をバカな事に熱くなっていたのやら」とバカにしていたものだが、今なら「GJ」と素直に称賛できる。
尚、色はマジカルゆかりんと同じく黒。二人とも色白なので、水着の黒と胸元の白いゼッケンが合わさり最強に見える。
こうして二人並ぶと、まるで双子の姉妹みたいだな。気が強くて巨乳な金髪ツインテールな姉と、気が弱くて貧乳な茶髪セミロングな妹と……うん。見た目から性格まで全然似てないから、やっぱ双子は無理があるわ。
まぁ、それはそうと、妹尾が恥ずかしそうに赤面しながらおずおずと物を掲げる姿は、なんというかこう…庇護欲をそそるな。
そして何故だろう。さっきから俺の脳が「妹尾の持っている紐状の何かを正しく認識するな」と警鐘を鳴らしてくるぞ。分かっちゃダメだ! 分かっちゃダメだ! 分かっちゃダメだッ!
「さぁ、渉? これが一体何か、あんたも、そこに居るグラサンも分かるわよねぇ!」
「どう見ても、スリングショットです。はい」
「すごく………スリングショットです」
まるで鬼の首でも獲ったかのごとく声高に問うてくるマジカルゆかりん。その剣幕に押された俺と、普段と変わらない表情のノーマンが同時に答える。
えぇ…えぇ、そりゃもう、一目見た時から分かっていましたとも。ボディを得たあとのマチュアの積極性を考えれば、そういうきわどい水着を着用しそうってことくらいは…。
尚、スリングショットは水着の一種なのだが、どうみてもエロ目的にしか使えそうにない…というくらい露出度が高いワンピースタイプの水着である。ワンピースタイプではあるのだが、正面から見ればV字状、背後から見ればY字状にしか布が存在せず、局所にあたる部分の布面積が申し訳程度に存在するという物だ。
もちろん、この学園がいくら私用の水着後OKとはいえ、倫理的な観点から問答無用でアウトを食らう水着である。
マチュアのやつ、いつの間にあんなものを手に入れていたのやら…。その行動力だけは褒めてやる。色も白を選んだあたり、自分の小麦色の肌に合っているという点を考慮しているようでポイントが高い。
「こんっっっな物を着させるわけにもいかないから、私と久恵ちゃんで押さえている間に、加奈子にひとっ走りしてもらって、教員用の予備水着を借りてきてもらったのよ!
でもって、抵抗するマチュアを三人がかりでようやく着替えさせた直後、物凄い剣幕で飛び出すし、何事かと思って追ってみればコレじゃない。そりゃ文句の一つも言いたくなるわよ!」
美希姉以外のいつものメンバーが来てないと思ったら、それが理由か…。
確かに、そんなアホな事で時間を取った挙句、心配して追ってみれば大した理由ではなかった…そりゃあ誰だって文句を言いたくなるわな。
まったく、今までの“PCから動けない”という状態から解き放たれた反動か、ボディを得てからのマチュアは積極的に過ぎるな。
そういえば、テロ騒動の直後に交わされたという“俺orノーマンを狙う女子同士の条約”の内容が、一部変更されたとマチュア・コピーが報告していたが…、今日の莉穂姉や滝川の食い下がり方、マチュアの攻め過ぎな水着はそれに起因しているのか?
それに、篠山ねーちんとマージちゃんの積極性……は、よく考えたら今までと変わってないな。だが、マージちゃんが俺に向けてくる敵意が無いというのは…、やはり条約の変更によるものだろうか。
「それによ! マチュアって機械よね?! だってのに、なんで下半身までリアルに再現されてるのよ! 久恵ちゃんも私も、脱がせたり着せたりするときに大変な思いをしたんだからね! この責任、どう取ってくれるのよ!?」
思い出したマジカルゆかりんが、顔をほんのり赤くして怒鳴る。
その横に居る妹尾に至っては、耳まで真っ赤になりながら顔を抑えてしゃがみこんでしまっていた。
…ごめんね。その姿が妙に可愛らしくて、なでなでしたいとか思っちゃってごめんね。妹尾は是非とも初心なままでいて。
それと関口、頬を染めながら困った子をみるような目で非難してくるのやめて。優等生然としたお前さんに疑われると、結構キツイから。
「いや…いやいやいやいや! ボディに関しては俺はノータッチだし! それに、GW中に行った研究所でも、『いつの間にそんなものを装備したんだよ!』みたいに驚いてたのを、マジカルゆかりんも見てただろ?! 確かに、見た目に関してだけなら、『金髪碧眼の小麦色の肌をした、海外のデキるお姉さん』風が良いとは言ったけど…」
「けど…、肝心の中身がコレじゃあなぁ」と言うように、胡乱な表情でマチュアを見る。
当の本人はというと、「うふっ♪」とでも言いたげに腰を横に突き出してポーズを決めており、ウィンクと共に投げキスをしていた。
いやまぁ、似合ってるし様になってるとも思うんだが、こうも『見た目はセクシー美女、中身は耳年増な子供』だと、残念感しか……あれ? でも、エロ同人にしたらそこそこ売れそうじゃね?
「でも、性格とか知識とか色々と調整していったのには関わってたわけよね! だから謝りなさい! 私達の手を煩わさせた事を謝りなさい!」
「…はい。その点に関しては、深く、深くお詫びいたします。ごめんなさい。そんな残念な子にしちゃって、本っ当にごめんなさい」
莉穂姉と滝川の谷間に埋もれさせたままの腕を解き、マジカルゆかりん達に向き直りながら素直に頭を下げる。
言い出しっぺのマジカルゆかりんも、恥ずかしさを誤魔化したかっただけなのか、素直に謝った俺を見てビックリしたようだ。横に居る妹尾も、そのやや後ろに居た関口も同様に驚いている雰囲気が伝わってくる。
…が、マチュアだけは目を光らせていたようで、俺が頭を下げたのを見計らい、10m弱の距離を一気に縮めてきた。そのまま俺に抱き着いて、押し倒す算段なのだろう。
しかし、俺も素直に謝るためだけに頭を下げたんじゃあない。俺の娘が迷惑を掛けたという純粋な謝罪の意味も含まれているが、それと併せてマチュアにお仕置きをする目的もあったのだ。
俺が少しでも莉穂姉達と離れれば、確実にマチュアは飛び込んでくる…初めからそう踏んでいたし、実際にヤツは罠にかかったわけだ。
「マチュア、行きま~す♪」
「ふっ…計画通り」
マチュアが飛びついて抱き着く寸前、一気にしゃがみこみマチュアの臍の下あたりに手の平を添え、もう一方の手で首元を抑える。
驚愕の表情で俺を見下ろしすマチュアと一瞬だけ目が合う。「え? まさか、そんな酷い事しないよね? ね?」と言いたそうな目をしてくるが、俺は首を横に振って「お前はお巫山戯が過ぎた」と強固な姿勢を貫く。
「少し、頭を冷やして…こいっ!」
「いやあああぁぁぁぁぁ……」
しゃがんでいた姿勢から立ち上がる時の力と、魔力による身体強化も上乗せした渾身のぶん投げを実行してやった。
徐々に遠のく悲鳴と、“バッシャーン!”という豪快な着水音が無情に響き渡る。
不人気魔法として名高い視覚目盛魔法を久々に使い、現在地と着水点との距離を測ってみると、何と102mもすっ飛ばしていた。
どうやら、遠心力もない状態で、ハンマー投げの世界記録よりも遠くに飛ばしてしまったようだ。
「また…、つまらぬものを投げてしまった」
「なぁ、BB。五右衛門のマネしてるところ悪いけど、いいのかアレ?」
さっきまでギャラリーとして関与してこなかったノーマンのやつが、いつの間にか横に来てマチュアの心配をしていた。…篠山ねーちんとマージちゃんを連れて。
改めて見ると、コイツの今の状況って青年雑誌の裏側に載ってる広告みたいだな。腕に美女をはべらせてるあたりが特に。
「大丈夫だろ。プールに沈めたりして耐水性能試験もクリアしてるし、海水だからって壊れるような軟な仕様してないって、マチュアは」
「あ~…いや、そうじゃなくてだな」
なんだろう、ノーマンにしてはやけに歯切れが悪い。
「あそこに浮いてるの、マチュアが着てたスク水じゃね?」
「全然大丈夫じゃなかったあああああ!」
▲▽△▼△▽▲
「うふふ…ほぅら、私を捕まえてごらんなさ~い♪」
「あはは~♪ 待ちやがれこの阿呆~♪ さっさと水着を着ないと、二度とボディを使えなくしちゃうぞ~♪」
「あんっ♪ それ困るぅ~♪」
BBがマチュアを投げ飛ばしてからおよそ3分後、『ビーナスの誕生』よろしくマチュアが局部を隠しながら浜辺まで戻ってきていた。どうやら、水に浮き辛い事を利用して海底を歩いてきたらしい。
そして、その背後には白スク水を片手に持ったBBが鬼気迫る勢いでクロールをし、マチュアに近づいている。
それを見たマチュアが、何かを閃いたかのように軽やかに走りだし、意図を察したBBがこめかみに青筋を浮かべながら追い駆けた。上のやり取りは、その際の会話だ。
まるでAV撮影の様な風景だが、BBはこの暴挙を止める側であり、全裸で居る事を所望しているのが女性側という極めて頭のおかしな状況だ。扇情的な姿なのに、コミカルな雰囲気があるせいで笑いがこみあげてくる。
「おいっ! ノーマンもニヤニヤしてないで、ちったあ手伝ってくれよ!」
「え~…め~ん~ど~い~」
俺が楽しんで眺めていると、BBが割と必死な感じでヘルプ申請をしてきた。もちろん、却下だ。
このくらい、BBなら簡単に御せるはずなのだから、俺が力技で解決するだなんてつまらない。
「おまっ! これ以上に面倒そうな、紛争地帯の制圧作戦を軽々しくこなしてたくせにっ!」
「BB、俺に構ってていいのか? マチュアと距離が離れる一方だぞ~?」
「チクショウめぇえええ!」
尚、マチュアの足元の海水を氷結魔法で凍らせて動けなくすれば良いという事にBBが気付いたのは、それから1分ほど追い駆けっこをしたあとになる。
BBは、使い勝手の良い魔導具開発をするとなると物凄い速さで解決する癖に、こういった事ではドジッ子キャラになるよな。まぁ、そこが見ていて飽きないのだが。
ちなみに、マチュアに無事スク水を着せたあと、莉穂姉、奈津美、マチュアの三人から詰め寄られてアタフタするBBを横目で楽しみながら、俺とマージ、楓の三人は割と平和に海水浴を楽しんだ。
嗚呼、この平和にボケっとする感じ、やはり良い。
紛争地帯で人助けしつつ暴れまわるのも、あれはあれで面白いが、気を張らずに楽しめるというのは良い。
頼むから、今日みたいにダラダラできる日に襲撃に来ないでくれよ、ラスト・ワンの残党共。俺はまだまだ遊んでいたいのだからな。
…なんて考えていたからなのか、はたまた俺の普段の行いが良いからなのか、海開き1日目は恙なく過ごすことができた。…BB以外は。
「うぅ…今日は身も心もクタクタだぁ…。明日、絶対に筋肉痛に苛まれそう…」
晩飯を食べ、最上階の大浴場でたっぷりとリラックスして部屋に戻ってくるなり、リビング兼ダイニングのテーブルに突っ伏したBBがぼやいた。
「いい運動になって良かったじゃんか。今度の日曜にやる体育祭に向けての筋トレと思えばいいんじゃね?」
「そりゃそうかもしれないけどさ…。なんだって今日は、皆してあんなにも積極的に詰め寄ってくるかなぁ…」
「さぁ…。なんでだろうな?」
…とかすっとぼけてやったが、何となく理由はわかる。
おそらくだが、皆が気付いちゃっただけなんじゃねぇかな。BBを弄った時の反応を見るのが面白いって事に…。
BB本人は気付いてないようだけど、くるくると表情が変わってくれるから見ていて飽きないんだよな。
ま、当分は教えてやらないけどね。だって、楽しみが減っちまうから。
そういう訳だから、今後とも宜しくな、BB。明日も楽しもうぜ。




