第03話 - 水着解禁
今回は金曜日投稿に間に合った…。
─ 2012年6月4日(月) ─
暦の上では初夏という話だが、絶対ウソだろと疑いたくなるほど涼しい時期の朝。
俺ら高等部の学生は今、校舎南にある浜辺、文字通り学園のプライベートビーチに立っていた。
4月末の土曜日、テロ組織ラスト・ワンの送り込んできた尖兵を引き渡すため、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇が上陸した浜辺だ。
さて、朝っぱらから高等部の学生全員がそんな場所に立っている目的は何か?
浜辺に打ち上げられたゴミを拾うため? …否。
ビーチランニングして体力と脚力を鍛えるため? …否。
答えは海開きだ。
公共の海水浴場であれば、来月の中旬頃からになるはずの海開きだが、BBの話によると籠月学園では毎年この時期からになるそうだ。
その理由は割と単純で、中間考査の採点を行う教師のお姉さま方のために、学園側が採点期間として月・火の二日間は授業を行わないという方針を取っているかららしい。自転車操業に陥りやすい教師への配慮と言うやつだろう。
かといって、学生らに暇を与えてしまっては学び舎としての体裁が悪い…という事で、体育の一環として海開きを行い、プライベートビーチでの遊泳を解禁している訳だ。
まだ海水だって冷たいだろうに…とか思わないでもなかったが、その辺はさすが魔女見習いの学園。熱湯にならない程度に火炎魔法を打ち込み、適温を作り出していた。
「何にせよ、生徒に時間を与えて文字通り泳がせているわけだな。海水浴なだけに! ドヤァ」
「いきなり何くだらねぇ事言ってるんだ、お前は…。つか、効果音を口で言ってるし…」
横に居るBBが、ジト目でツッコミを入れてくる。
イイ。実にイイぞぉ。
紛争地帯ではカメラ越しのやり取りにしかならないから、こうしてダイレクトにアホな会話を楽しむ機会が少なかったからな。
昨日、一昨日とBBが暴走してたせいで俺がツッコミ役になってたし、イマイチ落ち着かなかったんだ。
「フフフ…。良いではないか。こうして、若い男二人が露出したサイコフレームを晒しあっているんだ。そりゃもう、テンションに任せて変な事をイッちゃうってもんよ」
「露出したサイコフレームって何さ!? 水着に着替えたから、単に肌を出させてるってだけだろが! そんな事を言い出したら、周りに居る女子だって軒並みサイコフレーム露出してるじゃねぇか! あと、意味深な言い回し使うの禁止! …ああもう! まぁた黒薔薇三連星が俺達をらんらんとした目で見てるしっ!」
「何言ってるんだ、BB。女子が露出させてるのは南半球か北半球、或いはその両方だろ?」
「南半球? 北半球? お前は本当に何を──」
言っている途中で何かに思い至ったのか、BBの言葉が一瞬途切れた。
そして、疑問が解けたのか、BBがキラキラした表情を俺に向けてくる。
「──なるほど…女子の二連フロートを地球に見立てたのか! ちょっと今、ノーマンが天才なんじゃないかと思ってしまったぞ。割とマジで」
「いや、俺もグレッグから教えてもらった単語を使っただけだからな。勘違いすんなよ?」
俺の監視役として、BBが俺に寄越した兵士仲間の顔を思い出す。
会うたびに着ているTシャツの文字が違うという、ジャパニメーション好きのアメリカ人だ。初めて会った時は『兄×弟』と書かれたTシャツを着ていたっけな。
当初は腐男子かと思っていたのだが、翌日には『姉×妹』というやつに変わっていたので、単に意味も分からず着ているだけだとすぐに気付いたが。
…とか思い出していると、BBの背後からすごい速さで駆けつけてくる女子を捕捉。
「BB、バックアタックが来るぞ」
「渉~!」
「へ? …ぬっはぁ」
おっと、残念。回避は間に合わなかったかー(棒)
でもま、両者共に幸せそうだしいいか。
……また禁断症状をだされても、面倒なだけだしな。
▲▽△▼△▽▲
ノーマンからの助言も虚しく、俺は背後からの奇襲を許してしまっていた。
突然の衝撃に体が前のめりになってしまうが、何一つ後悔なんかしていない。
何故なら、俺の背後から抱き着いてきた人物は、何を隠そう我が義姉の莉穂姉に他ならなかったからだ。
この俺の両頬を包み込んでくるたわわな何か、そして莉穂姉の匂いと頭上から聞こえる囁き声。
この一ヵ月ちょっとの間、おあずけを食らった状態になり、昨日、一昨日に至っては身体の底から溢れる熱いパトスに流されてしまい、ついつい暴走する原因となった莉穂姉成分が今、俺を包み込み満たしてくれている!
……あ。ヤバイ。このままだと俺、前のめりの状態から直立できなくなっちゃうかもしれない。
うん、コレちょっと危険だ。体育座りして莉穂姉を堪能しつつ、冷静になろう。
「よいしょ…と。……ふぅ…、危なかった」
「あ…ごめんね、渉。急に後ろから抱き着いちゃったから…」
「ううん! 全ッ然ッ! 『危なかった』って言ったのはそういうんじゃないから! だから、離れなくてもいいよ! むしろ、もっと目一杯抱き着いてくれても構わないレベル!」
「…ああっ!! やっぱり……完全に出遅れた!!」
久々にめいっぱい莉穂姉とキャッキャウフフしているというのに、横から酷く落胆した感じの絶叫が聞こえてきた。
声で滝川だという事は分かっていたが、念のためそちらを確認してみる。……莉穂姉の北半球が、視界の下半分を覆っているせいで、打ちひしがれている滝川の頭しか見えなかった。
うむ。デカイ。
「|まぁ、そう落ち込むなよ《むぁ、ふぉうほひほむまお》」
「…ひゃん♪」
あかん。顔が莉穂姉の胸部装甲に押されるせいで、ちゃんとした発音ができない。
あと、折角俺の興奮度が落ち着いてきてたのに、莉穂姉が可愛らしい悲鳴を出すもんだから、ちょっと海パンの中が膨張しかけたよ、今。…原因作ったの、俺だけど。
「うふっ…渉ったら、皆の前なのに大胆♪ でも、お姉ちゃんちょっと嬉しい♪」
「いや莉穂姉、今のはそんなつもりじゃなくてね。…それと、そんな甘い声で囁いてくるの反則だから…勘弁して…」
今度は顔を正面に戻してから口を開いたので、問題なく喋れた。…が、莉穂姉の追い打ちウィスパーのせいで、俺の精神はボロボロだ。
後半部分は体に力を入れながら煩悩退散させてたせいで、押し殺すような声になっちゃったし。
「おやおやぁ? BB、もしかして起っきしちゃった?」
「うっせ、ノーマン! バーカバーカ! …って、そう言うお前は、なんでそんな状態で平気なんだよ?」
からかってくるノーマンに、我ながら「小学生みたいなキレ方だな」と思いつつ、膝に顔を埋めたまま睨みつける。そして、その時になってようやくノーマンの両脇にマージちゃんと篠山ねーちんが居る事に気付いた。
篠山ねーちんが抱き着いている方は、辛うじて胸部装甲ではさみきれなかったノーマンの腕部分が見えている。
だが、マージちゃんが抱き着いている方は、完全に埋もれていたのだ。腕どころか、脇腹の一部まですっぽりと。「なんだ…この、エロゲーのスチル絵みたいな光景はっ…?!」これが、ノーマンを視界に収めた時の俺の心境である。
ちなみに、俺の背後から抱き着いている莉穂姉も戦慄を覚えたらしく、一瞬体が強張ったのを背中を通して感じられた。
でもおっぱいは柔らかいままだったので素晴らしかったです……ハッ、何を考えているんだ俺はっ?!
いや、そんな事よりもノーマンだ。ノーマンが平静で居られるのが凄いんだ。そのエロい状況に於いて平然として居られる精神、そこに痺れる憧れるぅ。
「フッ…下田駅周辺を散策している最中、頬を赤らめて内股をモジモジさせながら抱き着いてくるマージを数日間見ていたんだぞ? 例え露出の多いビキニ姿で抱き着いてきたとて、平然としているマージが相手ならば恐るるに足らずっ!」
「あぁ、そういやテロ騒動の際にそんな事言ってたっけな。……ところで、なんで後半そんなに武士っぽいの?」
「ん~…なんとなくノリで? ……で、どう? 今ので落ち着いた? 起っきできる? あ、股間じゃなくて身体の方ね」
「分かっとるわい! でも…うん、おかげさまで問題ない」
いつもの調子でアホなやり取りをしたおかげか、幾分かクールダウンできていた。
それにしても、コイツの場合は素でからかってきているのか、今回みたいに俺を助けるために敢えて道化を演じているのか分からなくなるな。
「フッ…俺に突っ込んで欲望を霧散させるBBか…。こうして纏めると、薄い本が厚くなるな!」
「「「ホモォ…ッ!」」」
俺達の声がギリギリ届くくらいの範囲から監視していた黒薔薇三連星が、変な断末魔の声を上げながら鼻血を吹いて倒れた。
ノーマンが来てからというもの、視界の隅っこの方で奇行の目立つ集団と化していた彼女達だが、こうして鼻血を吹いてぶっ倒れるのは今回が初めてである。
おかげで、さっきまでのように興奮してハァハァする程度であれば、他の生徒達も慣れたもので奇異の目を向けないようになっていた……のだが、さすがに今回はあたふたしていた。
それにしてもこの三人、見た目だけなら黒髪ロングの清楚なお嬢様なので、火照った顔で倒れていると妙に色っぽい。…まぁ、鼻血のせいで残念且つ、やや凄惨な絵面になっているが。
「…ったくもう、コイツ! 最後の最後に、余計な燃料投下しやがって! 裏で変な同人誌が発行されてたらどうする気だよっ!」
「笑えば良いと思うよ」
「なに朗らかな笑顔で言い出してんだお前は! 何でもかんでもそのネタで許されると思うなよ、こんちくしょう! いい加減にしないと、そのサングラスを指紋だらけにすっからな!」
ちなみに、今までノーマンがBLちっくな事を言い出す度に俺を睨みつけていたマージちゃんは、どういうわけか昨日あたりから、菩薩の様な朗らかな顔で俺達のやりとりを見守るようになっていた。
…俺とノーマンの関係にいかがわしいものが無いという事を理解してくれたのか、はたまた黒薔薇三連星に感化されて目覚めてしまったのか……後者はマジで勘弁して欲しいなぁ。
まぁ、何にせよ、変なヘイトが溜まらなくなったのはありがたい事なのだが…。
尚、篠山ねーちんの方は昔から俺とノーマンのやり取りを見慣れていたおかげか、目下の所マージちゃんへの対抗心しかないようなので、俺としては助かっている。…これで篠山ねーちんにまで疑惑の眼差しを向けられていたら、流石の俺も泣いていたかもしれない。
…などと考えていると、不意に背中に貼り付いていた莉穂姉の感触が離れ、左腕が莉穂姉の胸部装甲に包まれた。
そして、さっきまで打ちひしがれていた滝川も突然立ち上がり、俺の右腕を胸部装甲で包んでくる。
……やだ何このハニートラップ。折角落ち着いてきた俺の血流が、また大変な事になりそうだよ?
「「ねぇ、渉。もし本当に我慢できなくなったら、私が相手をするからね! 同じ部屋に居るからって、ノーマンなんかに手を出しちゃだめよっ!」」
「出さないよ?! 二人して何言ってんのっ!?」
ツッコミを入れたおかげで俺の下半身は落ち着けたのだが、二人の発言を聞いていたギャラリー達が落ち着いてくれなかった。
俺達の事はいいから、誰か早く黒薔薇三連星を保健室に連れて行ってやれって…。このままだと、三人とも表面だけが日焼けする羽目になるぞ。




