第01話 - 胸騒ぎの中間考査
第三章スタートです。
─ 2012年5月29日(月) ─
師匠の目指す世界平和実現のために籠月学園が用意され、アフターケア要因として俺とノーマンが造られたという事実を知ってから約一ヵ月。今日から中間考査が始まるという日に、俺は朝から頭を悩ませていた。
別に、試験勉強に不安があるという訳ではない。
俺の場合、師匠の粋な計らいによって、生まれたときから教科書に載っているような知識は植え込まれていたので、常に脳内カンニング状態で解答できるのだ。故に、余程ひねくれた問題が出ない限り、どの教科も満点である。
GWが終わってからは、ノーマンとマージちゃんにガッツリ勉強を教えていたのだが、ノーマンも師匠製の人造人間なだけあって物覚えが良く、あっという間に試験範囲を丸暗記してしまった。
そもそも、俺と同じく生まれた時から色々と知識は入れられていたはずなのに、なんで改めて俺が教えてやらないとダメなのか…と疑問ではあったので、先日の師匠との再会の際に世間話がてら聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「だって渉の場合、身体能力は俊之より明らかに下で、神力精製量も俊之の方が頭一つ分上。対して、魔力保有量は渉がちょっと多い程度だろ?
これで俊之が勉強まで出来る…なんてパーフェクト超人設定にしちゃったら、渉の存在意義なんて魔導具作成だけになっちゃうじゃない。だから、俊之の方はちょっとおバカ風味に調整して、渉が手綱を握れるようにしといたんだ。
まぁ、俊之が暴走しないようにするための抑止力的なポジションに采配したわけだよ。こう…二人で一人の仮面ライダー的な?」
まったくもって微妙な気の使われっぷりである。
それを聞いたノーマンは、「つまり、俺とBBは相性がイイってことなんだな!」と若干楽しげに言っていたのだが、バイを目指しているコイツが言うと意味深に聞こえてくるから怖い。
言っておくが、俺はこんな、年中サングラス掛けている短髪オールバックの和製ターミネーターみたいな風貌の輩なんぞと、「アッー!」な関係になんてなりたくはない。
…というか、そもそも俺はノンケであって、基本的に莉穂姉以外は恋愛対象外なのだ。
そう、俺は重度の姉好きというだけで、恋愛に関してはノーマルなのだから……いや、世間的に見たらアブノーマルっていう分類にはなるか。
まぁ、そんなことは置いといて、次にマージちゃんである。
彼女の記憶力もすさまじく、ノーマンと一緒に教科書の基礎と応用を教えるだけで理数系は難なく溶ける様になった。
英語と国語については、軍の前線部隊に居る時に、俺が送った魔導具によって日常会話を支障なく行えるレベルになっていたので教科書の範囲を教えてやるだけで済んだし、社会系の暗記科目もノーマンと同じくあっという間に丸暗記してくれた。
学園に来る前、中学から高校にかけて習う範囲の教科書を覚えろと伝えたものの、二人してたった一週間程度でそれらの範囲を記憶した…という話は伊達ではなかったという事だ。
顔も雪華綺晶のコスプレが似合いそうなくらい整った美少女で、超巨乳でくびれもはっきりしていて、運動もノーマンの本気に付いて行けるほどできて、その上獣っ娘ときたもんだ。
それでいて勉強までそつなくこなせるなんて、マージちゃん…恐ろしい子。
でも、この子も師匠に遺伝子改造されているから、この辺は師匠の計らいによる能力の一つなのかもしれないな。
さて、そんな中において、一体何が俺の頭を悩ませているかと言うと──
[デュフフ…。伊藤きゅんがノーマン氏に勉強を教えていたとか……ふぅ…捗るわ~]
[一体、ナニを教えていたのか、ロマンティックが止まらない!]
[これは野間×伊藤の関係が、伊藤×野間になる時が?! リバは邪道とか思っていたけど、それはそれでイイかもと思ってしまう俺ガイル]
[……ちょっと、黒薔薇三連星。精神感応魔法で会話するなら、俺に意識を向けるの止めてくれませんかね? 俺にまで駄々漏れするから困るんだが…]
[[[やーね、聞かせてんのよ]]]
[やだ。何この嬉しくない“当ててるのよ”的な返し]
──この腐女子連中の逞しい妄想精神感応魔法が原因である。
まったく、試験前の教室内って、普通だったらもっとこう「きゃ~。今回の試験、自信ないよ~」とか「私、この教科がまだちょっと不安なんだよね~」とか、そういった少しそわそわした雰囲気になるものだろうに、なんでこの娘達は俺とノーマンを題材に興奮しているんだよ。「いいから試験に集中せい!」と言いたい。
まぁ、精神感応魔法で苦言を言っても聞きそうにないから、溜息をつくしかないわけだが…。
はぁ…。どうせなら、制約魔法の魔導具で魔法使用を制限する対象に、“負の感情”だけでなく“腐の感情”も含めて欲しかったと思う今日この頃である。
[もしかして、“腐の感情”を制限に入れなかったのは、師匠が腐男子だったからでは!? …という可能性が微レ存]
[ノーマン、俺のモノローグを勝手に読むな。…あと、俺と同じく重度の姉好きである師匠が、腐男子なはずがないだろうが]
GWの修行から戻ったあと、女子勢の激しい(質問)責めを食らいまくった俺は、由子お姉ちゃんの考えていた魔法授業の方針を聞かされていたためにフル構築の魔法式を暴露した。
どうせ、フル構築の魔法式を使いこなせるようになるのはごく一部だろう…などと高を括っていたのだが、美への飽くなき探求心からか、僅か三週間の間に籠月学園の関係者全員が使いこなせるようになってしまったとの事。
もちろん、一番練習された魔法は老化抑制魔法だったようだが、フル構築を一度物にしてしまえば応用は容易なため、簡易魔法式でも構築がやや面倒とされる精神感応魔法すら使える様になった生徒も数多くなってきた。
この精神感応魔法の魔法式の出どころはというと、元ツルペタ幼女体型金髪ツインテールで、現グラマラスボディ金髪ツインテールに大変身したマジカルゆかりんであった。
先月のテロリスト襲撃の際に、2-Bの生徒の前でマジカルゆかりんと精神感応魔法でやり取りしていた事を俺が暴露してしまったのが原因だったので、今の状況に関しては自業自得として甘んじて受け入れるしかないだろう。
だがまさか、ノーマンまで使えるようになっていたとは思わなかった。
そして、俺を悩ませている問題がもう一つ。それは、昨晩報告された沖中将からの連絡である。
昨日、成田空港で挙動不審な人物を警備員が発見。質問しようとした所、大慌てで走りだし、袋小路に繋がる通路へ逃げ込んだらしい。
慌てて警備員が追い駆けた時には、その人物は忽然と姿を消していたとの事だ。
通路を曲がってから警備員が追いつくまでは10秒足らずで、その間に姿を隠せるような場所は全くなかった。
警察が事情聴取と共に監視カメラの映像を確認したところ、袋小路の通路に来た瞬間にその人物がベルトを弄りだし、突然監視カメラから姿を消すまでが映っていたそうだ。
…間違いなく、先月襲撃してきたテロ組織ラスト・ワンの構成員の一人である。
学園に襲撃してきた際、ラスト・ワンの構成員30名が装備していたベルトが、姿を見えなくする魔法陣の刻まれたベルトだったのだ。
今回報告のあった人物というのも、おそらくそれを使ったのだろう。
もう暫く大人しくしていてくれるかと思ったが、意外と次の動きまでが早かった。
頼むから、中間考査中に襲撃してくるなんて事はしないでくれよ…というのが正直な感想だ。
まぁ、彼らの目的地は籠月学園なわけだし、他の施設に被害をかけるといった事もないだろうというのがせめてもの救いか。
幼馴染達だって修行で強くなったし、そのおかげで、計らずも学園関係者全員が魔法の扱いが上手くなるという結果にまで繋がっている。
ノーマンとマージちゃんだけでもオーバーキル気味なのに、そんな中に飛び込んでくるなんて自殺行為も甚だしいというやつだ。
……あれ? よく考えたら悩む点なんて無かったわ、コレ。
「は~い。それじゃあ皆、教科書等は鞄の中にしまってね~。携帯電話やスマートフォンもよ~。
……うん。皆、しまってくれたみたいね。それじゃあ、プリント配るわね~」
いつの間にか、担任の仁科先生が教壇に立っていた。
時計を見れば、試験開始まであと5分を切っている。
思っていた以上に色々と考え込んでいたようだ。
プリントが全員に配られてから暫くしてチャイムが鳴り、仁科先生の号令と共に皆が一斉にプリントをひっくり返す。
[[[ああぁぁぁ…。伊藤君の答えを精神感応魔法で探ろうと思っていたのに、制約魔法のせいで魔法が発動できない!]]]
試験開始後しばらくして、黒薔薇三連星の愕然とした精神感応魔法が届いてきた。
…試験前なのにずいぶん余裕だなとは思っていたが、キミ達カンニングする気だったんだね。
その後、黒薔薇三連星は軒並み平均点以下を叩き出してしまったらしく、妄想垂れ流しの精神感応魔法を自重するようになってくれたのだった。
尚、俺、ノーマン、マージちゃんの三人は学年一位を叩き出し、ノーマンとマージちゃんは改めて注目の的になっていた。
中間考査…何もかもみな懐かしい。




