第22話 - エピローグ
─ 2012年5月3日(木・祝) ─
渉達が研究所で誕生日を祝っていた頃、遥か西の国の地下深くでその映像を確認している人物がいた。
テロ組織ラスト・ワンの教祖、アリサその人である。
現在、世界連合防衛軍からは、その名の通りラスト・ワンのテロ組織として最も危険視されている組織の教祖とされる人物だか、アリサ自身は「さっさとこの茶番を終わらせたい」と頭を抱えていた。
何故なら、本来の予定では、先日の籠月学園襲撃で目的を達成させることができていたはずだからだ。
その為に、今は異世界に行ってしまった渉達の師匠にして生みの親──伊藤歩が残してくれた魔導ステルス式の潜水艇まで準備していたのだから…。
暫くするとアリサのサークレットから光が消え、彼女の脳内に直接映し出されていた映像が霧散してく。
「はぁ…。歩君…あなたの言う通り、他の移動手段を予備として用意しておくんだったわね…」
そう独りごちながら、アルバムから取り出した歩の写真をなぞる。
アルバムには、アリサと歩が初めて出会った時から約60年分の写真が収められている。
二人が会う場合、そのどれもが「記念」と言えるような状況ではない。あくまで記録として年に2~3枚残す程度のため、やや大きめのアルバム一冊だけで事足りる量である。
ただし、そのどれもがカラー写真であり、歩達が時代にそぐわないオーバーテクノロジーを有していたことを示唆していた。
「それに、実験体の子の魔法陣がバレて消されちゃったから、歩君が残してくれた監視システムだけが頼りになっちゃった。こういった次善の策を準備しておいてくれる所とか流石よね…」
「さてと」と椅子から立ち上がると、エジプト女王風のシックなドレスを妖艶に揺らしながら室内に備えられている机へと歩み寄る。
そして机に手を翳し、歩と共に創り出した魔法式を起動させると、机の表面に様々な画面が表示され始めた。
液晶画面のようになった表面に指を這わせるアリサ。
タッチパネルの要領で操作していき、目的のファイルを見つけ表示させる。
「もう今年の“ワルプルギスの夜”は逃したし、来年に向けて徐々に信者を送り出して倒してもらうようにしなくちゃね。
となると、自然に外部の人間が入り込める学園の催し物の時が最も効果的だから……一番近くだと6月の体育祭が狙い目ね…」
アリサが今見ているのは、籠月学園のクラウドに保存されている2012年度の予定表だ。
これは先ほどアリサに「監視システム」と呼ばれたものの一つで、『僕が居なくなったあと、ラスト・ワンの行動を決める際に使って欲しい』と、歩が準備していた籠月学園専用の閲覧ツールである。
キーとなる魔法式を発動させる事で、機械操作に不慣れなアリサでも自分が行いたいもの、探しているものを容易に見つけられるようサポートしてくれる。
現在も学園で常時稼働中のマチュアのコピーAIでも、逆ハッキングが困難になる阻害術式が組まれているため、何者かがアクセスしてきたという事は確認できても、どこからのアクセスであるかまでは特定できないようになっている。
「あとは、11月頭にある文化祭……修学旅行は、学園内じゃないからダメね。…ん~、体育祭は少な目の人数を送り出して軽く牽制して、本命は文化祭の3日間ってとこかしら。
残った人数は、来年の“ワルプルギスの夜”で仕上げとして倒してもらえば……うん。いけそうだわ! 今残ってるのが42人だから、体育祭に5~6人、文化祭期間に25人くらい送り込んで…来年4月の儀式に、私を含めた残り十数人で行く…と。うん、そうしましょう」
独り言を呟きながら考えをまとめ終えたアリサは、机に発動させていた魔法式を解除すると威厳に満ちた表情を作り、彼女の私室をあとにした。
そして、70人以上が集まれるほど大きく、厳かな雰囲気を漂わせている教祖の間に移動すると──
「(今現在パスポートを持っている信者が居たら、ここに連れて来なさい)」
──常駐していた信者にそう命令をしたのだった。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年5月5日(土) ─
警備員棟で、警備員のお姉さん方に説明すること20分。
寮まで戻る間に、帰省から戻ったクラスメイトや学園生から質問攻めに会うこと15分。
普通に移動するだけなら、10分もあれば余裕で寮まで戻れるというのに、今日に限っては軽く30分以上かかってしまっている。
その原因は言わずもがな、一週間足らずで体型が真逆になってしまった美希姉とマジカルゆかりんである。
「うわぁ~。姉崎先輩、可愛い…。お人形さんみたい」
「菜月さん羨ましいな~。ねぇねぇ、どうしていきなりそんな“ボンッキュッボンッ!”になっちゃったの? ねぇ、一体どんな魔法使ったの?」
「渉君にこうしてもらったって聞いたよ。ねぇ、渉君。私にも教えてよ~! グラマーな体になってみたいのよ~」
……とまぁ、ずっとこんな調子で囲まれ。
人の塊が出来るせいで更に人目を惹き、塊が大きくなりそれに対応するように移動速度も遅くなっていき、時間が掛かっているという訳である。
「伊藤君? 私も老化抑制魔法は知ってるわよ? ここの卒業生ですもの。えぇ、知っていますよ? …でもね。ここまで劇的な変化は、いまだかつて体験したことも無ければ、聞いたことも無いのよ。さぁ、仁科恭子が教師として命じる! さっさとこの魔法式を共有し、私の美魔女生活を安泰とせよっ!」
そう、老化抑制魔法は、籠月学園の高等部もしくは大学を卒業した際に、美肌と若さを保ちたい…という女性の願望を叶える魔法として魔法式を公開しているのだ。
下手に学生時代に教えてしまうと、試験勉強や魔法試験をそっちのけで老化抑制魔法の研究に費やしてしまう生徒がいるかもしれない…という懸念からである。
現に、こうして効果を知っている人なんかは、より一層若さを保ちたいと──
「──あれっ?! …仁科先生いつの間に?! ってか、キャラ壊れてますから落ち着いてくださいマジで! 何に反逆するつもりですか!」
「もちろん、寄る年波に反逆するつもりよっ!」
「言い切った!? 実に正直で、好感が持てるレベルで言い切っちゃったよ、この人! …いやでも、仁科先生まだ26でしょ? 慌てる必要なんてないと思うんですけど?」
「何言ってるの?! 姉崎さんなんてまだ二十歳そこそこじゃない! そんな彼女に教える事が出来て、私に教えられない理由があるとでも言うのかしら?!」
「……おっしゃる通りで」
まぁ、由子お姉ちゃんも「フル構築の魔法式及び、ルーン文字を使った魔法式を正式に魔法研究学に取り入れる」って言ってたし、今後もちょっかいを掛けてくるだろうラスト・ワン対策の役にも立ちそうだから、教えてもいいか。
若干フライング気味になるってだけだもんな…。
警備員棟のお姉さん方はあっさり引き下がってたけど、ついでだし学園関係者にはあとで共有しておこう。…皆、どれくらいの期間でものにできるか、その辺を調べるのも面白そうだしな。
そう、この時の俺は、「まぁ、月末には中間考査も始まるし、なんだかんだでフル構築の魔法式を使うと若干魔力消費も激しいから、使いこなせるようになるのは半年後くらいかな」なんて甘い事を考えていたのだ。
莉穂姉をはじめとした幼馴染ズや、由子お姉ちゃんなどの魔力保有量が600を余裕で超えている人が例外なだけで、他の生徒は苦戦するだろう…そんな風に考えていた時期、俺にもありました。
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─ 2012年5月26日(土) ─
それは、中間考査を二日後に控えた土曜日の放課後の事である。
「「「渉君、ありがとう」」」
「…へっ?」
白百合三姉妹が突然現れ、お礼を言い出したのだ。
当たり前の事だが、お礼を言われるような事をした覚えは一切ない。
尚、白百合三姉妹とは言ったが、実の姉妹という訳ではない。
ホモォ…が大好きな黒薔薇三連星に対して、女性同士のキャッキャウフフ…が大好きな三人の集まりがあったので俺が勝手に命名しただけである。
隙あらば俺とノーマンのカップリング妄想を垂れ流す三連星よりも、この三姉妹の方が実害が無い分、変に構える必要もないので気が楽だ。
莉穂姉をベースに他の女生徒との妄想を膨らませるのは、正直いただけないのだが、まぁ…悪くないなと思ってしまう俺ガイル。
「いや…マジで、一体何に対してお礼を言われたのか分からないんだけど?」
「渉君がフル構築の魔法式を公開してくれたから、今や皆が老化抑制魔法と老化魔法を自在に使いこなせるようになったわ」
「そう。おかげで、色んな人がお色気ムンムンなお姉さまや、純真無垢な少女に変身して着せ替えごっこを楽しむようになった…」
「今までは、妄想の中で外見を弄って同人誌に起こしていたけど、今では実際に目に焼き付ける事が出来るようになったのよ!」
「「「だから、そのお礼を言いたかったの」」」
俺の疑問に対し三人が順に答え、最後にまた声を揃えてお礼と共に頭を下げてきた。
「へぇ…そうだったんだ? ここ最近、ノーマンとマージちゃんに中間考査用の対策を教えてたから、全然気付かな──ちょっと待って。今“皆”って言った? それって三人がよく妄想をしているお気に入りの女生徒“皆”って意味? それとも……」
「「「この学の園関係者“皆”」」」
「oh…」
『好きこそ物の上手なれ』そんな諺があったけな…などと考えつつ、俺は女子の『美への追及』というものを甘く見ていたと瞑目した。
まぁ、きっかけはともかく、これで皆は自分自身を護れるだけの実力を手に入れたわけだ。
いつラスト・ワンが攻めてきても、もう怖くない…って事で良しとすることにした。




