第21話 - 伏線を回収するだけの、簡単で面倒なお仕事です
ふと、「もうすこしキャラ性を練った上で、ドタバタ路線を濃くして一から書き直そうかな」と思った今日この頃…。
あ、次で第二章終わります。
─ 2012年5月1日(火) ─
「渉君! 起きて、大変なの! すぐに起きて!」
ドンドンとドアが叩かれ、意識がはっきりしてくる。
外から聞こえてくるのは、由子お姉ちゃんの切羽詰まった声だ。…が、少なくともここが敵襲にあったり、異常事態に陥ったわけでは無いだろう。
もし、そんな事態になっていたとしたら、真っ先に警報が鳴っている。
…それにしても、この研究所のドアはどこも軒並み金属製なんだが、手は痛くないのだろうか。
というか、今何時だ?
「5:15…。学園だったら、そろそろ皆が起き始める時間か。……はーい、由子お姉ちゃんちょっと待ってて。今開ける」
新幹線のドアが開く時の様な“プシュッ”という音とともにドアがスライドし、由子お姉ちゃんが姿を見せる。
そして、「おはよう」と声を掛けようとした瞬間、由子お姉ちゃんが抱き着いてきた……いや、正確には“押し倒してきた”と言うべきか。
まるで予想していなかった奇襲に踏ん張る事も出来ず、しこたま尻を打つ事になってしまった。
こういう時、ノーマンと違って自分の体の脆弱さを思い知るな。アイツだったら、この程度ではびくともしないだろうし、尻を打ったとしても痛がることも無いんだろう…ちくしょうめ。
いやまぁ、ノーマンが神力製リダクションアーマーを瞬時に展開するみたいに、俺も魔力で身体強化すれば痛い思いをしなくてすむんだが、どうにも平和な生活に慣れていたせいで反応が鈍いんだよな。
「…痛っつ……お、おはよう、由子お姉ちゃん。一体どうしたの?」
「どうしよう、渉君! 私……私、今日でついに28歳になっちゃったの!」
「……あ~…」
確かに、一昨日の午前中にそんな事を考えていたっけな。
三十路に近づくだけだから、祝った方が良いのか、そっとしておいた方が良いのか悩んだ末に先送りにしたやつだ。
さて、これといって誕生日プレゼントなんか用意してないし、「おめでとう」と言ったら言ったで不満を口にされそうな雰囲気である。
……ここは一つ──
「…はぁ、サプライズプレゼントって事にしたかったんだけど仕方ないか。実はね、日ごろから理事長として頑張ってる由子お姉ちゃんには、誕生日プレゼントの意味も込めて温泉巡りを堪能してもらおうかと画策してたんだ」
──俺らが考え付く修行を全て終わらせてしまった際の暇つぶし案“温泉巡り企画”を、誕生日プレゼントとして準備していたという大嘘で誤魔化すことにした。
▲▽△▼△▽▲
あのあと、皆と一緒に朝食を食べている時に「由子お姉ちゃんへのサプライズプレゼントとして、今日から皆で2泊3日の温泉巡りを企画したいと思います」と大々的に発表した。
女性陣がほとんどだったおかげか反対意見が出ることもなく、むしろ喜んでいたので助かった。…由子お姉ちゃん以外は。
どうやら由子お姉ちゃんの中では、俺と二人きりで温泉巡りをし、混浴があれば率先して俺を誘惑!……という考えだったらしい。
フッ…舐められたものだ。俺がそんなハニートラップに引っかかるような状況を作るわけないじゃないか。
プレゼントはする。すると言ったが“由子お姉ちゃんにだけ”とは言っていない!
監視者が増えれば互いが互いを牽制してくれるので、エロスな誘惑を仕掛けてくるのが難しくなるはずだ。
自分の手を煩わせることなく、間違いを起こさせない状況を作る…まさに完璧な防衛手段である。
一方、温泉巡りの案が出た経緯を正しく知っているノーマンは、俺にジト目を向けて何かを言いたそうにしていた。
サングラス越しでも分かる「おいBB、お前、それでいいのか?」的な視線は、口にされるよりも確実に罪悪感を刺激してくるので止めてください。
いや、仕方ないじゃないか。下手な事言って機嫌を損ねられたりしたら、どう考えても後々面倒な事になりそうなんだもの。
そんなこんなで、今はノーマンと俺、そして仏頂面のまま俺に抱き着いているマチュアの、二人と一体で研究所の超巨大地下格納庫に来ている。
「一体何でそんな場所に?」と思うかもしれないが、温泉巡りをするための移動手段を取りに来たためである。
今回の温泉巡りは、10人を超える参加者がいる。
大人数を運べるという点において定評のあるミニバンを使っても、2台で移動する羽目になるわけだ。
マチュアには操縦手として活躍できるよう様々な乗り物の免許を取得させているので、少なくともミニバンの運転手として活躍できるのだが、もう一人の運転手が見つからなかった。
由子お姉ちゃんは、一応は自動車免許を持っているらしいのだが完全にペーパードライバーである。実際、本人も運転できる自信がないと言っていた。
まぁ、誕生日の主賓を労うための温泉巡りなのに、主賓を足として使うのはダメだろうという意見もあったわけだが…。
次に、美希子お姉ちゃんなら免許を取得できる年齢なのだが、伊豆最南端の寮生が通える距離に教習所がなく、取得できていない。夏休みや冬休みを利用した合宿教習もやってないとの事なので、完全にドライバー不足な状態になっているのだ。
そこで、研究所が所持しているマイクロバスの出番となったわけである。これで、運転をマチュア任せにし、皆仲良く移動できるというわけだ。運転手に徹する羽目になるマチュア以外は…な。
おかげで、不機嫌になったマチュアを宥めるための儀式として、所謂“だいしゅきホールド”状態のままマチュアをマイクロバスのある格納庫に連れてきたという次第である。
ちなみに、この超巨大格納庫はマイカー通勤している職員のための駐車場にもなっており、その一角に研究所所有のマイクロバスが数台常備されているという具合だ。
「なぁ…なぁ、BB! さっきから気になってたんだけど、あの奥の方にある可変戦闘機のバトロイド形態っぽいのって、まさか…」
「ん? あぁ、一昨日の朝にチラッと話したF-22 ラプターを素体にした巨大ロボットだよ。ご存知の通り本来は一人乗りの機体だが、俺とお前で乗れるように二人乗りに変更したから、一回りくらいデカくなってるんだ。ぶっちゃけ、戦闘機ファンに怒られるんじゃないかと反省はしている。…が、後悔なんかしてない」
ここが巨大格納庫になってしまっている最大の理由、日本の足で自重を支えている人型巨大ロボットに気付いたノーマンが、やや興奮しながら俺に質問してくる。
既に動作確認だけなら済ませてあり、動くことも可能ではあるのだが、足を一歩踏み込んだだけでマニピュレーター周りが悲鳴を上げたのだ。
俺の魔力で補強はできるのだが、そうすると実戦を想定した際のシールドの強度に不安が出てしまう。そこで、ノーマンという強度安定用のバッテリー兼パイロットを乗せ、俺がサポーターとして同乗することで無敵のロボットにしてしまおうと画策して造った代物である。
…まぁ、“実戦”とは言ったが、別にこの世界は謎の宇宙怪獣に襲われているわけでも、地球制服を目論む悪の秘密結社がいるわけでもないので、単なる趣味でしかない。そのため、優先順位としては著しく低く、ここまで完成させるのにもかなりの時を要してしまった。
計画自体は師匠の代からあったわけだから、足掛けン十年である。
ベースとしてラプターを変形させようと言い出したのは俺で、理由としては単にラプターのデザインが好きだったから…というただの趣味だ。
そう、つまりこのロボットは、頭の痛くなりそうな単位の金と、バカみたいに膨大な時間と、優秀なスタッフ達の能力を不法投棄させて造り上げた壮大なおもちゃなのだ。正式な使い道など、今の所無い。
まぁ、ラスト・ワンなんていうテロ組織があるっちゃあるけど、このロボットを使うような事態にはならないだろう…たぶん。
「いやいや、俺も戦闘機とか軍事関係は好きだけど、これはこれでアリだと思うぜ! ムッハー! 興奮してキター! BB! ちょっと動かしていい? 先っちょ、先っちょだけでいいから!」
「気持ちは分かるけどダメ。もう皆、研究所のダミー施設の出入り口に移動している頃なんだから、遅れたら文句言われるでしょうが」
「ぐっ! …無念」
ダミー施設というのは、この研究所が表向きの顔として経営している宿泊施設の事である。
BBQを楽しむための屋根付きの屋外設備があったり、運動用の登山道があったりと、レクリエーション施設として割と好評を得ている。
地元の土産物を揃えた売店などもあり、世間的には『自然を楽しめる宿泊施設』という評価をもらえている。…だが、自宅から通勤してくる研究所員用の出入り口として用意しただけのダミー施設だ。
「渉、私もちょっと入れていい? 先っちょだけ、先っちょだけだけでいいから!」
「マチュア。お前、この体勢でそんなセクハラ発言するのなら、引っぺがして引き摺って行くからな?」
「クッ! …無念」
悔しがるノーマンとマチュアを引き連れ、俺はいくつか並んでいるマイクロバスの一つへと足を進めていった。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年5月5日(土) ─
さて、結果的に温泉巡り企画は大盛況に終わったと言えるだろう。
由子お姉ちゃんの誕生日は旅館の夕飯で祝い、3日は俺の誕生日だったので研究所に戻ったら所員達総出で祝ってもらい、温泉にグルメに文句無しの贅沢な休暇だったと言えた。
昨日──4日の“買い物イベント”が無ければ…な。
「BB…。俺らは無事、学園に転移できたのか?」
俺の横から、ややげっそりとした感じのノーマンの声が聞こえる。
紛争地帯では百戦錬磨のコイツでも、女性に引きずり回されるというショッピングラッシュには心底辟易したらしい。
きっとグラサンの奥の瞳は、レイプ目のごとく光が失われている事だろう。
「大丈夫だ、ノーマン。ここは間違いなく学園の転移室だ。お店巡礼なんて起きないから安心しろ。…あったとしても、寮の1Fにある日用品コーナーだけで終わる。もう、エンドレスショッピングは起きない。悪夢は…終わったんだ」
ノーマンほどではないが、俺の方もかなりクタクタになっている。
今までも、ちょくちょく莉穂姉に引き連れられて買い物に付き合っていたので、ある程度の耐性はできていたのだが、今回の買い物は規模が違った。何せ、女子だけで10名も居るのだ。
…いやまぁ、一名は科学的な人造人間なんだけどね。
それでも、精神が女性なだけあって久々の“買い物”に目を輝かせたと思ったら、色々なお店を覗いては吟味するという、他の女性陣と同じ行動を嬉々として行っていたわけだ。
なぜこんな事になったかと言うと、原因はロリ化した美希姉と、ボンッキュッボンッになってしまったマジカルゆかりんに起因する。
今の所、二人の私服をチェンジするという事で応急措置をとっていたわけだが、さすがに下着を取り換えたまま…というのはおさまりが悪かったようで、「どうせ修行もすることがないし、買い物に行く? お土産も買いたいだろうし」と、提案してしまったのがすべての始まりだった。
それからはもう、男手で異常に体力もあり、身体強化ができる俺達は否応も無く荷物持ちに認定され。
ちゃっかりと空間拡張バッグを持ち出してきたマージちゃんの計らいで、所持金が許す限り買い物を続け。
運転手であるマチュアの、やる気に満ちたお店巡礼に引き摺り回された俺達は、体力的に疲れはしなかったものの「え?! まだ続けるの?!」の連続で、精神的に疲れ果てたのである。
そして今朝──
「「お家が一番…お家が一番…」」
──と、繰り返す俺達を見た女性陣が仕方なく「夕方に戻る予定だったけど、朝一で学園に戻って良し」と許可してくれたわけだ。
由子お姉ちゃんを筆頭に女性陣を先に学園に転移させ、俺達は研究所の引き払い手続きを終わらせて戻ったところである。
今頃は、マチュアを学園で雇うという形で話を進めるため、由子お姉ちゃんが理事長室で必死になっている事だろう。
「ふぅ……まったく、俺の空間拡張バッグの中がパンパンだぜ…。いくら入れても重さや大きさが変わらないのが頼もしいが、今回に関しちゃ一番下に置いてあった銃器や弾薬類が完全に埋もれちまってるからな…」
「まぁ、いきなり敵襲…なんて事は無いだろうけど、さっさとみんなの部屋まで移動して、荷物を取り出してもらった方がいいだろうな」
「あぁ。同感だ」
──バンッ!
転移室に併設されているベンチに腰かけて一息ついていると、凄まじい勢いでドアが開き、廊下から慌てた様子の美沙都さんが入ってきた。
およそ一週間ぶりだから、なんとなく久しぶりな感じがする。
「あ、居た! ねぇ、渉君。なんか、菜月ちゃんと姉崎さんの体が入れ替わってて、その原因は渉君だって聞いたんだけど…一体、何があったの?!」
「…やだ、何このデジャヴ」
「……BB──」
俺の「説明するの面倒だなぁ」というオーラを感じ取ったのか、ノーマンが優しく肩を叩いてきた。
ノーマン…ひょっとしてお前、「BB一人で説明して回るのは大変だろう?」って感じで手伝ってくれるのか?
「──骨は拾ってやる。頑張って説明して来い」
「お前に期待した俺がバカだったよ! こんちくしょう!」
数十分後、そこには学園中を練り歩いて説明して回る俺の姿があった。
やはり、このイベントは予測できてはいたが回避不能だったわけだな。まったくもう!




