第18話 - 教祖と師匠の目的
9割方説明回です。
第二章の説明回は、今回で終了…のはずです。たぶん。
「んんっ…では、改めて。…二人とも、久しぶり」
驚いて絶句している俺達を見て、ちょっと懐かしい感じのする苦笑を浮かべた幼児が改めて挨拶をしてきた。
見た目は全くの別人なのだが、確かに俺達の師匠だと思わせる何かが、仕草や表情から感じ取れる。
どうみても中世的な顔立ちをした幼児の見た目なので、違和感と残念感がミックスされた感情が沸き出すのを止められない。
「え…っと、師匠なんだよね?」
ちょっと驚きすぎて声が出しづらかったが、何とか絞り出して質問する事ができた。
「うむ。ちゃんとお前達の名前も言ったくらいなんだから、信用して欲しいもんだな。いやまぁ、こんな幼児に言われても説得力は無いとは思うけど…」
師匠が苦笑に苦笑を重ねつつ、ちゃんと返答してくる。
…やはりこの懐かしい感じ、師匠本人だな。
最後に会ったのがおよそ半年前。実年齢90オーバー、見た目は40代の日本人顔のオッサンだった人が、どうして金髪碧眼の幼児になっているのかとか、色々とツッコミ所は多いが──
「──とりあえず、ノーマン。俺達の最初の目的、果たそうぜ」
「…あぁ、そうだったな」
「…?」
突然近づいてきた俺達の行動に、不思議そうな表情で見守る師匠。
そして──
バシィッ!──
「んがっ!」
──俺とノーマンのしなりを効かせたビンタを同時にぶちかました。
目的その一“師匠を引っ叩く”、まずは完了っと。
▲▽△▼△▽▲
「酷いじゃないか。想定外な行動だったから、防御壁魔法の発動すら間に合わなかったし…。年寄に優しく!」
「いや、だって師匠、今は幼児じゃん。中身はともかく、身体だけならピッチピチの年齢一桁だぜ? ちゃんと手加減ありのビンタだったんだから十分でしょ。…なぁ、BB」
「あぁ、まったくだ。だいたい師匠、俺達にラスト・ワンの存在を隠して──いや、敢えて教えてなかったでしょ。その教祖のアリサとやらとの関係も! その事に対する文句の意味合いが多いんだぞ、今のビンタは。故に、今の行動は妥当と言わざるを得ない」
ノーマンの文句を俺が引き継ぐと、師匠は「教祖? ラスト・ワン?」とブツブツ言い出し、暫くして何かを思い出したかのように“ポンッ”と手を打った。
「…あぁ! アリサさんトコの“組”の事か。そういや、時期がきたらそんな名前を名乗ろうって話してたっけな。そうかそうか……ってことは、“最後の儀式”も完了済みなんだな? だったら、何も教えなかった僕をビンタしたくなるのも分かるわ。凄く面倒な相手だったでしょ? ごめんね。マジお疲れ様」
「「……組?」」
なにそのヤクザみたいな言い方。実力行使が得意なただのカルト教団だったんじゃないの?
いや、その他にも“最後の儀式”とか不穏当な発言があって、地味にツッコミどころが多いわけだが…。
「あぁ、すまん。アリサさんを頭として下っ端連中が実働するから“組”って言ったけど、実際はアリサさんのペンダントが放つ波動に吸い寄せられた“過激な思想を持った思い込みの激しい連中”が集まって作られた新興宗教だよ。まぁ、君達がもう壊滅させたわけだから、キノスラの予定通りなら今後そういった過激な宗教が出来ることは二度と──」
「師匠、俺らまだ壊滅なんてさせてないわけだが…」
俺達の表情を察して説明し始める師匠だったが、『壊滅させた』云々の件はさすがにスルーできなかったので、ノーマンへ目配せしてツッコミを入れてもらう事にした。
「──ないはずだから安心して……今なんと?」
ノーマンの発言を聞いた瞬間、師匠が真顔で問いかけてくる。
心なしか、少し困惑も混ざり気味の表情だ。
「ノーマンの言った通りだよ師匠。俺達は、ラスト・ワンの先遣隊らしき30人を防衛軍に引き渡しただけです」
「え…でも、組織の名前やアリサさんの事だって知ってたじゃない…か──って、渉がチラつかせているトランシーバーっぽいモノはなんだね?」
「その通り、無線機です。ただし、教祖アリサ直通の。…コレに刻まれていた魔法陣には、ルーン文字入りの式が使われてましてね…師匠と俺くらいしか使えないはずの構築方法で。んで、コイツをラスト・ワンのリーダー格が持っていたんで試しに使ってみたところ、教祖アリサとコンタクトがとれたんですよ」
「あ~…OK、把握。それで、組織名やらアリサさんの名前やらを知ったわけだ。俺との繋がりは、魔方陣の組方からバレただけで、アリサさんから聞いたわけではないと…」
まぁ、組織名は学園に乗り込んできた奴らを催眠状態にした際に聞き出しただけだが、訂正するほどの事じゃないからそのままにしとこう。
「そういうわけで…だ。師匠、俺らはアンタに色々と聞きたいことができて異世界まで来たってわけだ。洗いざらいゲロってもらうぜ~」
「本来なら、向こうに居る間に僕の目的とかを教えるつもりだったんだがなぁ…。お前達、全然興味なさそうだったくせに…」
「しょうがないじゃん。だって俺、自分が扱う事になるだろう武装か美女・美少女にしか興味ないし!」
「俺も、アニメかゲーム、お姉ちゃんの事くらしか興味ないし!」
「「子供ってそういうもんだろ?」」
師匠がジト目で非難してくるが、俺達には俺たちのやりたいことがあったのだ。
爺さんの目的云々など、そんなのは正直どうでもよかったのである。
そりゃまぁ確かに、「なんで年齢が一桁のガキである俺達を軍に所属させるんだろう?」とか、「そもそもどうして俺達を創り出すことにしたんだろう?」など、謎な点はあったのだが、自分の趣味や興味にしか関心が向かないのが子供というもの。
色々と調整されて、試験管から取り出された時点でも大人と会話できる程の語彙や常識を持っていたとしても、本質──というか本能には逆らえなかったんだから仕方ないじゃない…と言い訳していくスタイルである。
「いやその理屈はおかし……くもないか。言われてみりゃ、今の僕の様に、一度成人を迎えてからの幼少期逆戻りではなく、知識が与えられただけの…いわば様々な実体験を伴わないままの幼少期だもんな。確かに本能に負けるのも不思議ではないか…」
あ。良かった、無理やり押し切れたみたいだ。
チラッとノーマンを見ると、コイツも少しホッとした表情をしている。どうやら、俺と同じく反論されるかも…と構えてはいたようだ。
「ふぅ…分かってくれたのなら話は早いな。そういうわけだから、俺らの質問に色々と答えてもらうぜ? まずは、防御壁魔法なんて魔法があるのに、その下位互換にしか思えない抵抗魔法を何故作り出したのか教えてもらおう! あと、ついでに視覚目盛魔法もな! どうしてあんな“使いこなすのが面倒臭い割に、おっぱいのサイズも測ることもできない”出来損ない魔法を編み出した! 言え!」
「「えっ?!」」
俺が口を開くよりも先に、ノーマンが詰問といった感じで師匠の胸ぐらを掴みだした。
確かに、執拗に抵抗魔法の存在価値に疑問を持っていたようだが、まずはラスト・ワンとかその辺について聞いておくべきだろうに。
「ちょっと待て、俊之。今の流れだと、普通は“アリサさんと俺との関係”や、“ラスト・ワンについて”の質問をしてくる場面じゃね?」
「師匠の言うとおりだぞ、ノーマン。っていうか、存在意義を聞きたがってた魔法がしれっと一つ増えてるし…」
「いいや、まずはこれからだ! 昨日だって説明を後回しにされてたせいで、結局答えを聞きそびれたわけだし、思い立ったが吉日とも言うだろ。だったら、まずは気になっている事を聞き出したくなるのが、人間の性というものだろ」
知的探究心という点に関しては評価したいが、『おっぱいのサイズが測れない』というのを理由に出したあたり、流石はノーマンだ…と脱力してしまった。
そして、あろうことか俺もノーマンと同じ過ちをしてしまっていたことに気付き、とてつもないやるせなさを感じてしまう。
まったく、どうして俺ってやつはテロリスト騒動が起きているさなかで、滝川のバストサイズを確認してみたくなってしまったのだろうか…。
「まぁ、そこまで言うなら説明するけど…。
まず、防御壁魔法と抵抗魔法との関係だが、僕も始めは防御壁魔法があれば十分と考えていたんだよ。だが、防御壁魔法は展開するだけで結構な魔力を消費するし、物理攻撃から魔法攻撃までガードできる代わりにガード時の魔力消耗も発生する。簡易の魔法式で組み立てても、大概の攻撃をガードできる反面、式がやや複雑になってしまってな。展開するまでに時間が掛かってしまう魔女が結構居たんだ。
そこで、魔法式自体に干渉して魔法威力の減衰のみに特化した抵抗魔法を創ったわけ。フル構築の魔法式でも簡易構築の魔法式でも、発動時の効果はほとんど変わらない。なんせ基本は、“発動させる対象”と“減衰率”を設定するだけだから、籠月学園を卒業した魔女であれば誰でも一瞬で使えるレベルの魔法になったのさ。
例えば、卒業生が魔女として警察に協力する際、一般人に魔法が当たる可能性もあれば、トラップとして魔法陣を設置していたところに一般人が紛れ込む場合もあるだろ? そんな時、抵抗魔法を瞬間的に発動できれば、そういった被害を最小限に抑える、或いは防ぐことが可能なのさ。使い勝手の割に、消費魔力も極端に少ないってのもミソだね」
俺が軽く自己嫌悪に浸っている横で、師匠がノーマンの質問に淡々と答える。
そう、魔女になれるのは籠月学園の卒業生くらいなもので、魔法を犯罪目的で使う事ができなくなるという制約魔法まで施されている状況なのに、なぜ抵抗魔法が存在するのか。
俺やノーマン、ついでに師匠や教祖アリサといった例外はともかく、俺らの世界に生きる一般人は、魔女の活躍によって魔法が実在する事を知っていても使い方を正確に把握しているわけではない。
つまり、“相当の厨二病患者”で“たまたま魔力保有量が大きい”人間でもなければ、一番単純な魔法の発動方法“想像力のみ”で魔法を発動させられないというわけだ。
要するに、抵抗魔法は本来、誤射してしまった場合の保険用魔法なのである。
なにしろ、「発動した魔法自体に掛けるも良し、守護対象に掛けるも良し、魔法陣に掛けるも良し」と、こと魔法への防御に関しては発動しやすく使い勝手も良いできになっているのだ。
ただ、治癒魔法の効果すら減衰させてしまうので、抵抗魔法を掛けられた第三者が物理的な理由で怪我を負ってしまった場合などは、レジストを解除してから治癒魔法しなければいけないという状況になったりする。
「なるほど、理論は分かった。じゃあ、視覚目盛魔法のポンコツっぷりを答えてもらおう」
「いや、今のは理論じゃなくてただの経緯に近かったと思うんだけど…まぁいいや。
視覚目盛魔法は、いつか僕がこの世界に来ることが分かってたから創った魔法だよ。異世界でも、MKS単位系を使いこなしたかったんだ。なんせ、地図とかが現代日本みたいに精密でもないし、村とか町を開拓する時に距離、重さ、時間とかの基本単位を設定したかったからね。
本来なら、授業項目に入れるつもりも無かったんだけど、主婦になった魔女から『野菜とか果物とか、同じ値段なら少しでも大きいものを見抜ける目利きが欲しい! 先生、確か物の大きさを正確に把握できてましたよね! 教えてください!』って卒業生が妙に多くてね…。簡易魔法式を創り出せたように、エーテル中に、基礎単位も概念として定着させたかったんだけど、人の眼球を通して大きさを見るというプロセスが入ったせいで、個人個人の眼球の差異という壁が露呈したんだよね。そのせいで、個人ごとに尺度の基礎単位を覚え込ませるって形の式にするしかなくなっちゃってさ…。バストサイズが測れないのも、それが原因。なんせ、見えてないものは対象として捕捉できないからね。いくら魔法でも、見えてない部分まで正確に補間するなんて無理なのさ……少なくとも、僕方法だとね」
…なるほど、どうにも苦労の割に視覚目盛魔法は扱う場面が少ないとは思っていたが、やはり主婦向けの魔法だったのか。長い説明だった癖に、ふたを開けてみたら本気で軽い理由だったんだな。
いや、“異世界を開拓したいという目標が”ではなく、“スーパーの安売りとかで力を発揮しそう”っていうあたりが…だが。
「くっそ、気軽にバストサイズが分かる魔法だったら、凄く評価できていたのに! 女子のおっぱいの数値を見ているだけで興奮できる人間なんだぞ、俺は!」
「ノーマンが発電所だったら、とてつもなくクリーンで効率の良いエネルギー供給源になれただろうにな…。まぁ、コイツのアホっぷりは置いといて、そろそろ本題に入るとしようか、師匠」
「うむ。聞きたい事として有力なのは、“アリサさんの事”、“ラスト・ワンの事”、そして何より“僕とアリサさんの目的”かな?」
ノーマンが悔しそうに地団駄を踏んでいるが、そこは華麗にスルーして俺と師匠とで真面目な話に移ることにする。
「そう。洗いざらい喋ってもらいたいね。俺らに黙っていた理由とかも含めて。…向こうの世界に残してきた莉穂姉とかが心配するといけないから、できれば手短に」
「ふむ…。なら、アリサさんとラスト・ワンについては本人に問いただした方が良いだろう。どうしても説明が長くなるからね。いずれ、“最後の儀式”のあとに会話する機会ができるからね。
ってわけで、まず“僕とアリサさんの目的”を話そう。これは非常に単純だ。ただ、単純だけど実現はとてつもなく困難に近い内容だけどな。まぁ、一言で言えば“世界平和”だよ、僕達の目的は」
…つまりアレか?
世界平和を実現したかったから世界連合防衛軍という組織を作り、裏で糸を引いていたテロ組織を操って、紛争活動を起こさせ、軍を差し向けてチマチマ削らせていたと?
「わけがわからないよ。どうして師匠は、そんな平和とは逆方向みたいな事に力を注いだのさ?! 裏で厭引くくらいなら、普通にテロ組織を乗っ取って催眠魔法で軒並み洗脳しちまえばよかっただろうに…」
「当然、僕も始めのうちはそう考えていたさ。でもな、そういった過激な思想を持った人間ってのは、世代をまたいで必ず一定数は社会の中に出現するわけだ。そのたびに、組織を形成させて集めて洗脳するなんてこと、僕や渉が死んだあとは誰が引き継ぐ? 引き継げるだけの人材が居れば良いが、僕達みたいな魔力保有量が異常に高い人間なんて、自然には普通は生まれないんだよ?
それに、過激な思想を持った人間だけじゃなく、普段は引っ込み思案だけど負の感情が爆発して突発的に犯罪を犯しちゃうような人だっているんだ。こういった事は、様々な人間が同じ社会で生きている限り、何らかの拍子に必ず起きてしまう」
確かに、俺達が普通に行動できる限りはその場その場で対応できる。
しかし、その後のアフターケアを引き継げるような人材が居なければ、そういった状況を維持できなくなる…そういう事を言っているわけだ。
それだったら、籠月学園卒業生全員で担当地区を分担したり、色々とやりようはあると思うが…いや、何にせよ、わざわざテロ組織を作ったり先導してまで事を運ぶ理由がわからん。
「今話した事の何が“アリサさんと手を汲んだり、ラスト・ワンを組織立てたり”といった事に繋がるのかわからないって顔だね。…渉、お前さん、制約魔法で魔法を使うにあたって制限を施されてるよな?」
「え? あぁ、うん。…っていうか、それをやったの師匠だから覚えてるだろうに。あぁ、一応、ノーマンには俺が魔導具使って制限をしといたぞ」
「あぁ、それはありがとう。で、だ…あの魔法ってさ、本当は“負の感情に動かされたまま魔法を使う”っていう状況を制約してるんだよね。要するに、“負の感情”という本来であれば捕えどころのない概念を、正確に篩い分ける事が可能である…という事を証明しているわけだ」
「へぇ…なんか不可侵な気がしたから魔法陣解析魔法は使わないでいたけど、そういった魔法式が構築されてたのか…。で、それがどうし──っ!? ひょっとして…」
負の感情を篩にかけられるという事は、逆に正の感情も篩にかけられるというわけだ。
つまり、師匠や教祖アリサの真の目的は、世の中の人間の“正の感情”を際立たせ、老若男女問わず常時“賢者タイム”状態を創り出すこと?!
「そう! 未来永劫、負の感情を一ヵ所に集まるように仕向け、その感情を籠月学園の卒業生総出で分解させるという仕組みを作る! その下準備が、籠月学園の創設であり、アリサさん率いる組織の創設だったのさ!」
「思ってたのと違ったぁぁぁ!」
次回もまた来週の金曜日に…。シナリオが進まないくせに、遅筆ですんません。




