第17話 - 新しい出会い、師匠との再会
読んで下さっている方々、ありがとうございます。
予定としては、あと4~5話くらいで第二章が終わる予定です。
第三章からは、海開きやら体育祭といったイベントを書く予定です。
…楽しんでいただけるようなストーリーを構成できればいいんですが、いかんせん実力不足ですんません。
師匠が作った異世界ゲートの魔法陣を、俺達でも扱えるように修正を加えて起動させてみたわけだが、ゲートを抜けると真っ暗な中に星々をちりばめたかのような装飾の扉……らしきものが、淡い光を纏わせひっそりとたたずんでいた。
「ん~…扉だよな、コレ」
「あぁ、そうとしか思えないなコレは」
「やっぱノーマンもそう思うか?──ってオイ!」
「? どうした? BB?」
「いや『どうした? BB?』じゃねぇよ! お前、俺が戻るまでゲート前で待機って話だったろ?! なんで、お前まで一緒に来てるんだよ!」
つい数秒前に、「安全が確認できたら戻る」というやりとりを行ったはずなのに、しれっと俺の独り言に混ざるノーマンが居やがった。
「えへっ♪ 来ちゃった♪」
俺の方に向き直るよう体を回転させながら軽くジャンプし、前かがみになりつつ上目使いで台詞を吐くノーマン。
扉から放たれる淡い光がとても幻想的な雰囲気を出しているのに、サングラスとタンクトップ姿の筋肉質な少年がそんな仕草をしているせいで何もかもが台無しである。
俺は、先日のテロ騒動以降使うことなく懐に入れていたグロッグを取り出し、流れるような動作で引き金を引いた。
狙うは、ノーマンのチャームポイントであるおでこ一択。
パァン!──
「それは“女の子が、気になっている男の子の家に突然訪ねた時”のみ、使用を許された台詞と仕草だ!」
ほぼゼロ距離射撃に近かったので、寸分たがわずヤツのおでこに当たり、放物線を描いて弾き返される弾丸。落ちて数度跳ねる空薬莢。命中箇所が赤くなり煙を吹くおでこ。
軽くやけどをしているところを見ると、神力製のリダクションアーマーを展開せず、素の硬さだけで弾丸を弾いたようだ。
思えば、テロ騒動の時もグロッグを使ったのはノーマンのおでこに当てた一発だけだったっけか…。
どうしよう、本当なら護身用として携帯していたはずの銃なのに、いまだかつてノーマンへのツッコミとしてしか使った事がない。
…それにしても、立って歩けたり、会話が正常にできているから人が活動できる環境だとは思っていたが、重力もあるし地面に該当する面も存在するんだな。空薬莢や弾丸が落っこちてバウンドしたくらいだし…。
扉が光っているのに、壁も地面も天井も異様なほど真っ暗で境目がさっぱり分からないという点が、些か不安を煽るな。…異世界と異世界をつなぐ境界空間みたいなものだろうか。
ちなみに、天井やら壁やらの境界は見えないくせに、俺やノーマンの輪郭はしっかりと見えている。
実に不思議な空間である。
「ったく、BBは冗談が通じないんだから。いちいちツッコミに弾薬使うなよ、タダじゃねぇんだぞ?」
弾丸がぶち当たった衝撃で少し仰け反っていたノーマンが、“ぬるん”とした動作で立ち上がり、アメリカ人式ヤレヤレのポーズで軽口をたたいてきた。
「そういう事を言うくらいなら、俺にツッコミをさせないような行動をしろよ。普通にお前を引っ叩くと俺の手が壊れちまうから、文明の利器や魔法を使ってるんだぞ…ったく。
まぁいい、来ちまったもんは仕方ないから一緒に行動するか。…一応、帰路は確保できているみたいだしな」
俺は文句を言いながら、扉の対面を向いてゲートの有無を確認する。
真っ暗い空間なので見分けが付かないかもしれないと不安ではあったが、ゲートは自己主張するかの如く黒い膜を波立たせしっかりと存在感を出していた。
「よし、じゃあ早速扉を開けようか。大丈夫、どんな事が待っていようと、俺がこの手で切り開いてみせるさ!」
「ちょ…お前、もうちょっと躊躇しろよ! どんな場所に繋がってるのかも分からねぇんだぞ?!」
俺がそう言い切る前に、ノーマンは扉に手をかけてしまっていた。
ノーマンが触れた瞬間、滑るように両サイドへと扉が開き、中から眩い光が溢れ出す。
そして、数秒経って俺の視界が慣れ始めた頃、扉の向こうから落ち着いた感じの少年の様な声が聞こえてきた。
「ようこそ、人造人間の少年達。想定外の早い来訪に、僕は少し驚いているよ。まぁ、まずはそんな所に立ってないで部屋に入ってき給え」
そこには、白を基調としたローブを羽織り、光り輝く星のオブジェクトを先端に浮かべた杖を持った少年が立っていた。
見た目だけなら俺達よりも少し若い感じがするが、その表情や雰囲気からは年上だろうと確信させる何かが漂っている。
「なぁ、ノーマン…」
「あぁ、BB…」
「「とりあえず、師匠ではなさそうだな。こんなに落ち着いた雰囲気が出せるわけねぇから」」
「ハハハハ…いや失敬。キミ達が僕の事を“彼ではない”と見抜いた理由がなかなかに面白かったものでね…クククク…」
俺達の反応がよほどツボに入ったのか、目の前の白い少年は心底楽しそうに笑っている。
もう暫くは腹を抱えて笑っていそうだったので、俺達はその間“部屋”と少年が言っていた“扉の奥の空間”を見える範囲で確認していた。
どうにも師匠の事を知っている風な口ぶりであったが、ぱっと目に着く限り、明らかに部屋の中が普通ではないのだ。
まず扉を境にハッキリと認識できるようになった床だが、その一面に、青と白と緑がまばらに見える球体が整然と敷き詰められている。
ベアリングほどの小さな玉ではなく、小型の地球儀程度の大きさの球だ。それが一定の間隔を開けながら床一面に綺麗に整列しており、少年は球と球の隙間の上に立っているといった状態だ。
少年が魔法を使って浮いているのかとも思ったが、魔法を使用した際特有の魔力反応が一切見られない。強化ガラスか何かでできた床か、或いは何らかの力場ができているのかもしれない。
仮に、何らかの力場によるものだった場合、魔力反応も無ければ、エーテルが空中に漂っている雰囲気も感じられないので、俺達が知らない新たな能力に起因するものだろう。
今俺達が立っている床だって、どこからが床で、どこからが壁で、どこからが天井なのかそれすらも分からないほど真っ暗な謎の空間なのだ。もう新しい不思議パワーがあっても素直に受け入れられる下地はできている。
天井の方は満天の星空といった感じだ。
ドーム型なのか平面型なのか、宇宙空間の様な雰囲気のため形がはっきりせず、壁と天井の区切り位置も判然としない状態になっている。
壁に該当する部分を見ると、真正面──少年の背後には太陽の様に輝く大きな白い球体が、両サイドの壁には大小様々な銀河系が浮かんでいた。
壁も宇宙空間のような様相をしているため、どのような感じに広がっているのか正確には分からないが、床との区別だけはハッキリとしているので、そこから推察するに円形の部屋だという事がわかる。
何と言うか、まるで──
「まるで宇宙空間をくりぬいてできた部屋みたいだな」
「──ノーマンと全く同じ感想を抱いた事にショックを禁じ得ない!」
「BB、今俺の事を軽くディスったね?」
「キノセイダロ」
解せぬとでも言いたげな表情のノーマンをスルーして、視界の隅で少し落ち着き始めた様子を見せた少年に注意を向けると、ちょうど少年の方もこちらに話しかけようとしていたところだった。
「ふぅ…いやぁ、すまない。なかなか人と会話する機会がないものでね。ちょっと笑いの沸点が低くなってしまっていたようだ。…あぁ、ちゃんと床は存在しているから心配せずに入ってきてくれ給え」
少年の言う事を疑うわけではなかったが、下を見るとどうにも宇宙空間に吸い込まれてしまいそうな何かを感じてしまい、少し躊躇してしまう。
俺が恐る恐るといった感じで一歩を踏み出す横で、ノーマンがスタスタと部屋に入って行った。
「フッ…どうしたBB? そんな生まれたての小鹿みたいにプルプルして」
「……お前のその一見無謀にも見える勇気は、やっぱ素の状態で大抵の攻撃を無効化できるから沸いてくるのか? でも…うん、おかげで踏み出す勇気が出たわ。だから、今受けた煽りも甘んじて受けようじゃないか!」
などと言いつつ、なんだかんだで球体の上に足がくるように歩幅を調整してしまう俺であった。
いやホラ、リスクマネジメントって大切じゃない?
「ふむふむ。やはり彼のクローンとはいえ、育った環境やここに来た際の状況が違うと、反応に差が出るもんなんだねぇ。…なかなか興味深いよ、渉少年」
「さっきから気になっていましたが、貴男は俺らの事や師匠の事をご存知なので?」
俺が足元を確認しながらじわじわと歩いている間に、少年のすぐ近くまで移動していたノーマンが質問をしていた。
いいぞ、ノーマン。そいつは俺も聞きたかったことの一つだ。ここの交渉は任せたから先に進めていてくれ。俺は足元に集中しながら慌てず移動しておくから。
「そりゃもうよぉく知っているさ。キミ達を創り出す前の下準備から育成方針まで、キミ達の師匠と一緒に頭を悩ませたくらいだからね。キミ達の言う師匠とは、旧知の仲ってやつだよ」
「ウホッ! 超若作り。じゃあ、師匠と旧知の仲である貴男に更に質問。どうやったら師匠の居る場所へいけますか? 少なくとも、この部屋? …には居ませんよね?」
うっわ、反応軽っ! …にしてもノーマンのヤツ、ストレートに聞いたなぁ。
まぁ、あれこれ回りくどく聞くようなキャラでもないから、何一つ不思議じゃないけど…。
「ふぅむ…。そうだね…まず、キミ達の師匠が居る場所へは、僕が案内することができるよ。お急ぎなら、今すぐにでもね。ちなみに、彼はすぐに見つかるような場所に居ないだけで、この部屋のどこかには存在しているよ」
「え~、何ソレ何ソレ? もったいぶってないで教えてよ、エロイ人」
ノーマンが一気に無遠慮になった件。
でも確かに気になる話だ。いじわるなぞなぞみたいな内容ではあるが、かといって俺達をからかっているという雰囲気でもない。
この部屋のどこかで、すぐには見つからない場所……そういや、さっきからずっと足の下に来るようにしていた青と白と緑の球体、“地球儀みたい”とは思っていたけど──
「──まさか…この球体は、地球…なのか? ……ひょっとして、この足元にあるのは全て異世界の地球で、この中のどれかに師匠が居るって事ですか?」
「お。渉少年、正解。その通り。この足元の球体は、キミ達から見れば一つを除いて全て異世界扱いされる地球になりま~す。…ちなみに、キミ達の言う師匠が居る地球は、渉君から見て左手の方向にあるよ。今判り易いように浮かび上がらせるね」
そういって少年が手に持っていた杖を翳すと、俺の左側にあった地球が腰より少し高い位置まで浮かび上がってきた。
「「おぉ~」」
その不可思議な光景に、妙にテンションが上がった俺達は近くに寄ってまじまじと観察し始めた。
俺に至っては、先ほどまでびくつきながら移動していた床の上を、普通に歩いて近づいてしまったほどだ。
…それにしても、この地球は何と言うか──
「──あの…この地球、大陸の形状が明らかにおかしくないですかね?」
「うん。キミ達の世界地図と比較すれば明らかに形状がおかしいだろうね。アメリカとかアフリカみたいな、割と目立った形の地域がないから」
俺が思った事を聞いてみると、少年はあっさりとそれを認めた。
まぁ、認めざるも得ないか。何せ、少年が言った通り、アフリカやアメリカ、さらに言えば北極に見られる氷の塊が無いのだ。
目の前で回転している地球には、まるでプレステのコントローラーの様な形状の大地が横たわっており、その中心からやや南側の海にはオーストラリアらしき形状の大陸が存在している。
ハッキリ言って、“大陸”しか確認できない。「日本? なにそれ美味しいの?」状態である。
そして、更に南側に視点を移すと、恐らく南極大陸に該当するであろう白い大地が確認できる。
地球と紹介されたが、「地球型の別の星」と言われた方が納得できるほど、異世界の地球は大陸の形状が異なっていた。
「でもまぁ、異世界なんだから“そういうもの”として割り切ってくれ給え。僕にも詳しい理屈はよくわかっていないんだ。…大陸の形状が異なるのは、バタフライ効果によるものではないかと思ってはいるのだけどね。大気中のエーテル含有量が異なるせいで、地形に影響が出た…みたいな──って、この言い訳、前にクリスにもしたばっかりだったな…」
なんか、最後の方は『言い訳』だの何だの言っていたが、俺達や師匠以外にもこの少年と会話できた人が居た事にビックリだ。
それにしてもこの少年、成長していないと見るべきか、「本当に原因不明なんだな」と納得するべきか…評価に悩む。
まぁ、少なくとも悪人ではなさそうだが…。
「…はぁ。とりあえず、地形が俺達に馴染みのない形になっているのは割り切ります。ですが……本当に、この世界に師匠が居るんですか? 俺達が師匠から聞いていた話とはだいぶ違う気がするんですが…」
そう、俺達が小さい頃に聞いていた“俺達の世界に酷似しているが、エーテルが存在しない世界”という条件に合っていないのだ。
それに師匠は、「日本に住んでいた」と言っていたのに、その日本らしき島国がそもそも見当たらない。何かの間違いじゃなかろうかと疑ってしまうのも仕方のない話だろう。
「……あぁ、そうか! キミ達は、彼が“生まれ育った世界に帰った”と思っていたわけか。残念だが、それは間違いだ。キミ達の師匠は、自分の意思でその世界に転生したのさ。何しろ、彼の生まれ故郷には“彼の姉”が居なかったからね。まぁ、この辺は話すと長くなってしまうから割愛させて頂くよ。…とりあえず、この世界に居る事は間違いないから安心してくれ給え。ゲートもこちらで用意させてもらったし、転移先にキミ達の師匠も呼んでおいたから、そこの扉から外に出てみるといい」
少年の言葉につられて扉の方に目を向けると、俺達が入ってきた扉がいつの間にか閉まっていた。
初めて開けた時もそうだったが、全く音を出すことなくスライドするので閉まった事にも気付かなかったようだ。
…などと考えていたら、これまたノーマンのヤツがホイホイと扉の前に移動して手をかけ始めていた。はえーよホセ。
「よぉし…じゃあBB、早速師匠のヤツを引っ叩きに行こうぜ! で、ラスト・ワンとの関係や、ついでに抵抗魔法の存在価値について聞いてやるんだ」
……あ。そういや俺、模擬戦のあとに説明するの忘れてたっけ…。
まぁいいか。ついでだし、師匠に色々丸投げしよう。
師匠も、ラスト・ワンへの対応を俺達に丸投げして異世界に行った感じがするしな…。これでお相子だ。
俺はそんな事を考えながら、開かれた扉の向こうに見える光り輝くゲートへと体をくぐらせた。
▲▽△▼△▽▲
ゲートを抜けると雪国だった……などという事は無く、どこかの森にある開けた空間に出た。
隣を見ると、一緒にくぐってきたノーマンと目が合う。どうやら、俺達は無事に異世界に到着できたようだ。
後ろを振り返れば、光り輝くゲートが背後にたたずんでいる。
さて、先ほどの白い少年の話では、既に師匠を呼び出しているという話だったが…。
「よぅ! 渉、俊之久しぶり。思ったよりもこっちに来るの早かったな」
「え? 師匠なのか? なんか、やたら声が若い感じ…が……っ??!」
やや舌足らずな雰囲気の声が聞こえ、ノーマンが声のした方へと反応し、絶句する。
どうやら師匠は、俺達から見てゲートの裏側に居たようだ。
ノーマンからは見える位置に居るようだが、俺からはゲートの光が眩しくて微妙に確認できない。
「ん? あれ? ひょっとして“キノスラ”から僕の現状を聞いてなかったのか? ったくアイツめ、僕にもこいつらにもサプライズを仕掛け過ぎだ、ほんとにもぅ…」
師匠がぐちぐち言いながら俺にも見える位置に移動してくる。
ところで、キノスラってのはさっきの白い少年の名前か?
などと考えを巡らせていると、師匠の全貌が見える様になって──
「小っさっ!!?」
「そりゃあ、まだ5歳とちょっとくらいだからねぇ…この体」
──そこには、金髪碧眼、年齢ゆえか中世的な顔立ちの幼児が苦笑を浮かべて立っていた。
次回もまた来週。




