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オタクウィザードとデコソルジャー  作者: 夢見王
第二章 ドキッ!女の子だらけのGW~修行もあるよ!~
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第16話 - 予測可能・回避不可能な未来と異世界ゲート

  ─ 2012年4月30日(月・祝) ─


 ファファンファンファファファーララ…♪──


 俺のスマホから、毎日23時以降に放送されている5分間のミニ旅行番組のテーマ曲が流れ始める。

 世界各国の鉄道の車窓から見える美しい風景などを、20年以上放送している長寿番組の曲だ。

 この曲をコール音に設定している人物は一人しかいない、ノーマンである。

 ついこの間まで、世界各国を移動しまくっていたアイツにはグッドチョイスだと自負している。


「ったく、こんな時間に何だってんだアイツは…」


 昨晩、美希姉とマジカルゆかりんのお願いを聞き届けた俺達は、それぞれの宿泊部屋に戻った。

 俺に用意された部屋は、急遽きゅうきょ参加することになった由子お姉ちゃんに使ってもらうことにしたので、俺は皆の部屋からかなり離れたところにある師匠の私室に寝泊まりする事にしていた。

 ここには、師匠の魔法研究ノートや実験ファイル、その他もろもろの魔導具がある程度体系別に保存されており、一度調べ始めたら時間がすっ飛ぶくらい俺には充実した遊び場になっている。

 昨晩も、この部屋に来てから眠くなるまでの暇つぶし…という体で、魔導具や研究ノートを調べていたのだが、それもノーマンからのコールで中断させられることになった。


 時計は見ていないが、さっき調べ始めたばかりな気がするし、まだ深夜と言える時間帯だろう。

 軍に所属していた時の癖で、深夜帯に俺に連絡しないとどうにかなっちまう病気にでもかかっているのだろうか、アイツは。


「もしもしぃ? モーニングコールには早すぎる時間なんじゃねぇの? もう少しゆっくり寝とけよ、ノーマン」

「…は? BB、何言ってんだ? もう0600(まるろくふたまる)間近だぞ? 学園だったら、日課の寮掃除を始めようか…って時間じゃないか。寝ぼけてるのか?」

「……6時前? はっはっは、またまたご冗談を…」


 背中に冷や汗をかきつつ、師匠の机の上に放置していた俺のタブレットを起動させる。

 綺麗な海の景色を壁紙にしたタブレットのど真ん中には、無情にも“05:57”と表示されていた。


「あ…あれ? おかしいな、昨晩9時半くらいに部屋に到着して、ついさっき師匠の研究ノートを軽~く読み耽っていたと思ったのに、もう8時間以上過ぎていた。…な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺にも何が起こったのか──」

「ポルナレフの物真似はいい。BBが師匠の部屋に行くとよくあるキングクリムゾン効果だからな。いや、本当にそんなことはどうでもいいんだ。今すぐ食堂前のホールまで来てくれ。BBの口から説明する必要がある事態が起きた」

「──なんだって?」



  ▲▽△▼△▽▲



 師匠が作り上げたこの研究所は、群馬の浅松山の南西にひっそりと建てられている。

 まぁ、“ひっそりと”とはいうものの、施設の規模はかなり大きい。

 敷地面積は籠月学園よりも狭いが、所有している土地をほぼすべて研究所の施設として使いきっている。

 しかし、現地周辺の衛星写真を見ても、現地まで実際に足を運んでも、人工的な建物などは無く鬱蒼と茂る森のみが視界に広がることになる。

 まぁ、種明かしをすると魔法による光学迷彩を施しているためだ。

 この迷彩の仕組みは、先日のテロ騒ぎの際に敵が装備していたベルトとほぼ同じであり、迷彩膜の反対方向にある風景を膜表面に描写するという代物である。

 膜自体は球体なので、ガラス等のイメージで考えた時に屈折による描写時の歪みなどを想像してしまうかもしれないが、魔法と言う不思議理論でその辺の歪みは発生していない。

 ただし、研究所を覆うほどの大きさのため、反対方向の映像を描写するとどうしても周囲の風景との乖離かいりが酷くなるという欠点が出てきてしまった。

 そのため、衛星写真や地上からの景観対策として鬱蒼とした森に見えるよう膜表面の描写を更に魔法で加工しているらしい。

 そんな面倒な対策をするくらいなら、普通に地下に造れば良かったのに…と思ったのは俺だけじゃないはずだ。


 さて、今更になって研究所の説明をした理由だが、ぶっちゃけ「広くて目的地に行くまでに地味に面倒」と愚痴を言いたかっただけである。

 籠月学園も、屋内プールやら体育祭用のグラウンドやら部活用のテニスコートなどなど、学校らしい設備を揃えるためにかなり広いのだが、この研究所は建物だけで広いのだ。

 要するに、壁に仕切られている所為で直線的な移動ができず、目的地までどうしても迂回しなければならないといった現象が起きやすいのである。

 つまりは──


「BB遅い。電話してから6分も掛かってるぞ」


 ──皆とは微妙に離れた位置にある師匠の部屋から、目的地の食堂前まで地味に時間が掛かるのだ。


「…はぁ…はぁ…うるせぇバカ。こっちだって、建物内を走ると迷惑だろうと思って、早歩きレベルの速度に落としつつ、全力できたっての! おかげで、変な筋肉使った気分だよ」

「まったく、この程度で息切れとか、渉は運動不足過ぎるんじゃない? 俊之を見習ってあなたも実働部隊で揉まれてきたらいいんじゃないかしら?」

「……で、この騒ぎは一体?」


 マージちゃんのきつめのお小言をスルーして見れば、食堂前のホールで幼馴染の面々がオロオロしていた。

 その中でも比較的冷静だったらしい由子お姉ちゃんが俺の到着に気付き、少し慌てた感じで話しかけくる。

 今日もブラウスにタイトスカートという、いかにも女教師っぽい服装である。…ひょっとしてこの人、主な私服が全部コレだったりしないだろうな。


「渉君、来てくれたのね! いい? 落ち着いて聞いて。…姉崎あねさきさんと菜月なつきさんの体が入れ替わってしまったみたいなの!」

「……はい?」


 美希姉とマジカルゆかりんの体が入れ替わったとおっしゃいましたか?

 入れ替わりというと、階段からもつれ合うように転がり落ちると高頻度で起きるアレだよな。

 確かに、魔法によって不思議な現象を引き起こせる世の中ではあるが、魂の入れ替わりといった感じの現象って地味に難しいはずなんだが…。

 ……というか、俺の事を冷静に呼び出し、今の説明を聞いても顔色一つ変えていないノーマンとマージちゃんが横に居るので、俺もどういう反応をしていいのか分からないというのが正直な感想である。


「…とりあえず、くだんの二人の様子を見てみようか」


 俺が近づくと、それに気付いた皆がモーセの十戒の様に二つに割れた。

 そして、その中から現れたのは、美希姉が好んでいた白いワンピースを着たグラマラスなマジカルゆかりんと、マジカルゆかりんの私服を着たロリロリしい姿の美希姉だった。


「……まぁ、百歩譲ってマジカルゆかりんは分かる。昨日の夜、そういう約束をしたわけだからな。だが、美希姉はどうしてそうなった? いや、どうしてそこまでやっちゃったかな?」


 確かに、体が(・・)入れ替わったと思えなくもない。

 美希姉は顔立ちがやや幼くなり、マジカルゆかりんは逆に少し大人びていたりとそれぞれに変化があるものの、昨日までの面影をそのまま残しているのだから。

 だが、原因を知っている俺やノーマンからすれば、さほど驚く内容ではないのだ。

 なんせ、昨晩のお願いを俺が聞き、二人がそれぞれ実行しただけの事……あぁ、それで「BBの口から説明する必要が…」ってノーマンが言ってたのか。

 別に、ノーマンが説明してくれても良いのに。

 きっと、面白そうだからという理由で俺を呼び出したに違いない。さっきから俺を見てニヤニヤしているのがその証拠だ。

 おでこも連動してツヤツヤしてるし…古畑さんが今泉君にやる要領で、おでこを引っ叩いてやろうか。


「うふふ…。渉ちゃんに色々と教えてもらってから、お姉ちゃん楽しくなっちゃってつい昔の姿に…ね?」

「私は年相応の姿になれるのが嬉しくて、昨日の夜部屋に戻ったあと早速この体になってみたのよ。で、換えの服が無かったから、不躾とは思ったけど一緒にお願いを聞いていた姉崎先輩の部屋を訪ねたのね。そしたら──」

「私も丁度、紫ちゃんのお洋服を借りたいと思ってたから、それぞれトレードしたのよ」


 マジカルゆかりんが視線を美希姉に移すと、意図を汲んだ美希姉が話を続けた。


「──って事で利害が一致してね。それで、皆と一緒に朝食を取ろうと思って待っていたら、ご覧の通りの騒ぎになったわけよ」


 何故かドヤ顔をして胸を張るマジカルゆかりん。

 無い胸ではなくなった事が嬉しいのか、殊更ことさらたわわなものを主張していた。


「……なるほど。まぁ、そういう外見になったのと、お互いに私服を交換した経緯はわかったよ。んで、皆に説明をせずにオロオロさせてたのは何故?」

「俊之ちゃんが『そうした方が面白い』って言うから」「グラサンが『そうした方が面白い』って言ったから」

「二人とも、なんでアイツの言う事を素直に実行しちゃうかな…」


 二人の声が綺麗に重なり、俺の頭を悩ませてくる。

 そして、その元凶へ恨めし気に視線を送ってやると、得意げな顔でサムズアップをしてきやがった。


「…はぁ、何かアイツの手の平の上で踊らされてる感が半端ないけど、せっかくだし皆に説明するか…。

 皆聞いて。これは、昨日の勝者である二人のお願いを俺が叶えただけで──」

「私…昨晩、渉に大人にしてもらいました♪」

「私も、渉ちゃんに色々してもらっちゃった♪」

「──ちょ!? ふ、二人とも約束が違……ノーマン! お前の差し金か! こんちくしょう!」


 昨晩、二人にお願いされた内容。

 一つは、美希姉に老化抑制魔法アンチ・エイジングを教える事。

 もう一つは、老化魔法エイジングを使って年相応の姿を学園でも維持したいというマジカルゆかりんの要望を聞く事である。

 美希姉のお願いはともかく、マジカルゆかりんのお願いをなぜ俺が聞くことになったかというと、「大人の姿になった原因を、渉の魔法によるもの…という事にしたい」という理由からだそうな。


 今まで幼児体型だった生徒が、GW明けにいきなりグラマーになって戻ってきたら誰もが驚くだろうし、理由を問うてくるだろう。

 質問攻めを受けるのは面倒だし、できれば避けたい。だが、フル構築で理想の姿になれる老化魔法エイジングを会得したからさっさと年相応の姿になりたい。

 そんなマジカルゆかりんの悩みを一発で解決…というか、デコイにできる存在だったのが俺達である。

 この前のテロ騒動の際、俺とノーマンは自分達の秘密を皆に公開し、ただの学生では扱えないような魔法すら行使できる可能性がある事を明かしている。

 まさに、面倒事をなすりつけるにうってつけの存在になってしまったのだ。

 横で聞いていた美希姉も、その提案に乗っかる事にしたらしく予定していたよりも若返らせる気になったようなのだが…。

 勝手知ったる連中の前だからか、それともノーマンのいたずらに乗る事にしたのか、早速誤解を生むような発言をぬかしおった。

 マジカルゆかりんには特に、「誤解を生むような発言はするな」と念押ししたというのに…。


「「「渉…」」」「渉君…」

「「「「どういう事なのか詳しく聞かせてもらおうかしら?」」」」


 俺は、学園に帰ったあとに起こるであろう質問攻めの日々への苦悩を見据えつつ、「少なくとも、この4人の誤解を解くよりかは簡単だろうな」という相反する思いを感じていた。


 尚、笑顔のままお怒りになる莉穂姉、滝川、マチュア、由子お姉ちゃんの誤解を解くのに30分ほど掛かった。

 ついでに、誤解が解けるまでの間、ノーマンの首を絞めてみたのだが顔色一つ変えることも無く、俺の手が疲れただけだった。解せぬ。



  ▲▽△▼△▽▲



「「「「「えっ!? じゃあ、今日は修行しないの?!」」」」」


 食堂で朝食を取りながら、「昨日の時点で、俺とノーマンとで教えられることはほぼ全部教え終わっている」という旨を伝えた際の皆の反応である。


「いや、正確には俺とBBが教える必要がなくなったってだけだな」


 皆の考えを否定するようにノーマンが説明し始める。


「昨日の時点で、BBからある程度聞いているだろうが、理事長とマジカルゆかりんは神力精製量が皆に比べて少なく、神力を使った修行には向いていない。その代り、俺から神力のレクチャーを受けていたチームとは違い、魔法式のフル構築をマスターしている。そこで、今日は俺らの代わりに二人に魔法の師匠となってもらい、女性陣だけで修行をしてもらおうって話だ」

「実は、昨日の午前中の時点でこの案は考えていてね。午後の模擬戦と修行の経過を見た限り、実行可能だと判断したんだ。そもそも、俺もノーマンも、この研究所へは師匠が残した研究ノートを調べるためと、マージちゃんの戦力強化を目的として来る予定だったわけだし、今日は丸一日かけてノートを詳しく調べようと思っていたんだよね」


 実際は、師匠が残した異世界へのゲートを補修して俺達二人で師匠の元に行き、色々問い質しに行くという予定なのだが、研究所員以外の関係者には師匠は死んだことになっている。

 その辺の情報を修正してまで真実を教える必要もないだろうし、師匠の実力に憧れているマジカルゆかりんが居る今、一緒に行くとか言い出しかねないので黙っていることにした。

 莉穂姉達も「心配だから!」とかなんやかんや言って付いて来そうだしな。

 俺達二人だけなら、向こうで何かトラブルがあってもどうにかできる自信があるが、女性陣を護りながらとなると正直分からない。

 なんせ、師匠が元居た世界にはエーテルが無い、或いは極めて少ないという話なのだ。

 神力も魔力も、皆よりも遥かに溜めこめる俺達ならともかく、わざわざリスクのある異世界に連れて行くわけにもいかないだろう…というのが、俺とノーマンの共通した見解である。


「とまぁ、そういうわけだから。俺達は修行に参加しないけど、女性陣だけで目一杯頑張ってもらいたい」


 不承不承と言う反応が多い中、女性陣は演習場へ魔法の修行に。俺達は、昨晩俺が泊まった師匠の私室へと移動した。


 余談だが、俺たちのすぐ近くのテーブルでは、義父さんのたかしが義母さんの則子のりこに首元を押さえられ、義母さんの胸に後頭部を埋める体勢で「あ~ん」させられていた。

 ……昨日よりも、扱われ方が悪化している気がする。アレが幼児プレイってやつなんだろうか…。

 義母さんが「崇君は、こうやって餌付けしているときが一番可愛いわね♪」などと楽しそうにしている反面、恥ずかしさと諦めの混じった表情で淡々と食べる義父さんの顔が忘れられなかった…。



  ▲▽△▼△▽▲



「……できた。できたぞ! ……たぶん」

「BBにしては珍しく自信なさげだな」


「そりゃそうだよ。全く新しい試みなんだから。

 今までの様に、武器だの防具だの、そんな単純な威力云々でもない。空間転移魔法テレポートのような単純な座標移動でもない。さらに言えば、師匠が組んだ魔法陣をアレンジするって事を、この短時間でやったんだ。自信なんかそうそう持てるもんじゃないさ」


 師匠の部屋に来てから午前中の時間をほぼ使い果たし、俺は師匠が造った異世界へのゲートに刻まれていた魔法陣を魔法陣解析魔法マジック・アナライズで解析。

 使い捨てでしか機能しない状態になっていたものを修正したり、師匠以外は通れないようプロテクトが施されていたものを解除したりと頭を捻りながら修正していった。

 その間、ノーマンには研究ノートやその他の実験ファイルなどを調べてもらっていたのだが、昨晩俺が調べた結果と大して変わらない内容しか発見できなかったという有様である。ちくしょうめ…。


「ふぅ…よし。じゃあまず、俺が試しにゲートをくぐってみる。魔法式自体は覚えているし、俺が保有している魔力量なら、エーテル補給なしでも戻ってこれる計算だしな。

 安全だと判断できたら迎えに来る。そしたら、当初の予定通り二人で異世界調査だ」


「おう。無事に戻ってくる事を祈っておくぜ。…気を付けてな」

「うん!」


 金属製のドアのフレームめいた物の内側に刻んだ魔法陣に魔力を注ぎこむ。

 魔法陣が発動すると同時にフレームの内側に真っ黒い膜が広がり、水面の様に波打ち始めた。

 …師匠が異世界に旅立った時と同じ状態を作り出せた事に内心ほっとする。

 そして、意を決して膜の中に入るとそこは──


「……え? 扉?」


 ──真っ暗な空間に、星々をちりばめたかのような装飾が施された豪華な両開きスライドドアが、ぽつねんと設置されている場所だった。

次回も金曜日更新予定です。

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