第15話 - 修行終了と勝者のお願い
ちょっと今回は長めです。
「…理事長……渉が………私のポジションなのに!」
「伊藤さんはいつもイチャイチャできているでしょう! こんなチャンス今までは無かったのだから、私に譲ってくれても──」
「そ、それだったら、私にだって……」
気が付くと、莉穂姉と由子お姉ちゃんと滝川が、何やら言い争いをしていた。
ポジションが云々言ってるわけだが、一体何の話を……と、そこでふと気が付く。硬さがあるものの、ほど良い柔らかさを含んだ何かの上に自分の右頬が乗っている事に…。
間違いない。俺は今、膝枕をされている!
誰だ?! 一体、誰の膝…いや、太ももなんだ?!
すぐに確認したいところだが、ここは頬と手の感触だけで確認してみよう。利き酒ならぬ、利き太ももといったところか。
俺が左手を太ももの上に添えて少し撫でると、膝枕の主が驚いたように一瞬硬直したのがわかった。
「あら? 渉ちゃん気が付いたみたいね?」
「……っ!!?」
頭上から美希姉の声が響く。
ま、まさか、これは美希姉の膝枕なのか!?
俺は淡い期待と共に、声のする方に視線を向けた。
「ふふっ、おはよう。渉ちゃん。といっても、まだ10分も経ってないけど」
「お、おはよう美希姉……ん? ちょっと待って、おかしい。美希姉がそこにいるってことは、この膝枕の正体は一体?」
そう、おかしいのだ。俺は右頬を下に向けて寝ている状態であるのだから、美希姉が膝枕の主なら左から声が聞こえないといけない。
だが、美希姉の声は頭上…つまり、俺から見たら上方向から聞こえたわけで、そちらに目をやった際、美希姉の柔らかな笑顔と共に美希姉の全身も視界に入ってしまっていたのだ。
「ふふっ、本当に俊之ちゃんと渉ちゃんは仲良しよねぇ」
「ま…まま、まさか、この足は……」
“ぎぎぎ…”と錆びた機械のように首を横に向け、天井を仰ぐとそこには──
「BB、お・は・よ♪」
「ぎぃやぁぁぁあああああああ!」
──眩しいくらいに爽やかな笑顔のノーマンの顔が…。
俺は、「マジカルゆかりんにぶっ飛ばされた瞬間、すぐに身体強化で受け身態勢をとれば…」と激しく後悔することになった。
▲▽△▼△▽▲
「うぅぅ…。気絶さえしなければこんなことには…。よりにもよって、ノーマンなんかの太ももをサワサワするなんて気色の悪いことを…」
あのあと、慌ててノーマンの膝枕から飛び起きた俺は、近くの壁に“反省”のポーズで打ちひしがれていた。
聞くところによると、俺が倒されたときの衝撃音で莉穂姉達が目を覚まし、誰が俺を膝枕するかで早速もめ始めたそうな。
面白そうという理由から、ノーマンと莉穂姉達でじゃんけんをすることになり、勝者が俺を膝枕するという事で勝負したそうだが…ご覧の結果となったわけだ。
ノーマンのヤツ、皆がじゃんけんを出す瞬間の指の動きを全員分把握して、確実に勝ちに行ったらしい。何の嫌がらせだよまったく…。
「私からすればご褒美なのに、なんて贅沢な! だったら気付いた時点ですぐに代わって欲しかったわよ!」
「不本意ながら、そこの生意気な獣耳娘と同意見ね!」
利き太ももなんてアホな事するんじゃなかったと嘆いていると、莉穂姉達と同じタイミングで目覚めていたらしいマージちゃんと篠山ねーちんが怒りだした。
よく見たら、マージちゃんの耳が俺の方を向き、尻尾がピーンと立って毛羽立っている。口元は歯をむき出しにして唸る感じに閉じられている。
うむ、八重歯がチャームポイントだな。実に獣っ娘らしくてイイ──などと考えている場合じゃない、弁解せねば。
「いや、二人とも考えてみ? 俺がノーマンの膝枕を堪能して喜んでたら、そっちの方が大問題だろ。常識的に考えて」
「「……あれ?! 確かにそうだわ!」」
まったく、恋は盲目とかよく言うけど、この二人の反応を見ていると痛いほどその言葉を実感するな。
まぁ、俺が飛び起きたというのに、いまだに俺の膝枕権について口論している三人も大概だと思うが…。
「しかし、BB。よく考えてみ? 人類には男と女の二つの性別しかないだろ? つまり、常識的に考えると男は女とのみ、女は男とのみ甘酸っぱいドキドキを堪能すべきとなるわけだ。要するに、全人類の半分としか堪能できる可能性が無いって事になるな?」
さきほどから膝枕の時の体勢のまま動かなかったノーマンが、いきなりしゃしゃり出てきて諭すように話しかけてくる。
いい加減、足を綺麗にくっつけたまま膝から下を地面に対して斜めに降ろすという、女の子か男の娘にのみ許された座り方をするのをやめて欲しい。
ポーズだけ見ると、微妙に可愛らしく映るからムカツク。
「良く考えなくても、それについて違和感も問題もないだろうが。…っていうか、そっから先に続く言葉を何となく予想できるから聞きたくな──」
「その考え方こそが日本の洗脳教育!」
俺が話を切り上げそうな雰囲気を察したのか、ノーマンが両手を広げて大仰に立ち上がり、無理に話を続けてくる。
「いや、日本に限らず世界的に共通した見解だし、別に教育課程で習ったわけでもないし、そもそも生物的な本能──くそっ! たった一言なのに、ツッコミどころが多すぎて口が追いつかねぇ!」
「つ・ま・り・だ。同性同士でも堪能できれば、世界が広がると思わないか? 逆に言えば、異性とでしか堪能できない世界は、何か損をしている気分にならないか?」
まるで決め台詞かのようにニヤリと笑い、サングラスを光らせてこちらを向くノーマン。
「ならねぇよ別に。……もしかして、ノーマンは俺をそっち側に引き込むために、わざわざクラスメイトの前で俺にベタベタしてたのか? 黒薔薇三連星からあらぬ疑いをかけられて期待の眼差しで見守られるわ、腐女子の素養を持つ女性らが活発化するわ、いい迷惑だよ! メガンテするんじゃねぇ! 俺は莉穂姉ひとすじだっ!」
「…ッ、渉!」
「「…んなっ!?」」
俺の最後の言葉に、莉穂姉が喜び、他二人が絶句する。
つい今さっきまで口論してたのに、よく聞こえたな。聖徳太子と良い勝負ができるんじゃなかろうか。
「ちぇー、残念。…だけど、メガンテにはなってねぇぜ? 俺はむしろ楽しんでたくらいだし、ダメージを受けてたのはBBだけだと思うの」
途中からわざとらしくもじもじしつつ、拳で口元を隠しながらチラチラみてくるノーマン。
サングラス越しだから目線がイマイチわからん。それに、女の子にやられるのならともかく、引き締まった筋肉を持つタンクトップ男がやると、言動と相まって恐怖しか感じない。
コイツの場合、行動の基準が「自分から見て面白いと感じるか否か」が重要だと昔から言っていたので、今言った事も、「異性だけだと幅が狭くてつまらないから、同性もイケる性格になれば人生が楽しめるんじゃね?」という単純な考えによるものなんだろうが…。
学園では、まだまだクラスメイトと打ち込めないし、ネタ作りのために俺に絡んできてるのか…などと考えていたのだが、まさかバイセクシャルを目指していたとは……斜め上すぎる。
軍のベースキャンプとかで、ソッチ系の男性陣に手出したりしてねぇだろうな…。怖くて聞く気もないが。
「お前…もう、そんな領域に到達してたの? あれ? じゃあ、今夜同じ部屋で寝る俺って危険じゃね?」
「大丈夫だ、BB。俺は、ノンケでも食っちまう男じゃないんだぜ?」
「お前、テロ襲撃の際に黒薔薇三連星の前で『ノンケでも食っちまえる自信があるぜ』とか、とんでもない事口走ってたじゃねぇか! 素直に安心できねぇよ!」
「がーん…信用ねぇな、俺」
だって、もうなんか俺の処女の危険を感じるんだもの。
いや、なんだかんだでコイツも童貞仲間だから、俺が寝ている間に襲ってくるなどという恐ろしい事はしないと思うが、確実に悪ノリでふざけてくる気はするんだ。
枕投げとか、無意味にボディタッチしてくるとか…。枕投げは兎も角、ボディタッチに関しては男にやられても嬉しくねぇ…。
「とりあえず、あとで部屋割りの見直しをするか…」
「「じゃあ、渉の代わりに私を俊之と同じ部屋に──」」
「もちろん却下だ」
「「「じゃあ、私も渉と同じ部屋に──」」」
「おっしゃ、ノーマン。今日の修行の続きやるぞ!」
どストレートに願望をぶつけてくるマージちゃん、篠山ねーちんを軽く捌き。ついでに乗っかってこようとした莉穂姉、由子お姉ちゃん、滝川をスルーしてノーマンに声を掛けた。
「あいよ~。ところでBB、マチュアの起動方法が分からないんだが、どうすりゃいいの?」
「あ……通りで静かなわけだよ。忘れてた。……でも、起動したらしたで面倒だし、マチュアは修行しなくても硬いように設計されてるから大丈夫だろうから、終わるまで寝かしておいてやろう」
「BBって、マチュアに対しては割と容赦ねぇな」
だって、修行にかこつけて襲ってきそうな気がするんですもの。もちろん、性的な意味で。
▲▽△▼△▽▲
あのあと、当初の予定通り由子お姉ちゃんとマジカルゆかりんの二人には、ルーン文字を使った魔法式の構築修行を。美希姉、莉穂姉、篠山ねーちん、関口、滝川、マージちゃん、妹尾の七人には治癒及び、免疫の活性化の修行を行ってもらった。
由子お姉ちゃんとマジカルゆかりんの方は、魔法式のフル構築さえできていれば、あとはルーン文字をどこに使うかというだけの話だったので、使いこなすのに30分も掛からなかった。
強いて言えば、「ルーン文字の種類と効果を覚えるのが大変」と溢していたくらいか。
残りの七人も、魔力の使い方とは異なる神力の特性と、普段から健康で怪我もしないために効果がハッキリとは実感できなかったようだが、ノーマンや俺の監修の元、しっかりと効果が出ていることを教えながら修行を無事終えた。
尚、神力製リダクションアーマーについてはマージちゃんがマスターし、篠山ねーちんは気合と持ち前の神力の多さによって何とか扱えるレベルにまでこぎつけていた。他の五人は、展開は可能だが持続に難ありで、瞬間的に防御用として扱う分には…といった感じである。
少なくとも、リダクションアーマーに関しては、この七人が俺よりも先に進んでいることになる。
別に悔しくは無いのだが、微妙に切なくなってくるので今度こっそりと練習しておこうと心に誓った日であった。
「それにしても、マージちゃんが神力を扱ってなかった事に驚きを禁じ得なかったな」
「俺も、何度か教えようとしてみたんだが『いざって時は、王子様に助けてもらいたいものなの! だから、俊之の足手まといにはならないようにはするけど、俊之には及ばないくらいの強さでいたい』とか、キュンキュンさせてくれる事を言ってきてな…。欲望を抑えるのが本当に大変だったんだぞ。危なくルパンダイブするところだったんだからな」
「もう、男にまで手を広げようとせずに、女だけで十分だろうが…」
「確かに、それでいいような気がするんだけど、同時に何となく勿体ない気がするのも事実なわけでな」
「いや、俺も別に、同性愛を拒否ってるわけじゃねぇよ? 薔薇には興味ないけど、百合だったら興味あるしな。黒薔薇三連星にBL本見せられた事もあったが、特に忌避感も無かったし」
俺の反応に、同士を得たりといった感じに顔を輝かせるノーマン。
「なら、もう一歩踏み込んで、一緒に探求をや・ら・な・い・か?」
「さて、二人にはこんな施設の端までご足労願ってしまってすまない。昼に賭けていたお願いを聞こうと思ってね」
「おっと、まろやかにスルーですか」
忌避感が無いだけで興味も無い世界へのお誘いは聞かなかったことにして、俺は呼び出した二人の方を向いた。
二人と言うのは勿論、昼間の模擬戦で俺にクリーンヒットを当てる事ができた美希姉とマジカルゆかりんである。
現在、俺達が居るのは、居住区とは離れた位置にある施設。その端に位置する防音性能に優れた大会議室の一角だ。
盗聴や盗撮をしようにも、師匠が作り出した無駄に防犯性能が高い魔法陣によってガードされているので、色々な面で最も信用のおける部屋である。
大浴場で模擬戦と修行の汗を流し、夕飯を終えた俺とノーマンは、美希姉とマジカルゆかりん以外を宿泊用の部屋に連れて行ってもらうよう職員に案内させ、二人に着いてきてもらったのだ。
ちなみに、宿泊部屋はもともと三人部屋を複数用意してもらうよう手配していたのだが、ノーマンに対して身の危険を感じた俺が「個室って人数分用意できそう?」と、義父の崇をとっつかまえて訊ねたところ、問題なく手配し直すことができた。
…いや、手配し直したというか──
「はっはっは! こんな事もあろうかと…こんな事もあろうかとぉ! 念のため、マチュアを含めた11人分、個室も用意しておいたのさっ!」
──と、義父があらかじめ用意していたものを使う事になっただけである。
これを言っているときの義父のテンションが、妙に高かったのが印象的だ。
やはり、「こんな事もあろうかと」という台詞は、科学者的に一度は言ってみたいものなのだろう。俺もその気持ちは痛いほど良く分かるからな!
尚、急遽由子お姉ちゃんが増えたので、部屋数は一部屋足りていない状況なのだが、その件に関しては俺の方で別途対応策を取る予定である。
由子お姉ちゃんには、俺が宿泊する予定だった部屋を使ってもらうよう話をしておいた。
「こんなところまで連れてきた理由だけど、皆の前では言いづらいお願いだったりするかもしれないという配慮からなんだ。無駄に長距離を歩かせることになったけど、その点は許して欲しい。ここなら、盗聴も出来ないよう魔法陣が刻まれているし、声も外に漏れないのでね」
「ふふっ。そういう所を配慮してくれるあたり、渉ちゃんは昔から頼りになるわね」
風呂上りの匂いといつもの笑顔が合わさり、魅力がググッとアップしている美希姉が、不意打ちで褒めてきた。
あかん。莉穂姉ひとすじとか言いはしたが、ちょっと美希姉にクラクラしそうだ。
「…ンンッ! あ、ありがとう。そ、そういうわけで、もしも聞かれたくないというのであれば、一人ずつ部屋に入ってもらってお願いを聞くけど、二人ともどうする?」
「私は、菜月さんが居ても構わないわ」
「私も同じく問題ないわ」
二人がお互いを見たあと一度頷き合い、俺に視線を戻してからハッキリと答えた。
「OK。じゃあ、まずは美希姉のお願いから聞こうか」
「あら? 私には特に注意喚起はないのかしら? 『公序良俗の許す範囲で…』とか」
少しおどけた感じに美希姉がからかってくる。
「美希姉だったら、そういった類のお願いをそもそもしないだろうからね。その辺は信用してます」
「あら、嬉しい。そんな事言われちゃうと、ちょっとエッチなお願いにしてからかってみたくなっちゃうわ」
「待って! マジ勘弁して! 本気でドキドキしちゃうから勘弁して!」
「うふふっ。冗談よ」
艶めかしい表情を作りながら、頬に手を当てて小指を口元に置く仕草が凄くエロくて困った。
だが、ごちそうさまです! ありがとうございます!
「私のお願いは、老化抑制魔法を教えてもらう事よ」
「そういえば、テロ騒動のあとの説明タイムの時、妙に食いついてきてたっけ。…でも、なんでまたその魔法を? どうせ学園を卒業する際には、高等部のみの卒業生だろうと教える事になってるのに…」
「あと2年も待てないのよ。…ほら、私って昔から『大人びて見える』だの言われてたじゃない? 小学校の頃は嬉しかったんだけど、中学卒業頃には『大学生ですか?』とか言われる事もあったくらいで…」
美希姉、それ、中学に入ってからどんどん巨乳に育っていったからだよ、きっと。
セクハラになりそうだから言えないけど。
「それでね、今では『OLみたいな貫禄を感じるわ』とか友達に言われちゃって…。私、まだ大学2年生なのに…」
「いや、それは多分、老化抑制魔法云々関係なく、美希姉の落ち着いた雰囲気によるものじゃないかなぁ…と、俺は思うんだけど」
「と・に・か・く! 私のお願いは老化抑制魔法を教えてもらう事なの。…ダメ、かしら?」
目のやり場に困る爆乳の上に両手を置いて、悲しそうな表情で上目づかいでこっちを見ないで下さい。
欲情しそうになるから!
「ダメ…じゃないです。教えさせて頂きます」
「ありがと、渉ちゃん♪」
うって変わって“パァッ”と音が聞こえそうなくらいの笑顔になる美希姉。
くっ…なんて魅力的な笑顔なんだ。年上好きの俺にはたまらん。
ふと顔をそむけると、ニヤニヤしているノーマンと目が合った。
「フッ…童貞乙」
「お前もな!」
さて、魔法式はあとで教えるとして、最後にマジカルゆかりんの願いだな。
「…ンン。じゃあ次、マジカルゆかりんの願いは?」
「私のお願いはね……」
マジカルゆかりんのお願いは、俺に何かをしてもらう…といったものではなかった。
なかったのだが…。
「……マジかよ。いやまぁ、端折らずに説明してくれるのなら俺は構わないけどさ…誤解させるような言い方しないでくれよ、頼むから」
「えぇ。約束するわ」
平たい胸を逸らし、自信満々な笑顔で胸を叩くマジカルゆかりんを見て、学園に戻った際に起こるであろう騒動を、ひとしきりシミュレートすることにした。
「学園に戻ったら、BBはあらぬ誤解を受ける事間違いなしだな」
「オイ、フラグになりそうな事を言うのマジやめろ! マジカルゆかりん。仮に変な誤解を受けた場合、ちゃんとマジカルゆかりんからも正しく説明してくれよな! それだったら、その願いは俺の名のもとに許可するから!」
「良いわ! 私も弟子を困らせたいわけじゃないからね」
一抹の不安を胸に、俺は二人の願いを叶えた。
そして、学園で起きるであろう騒動を、俺は早くも翌朝から体験することになったのである。
次回も金曜日更新予定。




