第12話 - 大乱闘スマッシュ幼馴染ズ(前半戦)
タイトルはアレですが、ダメージを蓄積させて場外に吹っ飛ばす…という勝利判定ではないです。
「よし。各々、昼食の休憩も取ってコンディションはバッチリ。俺も全力を出すために、魔改造回転式拳銃も持ったし、スタン用ゴム弾のリロードシステムも装備済み。俺らにクリーンヒットを当ててきた女性陣から、どんな無茶振りなお願いが来るかも分からない。だから、BB、万が一も無いように俺のサポートは任せた!」
「……そもそも、こんなアホな多対2の勝負を実行しなけりゃいいだけの話じゃね?」
精神修行の一環の様な長く恥ずかしいランチタイムを終え、小休憩を挟んだ俺達は、再び演習場に来ていた。
今は、ノーマンが先ほど言った“俺とノーマンVS他多数”の勝負の開始を元気よく宣言したところだ。
尚、さんざんぱらバカップルぶりを披露した義母さんと義父さんは、それぞれの仕事に戻って行っている。
…義父さん、恥ずかし過ぎて気疲れしたのか、めっちゃゲッソリした顔してたな。午後の仕事、ぶっ倒れないように頑張ってくれ。
「何を言う。漢たる者、一度約束した事は貫き通さねばならない! 棒を持ってるだけに!」
「俺は了承した覚えはねぇよ。まぁ、反対した覚えもないけど…」
「…ったく、ちゃんとツッコんで来いよ。何のために棒が付いてると思ってんだか」
「お黙んなさい。少なくとも、ツッコミに必要なのは棒じゃなくてハリセンだ。……マチュアがボディを得てから小一時間ほどしか経ってないが、単純でお下品な下ネタには、もぅツッコミ疲れたんだよ…。言わせんな面倒臭い」
このままでは、ノーマンとマチュアのコンビでとんでもない下ネタ化学反応が起きそうで嫌だ…。
研究所に居る間だけボディに入れるつもりでいたが、このままだと「ボディごと学園に帰る!」とか駄々を捏ねそうだなぁ。
無理やり本体を引っぺがすのは可哀想な気もするし…。
見た目的には、20代中盤くらいをイメージして造られたボディだ。魔法もそこそこ扱えるから、教職員としても寮内の売店の店員としても仕事はできるっちゃできる。料理は作らせたことが無いし、俺のランチやディナーに妙な薬を混ぜ込まれそうな気がするから食堂で働かせるのは却下だ。
マチュアは無戸籍者扱いになるから正式に雇う事できないだろうが、人間が食える物を現物支給してやればボディが劣化しない限り永遠に動作できる。
あとで由子お姉ちゃんに打診してやるか。
「なるほど。…だそうだ、BBを狙う女性陣達。今なら誰か一人くらいBBにクリーンヒットを入れて、既成事実を作ってもらうというお願いをするチャンスがあるかもしれないぞ」
「俺がノーマンにクリーンヒット入れて、『今後セクハラ発言をしません』という誓いをお願いするってのもアリなんじゃないか…と本気で考え始めた件」
「マージと篠山ねーちん…ついでにBBには悪いが、俺はバリバリ絶好調なんでクリーンヒットは難しいかもしれんな。ハッハッハ!」
…殴りたいこの笑顔。身体強化も何もせずに殴ったら、俺の腕の方が変な方向に曲がっちまうからやらないけど。
「食事中にも釘を刺しておいたけど、あくまで公序良俗や道徳に反しないレベルの願い事にしてね。高校生で一児の父とか、戦国乱世でもない現代社会では常識に喧嘩売ってるにもほどがあるからな」
念のため…本当に念のため、改めて釘を刺してエロい方向へのお願いは却下という雰囲気を作っておく。
じゃないと、万が一の時が怖いんだ。…主にマチュアが。
ボディのスペックはある程度知ってはいるが、実戦はしたことがないから未知数である。
それに、幼馴染やマジカルゆかりん、由子お姉ちゃんも午前中だけで相当の能力を得ている。
確かにノーマンは余裕だろうが、俺の方は気が抜けない。なんせ、実戦経験なんてこの前のテロ騒動の時が初めてだ。それすら、教室と警備員棟で倒した二人以外はノーマンが文字通り秒殺していったから、まともな経験とは言えない。
まぁ、今回の模擬戦はノーマンがオフェンス担当で俺がディフェンス担当だから、師匠が想定していた俺達の本来の戦闘スタイルの良い訓練と言えるか…。
「というわけで、このコインが床に着いたら戦闘開始だ。…ほんじゃ、投げるぜ」
──ピィン
ノーマンが親指に乗せたコインを弾く音がする。
「えっ、ちょっと! まだ皆の了承が聞けてないんですけど?!」
「いいじゃん、クリーンヒットしなけりゃいいだけなんだから」
軽い放物線を描きながらクルクルと回転して落下してゆくコインの動きを、由子お姉ちゃん、美希姉、莉穂姉、篠山ねーちん、関口、滝川、マージちゃん、マジカルゆかりん、妹尾…と、どさくさに紛れて飛び入り参加したマチュアを含めた計9名と1体の瞳が追う。
尚、皆はランチ後の休憩の間に運動しやすい恰好に着替えている。
──チャリーン
着地の音が響くと同時に、美希姉、関口、マジカルゆかりん、妹尾以外の6つの影が我先にと動き出す。
教職員室やモニタールームでノーマンの動きを見ていたので、それよりかは遥かに動きが捕え易い……が、やはり速い。
何より、久々にボディを得たばかりのマチュアが、神力を覚えた4人並みにキレが良い事に驚きを隠せない。
「ちぃっ…防御壁魔法全方位展開!」
全方位をガードできるよう、俺とノーマンに球状の防御壁魔法を展開させる。
「うむ。これなら次にテロの襲撃があっても余裕で撃退できそうだな」
防御壁魔法に攻撃を与えてくる幼馴染達を見ながら、ノーマンが満足気に呟く。
確かに、これだけの動きができるのなら、残り42人の使徒と教祖が一気に攻めてきても余裕で対応可能だろう。
だって、目の前に迫る姉や幼馴染の拳や蹴り、由子お姉ちゃんから放たれる巨大で速射性の高い氷結魔法による氷塊攻撃、そのすべてが俺の防御壁魔法に阻まれるたび、俺から魔力が地味に減っていくのを感じるもの。
幸い、俺が持っている魔力保有量は皆よりも多いので、相手のスタミナが切れるまで防御壁魔法を張り続ける事は可能だ。
ただ、残念ながら今の様な猛攻を食らい続ける限り魔力回復に頼ることはできない。防御壁魔法を使用している場合、防いだ攻撃の威力に応じて魔力が減ってしまう上に、展開しているだけで魔力の回復量も落ちるのだ。
これは、他の魔法を使用している時も同様で、例えば飛翔魔法を使って空中移動している際も回復量は少なくなるし、急加速や急上昇をした場合は回復がストップする事があるほどだ。
学園の入学条件にもなっている“魔力保有量200”を下回る場合、全くと言って良いほど回復しなくなってしまうらしい。
防御壁魔法の場合は展開規模によって回復速度に差が出やすく、前面の上半身のみ程度なら飛翔魔法ほど回復速度が遅くなる事は無い。
そのため、学園で教えている防御壁魔法の魔法は、体全体サイズ、半身サイズしか無いとし、いたずらに魔力消費を行わせない様にしている。
しかし、今の俺の様に体の全面、しかも二人分を展開するとなると、フル構築による魔法式が必要になる上に並みの魔女では展開自体が失敗するような魔力を消費する事になる。仮に発動できたとしても、自分の分だけで発動が手一杯になるはずだ。魔力回復はほぼ間違いなくストップする事だろう。
…まぁ、何が言いたいのかと言うと──
「──俺への攻撃が4人分で、ノーマンが2人分。あと4人が様子見って感じだから、お前の分のシールドを切っていいか? 攻撃が激し過ぎて魔力回復が追いつかん」
「え? 俺を犠牲にするとか酷くね? まぁ、別にいいけど」
我ながら薄情な話だとは思っていたが、ノーマンのヤツは顔色一つ変えずにあっけらかんと了承してくれた。
切るタイミングはノーマンが合図してから…という事で話がまとまる中、ふいにノーマンが俺をみて質問してくる。
「んで、BBは俺への供給を絶ったあとはどう動くつもり? そのまま攻撃を防いでいたら、いくらBBでもジリ貧なんじゃねぇの?」
「ん~、皆のスタミナが切れるまで待つって戦法も不可能じゃない程度には魔力の余裕はあるんだけど、時間が掛かるのは確かだな。だから、魔導具開発の以外ではあんま使う事が無いルーン文字入りの魔法を使って対応する予定かな」
「なるほど、了解だ。……よし、解除してくれ」
「あいよ」
俺の回答に満足気に頷くと、攻撃が止む頃合いを見計らったノーマンが防御壁魔法を切る際の合図をする。
魔法が切れると同時に弾丸のように駆け出したかと思うと、一気に篠山ねーちんを追い抜き背後からゴム弾を発射した。
篠山ねーちんがガクッと倒れ意識を手放すのを確認したノーマンは、すぐに一番の強敵足り得るマージちゃんに向かっていった。
篠山ねーちんも、神力を操るようになったので反応が上がっているはずなのだが、流石は実戦経験豊富なノーマンといったところか、無駄のない動きで背後に回り込み延髄目掛けてぶち当てていた。
いくらゴム弾とはいえ、一般人の延髄に当てたら死ぬ可能性が高いのだが、神力による身体強化を行っている篠山ねーちん相手だったので気絶で済んだようだ。
死なせずに済むという確証はあったんだろうが、女性相手になんとも恐ろしい事をやる…。
まぁ、俺も女性相手に魔法をぶっ放さないといけないので、人の事は言えないわな。
「さてと…んじゃ、威力を指定する部分の式を“ブランクのルーン”と、友情や保護を意味する“Zのルーン”で挟んで……滝川、すまない」
魔法式の構築完了と共に一瞬防御壁魔法を解除し、丁度ライダーキックで突っ込んできた滝川の足を掴んで雷撃魔法をゼロ距離射撃する。
「キャッ…」
可愛らしい悲鳴を上げて滝川が意識を手放したので、お姫様抱っこで受け止めてそっと床に下ろす。
これで、二人目の戦闘不能である。
滝川にしては珍しくパンツスタイルだったので、皮膚に触れることはなかったが、スタンガンよりも強力な電流が滝川の体を駆け抜けた事だろう。
見た目的には、ノーマンの銃撃よりもえげつない威力に見えるが、ルーンの影響により命に別状は無い。さらに言えば、乙女の柔肌に焦げ跡などもできないよう配慮された不思議システムとなっている。
「よし、まずは一人目…マチュア相手にはたぶん効かなそうだから、近距離戦をしている莉穂姉を次のターゲットとして──っぶね!」
防御壁魔法を展開しないまま次の行動方針を決めていたら、マチュアの蹴りが飛んできていた。
たっちの差で回避には間に合ったが、服に少しかすってしまった。まぁ、クリーンヒットではなかったのでセーフである。
「ちぇっ、もう少しだったのに」
「ったく、『自分が雷撃魔法の餌食になるかも』って考えなかったのかよ…」
「渉は私のボディの価値が正しくわかっているから、下手に壊すことはしないし、できないでしょ? それに、今の様な威力控えめのやつなら一時的に機能不全を起こす程度でもないと見た。…なら、攻めの一択よ」
「くそっ、正しく認識してやがる! まぁ、その通りだ。だから、お前を倒すのは最後にさせてもらう…ってわけで莉穂姉、すまないがしばらく寝ていてもらうよ!」
俺とマチュアがやり取りしている間に、横に回り込もうとしていた莉穂姉に向き直り一気に距離を詰める。
背後から攻撃されても良いように、背面から側面までを覆う形状で防御壁魔法を展開しつつ、先ほどの雷撃魔法と同じ式を構築して発動待機状態での特攻である。
「ふふふ…、いいわ。私も全力で一撃を狙わせてもらうから覚悟しなさい」
そう言うと莉穂姉はおもむろに両手を広げ、俺を捕まえるような動作で襲い掛かってきた。
もしかして、ベアハッグ? いや、単なる両手チェップという可能性もあるが、ベアハッグじゃないか、これ?
どうしよう、この攻撃にクリーンヒットという概念が適用できるかわからないけど、非常に埋もれてしまいたくなる誘惑が……ハッ、まさかそれが狙いか!? くそぅ、何たる策士。
「くっ…だが、その誘惑、振り切らせてもらう!」
手を伸ばせば莉穂姉に触れて雷撃魔法を扱える距離。しかし、捕らわれてしまわないよう、あえて莉穂姉の左側に回り込んで手を伸ばす。
そして、見てしまった。莉穂姉がニヤリとしたのを…。
「バスケでもサッカーでも、渉はいつも相手から見て左側に避けるのよね。今回もそうしてくれると思っていたわ」
「なん…っ?!」
音がしそうな勢いで莉穂姉の上半身が俺の方を向いた。
しまった、ここまで予想されていたか!
けど、ここで掌底を放ちながら魔法を極めてしまえば……。
──ふよん
「あん…義弟のファーストベロチュー頂きまぁす♪」
「んぐっ…」
最初に感じたのは、右手に収まらないたわわな柔らかさ。そう、莉穂姉の巨──いや、爆乳である。
あろうことか莉穂姉は、自分のおっぱいをわざと掌底の軌道に乗せ、俺の動揺を誘ったのだ。
そして、ベアハッグと思われていた両手で俺の顔を固定し、艶めかしい吐息と一緒に口内を舐り始めた。
「「……あぁっ!!?」」
「「「「うわぁ…」」」」
「ウホッ!」
「俊之、私たちもしよっ!」
時間的には数秒も無かっただろうが、嬉しさと驚きのせいですっかり雷撃魔法の発動を忘れていた俺の耳に、由子お姉ちゃんとマチュアの悲鳴。そして、呆れとも憧れとも感嘆とも取れる溜息と、ノーマンとマージちゃんの声が聞こえ、忘れていた魔法発動を行えた。
普通であれば電撃が口内を通じて俺まで感電しそうなものだが、雷撃魔法を含む攻撃系の魔法式は基本的に“自分以外のみ効果対象”として構築するので、もつれ合った状態で発動させても使用者は無傷である。
「…ンッ!」
「ぷはぁ……な、なんと恐ろしい攻撃を考え付くんだ莉穂姉は…」
やたら満足げな表情で気絶する莉穂姉を、頭を打たないように抱きとめて床に寝かせた瞬間、物凄い殺気と共にシールドに連続した衝撃が襲い掛かってきた。
「な、何事……っ?!」
「渉君どいて、そいつ殺せない」「渉どいて、そいつ殺せない」
由子お姉ちゃんとマチュアが本気でお怒りになっていた。
っていうか、理事長とはいえ学園に携わる人が生徒を殺す発言はどうかと…。さすがに本気じゃないとはいえ……本気じゃないよな?
それと、マチュア。お前、ロボット三原則を知らないのか? …あ、そういや根幹部分に設定し忘れてた気がする。
……よし、とりあえずアレだ。二人には速攻で寝てもらうとしよう。
後半へ続く。




