第05話 - 再会、義両親
─ 2012年4月29日(日) ─
「ふぅ…。間に合って良かった」
「久しぶりの親子の再会だというのに、着いて早々『部屋に案内しろ』と引きずった挙句、『CM中以外は話しかけるな』とか、我が儘言いおって…」
「あれ? 義父さん、居たんだ」
「ねぇ、扱い酷くない? 莉穂に比べて、僕の扱いが酷過ぎないかな?」
プリキュアを無事見終わって悦に入っていた俺に、義父である伊藤崇が半泣きで文句を言ってきた。
俺と同じく縁の太い眼鏡をかけているが、こちらは度付きの本物の眼鏡である。髪型はスポーツ刈りだが、顔立ちが温和なため非常に弄りたくなる雰囲気を出しているアラフォー男子だ。
いつもノーマンに弄られている俺だが、義父さん相手だと俺の方が弄る側に回ってしまうという珍しいタイプの人種である。
思い返してみれば学園から転移した直後、俺は出迎えとして待っていた義父さんをとっ捕まえ、部屋までの道案内訳として引きずったっけか。
そして、無事部屋に着いたと同時にテレビを点け、今に至る…と。
……あぁ、義父さんを開放し忘れてたわ。そりゃ横に居ても不思議じゃないな。
というか、“莉穂姉と比べて扱いが雑”なんて当たり前じゃないか。俺は、自他共に認める重度のシスコンだぞ。例え実の父だったとしても、莉穂姉より雑に扱うに決まっているじゃないか。
「それより義父さん、魔法用の演習場とマチュアのボディ、他の皆への施設の案内は済ませてある?」
「流した?! 今、しれっと流したね?! …まぁいい。もう慣れたよ、悲しいけど。
はぁ…、演習場もボディも準備済みだよ。すぐに使えるくらいだ。施設案内は、則子が嬉々として案内してる…と思う。小一時間くらいは掛かるだろうから──あと20~30分くらいは戻ってこないかな」
ぞんざいな扱いについて文句を言いたかったんだろうが、“いつものこと”として諦めたようだ。
そもそも義父さんは、幼少の頃から義母さん──則子の尻に敷かれていた。つまり、その時から弄られキャラとしての下地ができ上がっていたと言っても過言ではない。
ちなみに、莉穂姉からも俺からもかなりぞんざいに扱われているが、決して嫌っているからというわけではなく、親子のスキンシップの一環として弄っているだけである。本人からすれば不本意だろうけど。
それに、幼馴染・器量好し・美人・学業優秀と色々揃ってる義母さんと結婚できた時点で、周りの男どもからやっかまれるくらいの幸運に見舞われてるんだ。今のキャラポジは、その帳尻合わせと思ってもらおうじゃないか。
「そっか。じゃあ、今のうちにマチュアの調整に入ろうかね。…義父さんはどうする?」
「もちろん僕も付いて行くよ。マチュアのボディだって凍結場所とは違う部屋に移してるんだから、案内がいるでしょうが」
「さっすが義父さん! 下僕根性染み付いてるぅ!」
「それ褒め言葉じゃねぇからっ!」
うむ、今日も義父さんは絶好調だ。このやり取りをしてると、実家に帰ってきたって感じがするね。
ここ、研究所だけど…。
▲▽△▼△▽▲
「じゃあ義父さん、あと宜しくね~」
「息子よ、君は僕の事をパシリか何かと勘違いしてやいないだろうね? 宿泊部屋の準備から何から急に押し付けてくるし」
「ちゃんと、使い勝手の良い頼れる父として見てるよ。だから、普段だったら自分で準備するような事だって押し付け──頼れるんじゃない」
「おい、ところどころ本音が駄々漏れだぞ!」
「はっはっは。ってなわけで、散歩行ってきま~す。そのまま演習場の方に行くから、昼前に機動できたらそっちに来るようにマチュアに伝えてね~」
ドアが閉まる直前まで、義父さんが何かを喚いていたみたいだが気にせず散歩に出かける。
以前と変化している所はないか探しながら歩いていると、後ろからノーマンの声が聞こえてきた。
「BB~」
「おぉ、ノーマ──ぐぇ…」
「BBが俺を置いてどっか行くもんだから、俺まで研究所内を連れ回されちまったじゃねぇか。篠山ねーちんとマージが両腕をホールドしてくるわ、おばさんからも生暖かい目で見られるわ、地味に恥ずかしかったんだぞ!」
「ふ…ふはは…ざまぁ。今までお前にやられていた事の意趣返し大成功……と言いたいところだが、プリキュア見るのに必死だっただけで、計画なんてありませんでしたごめんなさい離して」
振り向いた瞬間、ノーマンにヘッドロックを掛けられてしまった。喉に腕を回され、頭をしっかり固定されているせいで、凄く話しづらいし微妙に息苦しい。
くそっ、何が悲しくて、男の鍛え抜かれた胸筋に頭を埋めにゃならんのだ。
しかも、筋肉もりもりマッチョマンなもんだから、高反発素材ちっくで微妙にクッション性が良いのがむかつく。
これが莉穂姉や由子お姉ちゃん、滝川とかなら普通に感動できただろうに…。特に莉穂姉のだったら、マジで昇天する可能性まであるね。
「俊之、いきなり走り出してどうしたの──って、渉…なんて羨ましい」
流石は本気のノーマンの動きに付いて来れる女、マージちゃん。どこから走ってきたのかわからないけど、いつの間にか目の前に来ているあたり凄いと思います。…って、それどころじゃなくて!
「羨ましいなら交代してあげるから、指を咥えて見てないで早く助けて下さいお願いします」
「うん。俊之、今すぐ渉を離して代わりに私を抱きしめるべき」
言うや否や、いきなりマージちゃんが俺の腕を全力で引っ張り始める。
だが、ノーマンの方も離す気が無いようで、俺はヘッドロック状態のままだ。
「痛だだだだ…待って。マージちゃん待って、全力で引っ張るの止めて! 腕と首がもげる!」
何という馬鹿力だ。魔力を全力投入して首周りと腕全体を強化しているというのに、ミシミシという嫌な音が体から聞こえてくる。
まったく、これだけの力を掛けているというのに、なんで微動だにしないんだこの二人は!?
こいつらの足は、靴を通していても地面と接着できる何かを分泌しているんじゃあるまいな。
「俊之~」
「「渉~」」「渉く~ん」
そうこうしている内に、美希姉、関口、妹尾、マジカルゆかりん以外のメンバーが到着しだした。
「…ちょっと渉、何羨ましいことされてんのよ。早く私と代わりなさい」
着いて早々さっき聞いたようなこと、篠山ねーちんが半ギレ気味に言ってくる。
貴女方には、俺が苦しんでいるように見えないのだろうか。
「篠山ねーちんも、マージちゃんと同じことを言うんだね。 ねぇ、本当に羨ましい? どう見てもこれ、胸に顔を埋めてるんじゃなくてヘッドロックかまされてるだけだよ? 大丈夫? ちゃんと認識できてる?」
「それでもいいのよっ! いい? 頭を俊之の胸元にくっつける、コレが重要なの」
なるほど、胸に頭が接触していれば満足だと。…確かに、莉穂姉の胸に頭を埋められるのなら、顔じゃなくても十分って思える気がするぞ。
「フッ…楓は必死ね。その必死さに免じて、俊之の胸は譲ってあげるわ。私が堪能したあとにねっ!」
マージちゃんが、余裕そうな表情で語りだしたと思ったら、結局自分が最初にやりたいという本音をぶちまけやがった。
「あ~ら、マージってばご冗談を。あなたね、海外暮らしが長かったからって勘違いしないでちょうだい! 日本には“年功序列”ってもんがあるのよ! つまり、この場合は私が最初で、次がアンタ。OK?」
「ふぅ…これだから『体育会系は…』ってバカにされるのよ。だったら私は、万国共通の“早い者勝ち”制度を使わせてもらうわ!」
ここ10日間ほど、目に見える牽制をせず無言で威嚇し合う二人だが、ついに牙を剥き出したようだ。
今までは、お互いの出方を見るという様子見期間だったのだろう。
ふふふ…、ノーマンよ。ついに、お前の時代が来たぞ。
それにしても、小一時間ほど前に莉穂姉と理事……じゃなくて由子お姉ちゃんとの山と山のぶつかり合いを見たせいで、篠山ねーちんの迫力が薄れている気がするな。
普段はスポーツ少女なだけあって、「もう少し小ぶりでも良かったんだけど」などと言っている篠山ねーちんなのだが、今はマージちゃんの胸に圧倒されているせいか凄く悔しそうな表情である。
ちなみに、篠山ねーちんの胸部装甲は決して小さくはない。平均よりも大きい部類に属する、いわゆる巨乳である。
ただ、莉穂姉を始め、美希姉、由子お姉ちゃん、そしてマージちゃんと、巨乳を通り越して魔乳の域に達しているキャラが多いせいで普通に見えてしまっているだけだ。
家電量販店で「冷蔵庫って思ったより小さいんだな…」と思ってたのに、購入して家に置いてみると大きくてビックリするあの現象である。
「ほら、ノーマン。お前の胸を巡って美少女が争ってるぞ。『私のために争わないでっ!』って言うチャンスなんじゃねぇの?」
「アレをやる時は、両手を広げて二人の間に割って入らないといけないだろ? そうなると、BBの拘束を解いちゃう事になるわけだ。まだ俺は」
ちくしょう、引っかからなかったか。
研究所の廊下は割と広めだが、これだけの人数が集まると流石に手狭になるから、このアホな状況を終わらせたかったのに!
「まったく、いきなり走り出したかと思ったら、こんなところでじゃれついてたのね。ホント、いつまで経っても子どもなんだから…」
無駄だと思いつつも、全力でノーマンを引っぺがそうとしていると、義母さんが呑気な事を言いながら歩いてきた。
アラフォーなのに、由子お姉ちゃんとそう変わらない見た目をしている美魔女である。
髪は黒のセミロングで、キリッとした顔立ちのデキる女といったオーラを出している。この辺の特徴は、莉穂姉へ見事に受け継がれていると思う。
「義母さん…、息子がヘッドロック掛けられてるのに『じゃれついてる』の一言で済ますのやめようぜ」
「何言ってるのアンタ。俊之君が本気で首を極めてたら、胴体と頭が繋がってるはずないじゃない。だから“じゃれついてる”は、正しい表現よ」
「その判断基準は確かに正しいとは思うけど、正気が削れそうなことをサラッと言うなよ…。耐久力を強化してなかったら、本当にそうなってたかもしれないって一瞬想像しちゃったじゃないか…もぅ」
「あら意外、地味に極まってたのね。
さて、世間話はこれくらいにして、そろそろ演習場に行きましょうか。こんな大人数で一ヵ所に集まってたら邪魔になるし」
頬に手を当てて驚きの表情をしたかと思ったら、仕切り直しと言わんばかりに手を打って義母さんが移動を促す。
いや、今のは世間話って言えるような内容じゃないと思うんだが…。
「はーい。おばさん、罰ゲームとして渉をこのまま引きずって行ってもいいですか?」
「あら俊之君、面白い事を言い出すわね? “おばさん”ですって? さっきも警告したように、次“則子さん”って言わなかったら、ゼロ距離雷撃魔法を見舞うわよ」
凄味のある笑顔のまま、義母さんが右手に稲妻を迸らせる。
見た目は若いが実年齢はアラフォーなんだし、おばさん呼びが現実味を帯びてきて嫌なんだろうなぁ。
「渉。アンタ今、失礼なこと考えてわね。
俊之君。その罰ゲーム、実行を許可します」
「了解、則子さん。では…ノーマン、行きまーす!」
「何故バレたああぁぁぁぁ?!」
ヘッドロック状態の俺をぶら下げたまま、ノーマンが器用に全力疾走し、俺の絶叫がドップラー効果を残しながら研究所の廊下に木霊した。
次回は修行という名の説明会になる予定です。




