第04話 - 転移部屋
幼馴染が目立った動きしないなぁ…(力量不足なだけ)
─ 2012年4月29日(日) ─
「で、BBさんや。こうして皆集まったわけだが、送迎用のバスに入りきるのか? さっきから正門付近が大人気みたいだけど?」
現在時刻は、日本時間の朝8時。
寮1Fのホールに、時間通りに俺を含め10人全員が集合したのを見計らって、ノーマンが俺に移動手段を聞いてきた。…こうして見ると、かなりの大人数だな。
本当は、ニチアサを見終わったあとで移動したかったのだが、研究所に用意してもらった部屋でもテレビは見れるというので、変身ヒーローの方を犠牲にして集まることにしたのだ。
リアルタイムでは見れないが、レコーダーには保存してるから問題ないしな。
さて、ノーマンが先ほどから気にしているのは、学園から下田駅まで直通の無料送迎バスが、満席になるのではないかという点だろう。
毎年GWシーズンは、下田駅への利用生徒が殺到するので、臨時の送迎バスが10本同時に来る。
送迎バスといっても、籠月財閥が本気で手配しているので、一台あたりに最大60人まで乗れる大型バスである。
それでも、生徒だけで600名以上居るので、全員が移動しようとした場合はギリギリといった感じになるのだが…。
「送迎バスなんか使わないぞ? もう、俺たちの素性は、性癖以外開示しちゃったわけだからな。一生徒として過ごすために、自重する必要はなくなった。ってわけで、使える手段は遠慮なく使う事にしたんだ」
「なんだ? この学校のプールの下に、F-22ラプターでも隠してて、そいつで研究所まで一っ飛びってやつか?」
「まさか。そんなんじゃ、操縦者抜きで1人しか運べないじゃないか。それに、日本国所属の防衛軍に『どっから引っ張ってきたんだ、その機体はっ!』って怒られちゃうじゃないか」
「…持ってる事自体は否定しないんだな?」
コイツ、ノーマンのくせに真っ当なツッコミを入れてくるじゃないか。
一昔前なら、「それもそうか」程度で流していただろうに。
「そこについては、ノーコメントだ」
「変形ロボに改造できたら、スコットとグレッグに教えてやれよ。あいつら、『渉なら、いつか絶対に合体ロボを完成させてくれるはず!』って興奮してたんだから」
俺の脳裏に、爽やか金髪碧眼のイケメンと、個性的なTシャツを身に着けたイケメンがサムズアップしている映像が浮かび上がる。
まったく、あの二人は特にジャパニメーションに毒され過ぎだな。
まぁ、合体ロボに興奮するのは、オタクとして非常に共感できる点ではあるけど…。
「残念ながら、それに関してはマニピュレータの耐久性に難があるから、拳で殴るといった挙動ができなくて詰まってる」
「…え? BB、もう挑戦済みなの? さっきからボケてるつもりだったけど、まさかガチだったなんて…これじゃ、ボケれないじゃないか!」
「何を悔しがっているんだお前は…。ちなみに、お前がメインパイロットをやりながら、システムの一部として強度の底上げに貢献してくれるなら、一発で解決するんだけどな」
「マジで? そのロボって、どんな外見してんの? それによっちゃあ、乗ってやっても構わんぞ?」
「ふっふっふ、ならば見てみるかね? 研究所に置いてあるから」
「おう! 見る見る。で、どうやって研究所に行くんだ?」
…無限ループって怖くね?
うん。アホなやり取りしてないで、さっさと答えを言ってやろう。
「あぁ、移動には──」
「空間転移魔法の魔法陣を使うんでしょ?」
「──マジカルゆかりんェ…」
「あら? ハズレだったかしら?」
「…いいえ、大当たりです。
…じゃ、答えも出ちゃったし、警備員棟に行こうか。魔法陣あるから」
▲▽△▼△▽▲
そんなこんなで、警備員棟に着いた頃には8時15分を過ぎていた。
まずいな、転移したらすぐに部屋に向かわないとプリキュアが見れない。
まぁ、俺がノーマンのボケに乗っちゃったせいだから、自業自得なんだけど…。
「おはようございま~す。先日ご連絡した通り、魔法陣使いに来ました~」
「あら渉君、おはよう。遅かったのね、理事長が待ちくたびれてたわよ?」
正門前の詰所を覗いて挨拶すると、テロリスト騒動の際にお世話になったリーダーさんが出迎えてくれた。
…物凄く、不穏な発言をしながら。
「あの…、今とてつもなく不穏な発言を聞いた気がしたんですが…。理事長が待ちくたびれてるとか?」
「えぇ、8時ぴったりからいらっしゃってるわよ? さっき『暇つぶしの相手に』と、大隈さんを連行して行ってしまったわ」
「そうか、美沙都さんが犠牲に…。それは…気の毒に…。
にしても、なんで理事長は俺の予定を知ってたんだろう?」
少なくとも、誰も理事長に連絡していないはずだ…。
だって、年中忙しそうだし、生徒としては基本的に会話する機会なんて無いし。
まさか、俺を盗撮したり盗聴してたりしてたんじゃないだろうな。
「あぁ、それは私たちから理事長に報告させてもらったのよ。渉君が何らかの形で外出申請を出したら、どんなに些細な理由だろうと連絡しなさい…って言われてるからね。
私個人としては、生徒のプライバシーに関わるからどうかと思ったんだけど、大隈さんからの報告では渉君と理事長ってプライベートでも仲が良いって話じゃない?
だったら、非常に黒に近いけどグレーゾーンって事で、この前申請をもらった時に連絡させてもらったのよ」
「いや、そこは断っちゃって下さいよ」
「BBは年上キラーだな」
「うっさいわ。お前だって、篠山ねーちんに好かれてるんだから、同じだ、同じ!」
それにしても、まさか警備員に根回しするとは…。
くそう、ノーマンのヤツは他人事だと思ってニヤニヤしてるし…。
いつか、お前にも修羅場が来るように祈ってやる。
「はぁ……まぁ、どうせ三人部屋を4部屋用意してるから、一人だけなら何とかなるか…。じゃあ、魔法陣使わせてもらいますね」
「えぇ、どうぞ入ってきて。念のため、部屋までは私が案内するわね。
それじゃ、渉君たちを案内してくるから、少しの間よろしくね。もし何かあったら、無線で連絡を」
「はい、リーダー。
渉君、いってらっしゃい。皆も気を付けてね」
リーダーさんが、正門と詰所を行き来するための扉を開けて入室させてくれた。
詰所に残ることになった警備員のお姉さんが、俺たちに声を掛けてくれたので、こちらも軽く会釈をしながら返事をする。
俺たちはリーダーさんの案内の元、魔方陣が刻まれた部屋へと移動した。
▲▽△▼△▽▲
「へぇ、渉君にもそういう時代があったのね~」
「そうよ~。それはもう、可愛かったんだから」
「あ、でも最近は年相応な感じがして、確かに可愛らしく思えますね。ちょっと、実家の弟を思い出しちゃいます。野間君が入学したからでしょうか? 前までは若干大人しめな雰囲気でしたが、最近は元気な印象を受けますし」
「そうね~、同い年の少年…それも、歩さんが造った人造人間仲間だからかしら…。最近は、はっちゃけた感じがするわね。その点だけは、ちょっと野間君に嫉妬しちゃうわ」
リーダーさんに案内された部屋に入ると、美沙都さんと理事長が俺の話で盛り上がっていた。
背もたれ付きの木製のベンチに優雅に腰かけながら、そりゃもう楽しそうに。
案内してもらった“転移部屋”には、直径2m前後の魔法陣が10個、文字通り床に刻まれている。
通常、魔法陣を物体に貼り付けても、供給した魔力が切れてしまえば、雑巾で乾拭きした程度で綺麗に消せる。
しかし、伝導性の高い金属(金、銀、銅など)に魔法陣を刻むと、削り落とそうとしない限り消すことはできなくなるのだ。
ちなみに、携帯電話などに使われている導電性プラスチックでも同様の現象が起きる。
この部屋には、その現象を使った円形の銅版が等間隔に配置され、床にガッチリと固定されているのだ。
ベンチが配置されている理由は、帰宅時に混み合うため、座って待てるようにという配慮からである。
残念ながらそれが裏目に出て、帰宅前にここで長時間おしゃべりに興じるという利用者が後を絶たないらしい。…目の前に居るこの二人の様に。
「なぁBB、どうしてこんなにベンチが用意されてるんだ? 魔法陣を起動させれば、一瞬で帰宅可能なんだろ?」
「あぁ、空間転移魔法の魔法って魔法式を構築したら分かるんだけど、凄まじく面倒な構成してるんだよ。
魔法構築の際、自分を起点として、移動先までの距離、高さを明確に指定するって式を作る必要があってな。今でこそ、衛星写真とかを簡単に見られる世の中だからイメージは楽になったけど、それでも正確に指定するってのは難しいだろ?
そこで、空間転移魔法の魔法陣のメモリ領域に登録した陣同士をリンクさせれば、そういった煩わしい座標指定を省けるんだが、立て続けに別の魔法陣を指定しようとすると、リンクエラーを起こしやすくてね。安全に使うために、一度使用したあとに60秒のインターバルを設けようって決まりができたんだ。
どこぞのRPGみたいに“いしのなかにいる”とか、なりたくないだろ?
そんなわけで、帰宅ラッシュ時に人が多く集まれば、その分だけインターバルの回数が増えて待ち時間が増えるから、少しでも息抜きできるようベンチを用意しているってわけ」
「ふぅん。どことなく駅の待合室っぽい雰囲気になってるのは、そういう理由からか」
俺がノーマンの質問に答えていると、話し込んでいた美沙都さんと理事長もこちらに気付いたようだ。
「渉君、俊之君、おっはー」
「渉君、15分の遅刻よ。待ち合わせの時は、15分前集合を心掛けなさいね」
「美沙都さん、理事長、おはよう…って、理事長。俺はちゃんと寮のホールでは15分前には居ましたよ!
そもそも、俺は理事長と待ち合わせの約束した覚えは──はへっ」
いきなり立ち上がった理事長が、ヒールとは思えない速さで俺の前に移動したかと思うと、おもむろに俺の両頬を引っ張りだした。
顔は笑顔だというのに、何だ、このプレッシャーはっ…!?
ってか痛い。この人、わざわざ身体強化の魔法を使って頬を引っ張ってるっぽい。
そうか、力技で逃げられないようにしてるんだ。
しかし、なんで急に…。
「渉君。モニタールームの天窓補修の際に決めた約束、もう忘れちゃったのかしら?」
「あ……」
そうだった。テロリストを防衛軍に渡したあと、強化ガラス張り替えをお願いした時に、「罰として、公私を問わず『由子お姉ちゃん』と呼ぶように」とか約束させられてたっけ…。
ちなみに、ガラスについては超特急で依頼を掛けたおかげか、一昨日の昼には付け替え作業が終わっていた。
張り替えは籠月財閥直轄の業者に依頼しており、魔法の存在についても他言しないよう暗示をかけているので情報漏洩対策は完璧だ。
「だからあの時、天窓を犠牲にするの止めたのに…。で、BB、どんな罰ゲームをさせられる事になったんだ? ホラホラ、さっさとゲロっちまいなよ、YOU!」
ノーマンが、ワクワクした感じで俺の脇腹を小突いてくる。
くっそ、どこまでも他人事だと思って楽しみやがって…。
「ご…ごめんなさい。由子お姉ちゃん…」
「はい。よくできました」
「ちょっと、籠月理事長! 渉を苛めて良いのも、可愛がって良いのも、義姉である私の権利です! 勝手に義弟のほっぺたを引っ張らないで下さい!」
「いいえ。これは苛めでも可愛がりでもなく、約束を違えた相手に対して行ったお仕置き──当然の権利です。だいたい、姉だの弟だの言ってますが、義理ではありませんか」
「うほっ! BBを巡って、巨乳同士がキャットファイトか?!
おいBB、こういう時は『止めて! 私のために争わないで!』とか言うべきじゃねぇの?」
頬から痛みが引いたと思ったら、今度は莉穂姉と理事──由子お姉ちゃんとの言い争いが始まってしまった。
何やら権利が云々言っているが、苛められるのも可愛がられるのも、性的な方が好ましいんだがなぁ。
ノーマンが額をテカテカさせながら、ノリノリでアホな事を言っているがスルーしてやる。
「渉、大丈夫?」
そして、ここぞとばかりに滝川が両手で俺の頬を包み、治癒魔法を掛けてくれた。
何という女子力だろうか。莉穂姉が居なかったら、俺の好感度がだだ上がりしているところだった。
「サンキュー、滝川。おかげで痛みは引いたよ。さてと…。
はいはい、お姉ちゃんたち。盛り上がってるとこ悪いけど、早くしないとプリキュアが始まっちゃうから、そこの魔法陣に移動してね~」
「え? ちょっと、渉君?」「ちょ、渉、待って」
二人がにらみ合っている中に割って入り、それぞれの手を取って魔法陣に誘導する。
一番近い位置にある魔法陣への魔力供給と、研究所の魔法陣とをリンクさせるための手続きをほぼ同時に行いながら、二人を銅版の上に立たせる。
「向こうに着いたら、義父さんが待ってるはずだから、指示に従ってね~。
はい。じゃあ、レディファーストってことで、いってらっしゃ~い」
何か言いたげに口を開きかけていた二人だったが、有無を言わさず魔法陣を起動させたので、次の瞬間には目の前から消えていた。
文句は9時以降に聞くから、今暫くは勘弁してもらおう。
「よしっ。じゃあ、次、滝川来て。同じ場所への転移だから、インターバル無しでじゃんじゃんいくよ~」
それから1分後──
「では、リーダーさん、美沙都さん。何かあったら、即ここに飛んできますんで、お仕事宜しく願い致します!」
「「ええ。いってらっしゃい」」
リーダーさんと美沙都さんに笑顔で見送られ、俺は魔法陣を起動した。
「…行ったわね。それで大隈さん、理事長と渉君の話で盛り上がってたみたいだけど、何か面白い話聞けたかしら?」
「ええ、そりゃもちろん。…といっても、渉君の年齢が一桁の頃の話ばかりでしたが」
「なるほど、昔からぞっこんだったわけね。それとも単にショタコンだったのかしら」
「どうですかね。ただ、今回の旅行で少しでも距離を縮めたいと息巻いていたみたいですから、何らかの進展があるかも…ってところです」
「でも、一筋縄ではいかなそうよ? 気の強そうな渉君のお姉さんや、さっきさり気なく回復魔法を掛けてた女の子も居るわけだし」
「そうですね~。週末、戻ってきた時に突撃インタビューしちゃいましょうか?」
「ええ、そうしましょう」
……週末、警備員のお姉さん方の期待に満ちた目が、俺を出迎えるという事なんて考えもせずに…。
次回も、来週金曜日更新予定です。




