第03話 - GWの予定
なぜか、予約投稿がうまくいってなかった…。
─ 2012年4月22日(日) ─
「お~、BB。 遅かっ……何があったんだ?
あれか、空腹過ぎてマジで倒れる5秒前的なやつか?」
リビングで魔改造回転式拳銃のメンテナンス中だったノーマンが、俺のやつれ具合を見るなり空腹のせいと勘違いしてきた。
「いや、むしろ食い過ぎって感じ?」
俺の返答を聞いたノーマンが、頭の上に「?」が浮かびそうな勢いで首をかしげる。
「食い過ぎって、一体何をそんなに食ったんだよ?」
「強いて言えば、愛情と好奇の視線かな」
「おい、普通に飯を食えよ。 だからそんなにゲッソリしてんだよ」
アホな回答にマジレスしてくるノーマンが、想定以上に純粋だった件。
「ごめん、半分冗談。
本当は、サイコロステーキ定食とハンバーグ定食を莉穂姉と。
Wプリン・ア・ラ・モードを滝川とで、それぞれ半分ずつ食った。
でもそれ以上に、さっき言ったやつで食傷気味なんよ…」
我ながら説明になってないとは思うが、今の俺にはあんな恥ずかしい体験を語る気力がない。
わざわざ心配してくれているところ悪いのだが、ノーマンにはこのまま諦めてもらうとしよう。
「???
本当、何があったって言うんだか…まぁいい。
そんな事より、さっきからマチュアが怒り狂った様に喚き散らしてたんだが、あの人工知能は情緒不安定になる機能でもあるのか?」
「なんだそりゃ?
人間とスムーズな会話ができる様にはしてるが、わざわざそんな機能を付けようと思うほど、俺たちは酔狂じゃないぞ?
……っていうか、今は静かじゃないか?」
「今はな。 10~15分くらい前までは、もうハンカチを噛んで悔しがる貴族の令嬢みたいに『キーッ!』って叫んでたんだぜ? マジで」
あー……それたぶん、食堂での出来事を見てたからだ。
これはもう、研究所にあるマチュアのボディの凍結を解除した方が良いな。
動けないままだと、人工知能業界初の理性崩壊を来たしそう。
「…それ、原因分かったわ。 別段、マチュアがおかしくなったわけではないから大丈夫。
いや、ある意味おかしい状態だとは思うんだけど想定外の方向というか…。
どの道、今はどうにもできないから放置で」
「いいのかよ? BBは聞いてないからわからんかもしれないが、凄い剣幕だったんだぜ?
俺が何があったのか聞いても『私にもボディがあれば!』とか繰り返すだけだったし。
あんなんで、警備に支障は出ないのか?」
ノーマンの指摘は御尤もなのだが、今すぐにどうこうできる話でもない。
それに警備については、人間味のあるマチュア本体の思考ルーチンではなく、マチュアの分析・判断ルーチン部分をコピーして切り分け、監視作業に割り振っている。
故に、俺の行動をストーキングしながら嫉妬に悶え狂っていたとしても、警備業務に差し支えはないのだ。
…単に俺の部屋の中が喧しくなるだけで。
「まぁ、来週までは何もできないしね。
そうそう、来週…GWになったら、お前とマージちゃんも連れて、研究所に泊まり込みに行くからそのつもりでな」
「…それは構わんのだが、俺たちが居なくて学園は大丈夫か?
警備員も魔女とはいえ、また光学迷彩ベルトを使われたら、一昨日みたいに制圧されちまうんじゃないか?」
勉強のポイントや魔導具の使い方を説明するたびに「分かった」くらいしか返答しなかった、あのノーマンが、さっきから至極真っ当な事を心配してきている。
周りが軍人だらけという強者ばかりの状況から、守るべき対象が増えたことによって、責任感とかが養われたのだろうか。
何にせよ、良い傾向だ。
「暫くは大人しくせざるを得ないと思うが、万が一また上陸して来たら、あれと同様の魔法に対しては対応策が完成したから大丈夫。
制圧される前に感知して、テロリストの人数が多そうならすぐに俺に連絡が来るようになってる。
あとは、俺たちがどこに居ようと、警備員棟の中にある空間転移魔法の魔法陣にノーマンを転移させれば、数秒で反撃態勢に移行できる。
戻るときは、まだノーマンじゃ移動先を指定して転移できないだろうから、全て終わったら俺が回収しにくればいい」
光学迷彩ベルトへの対応策というのは、ソナーによる調べ方をするといったものだ。
あのベルトで作られる光学迷彩膜は、光、魔力、電波、音波を膜に沿うようにいなして反対側に通過させるといった特徴がある。
そのため、センサーの類は異物が引っかかったという認識をすることが無く通過できてしまうのだ。
この理屈でいけば、膜の中は真っ暗になってしまうはずなのだが、光に関してだけは膜内にスクリーンの様に映し出される仕組みになっていた。
ただし、その他は全く使う事ができなかったので、魔力による通信、電波による通話、外部の会話が一切膜の中に入ってこない。
スパイ用途として優れているくせに、会話が拾えないので役に立たないという微妙な代物である。
物理的な衝撃に関しては、ある程度膜が変形して吸収するのだが、限界を超えれば中に貫通できる。
要するに、古典的なワイヤートラップ系が最も効果的というわけだ。
だが、そういった物をいちいち設置していけるほど、時間があるわけではない。
そこで、ソナーの出番である。
学園には、俺が数か所に設置した魔力センサーがあるのだが、今回はそれをソナー式に魔改造してそれぞれを高所に設置する。
魔改造とはいっても、ソナー風に魔力を全方位に発射する魔法式と、発射した魔力の反射を感知する魔法式を組み合わせた陣を装置に追加して刻むだけなので、魔法式さえ組上がってしまえば量産は容易い。
あとは、電力を魔力に変換する陣を追加すれば、モニタールームの魔法陣みたいに魔力を注ぐ必要もなくなるので便利だ。
ソナーで見つける仕組みとしては、膜によって移動距離が伸びた魔力反射の歪みを捉えるといったものだ。
複数台で魔力反射を見るので相当の情報処理が必要となるのだが、そこはマチュアのコピールーチンを用いて処理すれば十分な性能が出せる。
これで、映像と比較して不自然な魔力反射を検知すれば、そこにテロリストが潜んでいると特定する事が可能となる。
「なるほど。 発見に関しては、確かに問題なさそうだな」
位置情報さえちゃんと分かれば、あとは一対一の形に持ち込むだけである。
そうすれば、警備員だけで対処可能だろう。
教祖アリサのあの態度がフェイクとは思えないから、どうせ殺傷性の薄い武器を持たせるだろうからな。
もしフェイクだったとしたら、初襲撃の際に30人も送り込んできた癖に、わざわざ殺傷性を殺したAK-47を人数分も渡すとは思えない。
それに、師匠が裏で絡んでいた事から、教祖アリサ自身はテロ行為を好むような人物ではないと言えるだろう。
何せ師匠は、第二次大戦中に戦死者を出したくないという思いだけで、自分の分身を数十体生みだす技を編み出し、世界各国合わせて数百人程度の死亡者数で収めるというミラクルをやってのけた男である。
それでも自殺者を含め、死者が出てしまった事を心底悔やんでいたみたいだが。
そんな師匠が、何故ラスト・ワンの親玉に協力していたのか、その理由がさっぱり分からない。
普通に考えれば、さっさとラスト・ワンを解体して教祖アリサを仲間に引き入れそうなものなんだが…。
まぁ、その辺もハッキリさせたいから、研究所へ行こうとしてるんだけどね。
「一つ疑問なんだが、なんで研究所に行けばハッキリするんだ?
師匠の日記でも漁るのか?」
「違う違う。 一昨日言ったろ? 師匠が作ったゲートがあるって。 そのゲートが、研究所にあるんだよ。
で、そのゲートの魔法陣を解析して、俺たちが使っても問題ないかを確認して、問題なければ向こうに行って師匠を引っ叩く。
そして教祖アリサと結託していた理由を小一時間問い質す…と、こういう予定だ」
「あ~、師匠を引っ叩くのは、BBの中で決定事項なのね」
「そりゃそうだろ。 ラスト・ワンの存在を何も教えずに、自分は姉とキャッキャウフフするために異世界に帰って行ったんだぞ?
俺だって莉穂姉とキャッキャウフフしたいっつのに、こんな面倒事押しつけやがって!
ってなるだろ? あ、でもノーマンは引っ叩いちゃダメね。 シャレにならないから」
「へいへい。 それで、来週の何時にどこへ集合すれば良いんだ?
BBからマージに連絡すると拗れそうだから、俺からメールするんで教えてくれ」
「そうだな……じゃあ伝説の人気番組“8時だヨ!全員集合”にあやかって朝8時に1Fホールに集合で」
「あいよ。 んで、持って行くものは何を用意すればいい?
あと、何日くらい泊まり込む予定だ?」
「パジャマと着替えだな。 泊数としてはGW中ずっとかな。
ノーマンとマージちゃんの魔法の修行をついでにやっておきたいからね。
洗濯機と乾燥機があるから着替えは多くなくてもいいけど、バスタオル、歯ブラシ、歯磨き粉は持って行かないといけないかな?」
「了解。 んじゃ、早速マージに連絡しとくわ」
「ああ、頼……いや、ちょっと待ってて!」
しまった、何のために午前中まるっと断食する羽目になったと思っているんだ。
試作品1号ができたんだし、早速ノーマンに手渡しして貰った方がいいじゃないか。
俺は急いで自室に戻り、出来上がった試作品を持ってきてノーマンに見せる。
「BB、そのシールっぽいのは一体何だ?」
「今朝言ってた、マージちゃんの尻尾を別空間に飛ばすための魔法陣を粘着質部分に刻んだシールだ。
生憎と人体用のものじゃないから、長時間貼り付くことはないだろうが、取り急ぎ5枚作った。
マージちゃんに渡して使い心地を確認してもらいたい。
ってわけで、届けるついでにGWの件を連絡してくれ」
「届けるつったって…あの幼女の部屋に居なかったらどうするのさ?」
「シールを取ってくるついでに、マチュアに居場所を確認してもらったところだから大丈夫。
部屋に反応があるって言ってた」
「ストーキング行為が捗るな…まぁいい。 じゃ、行ってくるぜ」
「いってら~。 あ、ついでに『俺が一番頼りにしているのは、マージだぜ(キリッ!』とか言っておいてくれ。
そうすりゃ多分、俺への態度が少しは軟化してくれると思うからさ」
「へいへい」
思えばこの時、「研究所に行くことは、他の皆には他言無用で」とノーマンに断っておけば、あんな事にはならなかったんだろうな…。
▲▽△▼△▽▲
「あ、居た居た。 渉~」
夕飯時の食堂で、どの食券を買おうかと悩んでいると、菜月先生が金髪ツインテールを揺らしながら、パタパタと走って来た。
ちなみに、ノーマンは部屋で備品のチェックとメンテナンスをしており、あとで一人で食べにくるとのことだ。
「ん? 菜月じゃないか。 どったの? 一人でこんなところに来るなんて」
今は上級生も多い場なので、念のためマジカルゆかりん扱いではなく、クラスメイト扱いにしておいた。
知らない人たちから視線が集中すると、菜月先生は恥ずかしがって真っ赤になってしまうからな。
場を見て呼称を変えないといけないから、呼ぶのが面倒だ。
テロリスト襲撃事件さえなけりゃ、こんな面倒なことにならずにすんだってのに…おのれ、ラスト・ワンめ!
…話を戻すが、菜月先生が一人で食堂に来るというのは極めて珍しい。
ドジッ娘属性のある彼女は、基本的に誰かと一緒に食事しておかないと大変な事になる。
なぜなら、彼女一人でトレイを持とうものなら、バランスを崩して料理を床にぶちまける事になるからだ。
実際、何度かそのような場面に出くわし、涙目になって倒れ伏している姿を見たことがある。
そういった理由もあり、菜月先生が一人で食堂に来るなんて自殺行為と言える。
今も食堂に居合わせたクラスメイト数名が、「誰か一緒に食べる約束してたっけ?」みたいな目配せをしているが、そんな事に気付くことなく菜月先生が話しかけてくる。
「来週、渉が産まれた研究所に行くんでしょ? 皆の魔法の修行も兼ねて。
私も歩さんの研究所…というか魔法研究の資料に興味があったから、その合宿に参加させてもらえないかしら?」
「菜月も一緒に? でも、イギリスに住んでる両親の元に行くって……ん?
待って、今“皆”って言ったか? 俺の他には、ノーマンとマージちゃんしか行かないハズだが?」
「そうなの? さっきグラサンオールバックが来た時、マージに『念のため、改めてメールする』って言ったあと、『ついでに、皆にも伝えておくか…』とか言ってたわよ?
ちなみに、ママとパパのところには空間転移魔法で簡単に行き来ができるから問題ないわ」
なん…だと…。
ってことはノーマンのヤツ、しれっと部屋に戻ってきた時には、既に幼馴染の皆にメールを送ったあとだったってことか?
でも、皆にもそれぞれ予定があるだろうし、数少ない実家に帰る機会だ。
莉穂姉、滝川、篠山ねーちんはついてくる可能性が高いとして、美希姉、関口、妹尾はさすがに実家に帰るだろう。
…そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年4月23日(月) ─
昨日、夕食後にノーマンに小言を言って落ち着いた俺は、特に幼馴染へ訂正のメールを送ることも無く、1Fホールでノーマンと共に皆を待っていた。
高等部校舎に着くまでの5分程度の間だが、学校のある日は毎回ここで合流してから登校している。
他の生徒たちも俺たちと同様に、待ち合わせしてから登校するグループがちらほらと見受けられる。
待ち合わせるといっても、大学に通っている美希姉は始業時間が異なるので合流する事は無い。
故に、この時間に合流しているのは、あくまで高等部の生徒になる。
そのはずなのだが…どうしてだろう、莉穂姉たちの後ろに、アッシュグレーのゆるふわロングの巨乳美女の幻覚が見えるぞ。
まるで美希姉が居るみたいダナー。
ふぅ…どうやら俺は、思っていた以上に疲れているらしい。
早く莉穂姉の匂いを嗅いで落ち着かなきゃ…。
「渉~、おはよ~」
「莉穂姉、おはよう。 早速だけど、おはようのハグを──」
「渉ちゃん。 来週は私たち全員、魔法修行に参加させてもらうわ。
日曜日のこの時間に、ここに集合でいいのよね?
ちょっと大人数の修行になって大変だと思うけど、宜しくね♪」
「──アッハイ」
やっぱ幻覚じゃなくて本物の美希姉でした。
そして、大規模合宿が確定してしまったでござる。
「仲間が増えるよ! やったね、BB!」
おい馬鹿やめろ! これ以上、厄介なフラグを立てんな!




