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オタクウィザードとデコソルジャー  作者: 夢見王
第二章 ドキッ!女の子だらけのGW~修行もあるよ!~
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第02話 - 食堂(カフェテリア)の死闘

ちょっと長め。

少年漫画風の死闘は無いです。

  ─ 2012年4月22日(日) ─


「うぅ…」


 先ほどから、空腹を訴える胃袋の悲鳴が体に響くなぁ…。

 早朝から頭を使い、朝食も食べずにぶっ通しで魔導具開発したのは流石に堪えたか。

 いつもだったら大したことないはずの警備員棟と学園寮までの距離が、恨めしいほど遠く感じる。


「1Fの売店でサンドイッチを大量購入するか…。

 いや、少し豪勢に、食堂で日曜限定のメニューを頼むのもありだな」


 籠月学園の食堂は、月曜から土曜にかけて、朝食から夕食は全て学費に含まれているため無料である。

 その代り、自分で好きな料理を選び、食器に取っていくというビュッフェ形式となっている。

 時間帯によっては人が集中してしまうので、西、東、中央の3箇所に同じ料理を用意して人を分散させるよう配置されている。

 尚、2F東端は厨房となっており、調理師免許取得しているOG主導の元、家庭部所属の学生が数十人態勢で毎日調理している。

 流石に昼食の用意に関しては、授業時間と重なるためOG数名だけで時間をかけて準備するらしい。


 さて、これが通常の食堂の運用体制なのだが、日曜日だけは料金を支払う事になる。

 その代り、通常時の料理よりもやや豪勢なラインナップが出現し、ビュッフェ形式ではなくなる。

 いつもならカバーが掛かっている食券販売機が開示され、セットメニューやデザートが購入できるようになるのだ。

 そう、デザート。デザートが出てくるのですよ、ザーボンさん、ドドリアさん。


 ビュッフェ時にも、栄養価の観点からなのかヨーグルト、フルーツ各種、シリアル、フルーツソースや蜂蜜、カラフルなチョコチップが用意されているので、やろうと思えば簡易パフェが作れると言えば作れる。

 だが、スイーツ好きな人ならお気づきになるだろうが、アイスの類が一切無いのだ。

 プリンやケーキなどいわんやである。

 月曜から土曜にかけて、摂取可能なスイーツはとても健全な内容になってしまうのだ。

 もちろん、十代女子の健康を考えれば、糖質、脂質過多になりやすい洋菓子は目に入らない方が心に優しいとは思う。何せ、「食べたいけど我慢しなくちゃ…」と葛藤する事もなくなるのだから。

 だが、無ければ無いで物足りなさを感じてしまうのも人間というもの。

 ローマイヤ先輩が帰ってしまった後の彼らみたいに、スイーツに飢えた女子の心がすさんでくるのだ。

 日曜日のメニューは、その救済措置として用意した…と、師匠から聞いたことがある。

 実際、魔法を使う時は魔法式の構築による頭脳労働と、魔法起動の際の魔力消費で結構なカロリーを消費するから凄く洋菓子が恋しくなるんだよね…。


 そういったわけで、日曜日の食堂はご褒美の空間という印象が強い。

 そして、今の俺はとても空腹だからガッツリ食べたいし、とても頭を使ったからスイーツも食べたい。


「よし、食堂に行こう」


 俺は美味いものをたくさん食べようと、足取りも軽く食堂に向かった。

 この選択が、まさかあんな出来事に繋がるとは思わずに…。



  ▲▽△▼△▽▲



「……学生証を持ってきてなかった」


 慌てて出かけていたため、学生証を部屋に置いたままだった事に、食券販売機の前で気が付いた。


 学園内では基本的に財布を持ち歩く必要が無く、学生証にチャージしたお金で物を購入するという流れになる。

 学園内にある自動販売機も、学生証対応式の特注品である。

 勿論、普通に貨幣や紙幣を使う事も可能だが、専ら学生証で購入する人ばかりだ。

 仮に学生証を落としたとしても、学園に居る生徒はモラルが高い人ばかりなので、持ち主本人に手渡しするか、寮1F入口の受付けに届けてくれるため悪用されることはない。


 では仮に、外部の人が公然と入ってこれる学園祭の時期に落としてしまい、部外者がシステムを知っていて使おうとした場合どうなるのか?

 答えは、「エラーが発生して使えない」である。

 学生証には、ICが内蔵されている…かのように見せかけているが、実際は魔力認証を行っている。

 学園で初めて魔法の授業を行う日に、一番初めに習うのが学生証へ魔力を流す方法だったりするので、“学生証を使う=魔法の練習にもなる”という感じだ。


 尚、創立された1931年当初からこのシステムは組まれていたとのことだ。

 発案兼製作者である師匠は、当初は称賛を浴びていたそうだが、数年後、卒業者が出始めてからは卒業生から文句を言われたらしい。

 なんでも「学園での生活が快適過ぎて、一般社会の技術力の低さに合わせるのが面倒」という内容が多かったそうだ。

 その後の火消作業として、当時の師匠の人脈を総動員してオーバーテクノロジーにならないギリギリの範囲で卒業生の私生活をサポートしまくったらしい。

 そうこうしている内に第二次世界大戦が勃発し、世界各国で民間人の被害を最小限にするため、師匠が色々とてんやわんやする羽目になったとの事だが、どうでもいい話だな。


 兎に角そういったわけで、学生証も無く、財布ももちろん持ってきていない俺は、敗残兵の様にとぼとぼと自室に取りに行かなきゃいけないわけだ。

 くそう、空腹感が己の惨めさを一層引き立ててくる…。


「渉? どうしたの、そんなに悲愴感漂わせて…」

「え? 莉穂姉?」


 エレベーターホールに差し掛かったところで莉穂姉とすれ違った。

 俺はエレベーターのドアしか目に入っていなかったのだが、流石は莉穂姉だ。

 一昨日、この場所で俺の匂いに気付いた実績を持つ人は伊達じゃなかった。


「くっ! 空腹も手伝って周りが見えてなかったとはいえ、莉穂姉に気づかないとは…姉好き(シスコン)の名折れだ!」

「ちょっと渉、どうしたの? 大丈夫? お姉ちゃんに甘える?」


 キリッとした表情を柔らかくした莉穂姉が、俺をダメ男にするような発言をしてくる。


 いつもは左右の耳の上の髪を、2~3回ひねりながら後ろでまとめているが、日曜日なので三つ編みにして後ろでまとめている。ちょっとした冠みたいでイイと思います。

 今日の私服は、白いパンツルックに、薄ピンクのオープンショルダーフレアブラウスか…。

 個人的には、パンツルックだったらTシャツとロングカーディガンあたりを着た方が、莉穂姉の顔立ちと合ってカッコイイ立ち姿になりそうだなと思う。

 でも、本人としては少しでもキツ目の雰囲気を和らげたいんだろうな。

 まぁ、莉穂姉は美人だから、余程奇抜な服じゃない限り何でも似合うどね!


 それはともかく、俺にそんな甘い誘惑をかけられたら、「姉好き(シスコン)ですからね。 乗るしかない、このビッグウェーブに」ってならざるを得ない。


「…うん、甘える。 莉穂姉、あとでチャージするからデザート込みでお昼買わせて…」

「なんだ、そんな事? その程度だったら、チャージなんて要ら……っ!?

 ねぇ渉、チャージは要らないから、その代りお姉ちゃんのお願い聞いてもらえるかしら?」

「お願い? そりゃもう、何なりと! 足を舐めろと言われたって悦んで舐めるよ!」

「うふふ…それじゃあね──」



  ▲▽△▼△▽▲



 今、俺の目の前には箸に摘ままれたサイコロステーキがある。

 肉汁が垂れそうだが、絶妙な力加減で摘まんでいるからか、滴り落ちるといった事はない。

 香ばしい匂いに誘われるがまま、早く口に運んで味わいたいという思いはあるのだが…。


「…あの、莉穂姉?」

「はい♪ あ~ん♪」

「…マジでやらなきゃダメ?」

「『何なりと!』って言ったでしょ? はい♪ あ~ん♪」


 俺の注文したサイコロステーキ定食、莉穂姉の注文したハンバーグ定食をそれぞれ購入し、二人で食べ比べしようという提案までは良かった。

 ご飯の大盛りは無料だし、二人で分けても俺がガッツリ食べることが可能だからな。

 ただ、俺が手を使ってはいけないという点だけが想定外だった…。


 もう周りからガン見されちゃって、嬉しさよりも恥ずかしさの方が圧倒的に上だ。

 今までも人目を気にせず抱き着く事は何度となくしてきた俺だが、こいつは凄く恥ずかしい。


「あ…もしかして、口移しの方が良かったかしら?」

「ごめんなさい今食べます、すぐ食べます。 あーん! ……んっ!?」


 半ばやけくそ気味に箸先を咥えたのだが、口に入れた瞬間サイコロステーキのジューシーな味と香りが広がり、実に美味だった。

 漫画やゲームなどで「恥ずかしくて味がよく分からない」とかいう場面を見かけるが、ここの家庭部は恥ずかしがっていても、しっかりと味わえる料理を作れる点が優れていると思う。

 もともと空腹だったからという可能性も十分に考えられるが…。


 でも、もし口移しされてたら、味がよく分からなくなってたかも。

 たぶん、俺の胸に押しつぶされてむにむにと変形するおっぱいの感触しか、記憶に残らない事になってたと思うね!

 …うん。断言できる。


「うふふ…どう? 美味しい?」

「うん、美味しい。 …すっごく恥ずかしいけど。

 あ、ご飯をガッツリ欲しいです」


 莉穂姉の方は周りの視線などどこ吹く風で、俺のリクエスト通りガッツリとご飯を取ってくれた。

 しかも、俺の口の中に入ってもちゃんと噛めるくらいの絶妙な量である。

 何という甘やかしスキルだろうか。

 羞恥心さえなければ、今の俺はとても幸せだった事だろう。

 俺は肉の美味しさも手伝って、先ほどよりも抵抗なくご飯を食べることができた。


 ふっ…もう何も怖くない。

 このまま「あ~ん」だけで食べつくしてくれるわ!


「あーっ! 渉に莉穂姉! 二人で何やってるのっ?!」


 俺と莉穂姉が座っているテーブルの対面から、滝川の怒声が聞こえてきた。

 白いフレアスカートにグレーのカットソーと、落ち着いた雰囲気の服を着ているが視線は鋭い。

 飾り気のないシンプルなロングストレートにした焦げ茶の髪が、まるでアニメの様にユラユラと少し浮き上がっていて、お怒りであることが視覚的によく分かる。

 すげぇ…感情と魔力が合わさって、体中から負のオーラとしてにじみ出ている。

 いつもは優等生然とした雰囲気の滝川が、こんな風になるだなんて…。

 これが若さか…って俺も同い年だったな。


「ちっ…見つかったか。 あらあら、どうしたの奈津美ちゃん?

 そんなに大きな声を出して? モブキャラ優等生らしくなくってよ?」


 いやいや莉穂姉こそ、そんなお嬢様っぽい口調で煽ってどうしたの?

 それに、滝川はどちらかと言えば正統派ヒロイン枠ですよ?

 俺の性癖が特殊だから莉穂姉がヒロイン扱いだけど、普通のギャルゲーだったら滝川がメインヒロインの立ち位置だからね?


「モブキャラってなんですか?!

 いえ、そんなことより、抜け駆け禁止って条約ありましたよね!

 いきなり反故にする気ですか!」


 滝川は滝川で、モブキャラの意味は分からないまでも、バカにされてるニュアンスは感じ取ったんだな。

 だが、単語の意味よりも莉穂姉が余裕ぶっている方を問題視したのか、キッと睨みつけながら条約の事を出してきた。

 そういや、マチュアが盗聴しててブチ切れていたな「私が条約の中に入っていない!」って。


「いいえ、条約には反してないわ。

 だってこれは、渉からお願いされた事だもの」


 滝川が顔に影を落としながら、ゆっくりと俺に顔を向けてくる。

 まるで、「莉穂姉の言ってる事は本当なの?」と言わんばかりだ。

 普段大人しい子がキレると恐ろしいというが、今の滝川は瞳のハイライトまで消えてるから更に恐怖度アップですわ。


「いや待って滝川。 俺は、『あ~ん』まではお願いしてないよ?

 学生証を部屋に忘れたから、莉穂姉にお昼代の前借りをお願いしたのは事実だけど、あとで返す予定だったんだ。

 返さなくていいから『あ~ん』させろって言い出したのは莉穂姉だからね?

 流石に俺だって、人前では恥ずかしいから『あ~ん』は頼まないよ? ホントだよ?」

「つまり、莉穂姉と二人っきりの時だったら、渉から頼んでもおかしくない話だと?」


 やだ、いまだかつて聞いたことが無いくらい、滝川の声にドスが効いているわ。

 さっき「もう何も怖くない」とか考えちゃったのが致命的だったのかしら?

 よく考えたら、周りはガチの魔女ばっかじゃねぇか…うわっ、フラグ回収早すぎ!

 マミられる? マミられちゃうの? 俺?


「ん~…いや、それはないかな。 まだ実家に居た時は、たま~に莉穂姉が『あ~ん』してきたけど、俺から頼もうと思った事はなかったからね。 流石に恥ずかしいし」

「…と、渉本人は申しておりますが? 莉穂姉、弁明なら聞いてあげなくはないですよ?」

「お気遣いありがとう。 でも、弁明なんか無いわ。

 これはあくまで等価交換。 ただのギブ・アンド・テイクよ。

 私はランチを提供した対価として、『あ~ん』をさせてもらってるだけ」

「そんな…ズルいです! 私だって『あ~ん』してみたいのに!」


 その「あ~ん」は、莉穂姉が俺にやってる意味の「あ~ん」なのか、俺をマミりたいという意味の「あ~ん」なのかで俺のSAN値の変動量が異なってくるなぁ…。


「ふっ…なら、私の代わりにデザートで『あ~ん』してみる?」

「いいんですかっ?!」


 かっこ良く髪の毛をサラッと流しながら台詞を決めたが、その内容は「あ~ん」させてやると言っただけである。

 一瞬にして滝川の負のオーラが消え去り、代わりに期待の声と輝かしいエフェクトが飛び散った。

 俺の死亡フラグは回避されたようだが、莉穂姉からすれば、敵に塩を送るようなものじゃないだろうか。


「もちろん、姉に二言は無いわ!

 だって、“この行為は抜け駆けではない”のだから。

 奈津美ちゃんにも、公平にチャンスがあってしかるべきですもの」

「ええ、そうですね。 “抜け駆け”なんてありませんでした」


 …あぁ、暗に「黙ってろ」という交渉材料にしたんですね分かります。


 それにしても、莉穂姉が俺の事を可愛がってるのは昔から不思議はないとして、滝川は俺の何をそんなに気に入ってるのだろうか。


「聞きたい? かなりあるから、結構長くなると思うけど」

「…今俺、口に出してた?」

「ううん。 ただ、『何で俺なんかに?』みたいな顔をしていたから」

「凄いな。 確かに『俺の何を気に入ったんだろう』とは思ってたよ。

 ひょっとしたら、滝川は精神系魔法か解析系魔法のセンスが良いのかもな」

「それはどうかしら。 見ただけで分かるのなんて、渉の事くらいよ?

 だって、十年前からずっと見てきたんだから…」

「えっ…!?」


 マジかよ、出会って間もない頃じゃないか。

 何かフラグを立てるような出来事あったっけか?

 もぅ、ちょっとやめてよね、そういうそれっぽいこと言うの。

 一瞬、本気でドキッとしちゃったじゃないか。

 莉穂姉や美希姉が居なかったら、間違いなく滝川ルートを選んじまうくらいの破壊力だったわ、今の。

 あと、胸の前で手を合わせてもじもじするのも止めて。

 俺の正面で、おっぱいがぷるんぷるん変形して目のやり場に困るから。


「さ…さぁ、渉。 まだまだたーっぷりとご飯はあるから…ほら、こっち向いて。 はい。 あ~ん」


 このあと、俺の心がグラついた事を察したのか、莉穂姉が妙に艶っぽくお箸を咥えながら自分の分を食べて「渉の味がする」とか呟いたり。

 わざと俺の唇にご飯粒をくっつけさせて、それを莉穂姉が摘まんで食べたりと、別の意味で俺をドキドキさせる作戦に打って出てきた。


 そんなこんなで、20分以上を費やして定食二つを平らげたあとは、デザートのお時間である。

 今回のデザートは、W(ダブル)プリン・ア・ラ・モード。

 ミルクプリンとカスタードプリンを二つ並べ、プリン・ア・ラ・モードらしくフルーツやホイップクリーム、ソフトクリームをあしらったスイーツだ。


 滝川も莉穂姉の姿を見ていて対抗心に火がついたのか、敢えてテーブルの反対側から体を前のめりにしてスプーンを差し出し、おっぱいを強調させたり。

 自分が食べる時に、偶然に見せかけてソフトクリームをおっぱいの上にこぼしたりと、視覚的に攻めてきて目のやり場に苦労させられた。


 莉穂姉からは無言の圧力を感じるわ、周りの外野からは様々な好奇の視線に晒されるわで、落ち着けないまま10分ほど掛けて食べる羽目になった。

 おかげで、物凄くお腹いっぱいなのに、酷くゲッソリした気がする。


「ふぅ…初めて渉と恋人(・・)っぽい事ができた~」

「久しぶりにまた(・・)『あ~ん』させてあげる事ができたわ~」

「「うふふふ……」」


 牽制し合うように話す滝川と莉穂姉を見ながら、「もう学園内に居る時は、常に学生証を持ち歩こう」と心に決めた日曜の正午であった。

次話投稿は来週金曜日を予定してます。

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