第01話 - 尻尾への対応策
まさか、評価を頂ける日が来るとは思ってませんでした。
評価して下さった方、ブクマして下さった方(同一人物かもしれませんが)ありがとうございます。
それと、今回から改行位置とか書き方を変えてます。
少しは読みやすくなっていれば良いな…。
─ 2012年4月22日(日) ─
まだ太陽も登っていない日曜日の早朝。俺はリビングで悩んでいた。
悩みの種はいくつかあるのだが、早急に何とかしたい悩みというのはマージちゃんの事である。
いや別に、彼女の態度が俺に対して冷たいから何とかしたい…というわけではなく、尻尾をどうにかしたいのだ。
ノーマンもマージちゃんも、まだ暫くは私服で授業を受けてもらう事になるわけだが、制服の採寸にしろ、今後授業を受けるにしろ、彼女の尻尾は人の目を引いてしまう。
特に昨日、マージちゃんの後ろに座った女生徒なんて、
「あの尻尾に触てたいという衝動を抑えるのに必死で、授業が頭に入ってこなかった…」
と嘆くほどだった。
いやまぁ気持ちは分かるんだよね。
俺も一昨日、失礼な態度を取ったお詫びとして耳を触らせてもらって分かったのだが、ふさふさで触り心地が良いのだ。
狼の遺伝子入りだから毛質は硬いんじゃないかと思って触れたわけだが、人間の遺伝子のおかげか良い感じに柔らかさを持っていた。
一日一回以上、莉穂姉に抱き着いて姉分を補充している俺は、同時に髪の毛をもふもふしているのだが、それと似たような柔らかさを感じた。
これは女の子特有の柔らかさなのだろうか?
マザーグースは、「女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かでできている」などと歌にしていたが、まさにその通りかもしれない。
…ふぅ。考えていたら莉穂姉の香りを吸い込みたくなってきた。
モニタールームの天窓の防御壁魔法魔法陣に魔力補給する前に、姉分を補充しておこう。
「お? 早朝から難しい顔して考え事か?」
防衛軍に所属していたからなのか、早朝だというのにノーマンが自室から顔を出してきた。
ちなみに、この学園寮の部屋の構造は全て同じであり、約50平米の大きな枠の中に、各自の個室となる部屋が2つに、トイレ、風呂などが存在するといった作りになっている。
現在、俺が居るのはキッチン兼ダイニング兼リビングといった空間だ。
ここを中心として、玄関、トイレ、洗面所兼風呂場、個人部屋へのアクセスが可能となる。
「おはよう、ノーマン。 ちょっと、莉穂姉の匂いを嗅ぎたいと考えていたところでな」
「…思ってた以上に深刻に変態だな、BB」
「違った。 マージちゃんの尻尾をどうにかできないかと悩んでたんだった」
「…それが何で、莉穂姉の匂いを嗅ぐって流れになるんだよ」
「それは、ホラ…アレだよ。
一つの物事を考えていたら、そこから派生して脱線しちゃった…みたいな」
「だとしても、普通は義姉の匂いを嗅ぎたいって考えには行きつかんだろう」
ちっ…誤魔化されなかったか。
▲▽△▼△▽▲
「それで、マージの尻尾の件で悩んでたみたいだが?」
冷蔵庫からモーニングコーラを取り出したノーマンが、俺の正面に座りながら話を促してくる。
顔を洗ってきた名残で前髪が少し濡れているが、何故垂れ下がらないんだろう。
そういや、コイツの前髪が下ろされているところなんて、4歳前後の頃しか見たことないかもしれない。
…どうでもいい事だったな、本題に戻ろう。
「あぁ。 昨日、マージちゃんの後ろに座っていた子から、尻尾に触れたくて『静まれ! 私の右手!』みたいになって大変だったというクレームがあったから、どうにかしてやりたくてね。
それに、制服の採寸をする時にも問題になるだろ?」
「前者はともかく、制服の採寸は確かにな…。
俺はてっきり、BBが何とかする方法を用意しているもんかと思っていたんだが」
「その事については、本当に申し訳ない。
…まぁそういうわけで、尻尾をどうしたもんかと悩んでいたのさ」
「それだったら、一昨日ひん剥いたテロリストのベルトと同じ魔法陣は使えないのか?
連中を輸送艦に送った時に、ベルトとAK-47をそれぞれ2~3個ずつ手元に残してたろ?
BBなら、解析して更に便利に魔改造できるんじゃねぇの?」
ベルトに刻まれていた魔方陣は、ベルトの中心部を起点に、半径70cm程度の真球の光学迷彩膜を張る仕組みであった。
軽く中腰しになった人間なら、すっぽりと見えなくなってしまう代物だ。
これをマージちゃんがそのまま使った日には、尻尾はおろか胴体まで見えなくなり、膜から突き出た頭、手首、足首が中空から生えたように見えるという怪奇現象が起きる。
ノーマンが言ったように、俺が魔改造を施して尻尾だけを隠せる程度の大きさに変更する事は可能だ。
ただ、その場合は尻尾の中間あたりにベルト状の物を巻きつけてもらう事になる。
流石に違和感を感じるだろうし、不快に思われたら一層嫌われそうなので却下だ。
それに、膜の内側から外側に突き出る事ができる以上、外側から内側に入り込むこともできる仕様になっている。
ビニール風船に腕を突っ込もうとする感覚で無理やりねじ込めば、膜の形状変化限界に達したあとに内部へ侵入できるのだ。
膜自体は、魔方陣が装着者から魔力を吸い取り続ける限り割れる事はないが、尻尾に触られないようにする事まで視野に入れるとなると、この方法は実用的とは言えない。
「だめかー。 あ…じゃあ、空間拡張バッグの中に、常時尻尾を突っ込んだままにするってのはどうだ?
ウェストポーチみたいに固定してさ」
「あれは神力供給式だから、マージちゃんには使いづらいかもしれないな…。
だが、そのアイデアは良いかもしれない。
魔力供給式にして、湿布みたいに皮膚に貼れる物に魔法陣を刻んでおいて…。
あとはマージちゃんが意識しなくても持続できるように、自動で魔力を吸い取るタイプにして…。
ただ、あの子の魔力量はこの学園の平均的な生徒より若干高い程度だったから、魔法の授業に影響が出ないか心配……あれ?」
…待てよ。
マージちゃんは、映像を記憶して転送するタイプの魔法陣が頭に刻まれていたんだよな。
陣を消去する時に調べた限り、あれは自動で魔力を吸い取るタイプ…しかも、かなりの消費量だったはずだ。
マージちゃんの魔力量は、教職員室前で合流した時に調べたっきりだったから…実際は相当高いんじゃないか?
「なぁ、ノーマン。 防衛軍でマージちゃんを調べた時に、計測器で魔力量は調べたか?」
「いや、スリーサーズならいの一番に調べはしたけど、そっちはさっぱりだな」
ダメだコイツ。
…けど、あのグラマラスな体だもんな、その気持ちも分からんでもない。
「仕方ない。 今から確認しに行こう」
▲▽△▼△▽▲
「というわけで、ざっとで良いからマージちゃんの魔力量を調べたいんだ」
「…折角の日曜日だってのに、何でこんな朝早くから起こしに来るのよ。
プリキュアを観終わったあとじゃダメなの?」
いつもであればツインテールの菜月先生も、就寝中は解いていることが判明した。
現在は、ところどころに寝癖が見られるストレートヘアになっている。
目をしょぼしょぼさせながら話す姿に、つい頭をナデナデしたくなったが辛うじて堪えられた。
いつ成長期に差し掛かっても良いように、ブカブカのパジャマを着ているのが涙ぐましい。
「3時間以上先になっちゃうでしょうが。
どうせ、マージちゃんも起きてるだろうし…頼むよ、マジカルゆかりん」
「まったく、我が儘な弟子だこと…」
「さっきから呼ばれてるみたいだったから来てやったわ」
ふと目を上げたら、菜月先生の後ろにマージちゃんが仁王立ちしていた。
ゆったりとした大きなTシャツをワンピースみたいにして着ており、裾から見える健康的な太ももが実にエロ…けしからん。
黒と銀のグラデーションになっている髪の毛は、菜月先生のボサボサ加減とは対照的に綺麗に整えられており、まさに流れるようなストレートヘアをしている。
早朝から髪のお手入れをするのが日課なのだろうか。
「渉だけしか居ないのが、かなり不本意だけどね…」
「そんなに邪険に扱わんでくれよ、女性に嫉妬されるような仲じゃないぞ? 俺とノーマンは。
…まぁいいや、こうして姿も見られたからざっと計測もできたよ。 ありがと」
「むぅ…そういう態度が、勝者の余裕みたいで気に食わないのよっ」
「じゃあ一体どうしろと…」
今日ほど「腐女子を相手にしていた方がマシかもしれない」と思った事はなかった。
▲▽△▼△▽▲
「おかえりなさい!
兵糧攻めにする? 水攻めにする?
それとも、一対一バトル?」
精神的に疲れて戻ってきた俺を待っていたのは、フリフリのエプロンを着けて物騒な事を言うノーマンだった。
何? コイツは俺にトドメでも刺したいのか?
もしこれで俺が死んだ場合、精神に致命的なダメージを負ったため…とかなるのだろうか?
俺は嫌だぞ、そんな死因。
それにしても、ホントどこから出てきたんだよ、そのエプロン。
「……お前が俺に対してそんな態度ばっかり取ってるから、マージちゃんに俺が逆恨みされてるんだなと、今気付いたわ。
今後、腐女子が喜びそうなやり取り禁止な!」
「馬鹿な! じゃあ、今後どうやってBBをからかえば良いと言うのか?!」
「からかうなっつってんだよ!」
「BB、適度な冗談を言うのは、コミュニケーションを取る上でとても有意義なものなんだぞ?」
「その冗談の所為で、俺とマージちゃんとの間に、無駄に一方的な軋轢が生まれてんだよ」
「いや、それは違うぞBB。
マージは、事ある毎に俺がBBを頼っているのが気に食わないって言ってたからな。
防衛軍でガチバトルしていた頃から積み重なっていた嫉妬だから、そうそう改善はできんよ?」
するってぇとアレかい?
俺が便利魔導具を作ると、ノーマンからの信頼が厚くなり、比例してマージちゃんの嫉妬心も厚くなってたという事かい?
なるほど、俺がノーマンを甘やかしていたツケが、まさかこんな形で跳ね返ってくるとはね…。
「でもさ、一緒に肩を並べて背中を任せられる相手となったら、マージちゃん一択だろ?」
「そりゃあそうだろ、一昨日のモニタールーム戦程度の動きで『目で追うのがやっとだった』とか言ってたBBじゃ、一緒に戦うのは無理だと思うぜ」
「だろう? だったら、ノーマンからその旨をハッキリとマージちゃんに伝えてくれ。
んでもって、俺に対する態度を改めるよう、よーっく言い聞かせて欲しいんだ」
「え? ああ、まぁ良いけど…BB必死だな。
マージの事気に入ったの? でも、譲る気はないよ?」
「大丈夫。 女性として気に入ってるわけじゃなくて、大型犬として仲良くしたいだけだから」
「……なぁBB。 人間扱いしてないってのと、狼扱いしてないってのがバレてるから、邪険に扱われてるって可能性は無いか?」
「…何にせよ、マージちゃんの説得は頼んだぞ。
という訳で、俺は尻尾をどうにかするためのシール作成に取り掛かるわ」
ノーマンが痛いところを突いてきたので、強引に終わらせて逃げることにした。
「へいへい…って、マージの魔力量ってのは特に問題なかったのか?
魔法の授業への影響がどうのこうの言ってたじゃんか」
「あぁ、そこは全く問題なかったよ。
マジカルゆかりんよりも若干少ない程度だったから、相当なもんだ」
「それって多いのか少ないのか、よく分からないんだが…」
仮に一般人の平均魔力量を100とすると、一番低い魔力量の生徒でも230前後はある。
菜月先生はその3倍の700前後、マージちゃんは650といったところだ。
何にせよ、学園の入学基準となる200を大きく上回った数値であり、常時魔力を吸われていたとしても他の生徒以上の魔力量を余裕でキープできる。
ちなみに、入学基準の数値だが、空を飛びながら他の魔法を使用しても、魔力枯渇を起こさずに安全に活躍できる最低ラインとして師匠が設けたものらしい。
つまり、マージちゃんは近接戦闘もこなしながら魔法も使えるという、世界初のハイブリッド魔女になれる素養を持っているのだ。
ドラゴンボールのZ戦士な戦い方が可能というわけである。
「そりゃ安心だわ。 ところでBB」
「なんだ? まだ何か聞きたいのか?」
「いや、BBって魔導具開発してると他の事を忘れるじゃない?
スーパーヒーロータイムが始まる頃にドアをノックしてお知らせした方がいいかな?…って思ってさ」
「…お願いします」
その後、レンジャーシリーズからプリキュアが終わるまでの間は作業中断したものの、午前中の内に試作品を作り終える事ができた。
一仕事終えたので、「美味しくランチを食えるな」と思ったのもつかの間、モニタールームへの魔力補充を忘れていた事を思い出し、慌てて走る羽目になった。
よくよく思い返してみれば、朝食も食べていない事に気付いて色々とゲンナリである。
尚、ノーマンのヤツは自分で朝食も昼食も作って食べたらしい。
ネタの為だけにフリフリエプロンを着けていたのかと思ったが、ちゃんと料理用として使っていたそうな。
…殺人的に似合わないから、止めさせないと。
前回までは時間の表示をしていましたが、今回以降は日付表示だけになります。
第二章以降は、時間との闘い…みたいな流れにはならないので。




