第18話 - 教祖アリサ
初めて投稿してから早一ヵ月。
ま だ 第 一 章 が 終 わ っ て な い
─ 2012年4月20日(金) 13:58 ─
「ハッハッハッハー…いやぁ、BBをからかう事ができてスッキリしたところで──」
「くっそ、さっきまで必死になってた自分が滑稽すぎる…」
「──割とマジな話、マージの宿泊部屋はどうすんの?」
「ちくしょう、弄ばれた感が半端ない…。まぁいい。 で、マージちゃんの部屋の件だが、菜月先生に頼もうと思ってる。丁度一部屋空いてるはずだからな。 マージちゃんに魔法のイロハを教える事もできるし、一石二鳥だろ」
「菜月先生って、あの金髪ツインテールつるぺた幼女か」
「お前、間違っても本人の前で同じ事を言うなよ? 午前中にも本人が言ったように、正真正銘、彼女は俺たちと同い年なんだからな」
そう、彼女はああ見えて、本当に俺たちと同い年である。先ほど話した細胞を若返らせる魔法“老化抑制魔法”が常時発動してしまう特異体質のせいで、幼少期の体型が維持されてしまっているにすぎないのだ。
現在は魔法効果を反転させた“老化魔法”の魔法陣を刻んだ魔導具を俺が開発したので、徐々に成長するようになっている。まだ1年も経過していないので、あまり変化しているようには見えないのが本人からすればもどかしいだろうが…。
「へぇ、そういった体質って自然発生するもんなんだな。 あ、ひょっとして、世の中で言われている小人症って…」
「そ。世間には『ホルモン分泌の異常によるもの』って公表してるけど、本当は老化抑制魔法が本人の意思と無関係に発動しちゃってる状態を、病名として誤魔化しているのさ。 …あ、でも、師匠が元々居た世界では本当にホルモン分泌の異常によるものだって言ってたな。魔法を発動させるのに必要な“エーテル”が大気中に存在しない世界だったから…とか何とか」
俺たちの師匠。この学園の創設者の一人である伊藤歩は、ここで教えている魔法の基礎を作り上げた人物であり、世界大戦を早期終結に導き世界レベルで和平条約を締結させた英雄として謳われている。
だがその正体は、異世界の日本から転生してきたただのオタクだ。転生するに至った詳しい経緯については、特に興味も無かったので詳しくは知らない。幾ら俺たちの生みの親とはいえ、男の人生に興味はないのだ。
ちなみに、現在の俺の苗字も師匠と同じ“伊藤”ではあるが、単に苗字が同じだけで師匠と莉穂姉が遠縁にあたるというわけではない。俺もノーマンも造られた当初は苗字が無かったので、俺たちを産み出す研究に携わっていた研究員に里親として引き取られた際、苗字をもらったにすぎない。つまり、ただの偶然であって、師匠のクローン擬きである俺と、義姉の莉穂姉とは完全に赤の他人である。
故に、俺が義姉である莉穂姉と子作りしても問題ないのだ。まぁ、まだお互い学生の身分なので、当分そんなことをする予定はないが。
「そういや、師匠は俺が世界を飛び回ってる間に異世界へ帰ったんだっけ?」
「そうそう、去年のクリスマスの朝に『あとはお前たち二人に任せた!』って感じで、理想の姉が待っている世界に帰って行ったよ…本当に戻れたのかは知らないけど」
「BBの遺伝子情報元《原材料》である師匠だけあって、色々と凄い事やってきた人だ。失敗するという状況が想像できないから、無事に異世界に帰れたと思うぜ」
「そうだなぁ…。師匠も重度の姉好き《シスコン》だったが、そんな人が90年以上もの間、姉と離れて異世界で活躍してたんだ。戻れなかった…なんていうバッドエンドは辛すぎるな。 それに──」
俺はポケットに突っ込んでいた無線機に目を向ける。
「──どういった結末だったにせよ、一度師匠に会って話をする必要がありそうだしな」
「は?なんで?」
この通信機に刻まれている魔法陣を調べた際、AK-47やベルトに刻まれていた魔方陣とは異なり、ある特徴が目に付いた。その特徴というのが、俺と師匠が作る陣に共通したものだったのである。
前にも軽く説明した通り、魔法陣の作り方には人ごとに微妙に癖がでるようになっている。例えこの学園で同じ教師に魔法を習っていても、人によって記述の仕方に特徴が出てくるのだ。
例えば、伝言ゲームを想像してみてほしい。スタート直後は当初の内容と大した差異が無いが、数人の人間を挟むことで言い回しに微妙な変化が加わり、最終的に当初の内容とは微妙にニュアンスが異なる内容ができ上がる…という経験はないだろうか。
魔法陣の記述も似たようなもので、例え発動時の効果が同じでも記述する魔法式の構築が丁寧か簡易か、どういう順番で発動のプロセスを組んでいるか…といった微妙な違いが人によって出てくるのだ。
だが、そういったものとは明らかに異なった特徴が、俺と師匠が本気で組んだ場合の魔法陣には存在する。それが、記述する魔法式の途中にルーン文字を入れるというものである。
“ルーン文字”。古代ゲルマン社会で扱われていた文字で、智慧の神オーディンが自分の身を犠牲にして血を流し、その代償にルーン文字の秘密を得たとされてる文字である。一文字だけでも意味を持つといった特徴がある。
アルファベットに似た24文字のセットが、8文字ずつ第1類から第3類までの3グループに分かれているが、その理由は詳しく知られていない。詳細については、まさに神のみぞ知るという文字である。
籠月学園で教えている魔法陣だが、未発動状態だろうとなんだろうと、空中に展開した時点で記述した魔法式が象形文字のようなもので暗号化されるようになっている。だが、ルーン文字はそれ自体が強い力を持っているため、暗号化されないのだ。
ちなみに、魔法式の途中にルーン文字を入れるメリットは魔法陣の性能強化が挙げられる。ただし、ルーン文字を記述する位置を間違えると、逆に性能ダウンするので諸刃の剣でもある。そのため、籠月学園ではルーン文字を加えた魔法式の構築方法は一切教えていない。
さて、唐突だがここで魔女について補足させてもらおう。今や世界中に広く知られるようになった魔女という存在だが、その素性も、どうすれば魔法を使えるのかという事も世間に公表していないのは以前説明した通りだ。つまり、実質この籠月学園の卒業者だけが魔女として活躍していることになる。
まぁ、俺たちが知らないだけで、他にも魔法を教えている機関が存在するかもしれないが…。例えば、イギリスの某駅にある9と4分の3番線から出発する汽車で行ける魔法学院とかな。
だが残念ながら、今まで余所の魔女がコンタクトを取ってきたという話は聞かない。それに、彼らの魔法は主に杖と呪文を使ったものであって、魔法陣についても俺たちが扱っているものとは異なっていたはずだ……映画を見た限りでは。
とにかく…だ。テロリストが持っていたAK-47やベルトに刻まれていた魔方陣は、籠月学園で教えている魔法陣と同様の原理で発動するものが刻まれており、この無線機に至っては、俺か師匠しか正確に扱えない魔法式を用いた陣が刻まれている始末である。
この二つの符号が意味する事…よくある話としては、師匠の昔の恋人が“ヤンデレを拗らせて敵になってしまった”とか、“裏ボスに操られている”といったパターンが考えられる。…が、師匠は「異世界に残してきた姉以外は眼中にない!」と豪語し、生涯童貞を貫いていた生粋の変態である。この世界に恋人が居たとは考えられない。
次に、弟子がダークサイドに陥ってしまったパターン。まだこの学園が女学園であった設立当初は、魔法を教えるための教員が師匠しか居なかった。つまり、広義の意味で言うと初期の卒業生は皆、師匠の弟子とも言える。
だが、これも可能性は低い。何故なら魔法の授業を初めて行う際、師匠が作った“制約魔法”の魔導具によって、強制的に魔法の悪用ができないよう洗脳に近い刷り込みをされるのだ。
まぁ、あくまで個人に備わっている道徳観の元、悪用できない…とさせるものなので、道徳観の壊れた人間だった場合は魔法が使えてしまう。しかし、一般的な道徳観が備わっているかを調べる魔導具を使って最終面接を行うので、そういった人物が入学するのはあり得ない。
つまり、この学園の卒業生で、尚且つ魔導具を創れるほどの魔女が、テロリストの親玉として君臨するなどあり得ない話なのだ。
他に考えられるとしたら、師匠と共に魔法研究を行っていた人物が闇堕ちしたという線だが、“アリサ”という名前の人物が師匠のそばに居たという話は聞いたことがない。
いやまぁ、俺たちも師匠の過去を知ろうとしなかったから、もしかしたら居たのかもしれないのだが…。それに、アリサという名前が偽名である可能性も考えられるわけで…。
「BB。あーだこーだ考えていても、答えは出ないと思うぜ? もういっそのこと、その無線機に魔力を通して本人にコンタクトを取ってみたらどうだ? テロリストが言っていた事が本当なら、リーダーが持っていたソイツが、唯一、教祖様とやらに連絡できる手段なわけだろ?」
「……たまに、ノーマンのその思い切りの良さを見習いたくなるわ。 でも、言われてみればそうだな。別に俺たちの位置が逆探知されようと、既に籠月学園の位置情報はバレてるわけだし、今更臆する事も無いか…」
早速、魔力を注入して無線機のスイッチを押し続ける。基本的に無線機というのは、電話のように双方向通信ができるようにはなっていない。連絡する側が一方的に通信を行い、それを聞いた受信側が応答するというやり取りになる。
だが、テロリストが持っていた無線機は双方向通信可能なタイプであった。ベルトを介して通達ができるシステムを組んでいたくせに双方向通信式の無線機を持たせ、意図的に魔力を通さなければ通信自体も行えない…。
やはり、教祖アリサとやらはテロリストが全滅した上で、魔法を使える人間が連絡してくるのを見越していたのだろうか。
ブツッ──
『ちょっと!連絡してくるの遅すぎるじゃない! こっちは真夜中からずっと連絡が来るのを待ってたのに! 何でもっと早く連絡を寄越さないのよ?!』
「「日本語だとっ?!」」
一番最初に無線機から聞こえてきたのは、流暢な日本語を話す高いトーンの女性の声だった。おかげで、文句の内容よりも、日本語が聞こえてきたことに俺たちはついツッコミを入れてしまった。
だって、テロリストは軒並みアラビア語しか話していなかったのに、親玉に繋がる…と思われていた無線機から、まさか日本語が聞こえてくるとは思わないじゃないか。
『当たり前じゃない! 日本からの連絡のはずなんだから、日本人が連絡を寄越すと思うのが普通でしょ?』
しかも、向こうは向こうで「何バカみたいな事を言ってるのよ?」みたいに言ってくるし…。いや、それよりも、本当にこの無線の人物が教祖様とやらなのだろうか。
「えっと…一つ確認なんですが、貴女が“ラスト・ワン”の“教祖アリサ”で間違いないですか?」
『“様”を付けなさいよデコ助野郎』
「……だってさ、ノーマン」
「いや、今言われたのは俺じゃなくてBBの方でしょ」
『あら、“俊之”ではなく“渉”の方だったのね、間違えちゃってごめんなさい。 コホン…初めまして。テロ組織ラスト・ワンの頭目、アリサよ。 これからも、ちょくちょくそっちに刺客を送り込んでちょっかいをかける予定だから、今後とも宜しくね』
おかしい、自己紹介したわけでもなく互いにあだ名で呼び合ってただけなのに、俺とノーマンの名前をさらっと当てられた…。それに、今さり気なく不穏な発言をされた気がする。
「悲報。ノーマンだけじゃなく、俺まで身バレしている件。いやもう、色々と聞きたい事が多すぎてツッコミが追いつかないんだが…。 とりあえずは、俺たちにちょっかいを掛けるのは止めてくれませんかね? こっちは平穏にラブコメ学生ライフをエンジョイしたいんですが」
『嫌よ。私だって恋人とキャッキャウフフしたかったのに、意図せずこんな地位に祀り上げられて、既に人生の8割方を費やしてしまったのよ? 成就まであと少しなんだから、悪いけど付き合ってもらうわ』
ちっとも悪いと思ってなさそうな感じでバッサリ断られてしまった。
「人生の8割って……あの失礼ですが、お幾つですか? 声的にはまだ若いと思うんですが?」
『あら?若く感じる?私もまだまだイケるわね。 でも、レディに年齢を尋ねるのは本当に失礼だからノーコメントとさせて頂くわ』
「いや、見た目については保証しかねるから、あくまで声だけですがね。 つか、一般の学生相手にテロリスト差し向けてくるような人に、失礼とか言われたくないんですが…」
『何言ってるのよ、貴方たちが居る学園には魔女しか居ないでしょ? あぁ、学生がほとんどだから、正確には魔女見習いってところかしら。どちらにせよ、一般人ではないのではなくて?』
本当にどうしよう、今まで外部に漏れたことのない機密情報が向こう側にダダ漏れである。
「なぁ、BB。この学園やBBの設置したセキュリティって、ちゃんと仕事してるのか?」
「正直に言うと、俺もちょっと自信がなくなってきた」
『残念だけど、セキュリティを強化しても無駄よ。そもそも私は、そっちの情報を意図的に調べ上げたわけじゃなくて、情報をくれる協力者が居ただけ。 今はもう協力者が居なくなってしまったから、今後その人から情報が入ってくる事は無いわ。 ま。信じるか信じないかは貴方たち次第だけれど…』
「教えてくれるとは思っていませんが、その協力者とは?」
『既に想像がついているのではなくて? こんなあからさまな仕組みの無線機をヒント代わりにしてあげたんだもの。 じゃ、私からの餞別は以上よ。これからも頑張って撃退してね♪ バイバーイ♪』
ブツッ──
「もぅ! 酷いじゃないですか渉!私のセキュリティを疑うなんて…! 責任を取って結婚してください!」
アリサとの通信が途絶えた瞬間、今まで大人しくしていたマチュアがPCのスピーカーを大音量にして抗議してきた。そして、ついでに願望までねじ込んできた。今日一日で色々と逞しくなった気がする。
その成長に敬意を表して、俺もハッキリと答えてやらねばならないな。
「うん。それ無理」
「意地悪っ!」
このやり取りも、だいぶテンプレになってきたなぁ…。
次話は2日以内にアップできるよう頑張ってみます。




