第17話 - サドンデス説明タイム
今回、この世界の魔法陣について説明していますが、あくまで“この世界では”ということなので、一つよろしくお願いします。
ちなみに、魔法円の説明については新紀元社の『魔法辞典』を調べた上で書いてます。
─ 2012年4月20日(金) 13:23 ─
“魔法陣”。現代のファンタジーものでお馴染みの、魔術や魔法を行使する上で描かれる紋様や文字で構成された図形である。尚、悪魔召喚などの儀式の際に使われていた伝統的な“魔法円”とは機能が異なるので要注意だ。
魔法陣の様に“陣から魔術や魔法が発動する”、“陣から召喚獣を呼び出す”といった事は魔法円では行わない。そういったものは主に和製ファンタジーで見られる魔法陣の特徴であり、伝統的な魔法円は“魔術や魔法を行使する人物の魔力を高める”或いは、“召喚した悪魔から自分を護る”ために描くもので、使用者自身が円の中に入るといった用途で使われるものなのだ。
この籠月学園で習う魔法陣も、陣と言っている通り和製ファンタジーの特徴を持ったものである。
ちなみに、今回襲撃してきたテロリストたちの名前の元であるソロモン72柱は、魔術書“レメゲトン”の第一部“ゴエティア(ゲーティアとも表記される)”に記されている魔法円や印章を用いて使役する悪魔なので、俺たちが扱う方法では使役はおろか召喚すら行えない。
俺たちが扱う魔法陣は平面に円を描き、その内部に術式を記しても発動するが、帯やリボンのような細長い形状に術式を記して、その端と端を繋げて輪にすることで、輪の内側に魔法を発動させることも可能となる陣なのだ。根本的に魔法を発動させるための理が違う。
まぁ何にせよ、円形にしないと魔法陣の効果が発動しない…と思われていた。あの日までは。
あれは遡ること約14年前、俺とノーマンが試験管から摘出されてからそろそろ3年目……要するに3歳になろうかという頃の話である。試験管の中に居る頃から既に日本語や魔法、神力の使い方を、師匠“伊藤 歩”によって学習させられていたので、その頃は通常の勉強のあとに色々なアニメをノーマンと二人で楽しんで観ていた時期だ。
当時楽しんでいたアニメが“○ン○ムX”のDVDであり、デザインやビームの拡散具合が気に入っていたハモニカ砲を真似したくなった俺は、平べったい輪ゴムの内側に火炎魔法の魔法陣を刻んで、目いっぱい横に伸ばした状態で発動させるという実験を行った。
“刻む”と表現してはいるが、実際に彫刻刀などで掘って刻んだり、インクで書き記したりといった事を行うわけではない。魔力を使って空気中に具現化させた魔方陣を、発動させていない状態のまま物体に張り付けると、陣を定着させることができるのだ。これを“刻む”と表現にしているに過ぎない。
ちなみに、物体に貼り付けずに空中で発動させると、発動時に供給した魔力が尽きるまでその場に定着し、魔力が切れるとともに自動消滅する。対して、物体に刻んだ場合はそのまま陣の跡が残り、意図的に魔力を流し込めば再度使えるようになる。まぁ、魔力の残りかすが張り付いている様な状態なので、指で擦っただけでも簡単に落とすことが可能だ。
とにかく、実験をした結果、発動はしたものの、平べったい火球が1つだけすっ飛んで行くというコレジャナイ感満載の魔法ができ上がることになった。本当は、複数の火球が横並びに飛んでいくのを期待したのだ。
しかも、ゴムに刻んだ陣を伸ばしたせいで陣への魔力伝導効率が悪くなり、発動に必要な魔力量が跳ね上がったくせに、威力は変わらないという散々な結果である。
横着はできないものだなという悲しみを胸に、師匠にハモニカ砲を撃とうとして失敗した事を報告し、同じ陣を複数個並べる方法以外の解決策を模索しようと思ったのだが、その時の師匠の第一声は、
「えっ!?魔法陣て綺麗な円形じゃなくても発動するの?! ちょっと待て…となると、四角いドア枠の内側に空間転移魔法の陣を刻めば、どこ○も○アできるんじゃね? いや、それだけじゃない。男の子の夢、変身ベルトも作れるかもしれない。…ウホッ!夢が広がリング。渉、お前が神かっ!」
であった。見た目は40歳前後のおっさん、実年齢は70歳後半の爺さんの反応とは思えないほどのはしゃぎっぷりである。
そんなのはいいから一緒に解決策を考えて欲しかったのだが、その後しばらく師匠は自分の研究に没頭することになってしまった。結局、俺は俺で試行錯誤することになる。その結果、防衛軍の魔導具開発者として上層部から無駄に厚い信頼を得てしまい、実行部隊からは死人だけでなく怪我人の数まで激減したということで大変喜ばれることになった。
ちなみに、師匠の見た目が実年齢と比例しないのは、俺たち人造人間を長命にするための研究をしていた際にできた魔法の効果らしい。細胞に魔力を練り込むことで細胞自体を若返らせ、身体を外見年齢相応の状態に保てるとのことだ。本当はもっと若返らせることも可能だそうだが、少しでも威厳を出したいがためだけに40歳前後にしているらしい。
話によると、若返らせるのは容易だが、老けさせるのはそれ相応の時間を要するとのこと。細胞に練り込まれた魔力が、自然に抜けるのに時間が掛かるのが原因らしい。
そんな魔法の存在を知って、黙って居なかったのが当時の女性所員たちである。
「所長。その魔法を教えてくれないと、私たちボイコットしますよ?良いんですか?良くないですよね? というわけで早く教えて下さい、ホラ!早く!」
「アイエエエ!? ワタシ所長なのに責められてる?!責められてるナンデー!?」
と、研究所の女性所員たちに脅され、泣く泣く教えたというエピソードが存在したらしい。俺が産まれる前の話なので、目撃した事が無いのが残念ではあるが…。とにかく、それほど女性には人気の魔法とのことだ。
おかげで研究所の女性のみならず、この籠月学園の関係者に至るまで、魔法を使える女性は軒並みガチの美魔女揃いである。いやマジで見た目では実年齢がよく判らないという人が多い。
話が逸れてしまったが、俺が行ったハモニカ砲の実験によって、魔方陣は形状に左右されることなく発動可能であることが初めて立証された。そのため、魔導具開発の幅が広がり、形状に左右されることなく色々な効果を部分ごとに発動できるようになったのは大きなメリットと言える。
反面、円形から遠ざかれば遠ざかるほど、発動に必要な魔力量は増えるという事実も明らかになったのだが、最大でも円形時の1.5倍程度の増加量だったので実用性の方が勝った。まぁ、あくまで意図的に魔法を発動できない人からすれば実用的という話だが…。
魔女からすれば、魔法陣の魔力消費量が増える事で発動までに若干のタイムラグが生じ、自分が使える魔法の回数も結果的に少なくなるというデメリットが目立つので、円形以外の魔法陣を使うメリットがあまりない。そのため、籠月学園の魔法のカリキュラムに組み込まれるという事はなかったのだ。
「──というわけで、発見者である俺はもちろん、魔法陣を具現化できる人なら誰でも円形以外の魔法陣を扱えるわけだ。まぁ、今説明した通り実戦では不定形にするメリットがあまりないんだけどね。 今回みたいに防御壁魔法を部屋いっぱいに張る時くらいじゃないかな?役立つ時なんて」
「ちょっと待って渉ちゃん。それよりも、まだ私は細胞を若返らせる魔法を習ってないんだけど、どういう事かしら?」
さっきまではおっとりと話を聞いていた美希姉だったが、若干必死さが伝わる勢いで俺に食って掛かってきた。やはり女性たる者、若々しさを保つ方法があるのなら知っておきたいという心理が働くのだろう。
「あぁ、それは卒業試験後に教えるという決まりになってるからだね。アレはこの学園を卒業する人向けの魔法だから、進学した人たちには教えてないんだよ。 ってか美希姉、まだ19でしょ。今すぐ覚える必要ないんじゃね? 理事長くらいの年齢だったらともかイデデデデデデ……」
「あら?渉君は私の外見に何かご不満な点でもあるのかしら? あるのなら是非指摘して頂きたいわ。由子お姉ちゃん頑張ってあげちゃうから」
満面の笑みで俺を見ながら、左の二の腕をもの凄い力で抓ってくる理事長。力を込めてるようには見えないくせに凄まじい破壊力である。
「い…いや、別に理事長の外見に思うところはなイデデデ…ナンデエエエエ…」
「うふふ…“理事長”じゃなくて“由子お姉ちゃん”でしょ?」
「アッハイ由子お姉ちゃん。離して下さいお願いします……ふぅ、痛かった」
「すみませんが籠月理事長。先ほども言いましたが、渉を苛めて良いのはお姉ちゃんである私だけです。 渉も、何で簡単に籠月理事長をお姉ちゃん扱いしてるのよ」
相手が理事長だからか、やや控えめに文句を言う莉穂姉。その横で滝川も不満そうにこくこく頷いている。
「そりゃ、大講堂の入り口で理事……由子お姉ちゃんが言っていたように、俺が莉穂姉の家に引き取られる半年ぐらい前から、当時この学園の生徒だった由子お姉ちゃんと何度も会話する機会があって、その時から由子お姉ちゃんと呼ぶように言われてたんだ。 いずれこの学園で魔法の修行をすることになるだろうから…って理由で、何度も師匠に連れて来られいてね…。 そんなわけで、俺としてもたまに会う従姉のお姉ちゃんって感じがして、今でも逆らえないというか…」
「そう、つまり伊藤さんが渉君のお姉ちゃんになるより遥か以前に、私は渉君にお姉ちゃんと呼んでもらい。更に、渉君の出生の秘密も、初めて会った時から教えてもらっていたわけです」
「いや、遥かってほどではないよ?当時の感覚では半年なんてあっという間だったし。 それに、由子お姉ちゃんに俺やノーマンの秘密を教えていたのは、いずれ俺たちの特異性に関する事でお世話になるだろうという理由からで、これと言った特別な関係によるものでは──」
「しー。今は莉穂さんと話しているの」
理事長が莉穂姉に自分の優位性を説こうとしていたので、すかさず釘を刺しに出たら、逆に窘められてしまった。しかも、俺の口に理事長の人差し指をくっつけてくるというおまけつきである。ドキドキするし、莉穂姉が嫉妬しかねないから止めて頂きたい。
案の定、莉穂姉が怒りの抗議を始め、それに便乗する形で滝川が援護射撃に参加し、それを大人の余裕で受け流す理事長という構図ができ上がってしまった。滝川まで参戦するのはちょっと想定外だったが。
「じゃあ渉、さっきの質問に答えて欲しいんだけど、そこの女と俊之の関係は何?」
「いや、篠山ねーちん。俺は今、この口論をどうやって止めたもんかと頭を悩ませている最中で……つか、ノーマンの口から直接聞いた方が良いのでは?」
「そんな! もしも俊之本人の口から、聞きたくもない言葉が出てきたら、私しばらく寝込んじゃうじゃない! 2年ぶりに会ったというのに、まさかの彼女連れでしたなんて事になったら、私もう、どうしたらいいか…」
「篠山ねーちん、落ち着いて。俺もノーマンも、まだ誰とも肉体関係がないのは確かだ。 であれば、滝川も言っていたが、まだチャンスはある」
「…えぇ、そうね。先に既成事実を作れば良いのよね」
その場しのぎ程度ではあったが、滝川の言葉を借りることで篠山ねーちんが落ち着いてくれたようだ。言っていることはやや物騒だが…。
「まぁでも、俺やノーマン相手に押し倒そうなんて、たとえ魔法が使えようとも簡単ではないけど…。 ノーマンは言うに及ばず、俺も魔法の行使や抵抗魔法には自信があるからね。 それに、俺は莉穂姉に操を立てて──」
「BB。折角の宣言だけど、本人には聞こえてなさそうだぜ?」
さっきからずっと黙っていたノーマンが、俺に無慈悲なツッコミを入れてきた。…っていうか、起きてたんだなお前、サングラス掛けて身動きもせずに黙ってたから寝てるのかと疑ってたわ。
良く見たらノーマンの言う通り、莉穂姉、滝川、理事長の三人は今だに舌戦を繰り広げており。篠山ねーちんとマージちゃんも、どちらがノーマンの相棒に相応しいか口論を開始していた。
残された美希姉、関口、妹尾の三人が「どうする?」とでも言いたげに、困った表情で俺を見ている。
「もうしばらく続きそうだし、一度各自の部屋に戻って休もうか。皆疲れてるだろうし、他に疑問や質問もなさそうだからね」
「私は神力について興味があったけど……今日は止めておくね。ノーマンは平気そうだけど、渉は疲れてそうだし」
「ありがと関口、恩に着る。神力については、また明日にでも時間があれば説明させてもらうよ……さ、野次馬してた皆も、今日はお開きね。解散、解散」
俺の合図を皮切りに、周りで成り行きを見ていた連中が蜘蛛の子を散らす勢いで去っていく。高層階に行く連中はエレベーターホールに向かい、低層階の連中は階段を上って行った。
俺はノーマンを引き連れ、美希姉たちと一緒にエレベーターに乗り自室のある15Fに移動する。途中の階で美希姉たちと別れ、ノーマンと共に自室へと辿り着いた。
「さて、予定よりちょっと早くなったがが…今日からはルームメイトだ。 よろしくな、ノーマン」
「こちらこそ、よろしくな、BB。 ところで、このフロアには他に女子は?」
「居ないな。 事実上、男専用フロアだ。でも悲しむことも無いぞ。このすぐ上は展望大浴場だから──」
「女子の入浴シーンを覗き放題ってことか!ヒャッハー!」
「──違ぇよ! 気軽に広い湯船を使いに行けるって言いたかっただけだっての! いいか、絶対に覗くんじゃねぇぞ!絶対だかんな! ……おい、何をそんな“うんうん”頷いてるんだよ……ハッ!?違ぇよ、振りじゃねぇっての! やらせはせん!やらせはせんぞーーー!」
男二人だけの静かなフロアに、俺の必死な叫びが虚しく木霊した。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年4月20日(金) 15:03 ─
「では皆さん。それぞれの意中の男性が、高等部卒業の日、あの広場の木の下で自分に告白してくるようお互い切磋琢磨する事とし、それまでの間は停戦協定を結ぶ…という形での合意で宜しいですね?」
「「「「異議なし」」」」
渉たちが去ってから1時間強に及ぶ口論に幕が下りようとしていた。舞台はいまだ食堂である。
籠月由子の確認の元、伊藤莉穂、滝川奈津美、篠山楓、マージの4人が同時に頷いた。
「では、要項をまとめた宣誓書をGW明けに皆さんにお渡しします。 正式な締結は、その書類への各自のサインを持って完了としますが、それまでの間も抜け駆けしないものと信じています。 では、解散と致しましょう」
由子の解散の合図とともに、それまで張りつめていた緊張の糸が切れた少女たちからどっとため息が漏れる。そんな少女たちに対して余裕の表情を保ったまま、由子は理事長室へと去って行った。こういった精神面での体力では、色々な挨拶の矢面に立つことが多い分、由子に軍配が上がる。
「やっと決着がついたようね。 渉とグラサン野郎は自分たちの部屋に引き上げたから、皆各自の部屋に戻って休む事をおすすめするわ。 …で、マージさん。貴女は私と一緒に来てもらいます」
いつから待っていたのかは不明だが、由子と入れ替わる形で金髪ツインテールの美少女が4人に近づき、マージの前で立ち止まる。
「あ…はい、分かりました。えーと、ところで貴女は一体?」
「今のところ臨時ではあるけど、貴女のルームメイト兼、魔法の先生になる菜月紫よ。渉から『魔法のイロハを教えてあげてくれ』って頼まれたの。よろしくね、二番目のお弟子さん。 あ。それと、今後魔法の訓練をする時は、私の事は“マジカルゆかりん”と呼ぶように…ね」
手を差し伸べながら金髪ツインテールの美少女、菜月紫は、柔らかな笑みとともにそう宣言するのだった。
もうあと2~3話くらいで第一章が終了する予定です。
…大まかなプロットはあるのに、登場人物との会話シーンを盛り込んでのシナリオ展開がテンポよく書けないので、本当にあと2~3話で章の終了に到達できるかが怪しいですが。
まぁ、PVが多いわけでもないから、プレッシャーを感じずに書けるってのが救いですな。




