第14話 - 俺が…俺たちが、人造人間(ホムンクルス)だっ!
なんとか予定日に間に合った…。
─ 2012年4月20日(金) 10:42 ─
元・気絶テロリスト以外の視線が俺と理事長に向けられる中、俺はある方針で考えがまとまった。その方針とは──
「あ。皆、待っていてくれたのか。 じゃあ、籠月理事長の許可も貰えたし、さっさと説明を始めちゃおうか」
──何事も無かった様に振る舞って、うやむやにしながら大講堂に入ってしまうというものである。三十六計逃げるに如かずとも言うし、困ったときは逃げるのが最良策なのだ。俺は自然体を装い、莉穂姉たちの間を通り過ぎ──
「待って渉。その前に何で理事長と腕を組んでいるのか、その理由を説明して欲しいのだけど?」
──ようとしたが莉穂姉に回り込まれてしまった。
莉穂姉の目は「私だって校内で腕を組んだことが無かったのに!」と訴えている。いや、俺だって理由を聞きたいくらいなんですがね。
「あ~…これはその…たぶん、俺をからかって楽しんでいるのではないかと…」
「いいえ。これは、これから皆さんにご説明する内容にも関わるので、必要な行動です」
凛と胸を張り、堂々と言い切る理事長。その発言に莉穂姉と滝川の二人は戦慄し、仁科先生と美沙都さんは驚き、マージちゃんは何の話かと首を傾げ、元・気絶テロリストは言葉が通じていないのでリアクションが無く、ノーマンはおでこのツヤが更に良くなり期待の籠った目で見ていた。ノーマンはあとで額に“肉”って書いてやる、油性ペンで。
「はい? …あの、籠月理事長?これから私が話す説明というのは、今回起こったテロリストの襲撃目的の説明と、今後の対策、私と野間俊之の特異性…といった内容なので、腕を組む必要性はどう見ても皆無なのですが…」
とりあえず、確実に何かを勘違いしているらしい理事長に釘を刺してみる。俺の発言を聞いて振り返った理事長の顔色が、みるみる驚愕一色に染まっていく。
「えっ?! 渉君さっき、“重要な話”とか“皆に説明”って言ってたから、私との婚約の事を説明するもんだと期待してたんだけど…」
「んなわけないでしょう!そもそも俺は、学生結婚する気もなけりゃ、学生のうちに婚約する気もないですよ! ……って、よく考えたら今の発言は冗談ですよね!? さっき、俺が大講堂を使いたいって言ったとき、俺の意図を正しく汲んでましたものね!?」
「ちぇっ、バレちゃったかぁ。どさくさに紛れて本当に婚約発表しちゃおうかと思ってたのに…」
まるで、悪戯がバレてしまった少女のように微笑みながら残念がる理事長。冗談だったのか本気だったのか…精神感応魔法を使えば一発で分かるが、さすがにこういった状況で使うのは反則だと思うので自重した。
しかし、年齢的に無理があるはずの行動なのに、綺麗系のお姉さんがやると妙にエロく感じてしまう。右目にある泣きぼくろが、セクシーさをより強調させている気さえする。魔法も何も使ってないくせに反則だろ、こんなの。俺は莉穂姉一筋ではあるが、こうして魅力的な年上女性にドギマギしてしまうのは、姉好きの原点に通じる何かを感じざるを得ない。うむ、実に哲学を感じる。
「まったく、俺は莉穂姉一筋なんですから勘弁して下さいよ…」
「渉…」
俺の言葉を聞いて、心底嬉しそうな表情になる莉穂姉。よかった、どうやら先ほどまでの不機嫌なオーラはなりを潜めてくれたようだ。その横で滝川が酷く不服そうな表情をしているが、俺の優先順位は莉穂姉の好感度が最優先である。申し訳ないが、今のところこの順位が変動する予定はない。
「ふぅ…今回のところは引いておきましょう。でも、渉君の初めての“お姉ちゃん”は、私だという事実は揺るがないから、そこだけは勝ったわね」
「んなっ!?ちょっと渉!どういう事なのか詳しくっ!」
莉穂姉を挑発するような流し目で見ながら言い放った理事長の爆弾発言で、またもや莉穂姉の不機嫌オーラが一気に復活した。おのれ理事長め、最後の最後で余計な一言を…。
まったく、何なんだ今日は?女性同士の修羅場フラグは、俺が呟いたセリフ的にノーマンに立ってたはずなのに!
当のノーマンを見てみると、ニヤニヤと事の成り行きを楽しんでいやがった。心なしか、おでこのツヤも歴代最高潮になっている気がする。くそう、あとでお前も似たような状態に引きずり込んでやるからな。この説明会が終わったら、幼馴染一同を集めたランチタイムを設けて“篠山ねーちん”を焚き付けてくれる。
「ま…まぁまぁ、莉穂姉落ち着いて。その件については、大講堂での説明が終わったあとで…ね?ここで時間を食ってても、中で待ってもらってる皆に悪いしさ。 ランチタイムにでも幼馴染一同を集めて、色々と詳しく説明したいと思ってるから、その時に今の件も併せて捕捉させてもらうよ、うん」
「……分かったわ。絶対にあとで説明してもらうからね」
不承不承といった感じで矛を収めてくれた莉穂姉に、俺はほっと胸を撫で下ろす。納得はしてないが、信じてはくれているようで一安心だ。
これでもし嫌われでもしたら、俺はしばらく自室に引きこもってしまう可能性すらあったぞ。
「うん、必ず説明するから。 …では皆さん、そういうわけで中に入りましょう。 あ。ノーマンとマージちゃん、それから理事長は、俺と一緒に壇上へ上がってもらいます」
皆が頷くのを確認し、俺も大講堂の中へ移動する。元・気絶テロリストが相変わらず棒立ち状態だったが…そのままにしておくか。説明が終わったあとに、「出入り口に居るテロリストは安全です」とでも断っておくとしよう。
─ 2012年4月20日(金) 10:49 ─
放送機材の調整を行い、学園内全域に放送する準備を完了させた俺たちは、700を超える人々が見守る中、台本無しのぶっつけ本番説明会を始めようとしていた。
「えー…皆様、大変お待たせ致しました。恐らく、学園唯一の男性ということで、僕の事は皆様もご存知かとは思いますが、改めて自己紹介させて頂きます。伊藤渉です。宜しくお願いします。 今回お集まり頂いたのは、本日起きました騒動の発端と解決までのあらまし及び、今後の対策についてご説明させて頂くためとなります」
手始めに俺が挨拶をしたあと、ノーマンとマージちゃんに軽く自己紹介をしてもらった。理事長にもマイクを通して学園全域に放送している旨を含め挨拶してもらい、再度俺にマイクが回ってくる。
「では、今回の騒動について説明させていただく前に、騒動の発端となった野間について補足説明させて頂きます」
「えっ?! この襲撃事件って俺が原因だったの?!」
事件解決したのに、原因を教えていなかったせいで本気で驚いているノーマンをよそに、俺の説明は続く。
「この野間…そして僕もですが、普通の人間ではありません。ある二人の人物の遺伝子情報をベースに造られた人工生命体です。 クローン技術による複製に近いですが、この方法では“染色体の末端部分に見受けられる塩基配列のループ”である“テロメア”が短くなってしまいます。 このため、細胞分裂が行われる回数が少なくなり、結果的に寿命が短くなると言われております。 しかし、ノーマ…いえ野間の染色体には神力を練り込む事での細胞強化を。僕の染色体には魔力を練り込む事での細胞強化がそれぞれ施されており、謂わば人造人間に近い存在となります」
大講堂内がどよめき立ち、俺の横に居るノーマンから「そうだったのか」などという呟きが聞こえてくる。いや、お前も一緒に師匠から説明されてただろうが、何で覚えてねぇんだよ。
「そういった特異な強化がされたことにより、野間と僕は通常の人間よりもはるかに高い魔力保有能力及び、神力精製能力が備わっています。 その力を見込まれ、僕たちは5歳の頃より世界連合防衛軍に所属し、極秘裏に紛争鎮圧のための戦闘訓練や、死傷者を減らすための魔導具の開発に携わっておりました」
どよめきが更に大きくなる。そりゃ、アニメや映画くらいでしか聞かないような話をされれば、いくら魔法という不思議パワーに携わっているとはいえ、にわかには信じられないだろうな。
ちなみに、ここ日本を始め世界各国では、魔法少女や魔女といった存在が警察と連携して犯罪抑制に貢献しているという事実は、一般レベルの常識となっている。とはいえ、魔女の素性や魔法の使い方といった事は、犯罪に利用されないよう情報統制により隠匿され、日本ではこの籠月学園以外に魔法の使い方を教えている教育機関は存在しない。
そして、軍に協力している魔女というのは一般的には知られていない。その理由は、軍に協力した場合、担当となった魔女が長期出張することになるため、該当時期に家に居なかった女性が魔女ではないかという憶測を近所の人間に抱かせないようにするという目的。そして、魔女の身の安全を護るという目的のためである。
いくら魔女といえども、そもそもが人間である。魔女同士の交友関係だけではなく、一般人との交友関係ももちろん存在する。世間的には魔女であるという事を公表しないようにしているので、そういった日常生活を護ることを最優先とし、本人が自分の意思で軍に入隊しない限りは協力を仰がないという規則が世界規模で正式に結ばれているのだ。
加えて言うならば、軍が動くような内容の場合、魔女の防衛能力を貫通するほどの破壊力を持った兵器が向けられる可能性が極めて高い。アサルトライフル程度であれば防御壁魔法を使う事で防御することは出来るが、戦車の徹甲弾を使われてしまえば一発で貫通されるだろう。それに、防御壁魔法の死角から撃たれてしまえば普通に攻撃を食らう事になる。万が一が無いよう、軍からの要請は出さないようにしているのだ。
そういった事情があるため、いくら能力が高くとも軍に見込まれて所属するというケースは異例中の異例となる。それが5歳児の段階でとなれば、なおの事異常なのだ。
「この事が、今回の騒動に関係しているのです。 ニュースで取り沙汰されていたのでご存知の方も多かったと思いますが、この2年ほど防衛軍は世界各地で勃発していたテロ行為や紛争の鎮圧などを、破竹の勢いで収めていました。 先週には、すべてのテロ組織が潰え、各地の紛争も暴動と言えるレベルにまで威力が落ちたとの発表がなされました。その一番の功労者が、ここに居る野間…そしてその横のマージです」
大講堂に驚きと感嘆の声が溢れる。恐らく、警備員棟を始め各持場に残って聞いている人たちからも同じような声が出ているだろう。
「…ですが本日、この学園にテロリストが襲撃してきました。理由は、ここに居る野間が、この学園に入学予定であるという話がテロ集団の上層部に漏れていたためです。 事前にこの学園関係者を人質とし、野間を捕縛するための足掛かりにしようとした…という事までは調べがついています。ですが、なぜ情報が漏れたのか、そこについてはこれから詳しく調べます」
先ほどまでの雰囲気から一転、大講堂に不安の籠った声が溢れ返る。仕方のない話だ、既に教員や警備員として働いているのならともかく、ここに居るほとんどは高校生や大学生に該当する生徒でしかない。
実戦向きの魔法教育は高等部三年時点で習うが、ここに残っている生徒は実戦訓練を受けていないので戦闘には不慣れなのだ。高等部卒業後は働きに出る或いは、嫁ぐといった生徒には、事前に戦闘訓練を積ませ、卒業までに実戦試験に合格できるよう中々にスパルタな特訓をさせる。そのため、ある程度の戦闘行為には即座に対応できるようになるのだが、ここに残っている生徒はそれを行っていない。急な事に対応できるか不安なのだろう。
「ですが安心して下さい! 今回、僕たちは虚を突かれ後手に回ってしまいましたが、今後は好きにはさせません」
俺は現時点で考えうる限りの具体的な対策内容、マチュアの存在の周知、監視方法の強化…等を挙げていき、皆へ説明していく。
30分ほどかけてじっくりと説明したおかげか、はたまた俺たちの実力を知ったからかは分からないが、どうにか皆を安心させるだけの信頼は貰えたようだ。一通り説明も終わったので質疑応答を設けてみたのだが、小一時間ほど質問の嵐に会い、ある程度沈静化した頃には説明開始から2時間が経過していた。
─ 2012年4月20日(金) 12:48 ─
「では…質問もある程度収まってきたようですので、今回は以上とさせて頂きます。お時間を頂き、ありがとうございました…」
ノーマンと理事長の二人はピンピンしていたが、俺とマージちゃんはかなりヘトヘトになっている。俺の場合は単に喋り過ぎで、マージちゃんの場合は人からの質問攻めに対しての気疲れが要因となっている。1Fにある自動販売機で、ペットボトルの水を用意してから挑むんだったと反省した。
ぞろぞろと人の波が出口に向かい始めた瞬間、複数の悲鳴が聞こえる。……そういえば、すっかり言い忘れていた。
「申し訳ありません。出口横のテロリストは、既に催眠魔法で催眠状態になっております。皆様に危害は加えませんのでご安心を」
さて、これで俺が説明できることはほぼ伝えることができた。あとは──
「ん? BB、スマホなんか取り出して何やってるんだ?」
「あぁ、コレ? 幼馴染の皆をランチに誘いつつ、サドンデス説明タイムのご案内さ。ノーマンも覚悟しとけよ」
──幼馴染たちへ今まで秘密にしていたことに対する謝罪と、補足説明タイムを残すのみである。それが終われば……ノーマンの説教は、もう明日に回そう。疲れた。
「BBってさ、昔から思ってはいたけど、几帳面っていうか…ハッキリ言っちゃうとドMだよな」
「失敬な!単に几帳面なだけだよ! 仮にドMだとしても、ドMという名の几帳面だよ!」
「BB、あなた疲れてるのよ。言ってることが良く分からないわ」
「疲れていることは否定できない。だけど、もう連絡送っちゃったあとだし、是非も無いね。腹くくって飯食いに行こうず!」
「おかしいなぁ、本当だったら初めての学食だからワクワクしても良いはずなのに、ちっとも気が乗らねぇや」
できればもう喋りたくないという思いを胸に秘め、俺たちは食堂へと向かうのだった。
今更ですが、吾輩、軍事関係の知識は素人です。
じゃあ、なんでこんなストーリーを考えたんだよ?と思われるかもしれませんが…ノリです。




