第15話 - まったりとした正月、急転直下なバレンタイン前日
前回のあらすじ。
学園にて年末の大掃除を終えた渉達は、移動時間のつじつま合わせをした後、各々の実家へと帰宅した。
渉の義母の安産祈願も含め、伊藤家は全員での初詣を行う事となる。
それを知った他の幼馴染の一家も、久々に全員揃って初詣をしようという流れとなるのだった。
そして、除夜の鐘を聞くも渉の煩悩が清められないまま、しめやかに新年が開けたのである。
─ 2013年1月1日(火) ─
除夜の鐘を108回分聞き終え、新年が明けてから十数分後に皆揃って初詣を済ませ、来た時と同様にまったりと話しながら帰宅。これが新年を迎えた直後の流れである。
初日の出を拝むことはしていない。何故なら、俺やノーマンやマージちゃんといった防衛軍所属のメンバー以外は、学園の生活サイクルのせいで早寝早起きが板についてしまっていたため、夜更かしがキツくなっているのだ。
小父さん、小母さん達は頑張れば夜明けまでいけるとのことだったが、娘達がおねむになっているので素直に寝ることとなったわけである。我が家としても、義母さんが妊婦だし下手に負荷をかけるわけにもいかなかったので丁度良かった。
ちなみに、アイドル活動で深夜帯も平気なんじゃなかろうかと思われていた網谷だが、活動時間は極めてホワイトで日付変更線をまたぐ事はごく稀らしい。……言われてみりゃ、トップクラスのアイドルが不規則な生活で肌荒れ起こしたら事だもんな。そうじゃなくても、未成年の深夜仕事は法律上問題があったっけ。
それに網谷は、事務所からすれば花形商品だ。ぞんざいに扱うわけにもいかないのだろう。
まぁ、会話していた大晦日当時は、大衆の目があるという理由で網谷が認識阻害の腕輪を着用していたため、肌荒れの有無を確認できなかったわけだけど。
………
さて、そんなこんなで元日の朝はゆっくりと寝て過ごし、学園に居た時よりも遅めの朝食を取ることになった。と言っても、朝9時前後の話だが……。
朝食の内容は伝統的なおせちと雑煮。
用意したのは義母さん……ではなく、義父さんである。さすがにおせちはデパートで予約したものだが、雑煮は毎年手作りである。
「……う~む。相変わらず義父さんの雑煮は美味い」
「ホントね。出汁がほど良く効いてて学園の家庭部並み美味しいわ」
「いやぁ、我が子に褒められるのは嬉しいね。まだまだお鍋にいっぱいあるから、二人ともたんとお食べ」
((そして、褒めると毎度田舎のお婆ちゃんっぽくなる不思議……))
義父さん、義母さんの二人は、同じ病院で産まれた幼馴染とのことだが、2日早く産まれた義母さんの方が若々しい。義父さんの方は影が薄く、気弱で、たまにお婆ちゃんっぽくなる。
研究所では義父さんが現所長で、義母さんが副所長なのだが、見た目的には逆に思われがちだったりする。まぁ、研究所員の皆からすれば、ちゃんと仕事が回ってるから些細なことらしいが……。
「もぅ。崇くんったら、そんな田舎のお婆ちゃんっぽいこと言わないの! 私の旦那様なんだから、もうちょっとシャキっとして、若々しさを押し出してよね!」
「あはは……。大丈夫だよ、僕が老け込んでも則ちゃんは若々しいままだから」
「やだっ、もぅ……崇くんったら……」
年甲斐も無く子どもの前でイチャつく義両親に、若干イラッとくるものを覚えつつ家族で和やかに過ごした。
……俺と莉穂姉も、学園ではこんな風に思われてるのかもしれない。俺は、“学園でのイチャ付き方を少し考えよう”という抱負を立てたのだった。
─ 2013年1月6日(日) ─
「──そういう事があって、俺は期せずして抱負を立てたわけだ」
俺達は今、毎年恒例の子供たちだけの正月会を行っている。と言っても、午前中は女子と男子に分かれて女子会、男子会のノリで過ごしてから、お昼頃に合流するというのが通例である。
そして今は、絶賛男子会の最中だ。
「「そうか。実行できたらいいな。応援するだけしとく」」
「お前達、俺が実行できるなんて露ほども考えてないだろ。その言い方……」
「「おうよ」」
「ちくしょうめ……」
二人を引っ叩いてやりたいけど、今までの俺の言動や行動が招いた結果だから、甘んじて受け入れるしかない。
くそぅ、去年はテロリスト対策とかで莉穂姉とあんまりイチャイチャした記憶はないんだが、傍から見るとそうでもなかったという事か。
「それはそうと、渉。今日は小父さんと小母さんはどうしたんだ? まだ仕事始めじゃないはずだろ? ……あ、もしかして出産が早まったとか?」
本日、一度も顔合わせしていない義両親を不思議に思ったのか、天野がそんなことを聞いてきた。
この正月会だが、毎年俺の家で行われていて、その際に必ず義両親が顔見せしてくるのである。今日はそれが無かったので気になったのだろう。
「んなわけないだろ。それだったら俺達も一緒に病院へ行ってるよ。そんなんじゃなくて、師匠が世界各地の海底に設置した地震計に、巨大地震前に計測されるような反応があったとかで、昨晩から研究所に泊まり込んでるのさ」
師匠が仕掛けた地震計は、恐ろしい事にマリアナ海溝の底にまで設置されており、とんでもない水圧の中でも正常稼働している。この地震計で、大地震が起きそうな振動を検知した場合、研究所にアラートが届く仕組みになっているのだ。
そして、大地震が起こり得る時期を研究所が弾き出し、緊急を要する際は直ちに対象国の政府に連絡。世界防衛軍にも同時に連絡を行い、避難や救助のための準備を促すという流れとなっている。大戦の後も、「災害等で甚大な被害がでないように」と師匠が残した防衛装置の一つだ。
昨晩、東北沖の海底に設置されたものが異常を検知したらしい。その緊急性を確かめに、我が家の義両親は職場へ戻ったという訳である。
それにしてもこの地震計だが、今から半世紀以上前に作られ設置された代物だ。にもかかわらず、一度もメンテナンスすることなく信号を送り続けているのである。
なんでも、大気中よりも海水の中の方がエーテル濃度が高いとかで、水圧に対する抵抗やら経年劣化やらを魔法陣で対応させているとのこと。魔力自体は海中のエーテルから常に補給できるので、メンテナンスフリーで軽く10万年は稼働しっぱなしにできる計算らしい。
遠い未来で人類の科学技術が一度衰退し、もう再度海底探査ができるようになったときはオーパーツ認定確実な代物だろう。……まぁ、バレないように研究所に施しているものと同じ魔法陣を使い、周囲と一体化させているので発見される事はまずないけどな。
「……小母さん、そろそろ出産を控えてたよな? 大丈夫なのか? そんなに働いてて……」
天野が若干引き気味に問いかける。
「莉穂姉を産む時も、臨月を迎えるまではバリバリ働きまくってた……って話だから平気だろ。なんだかんだであの人も魔力量は高いから、いざって時は自分で治癒魔法しながら救急車を呼ぶだろうよ」
「あの齢で妊娠ってのも凄いと思ったが、想像異常にパワフルな人だったんだな。渉の小母さん」
「莉穂姉が将来、あんなワーカーホリックにならない事を祈るよ。俺とは違って、ちゃんとした血の繋がりがある分、心配になっちまう」
その後は、世間話やゲームやアニメの話をしつつ男子会は終了。
昼食時になっても義両親は戻ってこず、今年新たに加わった由子お姉ちゃん、マチュア、マージちゃんを含めた正月会は、なかなかにカオスな状況を作りつつ夕方には幕を下ろした。翌日から学校が始まるからな。
ただ、俺はこの時考えもしていなかった。
午前中に話していた地震計の件で、俺達が緊急出動させられるハメになるという事を……。
─ 2013年2月13日(水) ─
朝の清掃活動も終わり、朝食も済ませシャワーも浴び終った。あとは高等部校舎に行くだけという状況の中、俺はリビングにあるカレンダーの前で一人唸っていた。
明日は、お菓子メーカーの陰謀による非リア充が地獄を見る日。そう、バレンタインデーである。
今日が仏滅で明日が大安なのだが、個人的には明日の方が荒れそうな気がしてならない。
去年までは滝川も由子お姉ちゃんも俺にアプローチを掛けることも無く、落ち着いた感じの義理チョコを渡してくれる程度だった。しかし、4月のテロ襲撃事件の際に「渉を諦めない」宣言をして以降、莉穂姉への対抗心が折れる事は無かった。
それに加えて、アンドロイドのマチュアまでボディを駆使して俺に絡んでくる始末である。
皆、ガチの本命チョコを、気合と共に渡してくるだろう事は想像に難しくない。
「これは、“莉穂姉以外のチョコは頑として受け取らない”と、行動で示す時が来たという事かもしれん」
「え? それって、莉穂姉本人が『チョコはわ・た・し♪』って言って来ない限り受け取らないって意味か、BB? うわぁ~、童貞を拗らせたヤツは考えが違いますなぁ……ま、俺もソレはアリだと思うがな。だって、同じ童貞だもの」
いつの間にか俺の後ろにいたノーマンが、すごくいい笑顔で同意を示してきた。……が、違う。そういう意味じゃない。
「“莉穂姉が用意したチョコ以外は”って意味な。……まぁ、その解釈もアリっちゃアリだが、前にも言った通り結婚までは清い付き合いを通したいんだ。そんな我慢できそうにないイベントは俺の精神が崩壊しちまうっての」
「チッ。BBが一線を越えてしまえば、俺だってマージや篠山ねーちんとキャッキャウフフできると期待してたのに……」
「俺が人道に反しない行動を取ってる以上、俺との約束を最優先で守るよう暗示を掛けた師匠を恨むんだな。俺としては、お前が手当たり次第に女性を襲わないように手綱を握れているから、ありがたい話ではあるけど」
「失礼な。俺だってそんなケダモノじゃねぇよ」
「でも、来るものは拒まずだろ? お前」
「“据え膳食わぬは男の恥”って言うだろ?」
「学生である以上、風紀は守れよ……ったく。まぁ、そういうわけだから、俺もお前も結婚するまでは童貞のままだな」
「チェッ……残念」
──ビィィィィッ! ビィィィィィッ!──
下らない話をし終わった直後、俺の私室から非常アラームが鳴り響く。
ノーマンと顔を見合わせ神妙に頷くと、俺達は急いで部屋に入った。勉強机に置かれたモニターの電源を入れ、PCに向かって話しかける。
「マチュア、一体何があった?!」
『渉、俊之。緊急を要する事態です! 東北沖の海底にて、大規模な地震が起きるとの予測が出ました! 時間は、本日1430から翌0230までの間。場所は岩手県釜石市より東におよそ400km地点。震源は海底より30kmから50km。推定Mは“11”! 史上最大の値と予測されます!』
「「はぁっ?!」」
世界規模で見ても、史上最大と言われているMは“9.5”である。
わずか1.5の差ではないかと思われるかもしれないが、地震のエネルギーはMの数値によって指数関数的に増大して行く。
そのエネルギーは、“10^(4.8+1.5×M)”〔単位:J〕で求められる。
例えば、M9.5のエネルギーはおよそ“2.68×10^18”kcalである。
TNT爆弾で換算すると約27垓(270,000,000,000,000,000)個分に相当するエネルギーだ。広島型原爆のリトルボーイで換算すると約20万個分となる。
そして、M11の時のエネルギーとなると“4.76×10^18”kcal。
M9.5の時のおよそ178倍である。
ビッグセブンと謳われた戦艦長門とかが、軽く消し飛ぶような威力の爆弾3560万個のエネルギーとなるのだ。
どれだけ頭のおかしな威力になるか、お分かり頂けただろうか。
そんな大爆発に匹敵するエネルギーが、「東北のご近所の海底でスパーキングしそう」と言われたのである。
地震そのものによる倒壊もさることながら、津波対策として東海の沿岸にどれだけのATフィールドを張らなきゃいけないのか……考えただけで頭が痛い。
もういっそ、日本をネオジャパンコロニーとして浮かせた方が早くないだろうか……などと現実逃避したくなるレベルである。
「おいマチュア! そんなアホみたいな大地震、俺らに教えて何をしろっていうんだよ!」
「落ち着け、BB。コレはきっとアレだ、俺に『地震が起きるよりも先に海底を割れ』って言っているに違いない」
「お前こそ落ち着け! そんなバカみたいな事したら、地震よりも悲惨な事になりかねんわ! リアル日本沈没が起きたらどうすんだよ!」
『二人とも落ち着いてください。こういった事態に備えて、博士により用意されていたものがあります』
ギャーギャー騒いでいた俺達の耳に、落ち着いた合成音声が響く。
俺達が落ち着きを取り戻したのを確認すると、マチュアが一拍置いて続ける。
『研究所にある博士の私室に、10000m以上の深海でも行動が可能な潜水服が準備されています。それを着用の上、博士が準備した対巨大地震用魔法陣を展開してきてください。タイムリミットは1430まで──残り約450分です』
……どうやら今日は、本当に仏滅だったらしい。
降って湧いた緊急クエストで、俺達は授業をサボらざるを得なくなってしまった。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




