第14話 - 学園の大掃除から始まる年越しの夜
前回のあらすじ。
遊園地で子供を人質にとったヒゲ男は、リア充への嫉妬を拗らせただけのはた迷惑男であった。
意図せず男の逆鱗に触れてしまった渉だったが、それが功を奏し、人質を開放することに繋がる。
そして、男が攻撃を仕掛けた瞬間、渉と連携した俊之がすかさず投げ飛ばし、無事に事件が収束したのであった。
─ 2012年12月31日(月) ─
クリスマス合同デートは、嫉妬を拗らせたヒゲ男の乱入により一時中断させられる事になったが、その後は変な事が起きることも無く閉園時間まで楽しむことができた。
むしろ、大事になる前に犯人逮捕をしたという事で、遊園地側からアトラクションのタダ券やレストランのメニューを一部無償で提供してもらうなど、大盤振る舞いなお礼を頂くことができたくらいである。……まぁその分、警察の人からは称賛とともに注意も受けてしまったが。
「次にこんなトラブルに巻き込まれたら、魔女が到着するまで大人しくするんだよ? 下手に犯人を刺激して、怪我でもしたら危ないからね。わかったかい?」
やんわりと説教をしてきた警察官のお兄さんは、実直そうな好青年だった。きっと、同僚の女性からも人気が高いことだろう。ヒゲ男からすれば、彼も敵扱いしそうだ。
しかし、そう注意されたものの、残念なことに俺の方が現役の魔女よりも魔力保有量が高いんだよね。魔法の扱いに関しても得意だし。まぁだからと言って、公けにバラすわけにもいかないわけで……実にもどかしい。
とまぁ、そんな愚痴はともかくとして本日は大晦日。そう、日本人の誰もが知っている大掃除の日である。
この籠月学園は、平日の朝早くに学生全員で清掃活動をするのだが、長期休暇中はこの限りではない。
ただし、本日は別である。いつもの清掃活動よりも三倍長く時間を取り、ガチで掃除をするのだ。
……とは言っても、普段からこまめに掃除を行っているだけあって、目に付くような汚れなんてあまりないのだ。ただ、来年の登校日まで一週間弱寮や校舎が手つかずになるから、その準備として気合入れて綺麗にしておこうという話である。
もちろん、警備員棟には常に警備員のお姉さんが常駐しはするので、全くの無人になるというわけではない。でも、彼女らに掃除をさせるわけにもいかないので……というわけだ。
「ちなみに、ノーマン。大掃除の日はいつもとは掃除のしかたが違うんだぜ?」
「え? そうなの? ……つっても、服装とかはいつもと同じで、清掃用のジャージじゃん?」
「ちっちっちっ……見た目の話しじゃあないぜ。なんと、今日は魔法をフルに使っての大掃除なのさ」
今年入学した一年生も、今となっては8ヵ月ものあいだ魔法の訓練をしてきた子達だ。自由に飛び回る飛翔魔法はまだ習っていないものの、無重力体験ができる空中浮遊魔法くらいは問題なく使いこなせている時期である。
大掃除では、これらの魔法に加えて水流魔法を駆使し、寮・校舎の外壁・屋上などの汚れを一掃するのだ。
これは、犯罪者を相手取るときの実戦練習にもなる。
基本的に、魔女のフィールドは空中がメインである。そして、対空装備が無ければ反撃できない位置から一方的に魔法を行使し、犯人を無力化に追い込む……という戦法を取るのが定石だ。
そのためには、空中に浮かぶための魔法を使いつつ、他の魔法も同時に使うということをしなければならない。大掃除は、その練習にうってつけなのである。学園全体も綺麗になるし、一石二鳥というわけだ。
「それ、学園の前を通ってる国道や周辺の林から、一般人に見られる危険が出てくるじゃんか」
「その心配はもっともだが、ここに通ってる道って東西に伸びてる一本しかないだろ? だから、事前に東側と西側に魔女が数人ずつ見張って、一般車両や自転車なんかで来るデバガメが近づいてきた時はすぐに連絡を寄越す手筈になってるのさ」
「なる。で、連絡を受けたらすぐに地上に降りて、何食わぬ顔で掃除を続けるんだな?」
「そういうこと」
去年までは、わざわざ魔女が学園近くまで飛んできて、決められた合図を送り接近を知らせていた。そして、それを発見した人が伝言ゲームの要領で周りに伝え、空中で掃除している生徒達に知らせて回るという面倒な手順を踏んでいたのだ。
今回は俺の作った魔力通信用の魔導具も渡してるから、一気に学園全体に連絡できるので楽になるだろう。
………
「ねぇ、渉くん。これって、私達の初めての共同作業ってやつじゃない? 結婚したら、こういう機会も増えるのかしらね?」
「いや、普通の夫婦じゃあこういう作業はしないよ。まず、空中浮遊なんてできねぇもん。そもそも、住宅街でこんなことしたら、一発で魔女だってバレるっしょ」
俺の横から由子お姉ちゃんが楽しそうに語りかけてきたので、普通にツッコミを入れておいた。
俺達は現在、国道側に面した寮の壁を水洗いしている。飛翔魔法で屋上まで上がり、まずは屋上の清掃。そして、そのまま高度を下げつつ、壁面に水流魔法を強く噴出させ高圧洗浄の要領で汚れを落としていくのだ。
ちなみに、この作業は空中浮遊魔法で行うと反動で吹き飛んでしまうため、飛翔魔法を修得している二年生以上が行う事となる。
空中浮遊魔法しか使えない一年生は、主に教室や寮内通路の天井の拭き掃除や窓拭き等が割り当てられるのが通例だ。それに、空中浮遊魔法だと急いで着地することが難しいので、外での作業は厳禁となる。
「キャッ♪ 躓いちゃった♪ 渉、受け止めて~♪」
「飛翔魔法使ってるヤツが、どうやって躓くってんだ! ドジッ子キャラでもねぇよそんなもん!」
「ギャッ!?」
俺を挟んで、由子お姉ちゃんとは逆方向で作業していたマチュアがアホな事を言いながら迫ってきたので、壁に叩きつけておいた。淑女にあるまじき声を出していたが、自業自得というやつだ。
「くぅ……いつもだったら、あの位置に居るのは私だったはずなのに……」
「莉穂姉、我慢するしかないですよ。今回は公平なくじの結果、この割り振りになったんですから……」
少し離れたところから、莉穂姉と滝川のやり取りが聞こえてくる。
滝川が言ったように、今回の組み別けはくじ引きによる結果である。合計5本の竹ひごを用意し、その先端を赤く塗った物を2本と、無地の物を3本使って行った。しかも、「BBがやると何らかの魔法を行使して、不正に莉穂姉と二人きりになる可能性がある」だのと言い出したノーマンが、俺と莉穂姉の分を速攻で引き抜きやがったのだ。
その結果、俺と由子お姉ちゃん、マチュアの三人組。莉穂姉、滝川の二人組ができ上がった次第である。
「くそぅ、去年の時点で飛翔魔法使えてたんだし、実力を隠さずに莉穂姉と一緒に作業するんだった!」
「フフフ……いつもいつも伊藤さんと一緒に行動してる分──」
「今日は私達と共同作業してもらいますからね? 渉♪」
耳元で心底楽しそうに囁く由子お姉ちゃんとマチュアに絡まれながら、俺達は大掃除を粛々とこなしていくのだった。
余談だが、今回の見張りは魔導具のおかげで凄く楽だったと、学園OGの魔女から大好評を頂けた。来年以降は、これを使用した大掃除がデフォになる事だろう。
まぁ、精神感応魔法の難易度が高い理由って、“送る相手を正確に選ぶ事が難しい”ってのが主な問題点だからな。俺の魔導具を使えば、番号や装着者の名前、或いは位置情報による指定といった方法で伝えたい相手を選べるから難易度が下がる。消費する魔力も多くはないから、わざわざ学園まで戻るよりも遥かに楽だもんな。
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大掃除が終わってから数時間ほど学園で時間をつぶし、俺は幼馴染メンバーを連れて東京の伊藤家に移動していた。
学園と家とは転移魔法陣の承認ができているため一瞬で行き来できるのだが、魔法で移動した事をご近所さんにばらすわけにいかない。だから、電車などの公共機関を使って移動したくらいの時間を潰してから転移してきたという次第である。
もしも、キャリーバッグの音が聞こえなかったと言われて白を切ればいいだけのことだ。
そういうわけで、学園の物販スペースで買ったお土産を渡しがてらご近所さんに挨拶をして回り、今は義両親と共に家族で団欒中である。
他の幼馴染メンバーは、挨拶回りを終えたあと実家へ戻って行った。
ちなみに、由子お姉ちゃんは籠月グループ主催の年末パーティーに出席しなければならず、非常に不本意そうな顔をしながら会場へと向かった。マチュアに至っては、いい加減メンテナンスをしてもらうために群馬の研究所へ強制転移させている。
「ふふ……もう2ヵ月も経てば、莉穂と渉に妹が産まれるのよ? 楽しみでしょ?」
「ははは……義母さん何言ってるのさ。俺と莉穂姉の子供くらい歳の離れた妹とか、もはや姪っ子の領域でしょうが。自分の歳を考え──」
俺がすべてを言う前に突然遮られる視界、こめかみにめり込む指。そして──
──メキメキメキィッ──
──頭蓋を通して響き渡る異音。間違いない。GW中にも一度食らった、義母さんのアイアンクローだ、コレ。
「──いだだだだだだっ! ギブギブギブッ! フレーム歪むっ! 伊達メガネだけどフレームが歪んじゃうから勘弁してっ!」
「……ふんっ、失礼な事を言うからよ。いい? 私達魔女はね、更年期障害迎えるまでは現役なのよ? 私と崇くんは、まだまだピッチピチのアラフォーなんですからね」
「……了解……」
義母さんは鼻を鳴らし、俺をボロ雑巾のように投げ捨てた。
まったく、臨月も近いと言うのになんて馬鹿力を出してるんだ。破水したら事だぞ。……いやまぁ、原因を作ったのは俺だけど。
でも、アラフォーは“ピチピチ”と言うには範囲外すぎるだろ。
「まぁまぁ、則ちゃんも抑えて抑えて……。見た目は昔と変わらず綺麗なままだけど、実際に出産年齢としては高いわけだし、お腹も大きいんだから無茶なことはしないで。……ね?」
「んもぅ、綺麗で可愛いだなんて、崇くんってば!」
崇こと義父さんに諭され、則子こと義母さんが生娘の様に赤くなりながらクネクネと悶える。「いや、“可愛い”とまでは言ってない」と、ツッコミを入れたいところだったが、俺は口をつぐんだ。
義父さんは少し頼りなさそうな感じはするものの、実年齢より幾分か若く見られるし。義母さんに至っては、アラサーと言っても通じるほどの見た目である。そう、見た目だけなら義母さんは確かに綺麗と言えるのだ。……実際は義両親共に42歳だが。
まぁ、そんな義両親は見ての通り今でもラブラブだったりする。妊娠した経緯については、どうもGW中に俺と莉穂姉が二人の前でイチャイチャしまくったため、それにあてられた義母さんが義父さんを押し倒したのだとか。
「それにしても、18歳下の妹かぁ……。ねぇ、渉。私達が妹を連れて歩いたら、周りから若夫婦って思われたりしないかしら?」
「こら。私と崇くんの愛の結晶を、勝手に我が子にしようとするんじゃないの。自分自身で産める身体なんだから、ちゃんとお腹を痛めて産んであげなさい」
「でも義母さん、莉穂姉を産んだ時は無痛分娩にしたって話じゃなかったっけ?」
尻餅をついていた俺の顔に、義母さんの手がフェイスハガーのごとく張り付き頭蓋を締め上げてくる。
「出産までの日常生活が大変って事よ。少しは学びなさい、愚息」
「了解」
こんな感じで、たまに俺がアイアンクローを食らう羽目になりつつも、楽しく大晦日の夜を迎えた。
晩御飯は軽めに済ませ、新年のカウントダウンまで一時間となった頃に年越し蕎麦を食べる。その後、新年と同時に初詣を行うため、大き目の神社へと向かう準備をする。
例年であれば俺達学生組だけの面子で行くのだが、今年は我が家の義両親も安産祈願ついでに初詣について来ることになった。それを聞いた幼馴染の両親達も、「じゃあ、折角だし私達も……」と話しが進み、野間家、滝川家、篠山家、関口家、妹尾家、姉崎家、網谷家、天野家そしてマージちゃん……という大人数での移動となった。この規模で初詣に行くのは、小学校低学年以来である。
「いやぁ~。こうして子供たちを連れて歩いてると、昔を思い出しますね~」
「えぇ、本当に。それにしても、姉崎さんのとこのお嬢さんはすっかり大人な雰囲気になりましたね」
「本当ね~。昔から大人し目の子だったけど、今ではすっかりお姉さんって感じになって……」
「それを言ったら、伊藤さんの莉穂ちゃんや、篠山さんとこの楓ちゃんだって立派になってるじゃない。うちの久恵ったら、まだまだ子供っぽさが抜けなくてねぇ……」
「ちょ……ちょっと、お母さん! 私だって、好きでこんなんじゃあ……」
久々に顔を合わせたからか、普段よりも親御さん達の口が軽い。そして、妹尾の母による言葉のジャブが妹尾を涙目にする。……不憫だが可愛らしい。
「うふふ……久恵ちゃんは十分可愛いわよ。自身を持って。むしろ、私としては久恵ちゃんの可愛らしさは羨ましいくらいだわ」
「そ……そうなの? 美希お姉ちゃん?」
「えぇ、必要以上に大人びて見られるのって、当事者としては少し窮屈なのよ。子供っぽく振る舞うと、驚かれたりするし……。だから、私としては久恵ちゃんの可愛らしさは羨ましいのよ」
「そう……なんだ。……えへへ、私も美希お姉ちゃんみたいな女性に憧れてるから、そう言ってもらえるとちょっと嬉しい……かな」
いつもは関口・妹尾ペアだが、たまには美希姉・妹尾ペアというカップリングもアリだな。そんな事を考えつつ、初詣の列に並びながら除夜の鐘を清聴するのだった。
……除夜の鐘を聞いても、俺の煩悩がどうこうされることがないと証明された瞬間であった。
さてと、“ワルプルギスの夜”に“負の感情”をぶちのめせるよう、仏様に拝むとしようかね……。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
デイサービス先から風邪をもらったらしい祖母を、吾輩と父で介護していたら、二人とも風邪をひいてしまった件。さらに、花粉という目に見えない脅威が吾輩を襲う。
なので、「タイプミスや文章がおかしい部分が多かったら、それは体調不良のせいなんです!」と言い訳して行くスタイル。……いやホント、薬のせいなのか眠くて眠くて。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




