第13話 - 言霊と魔法の違いと頭の悪い犯行動機
前回のあらすじ。
渉、俊之、薫の三人は、都内の遊園地でクリスマス合同デートを楽しんでいた。
そんな中、子供を人質にとり、騒ぎを起こすヒゲ面の男が現れるのだった。
唐突だが、“言霊”という単語をご存知だろうか。“言葉に宿った霊的な力”を指したものだ。
現在の日本では、魔女の存在によって魔法こそ一般的に知られているものの、言霊の存在はあまり信じられていない。
その理由だが、魔女は認識阻害の腕輪の効果によって個人特定こそされていないものの、ニュースなどで“実際に活躍している姿を見る事ができる”。それに対し、言霊を自在に扱う者は、“存在がほとんど認知されていない”のだ。
それもそのはずで、言霊を使うためには魔力を消費する必要がある。そして、一般人の魔力保有量の平均はざっと100前後なのだが、「志望校に合格するぞ!」だの「好きな人を振り向かせる!」だのという言霊を発動させるためには、だいたい250前後の魔力が必要となる場合が多い。もちろん、この消費量は人によって異なりはする。
「志望校に合格するぞ!」と言った場合だが、もともと成績が良い人間であれば“己への自信”として言霊が効果発動するくらいなので、魔力の消費量は10程度に収まるだろう。逆に、成績の悪い人間が言霊を発動させるには、600前後必要になる可能性すらあり得る。
「好きな人を振り向かせる!」と言った場合も、本人の性格や見た目が相手の好みの範疇に収まっているのであれば、その宣言をした瞬間“意中の相手が少し自分を意識しやすくなる”といった補正が入る程度なので魔力消費量は少ない。対して、好みの範疇から離れていたり、ストーカーの様に一方的に相手を知っているだけだったりすると、酷ければ1000オーバーの消費をしても足りないといった可能性もある。
ちなみに、「静まれ! 俺の右手!」のように邪鬼眼系の中二病患者が叫んでいた場合、魔力を100ほど消費する事で、本当に右手が勝手に暴れ出すことがある。まぁ、今まであった出来事は、全て魔力保有量が足らずに数秒暴れただけで沈静化したため、魔女が出動するような事件に発展した事は過去一度もない。
もちろん、右手に魔王が封印されているといった事もないので安全である。……仮に、“魔王が封印されている”という設定を言霊で具現化しようとした場合、恐らくだが師匠の魔力保有量ですら足らないだろう。それこそ、学園地下の巨大魔法陣に蓄えられているレベルの膨大な魔力が必要になるはずだ。
このように、狙った効果を正確に出せるわけでもないのが言霊なのだ。そのため、過去特番などでテレビに出演したことのある言霊使い達は、確実性に欠ける事からペテン師だの詐欺師だの言われるようになり、現在は表舞台から姿を消している。
ちなみに、籠月学園で教えている魔法は、“魔力の消費量”と“発動した際の効果”を定量化し、確実に発動させられるようにしたものである。また、言霊の様に声に出す必要もない。
魔法式をフル構築した場合は、構築内容によって魔力の消費量や効果も増減するわけだが、普段学園で教えている簡易魔法式で発動させれば、効果も安定するし発動も早くて正確なのだ。
一応、簡易魔法式でも意図的に効果を増減させる事は可能だが、「咄嗟に魔法を発動させても、基本的な効果を確実に発動させられるという点が凄いだろ?」と、だいぶ前に師匠が自慢げにしてたっけ。
さて、長々と説明してきたわけだが、俺が何を言いたいかと言うと──
「──いや、やっぱ俺の発言は無関係だって。特に魔力消費もしてないし……って言っても、俺やノーマンの場合は一秒あたりの魔力回復量が最低でも200はあるから、それ未満の魔力消費だと『消費した』って感覚すら感じないわけなんだが……。とにかく、俺は悪くねぇ。むしろ、フラグって言うならお前達二人の発言の方が──」
「オイ、うるせぇぞ! そこのイケメン眼鏡野郎! なんだお前? さっきから聞いてりゃ、随分と余裕ぶっこいてるじゃねぇか、あぁっ! そんなにこのガキの命に興味が無ぇか!?」
しまった。周りが静まり返ってる中、フラグがどうのこうのと緊張感の無さすぎる会話をし過ぎたか。ヒゲ面の男がアイスピックをギリギリと握りしめながら、凄い形相で俺を睨んでおる。
捕まっている子供──男の子は、ヒゲ面の剣幕に気圧されたのか「ヒッ!?」と短く悲鳴を上げて硬直してしまった。なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いやいやいや! そう言う訳じゃなくてですね! あまりにも非現実過ぎて、撮影かヒーローショーの一幕なのかと──」
「魔導具をさらっと作ったり、対テロリスト対策で陣頭指揮執ったりすることの多いBBが、『非現実』だとか言っててウケる」
「ヒーローショーだって、先月頭に俺達でやったばかりだもんな。渉もどれだけ特撮が好きなんだよって話」
「──オイ、二人のせいで俺がイチャモン付けられてんだぞ! 煽ってないで、ちったぁ助けろや。つか、学園でヒーローショーをやったのだって、天野の提案が発端だろうがっ!」
せっかくヒゲ面男をなだめようと言い訳をしていたというのに、横に居る外野が五月蝿い。
「あぁんっ?! テメェこの俺の覚悟が、演技か何かだとでも思ったってか?! 冗談や脅しで、こんな危険な事をするヤツなんていねぇだろがっ! ナメてんのか、このイケメン眼鏡がっ!」
「「いや、普通は演技やドッキリでもないと、遊園地でこんな騒ぎを起こせないだろ? むしろ、本気でやってる方がどうかしてる」」
「二人とも、何バカ正直に正論言って煽ってるんだよっ!? まずは落ち着かせるのが先だろうがっ!」
煽ってるかのように正論をぶちかますノーマンと天野にツッコミを入れていると、ヒゲ面男が地団駄を踏みながら俺達を睨みつけて叫ぶ。
「だぁぁぁあ! さっきから、野郎三人で楽しそうに会話しくさって! なんだ? お前らアレか? おホモだちってやつか?! そろいもそろってイケメンがホモホモしやがって!」
ヒゲが俺達に同性愛者の疑いを掛けてきた。失礼過ぎるなコイツ。ノーマンに掘らせるぞ。
……っていうか、『ホモホモ』ってなんだよ。黒薔薇三連星を召喚しそうな呪文を唱えるの止めろ。
「俺ぁな! クリスマスを機に好きだった女性に告白したら大玉砕だったんだぞ! だから、テメェらみてぇなイケメンリア充共が楽しんでるこの日を、鮮血のクリスマスにしてやろうと一念発起したというのに……その努力を嘲笑いやがって!」
この男、女に振られた腹いせでこんな事しでかしたのか。しかも、クリスマスで賑わう遊園地のド真ん中で……。そりゃあ、振られもするわ。普段から、思考がぶっ飛んでる片鱗を醸し出していたんだろうな、きっと。
ヒゲ男は俺達に気を取られ過ぎたせいか、羽交い絞めにしていた男の子からアイスピックを離し、こちらに先端を向けて上下に振り回している。少なくとも、力み過ぎて男の子の目玉にブスリ……という最悪の事態は免れそうで一安心だ。
……よもや、二人はそれを見越して、敢えてこちらに意識が向くよう煽っていたのだろうか?
「「失敬なっ! ちゃんと彼女連れで来てるに決まってるだろうがっ! あんたみたいなオッサンと違って、こちとら女性の恋人が居るんだよ!」」
「天野が網谷を“恋人”って宣言したっ?! ……あ、違った。……二人とも、ヒゲ男を煽ってんじゃねぇ!」
「う、嘘を吐くな! じゃ、じゃあ、その彼女とやらはどこに居るってんだ!? 呼んできてみやがれ!」
「「「「「呼ばれた気がしたから来ちゃった♪」」」」」
どうしよう。網谷、マージちゃん、篠山ねーちんはもとより、莉穂姉達まで嬉々としてこのカオスなやり取りに参加してしまった。
ヒゲ男を見れば、呆然とした顔をしたかと思ったらワナワナと震え出し、終いには耳まで真っ赤にして怒りを露わにしている。
「むきぃぃぃ! 何だよ! 何なんだよ! どうして女の人数が多いんだよお前ら! 彼女を複数人侍らせて遊んでるってのか!?」
「待って! 落ち着いてくれ! 俺達はまだ童貞なんだ! あんたが思っている様な爛れた関係では、断じてない!」
「そうそう。それに、彼女複数持ちなのは俺とBBくらいで、こっちの薫はちゃんと彼女は一人だけだぞ? ちなみに、俺の彼女はここにいるマージと楓の二人だ」
「待って、ノーマン。俺が彼女として認識しているのは莉穂姉一人であって、滝川をはじめとした他の三人は女友達としてしか見てないからな?」
「「「「「え? そうだったの?」」」」」
……なんでノーマンだけじゃなくて、俺以外の全員が同じ反応するのかなぁ?
個人的に、莉穂姉からも驚かれたのが地味にショックだ。とりあえず、どういう関係だと思っていたのか、その辺をあとで詳しく聞き出す必要があるな。
「ち……ちくしょおおおおおおぉぉぉぉ! イケメン眼鏡野郎! てめぇ、そんなエロい美女を侍らせて余裕の発言か!?」
「いや、そういうつもりは微塵もなく、ただの本心──」
「うるせぇ! てめぇみたいなイケメンが居るから、俺のように富の再分配から零れ落ちる被害者が後を絶たないんだ!」
ヒゲ男が鬼の形相で俺を睨む。
おかしい。俺は、彼女が一人だけと宣言したのに、なぜか彼女が二人と宣言したノーマンの方へは嫉妬が向いていない。やはり、単純に俺に集まっている女性の数がノーマンより多いからだろうか。
ちょっと考えてみよう。イケメン俳優が美女を数人侍らせているとして、彼女はイケメン俳優の隣にいる女性一人。他の女性達に関しては、「ただ単にファンが集まっているだけです」と公言されたとして、それで納得できるか……なるほど、「彼女以外を近寄らせてるんじゃねぇ! リア充死ね!」って思っちゃうね。ヒゲ男の怒りは把握した。
「え? 冨野再分配?」
「待てノーマン。ニュアンス的にイデが発動しそうだから、その発言は止めよう。なんか危険な香りがする」
「また俺を無視してゴチャゴチャと……お前ら俺をおちょくってるのかっ?! あぁっ?!」
「ちょっと落ち着いてくださいって、ヒゲの人。だいたい、そんな風に女性の事を『富の再分配』だのと、モノ扱いしてるようじゃダメでしょう? 人間の感情ってのは、そう簡単に分配できるもんじゃないんですから」
「「『ヒゲの人』って、まるでターンAのことみたいだな」」
ちょっと、ノーマンと天野。人が説得してる横で茶々を入れるんじゃない。
あと、ヒゲ男のヒゲは、ターンAみたいなタイプじゃなくて無精ヒゲなだけだから似ても似つかないじゃないか。
「仮に、イケメンに選ばれなかった女性が居たところで、その人の好意があなたに向くとは限らないんですよ? 『好きです付き合ってください!』と言っても、相手の好みでなかった場合はお断りされるわけですし。あなただって、好きになった女性がいたのなら『諦めてください』って言われても、そう簡単に諦められないんじゃないですか? それと同じで、感情が絡んでる以上、物品の様に再分配なんか起きるもんじゃあないんですよ」
「「「「他人を説得する時は、そこに気付くのね……」」」」
なんか、莉穂姉達からため息交じりに非難めいた発言をされた件。
「BBが、盛大なブーメラン発言をしておる」
「尚、渉は“何で滝川達が呆れた感じの反応をしているのか”その理由に気付いてない模様」
ノーマンも天野も何だよ、寄って集って「ブーメラン発言」だの「気付いてない」だのと。まるで人を鈍感系主人公みたいに言いおって。
「「渉」」「渉くん」
ジト目で二人を見ていると、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの三人が袖やら背中やらを引っ張る。
「え? なに? どうしたの?」
「「「私達、諦めないから」」」
「今それどころじゃないでしょ!? あのヒゲの人を説得して、バカな真似を止めさせないといけないんじゃないの?!」
「だああああぁっ! さっきから美女を侍らせてイチャつきやがって! てめぇ、俺に喧嘩売ってんのか!?」
ヒゲ男が、羽交い絞めにしている男の子を余所に、俺へと敵意を向けてくる。
人質から意識が離れ始めているのは好ましい展開ではあるが、俺個人としては不本意な流れである。出来れば、連合防衛軍の最終兵器ことノーマンに喧嘩を売ってもらい、盛大に自爆して欲しいところなのだが……。
「待ってください! 公的に二股発言した、そっちのデコ助野郎の方がよっぽど喧嘩売ってると思いますが、いかがだろうか?」
「うるせぇ、四人も侍らせてるお前の方が俺の敵じゃい!」
「デスヨネー」
「その余裕そうな態度もさっきから気に食わねぇんだ! もうガキなんざ必要無ぇ! 野郎ぉぶっ殺してやる!」
「「テレビ朝日版ベネット、キタコレ!」」
羽交い絞めにしていた男の子を横に放り、ヒゲ男が両手でアイスピックを強く握り込む。
ノーマンと天野が“コマンドー”ネタではしゃいでいるが、俺の心配くらいしてくれよ。特に、ノーマン。
俺も決して弱くはないけど、真正面から敵とやり合う状態なんて4月のテロリスト襲撃事件以来なんだぞ。圧倒的経験不足なんだから、手助けくらい欲しいっての。
「死ねよやぁー!」
ヒゲ男が怒りの形相で駆ける。
俺は背後に居る莉穂姉達から離れ、男と俺との延長線上に人が居ない状況を作り出して応戦する事にした。
「くっそ、ベネットなのかジョナサン・グレーンなのか分からないヒゲだな、コイツ! ノーマン、手伝え!」
「あいよ……っと」
「なにっ?!」
男がアイスピックを突き出した瞬間、俺は右半身を後ろに下げ半身になり、突き出された腕を両手で取り押さえる。そして、ノーマンがタイミングを合わせて男の足を払い、胸ぐらを掴みあげて背中から叩き落とした。
「……ゴフッ!」
“ズダンッ!”という音と共に、ヒゲ男がアスファルトに沈む。
こうして、遊園地のお昼時を騒がせた事件は、大きな怪我人を出すことなく幕を下ろしたのだった。
ちなみに、ヒゲ男に放られた男の子は、転倒した際に軽いかすり傷を負ったが重傷はなく。ヒゲ男に関しては、全身打ち身という状態で御縄につくことになった。まぁ、自業自得である。
なお、駆けつけた警察官からは称賛の言葉と併せ、「下手に犯人を刺激したら危ないんだよ? 今後は私達警察が来るまで、煽ったりしないようにね」との軽いお小言を貰う事になった。
基本的に、煽ってたのはノーマンと天野がメインだった気がするのだが、警察の人は俺にだけ注意してきたんだよな。……解せぬ。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




