第12話 - 説教から始まるクリスマス合同デート
前回のあらすじ。
お土産選びの際、美女・美少女を侍らせていたために周囲の男性から嫉妬の視線を向けられ続けた渉。
しかし、男性達の気持ちは痛いほど良く分かったため、甘んじてその視線に耐え続け、お土産を無事に発送させた。
そして学園へと戻る際、魔改造ラプターの変形に“ガウォーク形態”が搭載されて無かった事に不貞腐れた俊之が、太平洋上空で常識外れのアクロバット飛行を繰り返し、防衛軍に緊張が走る騒動を起こすのだった。
─ 2012年12月25日(火) ─
多くのリア充どもが、朝まで寝かせないで子作り運動したであろう日の翌朝。俺はベッドの上で、白髭の初老の男性を前に土下座をかましていた。
「このたびの事、まことに申し訳ありませんでした」
一つ断っておくが、初老の男性は俺のタブレット端末から映し出された3D映像であって実際に俺の前に居るわけではない。
故に、BL大好きっ娘である黒薔薇三連星が喜ぶような“事”は起きてないし、未来永劫起こることも無いとハッキリ言っておこう。俺はノーマルなのだ……いや義理とは言え“姉”に懸想してる時点でアブノーマルかもしれないが、とにかく男に興味がないという意味でノーマルと言い切らせてもらう。
また、この男性は白髭を蓄えた老人ではあるものの、サンタクロースというわけでもない。俺とノーマンの直属の上官、沖中将だ。
まったく、何が悲しくてクリスマスの早朝からオッサン相手に土下座をせにゃならんのか。それは、昨日の夕方の出来事が原因だったりする。
昨日の夕方、つまりはノーマンが操縦する魔改造ラプターでのプチ太平洋観光(成層圏よりも上空)を行いながら学園に帰還していた時間帯。地上の各国防衛軍基地では謎の気流の乱れをキャッチし、上を下への大騒ぎになりかけていたらしい。
師匠が造り、防衛軍に提供した超高高度気流検査器が高性能だった……という事が分かったのは素直に良かったと思う。しかしそれが分かった原因は、「魔改造ラプターの変形に、ガウォーク形態が無い!」という理由でショックを受けたノーマンが自棄気味に操縦したからである。あまりにもアホ過ぎて泣ける話しだ。
ヤツは学園に戻るまでに、アクロバット飛行しながら戦闘機形態と人型形態との変形を繰り返しつつ、太平洋の超上空を高速飛行して回ったのである。そりゃあ不自然に気流が乱れまくるはずだ。
魔法による透明化膜のせいでラプターの姿は見えないし、観測していた人達はさぞ混乱した事だろう。
一応、各国上空を飛び回っても良いように、那覇空港基地の士官さんが防衛軍の方に一報入れて根回ししてくれていたようだが、観測部隊の想定を遥かに超えた超高高度で不可解な気流の乱れを作ってしまい大騒ぎになりかけたというわけだ。
まぁ、操縦桿を握っているのがノーマンである以上、俺からは口での注意しかできないから不可抗力ではある。しかし、沖中将からすれば俺しかノーマンの手綱を握ってられる人物がいないので、事実上止める事ができなかったとしても俺に小言を言わざるを得ない状況なのだ。
当の本人は、いくら正論で叱ってもケロっとしているし、本当に危険そうなことは絶対しないという判断能力はあるので、説教しないといけない側からすると忸怩たる思いをするだけなのである。
『儂もな、伊藤特佐がどうしようもない状況だったんだろうという想像はついとるよ? けど、副操縦モードとか、それっぽい機能を付ける事はできなかったのかね?』
「いや、計器類が見えない状況で操縦を引き継ぐなんて自殺行為に等しいじゃないですか! 空軍所属の人だったら分かると思いますが、高高度でアクロバット飛行を繰り返すと上下左右の感覚がわからなくなるんですよ? 上を見ても前を見ても空しか見えないから、地上までの距離・位置関係もわからなくなるんです。そんな状況になった際、頼りになるのは計器類だけなんですよ? それを確認できない人間が、空中で操縦を引き継ぐなんて正気じゃありません。だから、そんな危険な機能は付けてませんし、今後も追加する予定はありません。俺の席は、あくまで機体のダメージチェックや外敵からの防御を主軸にしたサポート専用なんです」
沖中将にそう説明すると、空中特有の感覚というものを忘れていた事に気付いたのか、魔改造ラプターの仕様に納得してくれた。不承不承といった感じの苦々しい表情ではあったが……。
『伊藤特佐の言う通りじゃな。確かに、儂の発想はいただけなかった。……とりあえず、今後はこの様な無茶の無いよう、しっかりと野間特佐の手綱を握っていて欲しい。頼んだぞ?』
「了解しました。サンタクロース中将」
『ほぅほぅほぅ……。儂の頼みを聞いてくれる良い子にはプレゼントを──誰がサンタか。とにかく、今後は無いよう釘を刺しておくように。今回は特に嫌味ったらしく言って来たヤツが三人ほどいたのでのぉ……思い出すだけでも胃がキリキリするわい』
「……野間特佐には、厳重に言い聞かせます」
『あぁ、頼む。……以上、交信終了』
……ふぅ。朝の挨拶代わりに、あとでノーマンのデコを引っ叩いておこう。
クリスマスの朝から、説教付きでオッサンの顔を拝むハメになったのだ。ちゃんと罰を与えておかんとな。
ノーマンを止める事が出来なかったのは俺の失態ではあるが、だからといって納得できるほど俺は大人じゃあない。よって、愚痴をトッピングした上で引っ叩いてやる。
▲▽△▼△▽▲
「……それにしてもBB、朝からちと激し過ぎやしないか?」
「「「『朝から激し過ぎ』?! 二人とも、ナニをしたのか詳しく!」」」
食堂のある2Fエレベーターホールに足を踏み入れた瞬間、ノーマンが恨めし気に呟く。……と同時に、それを聞きつけた黒薔薇三連星が、期待に目を輝かせながら鼻息荒く訊ねてきた。
コイツら一体どこから湧いて出てきたんだろう。エレベーターホールには、俺とノーマン以外、生徒の姿なんて見受けられなかったのに……。
「……昨日、那覇空港から魔改造ラプターで飛び立ったあと、太平洋のリゾート地の超上空を“常識外れのアクロバット飛行しながら移動”したせいで、各国の防衛軍内で一騒動あったんだよ。それの説教ついでに、俺の全力を持ってノーマンの額を引っ叩いてやっただけだ。お前ら腐女子が期待するような展開は、何一つないぞ。諦めて解散しなさい」
「「「「「ちぇ~……」」」」」
「仕方ないわ。今の話を元にして、来年夏用の18禁ストーリーを練りましょう」
「「「「「はい! リーダー!」」」」」
「お前ら全員18歳未満だろうが、自重しろ! ……って、いつの間にか人数が増えてるしっ?!」
黒薔薇三連星の反応を見ながら話すと辟易すると思って目を逸らしていたが、いつの間にか腐女子の取り巻きが増えていやがった。
しかも、俺が自重しろと釘を刺してるのに、華麗にスルーしてエレベーターで移動する始末。……アイツら、朝食はいいのだろうか。今の時間は、食堂が開いた直後のはずなんだが……。
「……ま、いいか。あとで白百合三姉妹から“関口×妹尾”おねロリ本を見せてもらって心を落ち着けよう」
「……BBも大概だよな」
「やかましいわ! ボーイズラブでささくれ立った心を癒すには、ガールズラブで中和するのが、俺にとっては効果の高い解毒方法なんだよ!」
ちなみに、莉穂姉は俺の万能薬なのでBLでささくれ立った心も簡単に癒されるが、昨夜は帰りが遅かったので今はまだそっとしておいている。
いつも早朝の清掃活動があるから早起きには慣れてるだろうが、大晦日までは夕方に軽く清掃するにとどめ、割とゆっくりと過ごせる週なんだ。少し長めに寝かせておいてあげたい。
……莉穂姉達と一緒に帰ってきたはずの黒薔薇三連星が、あれだけ元気に活動していたから、既に皆も起きているかもしれないけどな。念のため、そっとしておくのが良いだろう。
──って、思っていたのだが……。
「もぅ! どうして二人だけで朝食済ませちゃうのよ!」
「そうよ! 一緒に食べたかったのに!」
俺は起きてきた莉穂姉、滝川の二人から文句を言われていた。
「いや、疲れてるだろうと思って、ゆっくり寝かせておいた方がいいかなと……」
「「「「「「一緒に食べられない方が嫌よっ!」」」」」」
「はい……以後、気を付けます」
由子お姉ちゃん、マチュア、マージちゃん、篠山ねーちんの4人も追加され、同時にお叱りが返ってくる。
俺の思いやりは逆効果だったのかとショックを受けつつ、素直に謝って許しを請う事にした。
……なんか俺、今朝から謝ってばかりだな。
尚、そんな俺達の姿を余所に、美希姉や関口、妹尾、マジカルゆかりんの面々は静かに朝食を嗜んでいた。
こんな感じのやり取りが、日常茶飯事になってきた証拠なのだろう。始めの頃はハラハラとした感じで俺達のことを見ていた妹尾ですら、今は楽しげに談笑しながら朝食を取っている始末。子供の成長って早いんだなぁ……いや、俺と一年くらいしか年齢は離れてないんだけどね。
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「なるほど。それで渉は、クリスマスデートだというのに元気がないのか」
「あぁ、そういうこった。……まぁ、そういう経緯が無かったとしても、アレじゃあどっち道、BBは疲れてたかもな」
「あ~……そうかもな」
俺の方をやや離れた状態で眺めながら、天野とノーマンがのんびりと話している。
尚、話しの種となっている俺は、周りの男性客から嫉妬の視線を釘付けしている状態だ。昨日も那覇国際通りにある店内で体験したが、今日は更に人数が多いため“圧”が半端ない。
まぁ、その原因は昨日と同じで、莉穂姉、滝川といった“巨乳でロングストレートな美少女”、由子お姉ちゃん、マチュアといった“大人の色気が迸るグラマーな美女”を計4人も侍らせて歩いているからである。
「二人とも、そう思うんだったら少しは俺の近くに来て“連れ”アピールしてくれよ……」
「「このままの見てた方が面白そう」」
「もうお前らが困ってたとしても、手を貸してやらねぇぞ! こんちくしょう!」
半泣きの俺を見かねたのか、はたまた「手を貸してやらねぇ」発言が効いたのか、二人は苦笑しながら俺達と合流してくれた。……マージちゃん、篠山ねーちん、認識阻害の腕輪で見た目が変化している網谷を伴って。
さて、現在俺達はクリスマスで賑わう都内の遊園地にて、絶賛クリスマスデート中である。
ちなみに移動手順は、まず学園の転移魔法陣で、都内の伊藤家へと学園勢が転移。滝川や関口、妹尾、美希姉の実家へ年末の挨拶回りをしつつ、天野家へと移動する。尚、家族の皆々様方には、「朝一の電車に乗ってきた」ということで口裏合わせ済みだ。
そして、天野家の隣に網谷家があるので、両家族に挨拶しつつ「合同デートに行く」旨を宣言。この際、遊園地へ行かない関口達は実家へと帰って行った。
網谷、天野のご両親達から暖かい声援を受け、俺を含めた計10人で練馬区にある遊園地へと移動し、現在に至る。
まぁ、本当は“千葉なのに東京”と冠されている舞浜駅付近のテーマパークへ行きたいところだったが、絶対に酷い混み方をしていると予想がついたため全会一致で敬遠した次第である。
とは言え、クリスマスなだけあって俺達がいる遊園地も十分に混んではいるが……。
それでも、並べばそこそこ列が進むし、待っている間も皆とおしゃべりして暇つぶしができるので対して苦ではない。たまに彼女連れの男から羨ましそうな目で見られたり、男ばかりで楽しんでいる連中から殺意の目が向けられる方がよほど堪えるくらいである。
「……でも、ま。嫉妬の視線だけで済んでる分、学園祭の時よりマシか」
「ん? どうかしたか、BB?」「ん? どうかしたか、渉?」
女性陣をスケートリンク横にあるBBQ会場に座らせ、男性陣だけで軽食を取りに移動している際、ふと学園祭の時の騒動を思い出して呟いてしまった。それを聞いたノーマンと天野が、ハモりながら俺に振り返る。
「あ~……いや、なんつーか……。学園祭の時は、網谷ファンに追い回されたり、テロリストの襲撃に目を光らせたり……と、気が休まらなかったじゃない? でも、昨日、今日は嫉妬の視線だけな分、まだ気楽かもな……って思ってさ」
「あ~、そういえばBB大変そうだったな」
「俺は、ヒーローショーの時以外は用意された部屋に紗友莉と籠ってる事が多かったからよく知らないが、なんか大変そうだったってのは聞いてる。最終日だけは俺達も駆り出されてたけど……」
思ってた以上に、二人の反応が他人事だった件。おかしい、ノーマンは俺と一緒に二日目に追い回されてたはずなのに……。
「ま、まぁ、そういうわけで、今日も平穏無事に過ごせそうだなと考えてたんだよ。視線は気になるけど、対テロリスト相手のような気の張り方をしなくて済むだけマシだからな」
「なるほどな~。……でもBB、その発言はフラグになるんじゃないか?」
「そうそう。徐に昔を振り返ったり、『このまま何事も起きなければ助かる』、『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』、『やったか!?』……などと言い出すと大抵ロクな事が起きないからな」
ノーマンと天野が、ニヤニヤとからかい半分で俺に言ってくる。
「おい、二人とも止めろよ。俺達みたいに魔力が高い人間の発言って、大気中のエーテルに作用し易いんだぞ? 下手すると、本当に何か起き──」
「てめぇら! 俺の邪魔をするんじゃねぇぞ! 邪魔しやがったら、この子どもの目玉を抉り出すからな!」
「うわああああぁぁぁん! ママぁー! パパぁー!」
突然、野太い男の怒鳴り声と、人質になっている子どもの泣き声が周囲に響き渡る。
声が聞こえた人々は途端に押し黙り、近くにあるアトラクションの駆動音と、絶叫系アトラクションを楽しんでいる人々の声が遠くから聞こえてくる。それくらい、静かに緊迫した空気が場を支配していた。
周りの人間が注目する先には、アイスピックのような得物を持ったヒゲ面の男。そして、その男に片手で抱えられ、目元にアイスピックを突き付けられた号泣中のショタっ子の姿があった。
「……ほら、BBが余計なこと言うから何か起きた」「……ほら、渉が余計なこと言うから何か起きた」
「えぇっ?! 俺のせいかよっ?! お前らの発言が後押した可能性だってあり得るんだぞ?!」
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
昨日はバレンタインデーでしたが、この作品は時事ネタなんぞバッサリ無視して話を進めております。
吾輩、色々と書けるほど速筆ではないので……。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




