第11話 - お土産攻めのあとに帰路に着く……ガウォーク形態なんてありません
前回のあらすじ。
テロリストの襲撃も無く朝を迎えたことに違和感を訴える渉だったが、俊之と薫の冷静なツッコミにより「それが普通」である事を思い出す。
その後、教祖アリサのマシンガントークをBGMにしつつ、県立博物館を見学し、首里城へと移動する。
特に問題が起きることも無く見学予定を終えた渉達は、自由時間という名のお土産購入時間へと突入するのであった。
那覇国際通り。
俺のイメージでは、「渋滞していない時間なんてあるのか?」と言いたくなるほど車道が混雑している通りなのだが、さすがに平日の夕方前という時間だからか思ったより車の流れは良い。
しかし道幅がそんなに広くはないため、俺達の乗るバスは大きく迂回するルートで移動し、沖縄県庁舎や那覇市役所がある場所へと辿り着いていた。沖縄県立博物館や首里城から県庁舎に行こうとすると、最短は国際通りを突っ切るルートになるのだが、俺達の乗るバスはかなり大型なので国際通りを回避したというわけだ。
それにしても、こんだけ渋滞しやすい道の出入り口に県庁舎や市役所があると、職員は朝の通勤ラッシュ帯はさぞ面倒なことだろうな。
それはともかく、県庁舎の地下にある籠月グループ名義の巨大駐車場でバスから降りた俺達は、自由時間という名のお買いものタイム中である。
アメリカナイズなステーキハウスや、お土産用のお菓子を専門的に扱っているお店、首都圏でもよく見かけるドン・キホーテなど、雑多な商店街めいた通りを歩いている最中だ。
流石に全員一緒に行動するととんでもない人垣になってしまうので、地下駐車場から出るなり思い思いのグループを組んで散らばって散策している。要は、昨日の海洋博公園とパターンは一緒という事だ。
ちなみに教祖アリサだが、彼女は県庁舎地下駐車場から出るや否や、すぐにタクシーを捕まえて那覇空港へと向かった。
どうも彼女の場合、国際線との繫ぎのためなのか夕方の便で出発しなければならなかったようだ。
空港までの移動中は静かになる事が確定したので、俺達男性陣は内心ホッとしていたのだが、莉穂姉を始めとした女性陣は「恋バナ仲間がいなくなると寂しくなるわ」と心底悲しんでいた。
……それにしても、県所有の建物の下に一企業名義の駐車場が存在するあたり、癒着という単語がチラついてしまうな。まぁ、学園の修学旅行においては便利だから文句はないし、それだけ籠月が巨大勢力ってことなんだろう。
さまざまな分野に手を広げ、質・量ともに高い水準の商品を提供している籠月グループ。たぶん、この国際通りにあるお土産の何割かにも、何らかの形で携わっているんだろうなぁ。
「渉、渉! お姉ちゃん、このフワフワなスフレっぽいのが良いと思うの!」
「渉。私は、この紅芋タルトが捨てがたいと思うわ!」
「渉くん、何も食べ物ばかりがメインではないわ。義父様、義母様用にパイナップルワインという手もあると思うの」
「いいえ、渉。ここはオーソドックスにちんすこう……と見せかけて、私と一緒にちんこすこうを一緒に食べましょう!」
莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアが推しの商品を手にとってはワイワイと話しかけてくる。
清楚系の美少女から、妖艶なお姉さん、金髪の褐色美女という中に、ただ一人ちやほやされるハーレム状況な俺という絵面ができ上がっていた。
女性店員さんはやや苦笑い気味に見てくれているだけだが、周囲の男性客からは嫉妬の視線がすごい。教祖アリサが帰ることなく俺達に同行していたら、射殺さんばかりの視線で見られていたかも……と思うと少しぞっとするな。
『いいか、嫉妬の視線を向けているお前ら。最後に卑猥な商品名を口にしたこの金髪の褐色美女は、人間じゃあないんだぜ! 実質、三人から好かれているだけなんだ! しかも、俺は誰一人として手を出してない! そう、俺は童貞なんだ! 嫉妬するのはお門違いだ!』
とか言ってやりたいが、信じてもらえるわけないか。いくら魔女が世間一般に認知されていると言っても、サイエンス・フィクションはフィクションのままだからな。アンドロイドなんて誰も信じないだろう。そもそもマチュアって、マジで人間にしか見えない皮膚してるし、軍の上層部くらいしか知らない極秘存在だし……学園の皆にはバレてるけど。
だいたい、「童貞? だから何? 女子とイチャコラしてるだろ? 有罪」ってなるよな。美女、美少女から明らかに好意を持たれて侍らせている時点で、「リア充爆発しろ!」レベルだと俺も思うわ。それに最悪の場合、俺がガチホモかEDのどっちかという目で見られる可能性もある。
余計な言い訳を考えず、甘んじて嫉妬の視線を受けるしかないか……。なんてったって、今日はクリスマス・イブだもんな。野郎が綺麗どころ揃えてキャッキャウフフと買い物してたら、そりゃあ嫉妬したくもなるわ。
「うん。とりあえず、マチュアがオススメしてきたお土産以外は、どれも内容として申し分ないと思うから全買いしようか。
それとマチュア。お前は“お土産”って単語の意味を調べ直せ。なぜ自分が食う方向で買おうとするんだ」
俺がマチュアにだけダメ出しすると、不服そうに頬を膨らませる。
「え~。だってせっかくだし、渉の前でちんこすこうをしゃぶってフェ──」
「おっと、それ以上は言わせねぇよ? いいから、その子宝云々って書かれているパサパサしそうなお菓子は戻してきなさい」
「──了解しました……。ところで、“お菓子作り”って言葉、区切り方を間違えると“子作り”って文字が際立つと思わない?」
「お前の発言の方が際立っとるわ! ……ったく、ノーマンみたいな思考になっちまいやがって」
「先ほど、俊之がの首里城を見た時の一言、『昭和のAVパッケージみたい』という発言に心打たれまして。ここは一つ、彼を見習おうかと」
「そんなもんで心打たれてんじゃねぇ!」
ダメだコイツ、早く何とかしないと……。製作者の一人として泣きたくなる。
その後も、時間の許す限り様々なお店を練り歩き、「来年三月に産まれる弟or妹への子供服も見繕おうか?」という莉穂姉の提案をやんわりと断ったりしながら買い物を楽しんだ。
なんせ、このメンバーで子供服なんか見に行った日には、周りから「この男どれだけプレイボーイなんだよ! もげろ!」という言葉を視線に込められそうで怖い。
最終的にかなりの量を買い漁ったため、俺の両手には一定金額を買うとお店側がおまけしてくれる布製お土産袋が大量にぶら下がっていた。
ぶっちゃけ動きづらいことこの上ないので、いつものようにトータルエクリプス島の地下倉庫に転送したいところだが、一般人の目が多い通りでそんなことできるわけがない。
そこで、この国際通りの東西入口付近に二ヵ所ずつ、中央付近に四か所用意されている籠月グループの発送会社を利用するのだ。籠月学園の学生証や関係者であること示す身分証を見せれば、全国各地どこへ発送しても無料というありがたいシステムである。
たぶん、国際通りで俺達がお土産を色々買うだけで、籠月グループに入る見返りも大きいのだろう。
まさにマッチポンプ。俺達は……というか、女性陣は送料を気にせず買い物を楽しむことができるという無限システムである。
荷物が邪魔になってきたら近くの発送所に行き、実家や自宅へ荷物を発送し、また買い物ができる。買い物されるたび、何らかの形で関わっている籠月グループへのリターンが発生する。
恐らく、送料程度どうとでもなるくらいのリターンが発生しているのだろう。……やだ、商売怖い。俺達に喧嘩を売っては生け捕りにされて、軍の施設にドナドナされて行くテロリスト達が可愛らしく感じるわ。
結局、お土産は全部合わせて特大サイズの段ボール2箱になった。
ちなみに、内容物は俺、莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの物が混在しているが、全て東京の伊藤家宛に発送している。というのも、どうも皆、年始の挨拶回りとして伊藤家に来るらしいので、そのついでにお土産を受け取る算段らしい。
マチュアの場合、家と呼べるものが群馬の研究施設のはずなんだが……あ、伊藤家にも転移魔法陣があるから一瞬で行き来できるし問題ないのか。
由子お姉ちゃんに至っては、お土産を受け取るついでにパイナップルワインを義両親に飲ませ、外堀から埋めようという魂胆の様だ。……義母さんは出産を間近に控えた妊婦だから、酒なんて飲まないと思うんだがなぁ。ま、その辺はわざと口出ししなかったんだけど……。
俺は密かにほくそえみつつ、発送手続きを済ませるのだった。
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「さぁ! お土産は全員発送したし、学園の皆もついさっき飛び立った便で羽田に向かった。あとは、俺達がコレで帰るだけだな!」
「俊之! 帰りは変形して飛ぶんでしょ?」
「おぉ、そういやそうだった! よく覚えてなたマージ。偉いぞ~」
「えへへぇ~」
俺の前には、バカップルよろしくイチャイチャしながらハイテンションで語り合うノーマンとマージちゃんの姿があった。そして、その背後には魔改造ラプターがスチルの様に鎮座している。
えぇ、すっかり忘れていましたとも、帰るための方法ってやつを。
「伊藤特佐、野間特佐、お気を付けてお帰り下さい。また沖縄にお越しの際は、私が対応させて頂きますので、その際は出撃前にご一報願います」
那覇空港に着いた初日、俺達を案内してくれた男性士官が綺麗な敬礼をしながら俺達を送り出してくれていた。
彼の背後には、魔改造ラプターに興味を持っている者や、俺やノーマン、マージちゃんに興味を持っている者がずらりと並んでいる。皆、暇なのだろうか。
……考えて見りゃ、今現在は世界規模で見ても大きな紛争地域はない。国内でドンパチがあっても、すぐに魔女や警察が駆けつけるし、テロリストが攻撃しに来てるのは籠月学園だけだったな。
地球規模でかなり治安が改善しているんだ。兵士が暇を持て余してるのも頷ける。
「アッハイ。その際は事前にご連絡します」
「よ~し。そんじゃBB、挨拶も済んだことだし、早速空の旅と洒落こもうぜ! ……そうだな、どうせ本気で移動すれば10分で学園に着いちゃうんだし、一度西へ移動して台湾を見ながら、フィリピンへと南下。東に進路を変えて、パラオ、グアムと巡り、更に東に行ってハワイを見てから西北西に転身して戻る……ってルートでいいか」
「何その太平洋リゾート地一周みたいな遊覧コース!? いくら姿が見えないからと言っても、制空権の問題があるから各国の防衛軍基地にちゃんと連絡入れておかないと! 『謎の乱気流発生源が移動してくる』ってパニックを起こされ──」
「伊藤特佐。既に各国の防衛軍基地には、特佐の開発した光学迷彩搭載のラプターが上空を通過する可能性がある旨を連絡しております。存分に性能実験をしていただいて構いません」
キリッとした顔で男性士官がそんな事を言う。
何と言う余計な至れり尽くせりっぷりだろうか。せっかくノーマンを諦めさせようと思っての発言だったのに、事前に退路を断たれていたとは……。
「……そ、それは、どうもご丁寧に。しかし、他の国際線も往来していますし、さすがに民間機に迷惑は掛けられ──」
「往路と同じく、宇宙空間ギリギリを責めるから問題ないぜ、BB!」
「──デスヨネー」
結局、余計な寄り道をして帰ることが決定した。
くそぅ、反対派が俺だけで、あとは那覇空港基地に居る全員が期待した目で賛成するんだもんな。数の暴力には勝てねぇよ。
『こちらノーマン。全員、ベルトとヘルメットの装着はどうか?』
『こちら渉。ベルト、ヘルメット良し!』
『こちらマージ。ベルト、ヘルメット装着完了!』
操縦席のノーマンから、ヘルメット内のスピーカー越しに発信準備の確認が入る。俺もマージちゃんも、準備完了していたのでその旨を返した。
『ところで、BB。早速変形を試したいんだが、この格納庫内で直立しても大丈夫かね?』
『人型に変形した時の高さは、頭部のアンテナを含めてもギリギリ20mに届かないくらいだから、この格納庫内だったら直立しても余裕があるくらいだな』
空港内の基地格納庫は縦横もそこそこな広さがあるが、高さに関しても一番低い天井部分で30mは用意されている。
安全のため、天井部分から吊るされているクレーンの位置関係も確認したが、現在の場所でそのまま変形する分にはぶつかる危険性は無いと言える状態だ。
『OK! なら、遠慮なく変形するとしようか! たしか、音声認識で自動変形してくれるんだよな?』
『あぁ、そうだぞ』
『それじゃ……変形! ガウォーク!』
嬉々としたノーマンの叫びとは裏腹に、魔改造ラプターは何一つ変化しなかった。
一応、何をするかが聞こえるよう外部スピーカーもオンにしているので、ノーマンの叫び声は格納庫内に筒抜けである。
何とも言えない微妙な空気が、兵士の皆さんを襲った。
『ちょっ! BB、何も起きないじゃないか!』
『そりゃあ、“戦闘機モード”と“人型モード”の二択しかないもの。存在しないモード言われても反応はせんよ』
『なんで名称が“バトロイド”じゃないの?! つか、たった二種類って……“ファイター”、“ガウォーク”、“バトロイド”の三段変形は、マクロス好きなら外せない三種の神器だろうがよ!』
『落ち着けノーマン! 格納庫の皆さんが、何とも言えない表情してるでしょうが! いいか、良く聞け? 師匠も俺もな、出来ればそういう夢のある機構にしたかったんだ。けどな、俺達では人型に変形するのを再現するだけで限界だったんだよ!』
人型のデザインだって、ロボット系アニメの原案で有名な方々に頭を下げ、版権に引っかからないように考慮しながら製作したのだ。
しかし、変形後の装甲強度や、内部に積む弾薬などを考慮した結果、戦闘機と人型の二種類が限界だという結論に行きついた。ノーマンと俺が、神力と魔力を供給し続けて維持するという事を前提にした上で……である。
『ちくしょおぉぉぉっ! 変形! 人型モード!』
俺の説明を聞いたノーマンが悲しみの叫びを上げ、命令を実行したラプターが直立した人型に変形する。
その工程はおよそ1秒程度と素早く変形してくれるのだが、その分コクピット部分の動きも早く、想像していたよりも頭がガクガクしてしまった。
『こちらノーマン! 魔改造ラプター、出撃します!』
やけくそになったのか、腹立たしかったのか、ラプターが人型になったのを確認したノーマンがすぐさま格納庫の出口へと移動を開始した。
『あ、ちょっ! まだ透明化魔法も展開してないのに! あ、すいません皆さん。急な発進になりましたが、これにて失礼し──だぁああ! 挨拶途中なのに、姿も隠さず出ようとすんじゃねぇよ、ノーマン! ……えっと、それじゃあ失礼します! ああっ!? だから待てっちゅーに! 防音及び、透明化膜展開!』
外部スピーカーはオンにしたままだったが、ジェットエンジンの爆音を隠すための防音魔法も働いているし問題はない。
格納庫から出る直前ではあったが、透明化膜も展開できたはずなので空港に居る一般人達からも気付かれてはいないはずだ。その証拠に、つい先ほどまで俺達の方を見ていた兵士の面々が、急に姿が見えなくなった俺達を見てざわめいている。
最後の最後で何とも締まらない出撃になってしまったな……とため息を吐きつつ、俺は帰路に着くのであった。
これは余談だが、予定通り各国の上空を移動したは良いものの、ノーマンが人型モードでアクロバティックな飛行を繰り返したため、「高度50~80kmから高度80kmにかけて、極めて不自然な気流が発生しております!」と、各国の防衛軍基地同士で連絡が飛び交ったそうな。
まぁ、普通はせいぜい高度10~50kmで飛ぶと考えるもんね。
おかげで、翌日。クリスマスだというのに、朝から俺達直属の上官である沖中将からお小言を貰う羽目になった。
見た目だけはヒゲもじゃの爺ちゃんだから、軍服着たサンタさんだと思う事にしてほっこりしてやったさ。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




