第10話 - クリスマス・イブ?……いいえ、修学旅行最終日です。それ以上でもそれ以下でもありません。
前回のあらすじ。
海洋博公園デートを堪能していた渉の下に、突如として届いた救助要請の魔力通信。
しかしそれは、自称地元民のチャラ男達によるナンパ包囲網からの救助要請だった。
無事、後輩女子達をチャラ男から救った渉は、その後はごく平和に様々な施設を堪能する事が出来た。
そして、帰りのバスの中もアリサのマシンガントークから逃れる事ができ平穏に過ごせた渉達は、「嵐の前の静けさ」という一抹の不安を抱えつつ、二日目のホテルへと到着するのだった。
─ 2012年12月24日(月) ─
今日は修学旅行最終日にして、世のカップル共が夕方頃から浮かれる日。
そう、クリスマス・イブである。
クリスマス当日の夜つまりはキリスト生誕の夜のハズなのに、これと言った信仰があるわけでもない日本人の多くが浮かれ。恋人達は“ご休憩”という名の大人のお楽しみをしに、某施設や家でキャッキャウフフする……そんな日に成り下がっている。
……ったく、リア充なんて爆発してしまえってんだ。俺だってなぁ、出来る事なら莉穂姉と組んず解れつな性なる夜をお楽しみしたい思春期ボーイなんだよ。
だというのに、体育祭ではテロリストが紛れ込むという鬱陶しい邪魔が入り、莉穂姉の魅惑のブルマ姿をしっかりと堪能する事も出来ず。学園祭に至っては三日間もあったのに、莉穂姉とまともな学園祭デートを満喫する事も出来なかった。
まぁ、今回の修学旅行では、一昨日の夜に教祖アリサをストーキングして来たテロリスト一名とエンカウントしたものの、3秒程度で無力化して軍に引き渡す事ができ。昨日に至っては一度だけナンパ野郎共という邪魔が入ったものの、テロリストの乱入も無く平和に一日が──
「──ああぁぁぁあ?!」
「……なんだよ、BB? 俺はそんな変な声のモーニングコールを頼んだ覚えは無いぞ?」
「……ったく。渉、うるさいぞ。もう少しマシな目覚ましにしてくれ」
俺の奇声に、横並びで寝ていたノーマンと天野がはた迷惑そうな顔をして目を覚ました。もちろん、ベッドが横並びになってるだけで、三人が同じベッドで寝ていたわけではない事を捕捉しておく。
あと、ノーマンは寝ている時もグラサンを掛けて寝ているので、天野ほど表情はよくわからないが声が凄く迷惑そうだった。
「いやお前ら、おかしい事に気付こうよ! 昨日は結局、テロリストの乱入がなかったんだぞっ!? あんだけフラグっぽい、平和な時間が流れていたというのにだ!」
俺が必死に現状のおかしな点を説明すると、ノーマンが眉を顰めながら憐みの籠った声でこう言った。
「BB、あなた疲れてるのよ」
「どこぞのスカリー捜査官みたいな事を言うな! 俺は正常だ!」
「……ノーマン、これは“酔っぱらってるヤツに限って『俺は酔ってねぇぞ!』って言いだすパータン”と一緒な気がしないか?」
ノーマンだけでなく、天野にまで可哀想な人を見る目をされた。
しかも、酔っぱらいと同列扱いとか失礼過ぎる。
「いやいやいや、二人ともよく思い出してみろって! ……つっても天野は学園祭でしか経験がないけど、学園のイベント事の際は、必ず余計なアクシデントも起きてたじゃないか? なのに、昨日は何もなかったんだぜ? おかしいと思わないか?!」
「「思わないよ」」
「アイエエエェ?! 思わない?! 思わないなんでっ?!」
「いいか、渉? 首謀者の親玉が一緒に行動しているというのに、自分達の行動を妨げるようなテロリストの乱入イベントなんて、わざわざ挿入するわけないだろ?」
「そうそう。薫の言う通り。一日目の夜に起きた事がイレギュラーだったんだよ」
あれ、そう言われてみれば確かにそうだ。
なんだろう、自分の知能指数が酷く低下しちまってる気がする。
「で、でも、昨日バスから降りた時、二人とも面倒そうな顔してたじゃないか! あれは、『今日もテロリストが乱入するんじゃないか』って危惧してたからじゃないの?!」
「「……あぁ、それは──」」
▲▽△▼△▽▲
「──でね! その時の歩ってばまだ十代中盤で、可愛らしさを残しつつも男らしいかっこ良さを醸し出しててぇ~──」
[[──今日のバス移動でこうなるんじゃないかなって……]]
[ごめん、俺が本当にバカだったよ。予測してしかるべきだったよな……]
バス移動中、絶賛マシンガントークを続ける教祖アリサを前にして、俺達三人はゲンナリしながら苦行時間を耐えていた。
ちなみに、一日目の移動時間中もそうだったのだが、どういうわけか女性陣はこの師匠の凄い話マシンガントークを聞いていても体力が減らないらしい。むしろ、火に油を注ぐ勢いで話に相槌を打っているくらいである。いつもだったら、俺達にくっついている莉穂姉、マージちゃん、篠山ねーちん、網谷までもだ。
女子って、恋愛トークとなると嬉々として食いつく習性があるとは思っていたが、まさか俺達の周りもそうだったとは驚きの事実だった。
まぁ、普段の莉穂姉達は恋愛トークよりも、結果的にバカップルっぽい行動ばかりとりがちだったから、こういった側面を見る機会が無かった……ってのもあるんだろうな。
[なぁ、BB。このバス、あとどれくらいで目的地に着くんだ?]
[えっと、さっき沖縄自動車道に乗ったばかりだから、那覇インターまでおよそ40~50分くらいか? で、そこから公道に出て、沖縄県立博物館まで20~30分くらいかかるとして……長くて1時間20分ってとこかな]
[[うへぇ……]]
ノーマンと天野が、魔力通信を通して辟易した反応を返してくる。俺も内心、まったく同じ反応をしていたりするので、やはり男にとっては取り留めもない長話は辟易するもんなんだなぁと痛感していた。
まぁ、それに反比例するように女性陣は元気にしていたが……。
さて、本日の予定だが、全18台あるバスの内、9台は午前中に沖縄県立博物館。午後に首里城を巡るという予定になっている。残りの9台は、巡る場所が午前と午後で逆転しているだけで、最終的に見て回る施設自体に変わりはない。
そして俺達は、前者のバスグループの中の一台で移動中というわけだ。
施設を回り終わったあとは、両グループとも14時頃から自由時間が設けられ、国際通りで買い物するも良し、タクシーで行きたかった場所へ移動するも良し……といった流れとなっている。
まぁ、とは言っても飛行機の搭乗時間との兼ね合いもあるので、バス集合場所に戻る時間も含めて正味2時間ちょっとしかなかったりする。お土産を買う時間を少し設けた程度の自由時間というのが実情だ。
……とまぁ、今日の行動予定をざっくり考え直してみたものの、まだまだ博物館までの道のりは遠い。俺達は苦い表情のまま、女子トークをBGMに物言わぬ置物の気分を味わうのであった。
いやだって、「あぁ」だの「うん」だの「へぇ」だのとしか反応が返せない話しの振り方されるんだもの。なんで女子って適切な返しができるの? もはや特殊スキルの領域だよアレは……。
▲▽△▼△▽▲
綺麗に晴れた沖縄の青い空。そして、それを強調するように白く輝く巨大な施設。
そう、俺達の前には、待ちに待った県立博物館が鎮座していた。
「ノーマン、渉。俺さ、今まで博物館ってものに、これっぽっちも興味を抱いたことは無かったんだ……」
博物館を見上げながら、とても清々しい顔で天野がそう切り出す。
「「……奇遇だな、俺もだ」」
「でもさ、俺、今日初めて博物館ってものが愛おしく感じたよ。なんだろう、神々しいとすら感じてしまうんだ」
「「奇遇だな、俺もだ!」」
まぁ、そう感じる原因は一つだろう。
博物館内では、無駄な私語は慎まれる。
この事実が、俺達の気持ちを大いに安らがせてくれているのだ。
最早、この建物はただの博物館にあらず。俺達にとっては、地上に舞い降りた神にも等しい存在へと昇華されていた。
「よし! じゃあ、二人とも行こうぜ!」
「「おう!」」
天野の号令に、ノーマンと俺が元気に応える。
「「「俺達の戦いは、これからだ!」」」
「はい、男子三人ともストーップ!」
打ち切り漫画の主人公っぽく走り出したかったのに、担任の仁科先生が大きな声で待ったをかけてきた。くそう、早く自由になりたかったというのに……。
「まったく。ちゃんとグループ行動しないとダメでしょ? それに、まだ入場チケットも配ってないんだから! ちゃんと入館のしおりとかも貰ってから行動に移しなさい」
「「「……はい」」」
文句を言いたいところだったが、彼女の言い分はごもっともだった。
そんなこんなで、出鼻をくじかれた感じではあったが、博物館内の見学はスムーズの一言と言えよう。
本来、ここは月曜日が休館日なのだが、籠月グループの財力で多額の寄付をし、学園の修学旅行時のみ特別に開館してもらっている。まぁ、その分、午後のグループの見学時間が終わったら即座に閉館できるので、職員の方々への特別手当や施設の電気代を差し引いても十分な黒字運用らしい。
そういった理由から、他のお客さんの視線を気にする必要も無く自由に見て回れたのは気分的に楽だった。
何より、昨日の様なナンパ野郎どもも現れないから気を張らなくて済む。
屋内の常設展示を見て回ったが、やはり個人的に魅かれるのは海関係の展示品だ。
浜辺周辺に生育する植物や、海中の動植物、特に屋内展示の入り口に飾られているガラス床の中に見えるサンゴなどは、魅せ方として上手いなと感嘆した。
他に、時期によって内容が異なる特別展示を見て回ったあとは、施設の外に建設された屋外展示も見て回った。こちらは、昨日の海洋博公園で見た郷土村の縮小版といった感じだろうか。
まぁ、色々と見て回ったあとに思った事は、今から数百年も昔に、こんな遠い場所まで当時の政府が足を運んだもんだ……という事だ。
きっと、首都に戻ってきた実行部隊の人達は──
「おそらく琉球王国への遠征を終えた者達だ。面構えが違う」
──などと“進撃の巨人”めいた台詞を政治家達から言われ、一目置かれる存在になったに違いない。
GPSも無く、スクリュー技術もない時代に長距離航海とか、俺だったら政府に反旗を翻すか匙を投げていただろう。
まぁ、琉球王国への侵略行為って面が大きいから、それなりの利益があると見込んでの行動だったのだろうが、だとしてもよくやる気になったもんだ。人間の欲の深さというか、業の深さを感じたね。
▲▽△▼△▽▲
行動予定に則り、少し早めの昼食を取った俺達は、次の目的地である首里城に到着していた。
博物館からそこまで遠くなかった事もあり、教祖アリサのマジンガントークタイムが朝に比べて遥かに短かったのが救いである。
「なぁ、BB」
「どうした、ノーマン?」
首里城を真正面から見上げていたノーマンが、ふと俺に声を掛けてくる。声色はいつも通りだが、サングラスの奥の表情は真面目なものだったので、俺もちゃんと聞いてやろうと耳を傾けた。
「なんつーかこう、発色の良い赤色に、白や金色を使った鮮やかな模様や飾りって組合せを見てるとさ……」
「うん」
「昭和のAVのパッケージみたいに見えないか?」
「お前、琉球王国に謝れよ!」
すさまじく失礼な感想を言われただけだった。「何らかの芸術的な感想が聞けるかも」と、耳を傾けた俺の期待を返せってんだ。
首里城内の見学は、一般のお客さんの邪魔にならないよう、粛々と見て回る作業と化していた。
やたら長い説明文が飾られている展示物もあったが、ざっくりと読んで軽く理解するにとどめる。なにせ、まともに読んでいると後がつかえてしまうからな。
城内で見られた面白い出来事としては、一部ガラス張りになっている床が設置されていた広間での一幕が挙げられる。
“城の床が、地面からどれほど離れた高さに設置されているのか”を体験できるコーナーなのだが。そこで、幼馴染メンバー唯一の後輩キャラである妹尾が、ガラスの上に立ち下を覗いてしまったのだ。
想像以上の高さだったため思わず腰を抜かしてしまい、関口に泣きつく……という可愛らしいハプニングを見る事ができた。
久々にほっこりする百合展開を見られた事が、首里城見学で唯一楽しめた事かもしれない。
どこからともなく現れた白百合三姉妹と、無言でサムズアップしあったくらい良いイベントだった。
そんな感じで首里城の見学を終わらせた俺達は、いよいよ“自由時間”と言う“お土産購入タイム”に突入するだけとなった。
ノーマンと天野が言っていた通り、テロリストが乱入するという事も無く、平穏に旅行が終わろうとしている。実に良い事だ。
莉穂姉と仲良く連れ立って、義父さん義母さんへのお土産を選んで回ろう。
まぁ、滝川や由子お姉ちゃん、マチュアといったメンツもついて来るだろうが、莉穂姉と学園外でのデートっぽいシチュエーションを堪能できるのだ。そのくらいは大目に見よう。
そう、俺はこの時すっかり平和ボケして失念していたのだ。
俺とノーマン、マージちゃんの帰宅方法が、皆とはだいぶアブノーマルだったという事を……。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




