第09話 - チャラ男の駆除以外は至極平穏な時間だった
前回のあらすじ。
担任である仁科恭子からの追加任務が課せられたものの、すぐにトラブルが起きることも無く、渉達は熱帯植物を見学したりと満喫していた。
そして、次の施設へと足を運ぼうとした折り、ついに最初の任務が下ることになる。
薫と俊之、両名の手が離せない中、渉は助けを求めに魔力通信を送ってきた後輩の下へ急ぐのだった。
莉穂姉達に一言断って走り出した俺は、ノーマンほどの速度ではないものの全力ダッシュを開始した。とはいえ、道が若干上り坂気味なことと、地味にカーブのあるつくりだったため思ったよりも速度は出せなかった。
せめて直線だったら、俺でも毎秒10mちょっとの速度は出せるのに……。
そんな事を考えながら歯噛みして走っていると、すぐに直線状の道へと変化してくれた。
「っしゃ、これで全力で走れ──そうにないな」
海洋博公園の主な出入り口となる中央ゲートに近づいているからか、決して多くはないものの人通りがそこそこある道になっていた。
ジャンプして頭上を飛び越えたり、フットワークを駆使して走り抜けたりすることも可能だが、人目に付く上に周りの人を怖がらせるだけなので実行するわけにはいかない。
ノーマンや天野、網谷はともかく、俺や他の女生徒の多くは学園の制服姿で来ているのだ。変に悪目立ちした日には、制服から学園名がバレて評判を落としてしまうだろう。
そんなことになったら、由子お姉ちゃんに「責任取ってね♪」とか言われて結婚ルートに突入する可能性すらあり得る。
女性として魅力的だし、好ましい人だとは思っているが、俺の中のNo.1は莉穂姉なのだ。他の人との結婚なんぞ、断固として阻止せねばならない。
というわけで、俺は人様が驚かないくらいの速度をキープしつつ、急いで現場へと向かうのであった。
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「ねぇ、いいじゃん! ちょっとだけ! ちょ~~っとだけ、俺達と一緒に見て回ろうぜ?」
「俺達地元民だからさ。ちょい昔の沖縄建物の小話とかもできるし、修学旅行として有意義な時間になると思うよ~? だから、ね? どうよ? 悪い話じゃないと思うけどな~」
現場に着いた俺の目に写ったのは、うちの女生徒三人を自称地元民の青年数人が囲んでナンパしているという絵面だった。
いかにもチャラそうな男が二人と、見た目こそ大人しめなものの軽そうな男が三人といった五人編成である。
ナンパされている女生徒三人は、生け垣を背にして前面を包囲されているため、抜け出そうにも抜け出せずに歯噛みしている状態だ。
「いいえ、ちっとも良い話ではありません! 私達は気心の知れた友人とのんびり見て回りたいんです!」
「そ……それに、そろそろ先輩と合流しなきゃですので、すみませんが通して下さぃ……」
気の強そうな女生徒が食って掛かり、それに続くようにしてもう一人の女生徒が声を上げる。残る一人は余程怖いのか、気の強そうな女生徒の袖を掴んで体を強張らせていた。
どうやら、俺達に魔力通信を送ってきたのは二番目に発言をした女の子のようだ。他の二人は、「先輩と合流」という発言を聞いた際に少し驚いていたからな。
「へぇ~? その先輩ってどんな子?」
「可愛い系? それとも、綺麗系?」
「ハハハ、残念っ! “可愛い”とか“綺麗”以前に、女子ですらありませんでしたっ!」
「「「「「なっ!!?」」」」」
背後から突然話しかけられたチャラ男達が、驚いた顔で一斉に俺の方を振り向く。
対して、女生徒達の方は助っ人の登場に安堵の表情を浮かべた。「盾来た! メイン盾来た! これで勝つる!」とか言ってくれてもいいのよ。
さて、バカなこと考えてないで後輩ちゃんの発言の辻褄合わせとして、小芝居をうつとしようか。
「いやぁ、三人がなかなか来ないもんだから探したよ。ほら、莉穂姉達も向こうで待ってるし、早く行こうぜ。……それじゃお兄さん方、俺達はこれで失礼させてもらいますね~♪」
チャラ男達が驚いている隙に包囲網へ割って入り、女生徒達の背中を押しながら来た道を戻るように足を進める。
中央ゲートから降りてきた人達が通る噴水広場が近くにあるため、俺達の方に視線がめちゃくちゃぶっ刺さって居心地も悪いしさっさと退散したい。
チャラ男達も下手に目立っているのを感じたのか、大人しく俺達を見逃して──
「あ……ちょいちょいちょ~い、少年、少年。ちょっと待とうか」
──くれないようだ。
包囲網を抜け出した瞬間、チャラ男の一人が慌てて俺の肩を掴んできやがった。
「今キミが言った“莉穂姉”って子、女の子だよね?」
「可愛い系? それとも、綺麗系?」
「……ちっ! お前らの脳味噌には、それしか辞書登録されてねぇのかよ」
「「……あん?」」
チャラ男二人の軽さにイラっとしてしまい、小声ではあったものの悪態を吐いてしまった。二人とも俺に顔を近づけていたので、バッチリ聞こえてしまったらしく半ギレした声を上げる。
「……あぁ、すいません。さっき後輩も言ったように、俺達は仲間内だけでまったりと見学して回りたいんです。ですので、ナンパはご遠慮ください。お兄さん方も、気の許せる仲間だけで楽しんだ方がいいんじゃないですか?」
「「「「「……アッハイ。そうします」」」」」
俺は笑顔を作りながら、振り向きざまに五人組へ催眠魔法を発動させる。
他の女生徒に絡まれると、また呼び出しを受けて俺達が被害を被るので、“仲間だけで楽しむ”という点を強く暗示しておいた。
[え~、黒薔薇三連星の諸君。今しがた、我が学園の生徒をナンパしたチャラ男五人組に催眠魔法を使い、男だけで海洋博公園を楽しむよう強い暗示をかけておいた。現在そいつらは、“おきなわ郷土村”と“海洋文化館”との入り口付近の道にたむろしている。運が良ければBL展開も期待できるだろうから、尾行してみてはどうだろうか?]
[[[伊藤君、ナイスアシスト! やっぱり、あなたもBLに興味が──]]]
[無ぇよ! 莉穂姉とのデートタイムを邪魔する原因を作りやがったんで、全力で嫌がらせをしただけに過ぎんわ! むしろ、俺が興味あるとしたらGLの方だっつの!]
[[[ちぇ~。天野君と一緒に居る機会が増えたし、期待してたのに~。まぁいいわ、乱交展開を期待してスネークしましょう]]]
不穏当な発言を残し、黒薔薇三連星との魔力通信が途絶えた。
少しばかりチャラ男達に同情しそうになったが、鬱陶しい連中だったので「別にいいか」と気持ちを切り替える。
折角の機会だ。腐女子どもが俺達の周りを嗅ぎまわったりしないよう、いい囮役になってもらおうじゃないか。
「……伊藤先輩。あの人達、やけにアッサリと先輩の言う事を聞きましたね? 私がキツ目に断っても食い下がってきてたくらいでしたのに……」
強気めな後輩女生徒が、後ろから誘導している俺の方を振り返って不思議そうに尋ねてきた。
「あぁ、そりゃあ催眠魔法を使って暗示を掛けたからだよ。かなり難易度が高いから、生徒の中では俺とマジカルゆかりんくらいしかまともな使い手は居ないかな。ひょっとすると、現在在籍している教職員の中でも居ないかもしれないけど……」
「へぇ、便利さに比例して難易度も上がるんですね。ちなみに、どんな暗示を掛けたんですか?」
「チャラ男達だけで今日一日楽しむように仕向けた。うちの生徒を見つける度にナンパされてたら、俺達が迷惑を被るもの。せいぜい、男同士でキャッキャウフフしてやがれってんだ」
「ちょっと先輩! なんてオイシイ展開を作ってくれちゃってるんですか! 彼らの行動を一日中ストーキングしたくなっちゃいましたよっ!」
「お前も腐女子かいっ!」
くそぅ、黒薔薇三連星の魔の手が、着々と後輩達の嗜好を汚染してきてやがる。
嬉々としてチャラ男達を尾行しようとする後輩に、黒薔薇三連星が尾行を開始している旨を伝えて落ち着かせた俺は、こちらに向かって来ていた莉穂姉達と合流を果たした。
一応、先ほどのやり取りを聞いていたギャラリーが居るかもしれないので、辻褄合わせとして後輩三人を加えた状態で“おもろ植物園”と“おきなわ郷土村”をまったりと堪能する。屋外の展示物という事もあり、大人数での行動でもあまり迷惑をかけることなく見て回れたのは幸いだった。
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30分ほどかけて屋外展示物を回り終えた俺達は、出入り口から噴水広場へと移動した。先ほど、後輩ちゃん達が絡まれていた場所にほど近い場所である。
後輩ちゃん達はこれから“美ら海水族館”を見る予定だったそうで、それを聞いた莉穂姉と滝川から「私もそろそろ水族館を見たい!」とお願いされてしまった。個人的には、目の前に入口がある“海洋文化館”を回りたいところではあったが、時間はまだまだたっぷりあるので莉穂姉達のリクエストを優先することにした。
そうして、水族館方面に歩いてすぐ、“ちびっことりで”という子供用のアスレチック区域の前を通った時のことである。マージちゃんと篠山ねーちんの二人が、なんとも言えない表情で遊具の方を見ていたのだ。
スルーしたいところではあったが、いつもノーマンにべったりな二人がヤツと一緒に居ないなんておかしな話である。俺は彼女達の視線の先を敢えて見ないようにしつつ、二人に話しかける事にした。
「二人とも、こんなところで何してるの? なぜかノーマンが見当たらないようだけど?」
「あぁ、渉ですか。いえ、俊之なら居ますよ。ほら、あそこに……」
マージちゃんが微妙な表情のまま、子供たちが群がっている一ヵ所へ指を向ける。
「ははは、マージちゃんったら冗談キツーイ。その方向は、子供用遊具施設だゾ♪」
「「すげー! 兄ちゃんすげー!」」
「「なぁ! もう一回勝負しようぜっ!」」
「フッ……これが若さか! 良いだろう! なんどでも受けて立つっ! 見せてもらおうか! 若さゆえの性能とやらをっ!」
マージちゃんが指さした先から、すっごく聞き覚えのある声で、色々とごちゃまぜになった赤い彗星っぽい感じの台詞が聞こえてくる。
できれば幻聴であって欲しい。
「渉、なんとかしてもらえないかしら? 俊之ったら、もう30分くらいああして子供と一緒に楽しんでるのよ……」
「コラッ《くぉっらぁっ》! こんっの、デコ助野郎! さっき手助けにこなかったのは、遊んでたからだな!」
後輩ちゃん達からの救助要請の際に、「手が離せない」とかふわっとした言い方してると思ったら、どうやら子供たちとガチのアスレチック競争をやっていたらしい。
ヒロイン二人をほったらかしにして、何をやっているんだか。
俺は肩をいからせながら様々な遊具を乗り越え、ノーマンの下まで進んで行った。
「お? BB、簡単にここまで来られるとか、流石は俺のライバルだ! ハッハッハッ!」
「それを言うなら、『それでこそ私のライバルだ!』だろうが! ってか、ヒロインをほったらかしにして子供たちと無邪気にアスレチックしてるんじゃねぇよ、このバカッ!」
「「すっげ! このメガネの兄ちゃんもスイスイ進んできたぜ!」」
「「なぁなぁ、一緒に勝負しようぜっ!」」」」
俺もノーマンほどではないが、子供用のアスレチック程度ならスイスイとこなせるだけの運動性能は持ち合わせている。それが余程気に入ったのか、子供たちが俺の下へとわらわら集まり、制服の袖を引き遊びに誘ってきた。
「すまない、少年達。お兄ちゃん達、水族館とかを見て色々お勉強するために来てるんだ。だから、もう遊んでいられないんだよ」
「「「「え~……」」」」
「それにね、一緒に行動するお友達も待たせているんだ。だからゴメンね。もうコイツを連れて行かなきゃだからさ」
「「「「ちぇ~……じゃあ、兄ちゃん達! いつかまた遊ぼうぜ!」」」」
「あぁ、縁があったらな」
サタデーナイトフィーバーみたいなポーズを決めるノーマンの頭をむんずとアイアンクローし、ズリズリと引き摺りながらマージちゃん達の下へと戻る。
そして、子供たちが背後で元気に別れの挨拶をしているのを聞きながら、俺達は今度こそ水族館へと向かった。
「……あの、BB。俺達、既に水族館を見終わった後なんだけど?」
「……あ、悪ぃ。そういや最初に水族館に行く予定だったもんな……って、じゃあなんであんな場所に居たんだよ? 水族館の出口と逆方向じゃんか!」
「いやぁ、マージがプラネタリウムを見たいって言うから、海洋文化館に移動してたんだが。その途中、あのアスレチックが気になっちゃってな。ほんのちょっと……ホント先っちょだけのつもりだったんだが、子供たちにノせられてズブズブと……」
「卑猥な言い方してんじゃねぇ! ……ったく、じゃあ今度こそ余計な道草食うんじゃねぇぞ。マージちゃんも篠山ねーちんもすまないな。少し戻らせちまって……」
「「さっきのは素直に助かったから、このくらいどうってこと無いわ」」
そう言ってイイ笑顔で返してくる二人に引き摺られ、ノーマンはプラネタリウムの入り口方向へドナドナされて行った。
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水族館へと到着した俺達は、他のお客さんの迷惑にならないよう、薄く広がるように移動しながら中を見て回った。
その後、水族館の出口すぐ近くにあるマナティ館でマナティの可愛さに癒され、エメラルドビーチで風景を堪能し、その後ウミガメやイルカを見て回る。
時間をずらして遅めの昼食を取った後は、まだ見ていない他の施設を見て回り、プラネタリウムで危うく寝落ちしかけたりした。
そして、水族館とは反対方向にある“熱帯・亜熱帯都市緑化植物園”なども見て回り、駐車場への集合時間となる頃には全ての施設を巡り終わっていた。
集合時間よりも少し早めに駐車場へ戻ると、既にバスに乗り込んで休んでいる生徒や関係者の姿がちらほらと見受けられる。
沖縄とは言え、季節が季節なので流石に夕方ともなると肌寒さが増す。俺達も自分達が乗ってきたバスへと入って暖を取る事にした。
座席に座ると、ほど良い温かさと一日中動き回っていた疲れによるものか、猛烈な眠気が襲ってくる。隣に座った莉穂姉も、俺の肩に頭を預けて微睡んでいるほどだ。後ろに座ったアリサへと目を向ければ、寄る年波に勝てなかったのか既に熟睡している。
どうやら帰りはマシンガントークに巻き込まれずに済むな……などと安心していると、途端に眠気が勢いを増し、俺も莉穂姉に頭を預けるようにして意識を手放した。
「はい、皆さま。ぐっすりお休みのところ大変申し訳ありません。まもなく、本日泊まるホテルへと到着致しますので、降りる準備をお願いいたします」
すっかり寝入っていた俺達を起こしたのは、バスガイドさんのアナウンスだった。移動中のアナウンスはゆっくりと休めるよう控えてくれていたようだが、そろそろ目的地に到着するという事で起こしにかかったようである。窓の外を見ると綺麗な夕焼け空が広がっていた。
通路を挟んで反対方向の席を見ると、ノーマンも寝起きだったのかもぞもぞと再起動している姿が見える。その前方の席へ目を移すと、公園内で一度もすれ違わなかった天野、網谷ペアの姿が確認できた。
「ノーマンも天野もおはよう。なんだかんだで、緊急呼び出しは午前中の一回だけで、至極平和に園内を散策できたな」
「おはよう、BB。……そうだな。ありがたい事に特に問題も起きなかったな」
「おはよう二人とも。……まぁ、平穏に過ごせるのならそれに越したことはないだろうよ」
「天野の言う通り、平和が一番だな。ここんところ、イベントの度にドタバタしてたから、今日みたいな日は貴重だったわ。教祖アリサとも一緒に行動してたけど、マシンガントークは無かったし」
「「へぇ、そうなんだ……」」
(((……なんか、嵐の前の静けさみたいで落ち着かねぇな)))
もしかすると、昨晩のように「教祖アリサをストーキングしていたテロリストが、今日も出てくるんじゃないか?」と身構える俺達を余所に、バスはホテルへと到着するのだった。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




