第08話 - のんびりとした植物観賞 そしてトラブル対応へ……
前回のあらすじ。
海洋博公園にて一日自由行動となった渉達であったが、渉、俊之、薫の男三人に対しては、渉の担任である仁科恭子より追加の任務が下った。
その内容とは、トラブルが起きた際の火消し役である。
常日頃から何かとイチャついている彼らに対し、男日照りによる妬みがそうさせたのか……。
その真相がわからぬまま、自由行動は幕を開けるのだった。
俺、ノーマン、天野の男性三人衆が軽く黄昏る中、パスケースは粛々と配られていく。そして、最後まで残っていた俺達の手にもパスケースが手渡された。
さっき、仁科先生から言い渡された役割だが、裏を返せば“厄介事が起きなければ平常通り”ということになる。
「……よし。起きても居ない厄介事を憂いてもしょうがない。俺達は俺達で、何も起きないよう祈りながら楽しもうじゃないか!」
「そうだな。さすがBB! 良い事言うぜ!」
「そうだよな! そうホイホイと厄介事なんて起きてたまるかってんだよな!」
俺の言葉を皮切りに、ノーマンと天野が自分を鼓舞するように言い聞かせる。
「そう、その意気だ! 俺達は何事も無く、今日を乗り切るんだ!」
「「イエス、平穏! ノー、暴力!」」
「「「「「三人とも気は済んだわね? じゃ、行くわよ~」」」」」
円陣を組んで気合を入れた俺達を、莉穂姉を始めとした女性陣が綺麗に引っぺがす。
俺を引っぺがしにかかったのは、主に莉穂姉と滝川の二人で、由子お姉ちゃんとマチュアは肩に手を掛けて引っ張る程度だった。
ノーマンはいつもの通り、左右をマージちゃんと篠山ねーちんに挟まれての退場である。
天野の腕を取ったのは網谷……だと思われるが、今は別の女性にしか見えない。恐らく、常日頃身に着けている認識阻害の腕輪を使っているのだろう。
一応、認識阻害の腕輪を装備している者同士であれば本来の姿がダブって見えるので、常に腕輪を身に着けている天野には本来の姿が見えているはずだ。残念ながら、学園を卒業するまで俺達には配られない物なので、俺を始めとした他のメンバーには別人にしか見えていない状態である。
今日は複数人での行動ではないので、多くの人間の視界に入りやすいから安全のために起動させているんだろう。昨晩、ホテル内で誤魔化しが効いていた変装も、二人きりで歩いている中、「紗友莉」なんて天野が呼びでもしたら一発でバレかねないしな。
ちなみに、網谷と天野に腕輪を渡したのは俺の権限だったりするので、俺も卒業前に持っておこうと思えば不可能じゃなかったりする。
ただ、網谷は私生活で目立たないために、天野は変身ヒーローの正体を誤魔化すために……と、使う場面が多いのに対し、俺やノーマンは人前で何かする事がないので持つ必要がないのだ。最近では、透明化ベルトを使って秘密裏にどうにかするのが基本だし。
網谷のマネージャーも、天野との関係を認めた上で今回の旅行にOKを出してくれたらしいが、“決して一般人にバレてはいけない”という条件も課してきたらしい。
今後、デートするにしろ旅行に行くにしろ、“網谷を妊娠させない”、“二人だけで居るところを写真に撮られない”という二点を守れなかった場合、マネージャー公認も反故とし、網谷は強制転校させられるとの事だ。
天野と網谷には腕輪というチートアイテムを渡しているのでバレる事はないだろうが、普通のアイドル達はどうやって交際関係を隠しているのだろうかと不思議に思う事がある。
「さぁ、薫。まずはオキちゃん劇場に行きましょ! うふふ。私、こうして人の目を気にせず、薫とイルカショーを見たり水族館デートしたりするのを楽しみにしてたの♪ それじゃあ皆、行ってくるわね~」
「紗友莉ちゃんがああ言ってる事だし、私達は先に水族館にでも行きましょうか?」
「それがいいわね、楓。わざわざ二人の時間を邪魔するのは無粋だわ」
網谷が大声で宣言しながら天野を引き摺って行くと、「心得た」と言わんばかりに篠山ねーちんとマージちゃんがノーマンを連行する。
美少女二人の双丘に腕が包まれているので羨ましく見えそうなものだが、その後ろ姿は刑事に両脇を挟まれて連行される容疑者みたいに見えるから不思議だ。
あるいは、美人局に引っかかったサラリーマンと言ったところか。どちらにしろ、ろくなイメージがない運ばれ方である。
「……えっと、あの二組から『私達の邪魔はすんなよ?』オーラが見えた気がしたから、俺達は熱帯ドリームセンターにでも行こうか? すぐそこだし……」
「「「「「えぇ、構わないわよ」」」」」
莉穂姉達の返事を聞いた俺は、残った女性陣の構成をちゃんと確認することなく入口へと移動を開始した。
この時、俺は気付くべきだったんだ。返事をした人間が、莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの他にもう一人居たという事を……。
尚、俺達と行動を共にすることの多い美希姉、関口、妹尾といった幼馴染メンバーと、俺の精神系魔法の先生ことマジカルゆかりんの4名だが、パスケースを受け取ってすぐに駐車場をあとにしたそうだ。
大人数で移動するわけにはいかないからその選択は正しいんだけど、俺達が円陣を組んでる間にさらっと行かれたというのが少し悲しかったでござる。……いやまぁ、最近は学園祭やらなんやらで、男三人組で集まってアレコレする機会が多かったから、「また野郎だけで何か始めおった」とスルーされても文句は言えないんだけどさ。
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熱帯ドリームセンターに入り、施設内の植物を眺めながらゆっくり歩いていると、特殊な加工を施されたバニラの鞘が展示されているケースを発見した。
説明によるとバニラはラン科の植物で、キュアリングと呼ばれる発酵・乾燥作業を繰り返す事で特有の甘い香りを放つのだとか。
見た目は干からびて黒ずんだサヤエンドウみたいなのだが、ケースに空けられた穴に鼻を近づけると確かに俺達の知るバニラの甘い匂いがした。
「へぇ、見た目は干からびたサヤエンドウだけど、匂いは確かにバニラの香りなんだな」
「えぇ、そうよ。歩は『キュアリングが上手くいかない! 何故だ!』とか叫びながら、長いあいだ苦労していたわ」
「へぇ、師匠がそんな事を──ッ??!」
聞き間違いでなければ、今の声は間違いなく教祖アリサのものだった。
そして、振り返って確認してみると……実際に居る!
「──何故居るんです!?」
「「「「「え? 気付いてなかったの? さっきからずっと居たわよ?」」」」」
俺の驚きに対し、教祖アリサを含めた女性陣全員からの呆れた声が返ってきた。
「マジかよ?! つか、何で俺達の方について来ちゃったのさ?! 人数多くて動き辛くなるだろうに……」
「いえ、その……ね。渉って、目つきこそ違うものの若いころの歩そっくりなのよ」
「そりゃまぁ、師匠の髪の毛から造られた人造人間だからね。遺伝子情報が丸っと同じなんだから、似てなきゃ大問題だ。クローンという単語の意味がゲシュタルト崩壊しちまう」
「だからね、疑似的ではあるけれど、歩と一緒に植物園を巡っている気分を味わって見たかったの」
見た目は妙齢の美女。スタイルも良く、そこはかとない艶を持った女性が生娘の様に頬を染めてもじもじとしている。大人びた服装でまとめている姿とのギャップがとても可愛らしい。
だが、老女(104歳)だ!
最早ただの詐欺である。
「……さいですか。で、他の皆は良いの? 余計な人がついて来る事になるけど?」
「正妻である義姉としては微妙な心境だけれど、渉を狙っているわけでもないし良いんじゃないかしら」
「私も同意見よ。……ただし、莉穂姉。結婚もしていないのに正妻気取りしないで下さい」
「私は滝川さんが言った内容と全く同じよ。……だいたい、私の方が二人よりも早くに渉君と知り合ってたんだし、正妻の座は私が着くべきだと思うわ」
「フッ……甘いですわね、お三方! 私なんて、一から十まで全て渉の手によるオーダーメイド! 身も心も、既に渉のモノでしてよっ!」
「マチュア、製作者の中から師匠と義父さんの存在を勝手に消すんじゃねぇ。あと、お前だけ俺の質問に答えてない」
「あ、ついて来る分には全く問題ないです」
「ったく、最初からその答えだけで十分なものを……ふぅ、だそうだ。俺としては、昨日や今朝の様な師匠の話マシンガントークは勘弁して欲しいんで、そこんとこよろしく頼む」
皆の答えを聞いた俺は、一息吐いて教祖アリサに向き直りついて来ても良い旨を伝えた。
ちなみに、莉穂姉が正妻だのと言ったせいでおかしな方向に話しが逸れたが、俺は莉穂姉以外と結婚する気もないので正妻も何もないと思っている。
「そう、分かったわ。話しは控えめにしておいてあげる」
「しないって選択肢は無いんだな、アンタ……」
「当たり前よ。私の“歩への想い”は、とてもじゃないけど語らずには居られないわ!」
「「「「その気持ち、分かるわぁ」」」」
「分かるの?!」
その後、俺の驚きの声を余所に女性陣だけで会話が盛り上がってしまい、暫く足止めを食ってしまった。後続の人が居なかったので、他人への迷惑にならなかったのが救いである。
「ねぇ、いくら時間に余裕があるとは言え、他の施設も楽しみたいしそろそろ移動しない?」
「「「「「は~い」」」」」
こうして、意気投合した年齢バラバラの女性5人を引き連れ、俺はゆっくりと熱帯系の植物や一部魚などを鑑賞して回った。
ちなみに、見た目が成人女性のマチュアだが、人工知能が完成してから10年も経ってなかったりするので、経過年数だけで考えると学園一のお子様だったりする。……よく考えたら、こいつも見た目詐欺だよな。
莉穂姉達は色々と会話しながらも景色は楽しんでいたようで、要所要所で自分が気になった花を前にして楽しげに語り合っていた。
世の妻が夫の浮気に気付けるのは、この広範囲に及ぶ情報収集能力が火を吹いてるからに違いないと戦慄を覚えた瞬間である。
……いや、浮気なんてする気は微塵も無いけどね。サプライズプレゼントを用意しようとしても、速攻でバレちゃいそうだなと考えただけですよ、ホント。
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あとから来るお客さんから、「チッ! ハーレム気取りかよ、クソがっ!」などとガンを飛ばされることも無く、俺達はまったりと施設全体を回り終わった。
かなりゆっくり歩いていたので「いい加減、他の人に追いつかれるかも」とか考えていたのだが、俺達の前にも後ろにもお客さんらしき人は居なかった。せいぜい、スタッフの人とすれ違ったくらいである。
正面ゲートから遠いから後回しにされているだけか、それとも人気が無いだけのか。
何にせよ、あまり見る機会の無い植物を、莉穂姉とゆっくり見られて良かったと思う。まぁ、南国系の植物に関しては、師匠から貰ったトータルエクリプス島で似たような物を見かけた気がするが……。
「さて、次はどこを巡ろうか? ここから一番近いところだと“おもろ植物園”経由でそのまま“おきなわ郷土村”へ抜けるのが良いかなと思──」
[先輩! 先輩! どなたか、助けに来れる先輩はいらっしゃいませんか?!]
──次の行先を話し合おうとしていたら、早速何らかのトラブルが発生したらしい。俺やノーマン、天野に魔力通信を飛ばして“先輩”と言っているあたり1年生か。
発信元を確認してみると、俺の現在地とノーマンの現在地との中間地点くらいの場所からの連絡だった。残念ながら、マチュアが地図把握している場所ではないので、学園内で確認した時の様にマップ付きで確認することはできない。おおよその距離と方向のみが分かる程度である。
[こちら天野。イルカショー終了直後の客移動のため、目的地まですぐに駆けつけるのは難しい。渉、ノーマンはどうか?]
[こちらノーマン。同じく現場へ急行するのは極めて困難な状況。BB、そちらはどうか?]
[……ったくもう何というタイミングか! しかし、どうせ今から向かおうとしていた方向だ。俺が行くよっ!]
[[どうぞどうぞ]]
[ダチョウ倶楽部か! あ~……1年生、今から60秒以内に伊藤が向かいます。何が起きたかは分かりませんが、それまで持ちこたえられますか?]
[は……はい、何とか]
俺の問いかけに、やや自信なさ気ではあるがしっかりと答えが返ってきた。
[よろしい。では、後ほど]
[ヒュー! BB、クールでカッコイー!]
[ヒュー! 渉、クールでカッコイー!]
[示し合せてんじゃねぇだろうな、お前ら?]
「ねぇ、渉? いきなり黙っちゃったけど、何かあったの?」
急に黙った俺に、莉穂姉が心配した表情で話しかけてくる。
「あぁ、すまない。さっそく何らかのトラブルがあったみたいで魔力通信が来た」
「「「「「──ッ?!」」」」」
「まだ具体的に何があったのかは分からないけど、今から向かおうとしていた場所が現場だから、ダッシュで行ってくる。すまないけど、皆はゆっくりと追い駆けてきてくれるかな?」
「「「「「分かったわ!」」」」」
「じゃ、行ってきます!」
……残り時間は30秒程か。時間厳守となると、久しぶりにガチダッシュしなきゃいけなさそうだな。
面倒なトラブルじゃなきゃいいけどなぁ……。
毎度読んでいただき、ありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




