第06話 - 儀式にギミックを仕掛けたワケ
前回のあらすじ。
温泉に入り、夕食を食べ、いざ話し合い…というタイミングで、謎のサラリーマン風男性が現れ教祖アリサの名を叫ぶ。
リゾートホテルの中で、派手なドンパチが始まってしまうのか。
渉達の行動や如何に…。
[ちょっと、教祖さんや。一人で旅行に来たんちゃうんか? 話が違ぉとるやないか、ワレェ!]
[BB、落ち着け。ヤクザみたいになってるぞ]
[ちょっ…私だって、ストーキングされてるとは思ってなかったわよ!]
闖入者の登場に、つい口汚く噛みついてしまった俺を宥めるノーマン。そして、闖入者を見て本当に驚いた表情をする教祖アリサという構図ができ上がる。
突然の展開に若干パニくったせいで小物臭漂う口調になってしまったが、咄嗟に精神感応魔法で文句を言うという行動を取った自分を少し褒めてやりたい。少なくとも、この口汚い怒鳴り声を莉穂姉に聞かれるという失態は防げた。
[魔導具で姿が変わちゃってるけど、たぶん順番的に57番のオセね…。渉、俊之、これ以上騒がれる前にサクっと確保しちゃって頂戴。私がやるよりも、二人がやってくれた方が確実だと思うから]
[まぁ、その顔を見る限り演技って感じではないな。それに、騒がれたら一般人の注目を浴びちまうから、先に無力化するってのは賛成だ。……ってわけでノーマン、すまんがヤツの口を押えて羽交い絞めにしてくれ。すぐに俺が──]
[「学園祭で使った魔法で気絶させる」ってんだろ? 任されて]
俺の意図を察したノーマンが、精神感応魔法で伝え終わるよりも早く動きサラリーマン風の男性の背後へと回り込む。予備動作無しで20mを1秒で移動するだけあって、俺が瞬きをした次の瞬間には男性は口を押えられて羽交い絞めにされていた。
男性がアリサの名を叫んでからノーマンが背後に回るまで、約2秒と言ったところか。口頭で伝える必要が無く、伝えたい内容を一気に相手へと転送できるので、戦闘中に連携を取るときに精神感応魔法は本当に便利である。
ノーマンの行動に二拍ほど遅れて、俺が男性へと駆けた。
俺は右手に気絶特化の魔法を発動させ、羽交い絞めにされている男性へと触れる。次の瞬間、暴れていた男性の身体から完全に力が抜けた。
対象が気絶していることを確認した俺達は、周りに人の目が無い事を改めて確認すると、男性を抱えてそそくさと由子お姉ちゃんの部屋に駆けこんだ。
……なんとなく、サザエさんのエンディングを彷彿とさせる動きだったのが少し恥ずかしかった。
部屋に入るなり、ノーマンが抱えているサラリーマン風の男性から認識阻害のブレスレットを外し、男を床へと転がす。
魔法の効果が切れ、エキゾチックな顔立ちをした壮年の男性の姿へと変わった。衣服も、スーツ姿から白を基調としたミリタリースーツ擬きな服に変わっており、今まで捕えてきたテロリスト達と同様のデザインであることが窺える。
「で、だ。アンタにくっ付いて来た信者は、アレだけか?」
「さっきの私の反応でわかるでしょ? 私が聞きたいくらいよ、ソレは」
転がされた男を指しながら教祖アリサに問いかけてみたが、返ってきたのはため息交じりの答えだった。
念のための確認ではあったが、どうやら意図的に連れてきたわけではないようだ。まぁ、今日一日続いた師匠の凄い話マシンガントークを聞いている限り、師匠の意にそぐわない行動を取るとは思っていなかったが…。
しかし、せっかくのバカンスが台無しである。……いや、修学旅行って時点でバカンスではないけどさ。
「……はぁ~…。まったく、やっかいなレベルで慕われてるこって…」
「なぁ、BB。とっ捕まえたのは良いとして、コイツどうするんだ?」
「騒がれても面倒だから、まずはガムテで口塞いで……やっぱ、那覇空港の基地から一般車両で輸送しに来てもらうしかないだろうなぁ。沖縄には他に防衛軍の基地がないし…。俺の携帯転移魔法陣で東京の本部にポイ捨てしてもいいんだが、転移部屋の監視役の人が困るだけだろうからな」
「まぁ、それしかないわな。じゃあBB、早速ガムテーププリーズ」
そういうわけで、俺達はテキパキと男性の口を塞ぎ、テープでグルグル巻きにしていった。
俺がよく使う“トータルエクリプス島の倉庫直通魔法陣”からガムテープを出そうとしたのだが、生憎と配管補修テープしか在庫がなかったのでそれを使う。
「口から剥がす時、痛いだろうなぁ…」と思いつつ、容赦なく簀巻きにしてやった。
次に直属の上官である沖中将に連絡をし、長いため息を吐かせたあと空港の基地へと男性の輸送手続きを行う。
受け入れ準備や、軍用車両以外を使うという面倒なリクエストを添えたせいで、到着は3時間程掛かるとの返事をもらった。教祖アリサから色々と話を聞く予定だったので、多少時間が掛かろうと問題はない旨を伝える。
とりあえず、事後処理の準備は整った。部屋の隅で簀巻きにされている男は放置することにして、本来の話し合いをするために教祖アリサへと向き直る。
「……さて、想定外のお客様が現れちまったが、そろそろ本来の目的を果たそうか。ズバリ、“どうして師匠は、儀式を行うまでの準備を二つに分けたのか”…この理由を是非とも教祖アリサから教えて欲しい。GW中、異世界に行った師匠と会話したんだが、『詳しくはアリサに会った時に聞いてみてくれ』と言われただけだったんでな」
「わかったわ…」
そう言うと教祖アリサは、全員の顔を一通り眺めてから一呼吸置いて話し始めた。
「まず始めに“陣”を学園に設置した理由だけど。これは、魔女と言う戦力を育成している本拠地だからよ。どのような敵が召喚されようと、籠月女学園時代の卒業生を含め、すべての魔女を招集して総力戦に出来ると判断しての事ね。
あと、主要な町や都市からも離れた場所に建てているから、仮に派手な戦闘になったとしても目撃者は極力減らせるはず…という狙いもあるわ。
陣の影響で、学園に居る人からは日常的に微量の魔力が吸われているけれど、本当にごく僅かだから突然戦闘が始まっても問題ないはずよ。…これは、実際に体験しているあなた達なら分かってると思うけどね。
実際に魔法陣を発動するための初期起動エネルギー確保と思って頂戴。ワルプルギスの夜を発動させた際、どんな凶悪な負の感情の塊が出るかはわからないけど、戦闘直前に膨大な魔力消費はしたくないでしょう? そのための下準備として、常に魔力を陣へと溜めこんでるの。要は巨大な魔力蓄電池ってわけね」
学園中央広場の巨木を調べた時に初めて気付いた事だったが、教祖アリサの言う通り地下の陣には魔力が常に供給されており、建設当初からの積み重ねで膨大な魔力が溜まっていた。
ノーマンにはその事をざっくりと説明していたが、莉穂姉をはじめとした他の面々は初耳だったため、「え?! 嘘っ?!」「気付かなかった…」といった声が聞こえてくる。まぁ、俺もごく微量過ぎて全く気付かなかったしな。
「次に“式”ね。こっちには“様々な負の感情”を集める魔法式と、ワルプルギスの夜を行う際、負の感情を具現化するための増幅器的な魔法式が刻まれているわ。
今朝、バスで渉が勘違いしていたのは、増幅器としての側面を私が利用していたからね。学園の陣と合わせる事で真価を発揮する式だけど、少しならこの紫水晶単体でも効果は出せるの。ペンダントという“枠”が“陣”として閉じてるからね…。
もっとも、この紫水晶単体での本来の能力は負の感情を集める事よ。そう、例えば“恨み”とか“行き場のない怒り”とか“後ろめたい思い”みたいなね。あと、私みたいな妖艶な姿の女性を見た際の“同性の嫉妬”“異性の情欲”なんかも含まれるわ。ま、私の実年齢はナイショだけどね」
そう言って教祖アリサは、髪を掻き上げて流し目を寄越してくる。くそ、この女ちゃんと己の容姿を熟知した上でポーズを決めてやがったのか、100歳オーバーのババアのくせに!
「いや、ナイショとか言いながら、実際は104歳って事バラしてたろ? 四則演算ができれば、師匠との年齢差から逆算できたわけだし」
やだ、ノーマンが勇者過ぎる。空気を読まずに女性の実年齢をバラすとか、今日のお前、最高に輝いてるよ! 主にデコが。
もしぶちのめされたとしても、骨は俺が拾ってやるぜ。……いや、戦車の砲撃食らっても生きてるような規格外だし、放っておいても大丈夫か。
「さて、どうしてこの二つを別々に準備したかだけど──」
(((((何事も無く続けたっ!?)))))
俺達の内心の驚きなどどこ吹く風でアリサは続ける。
「──ワルプルギスの夜を行う場所は、日本にしたかったというのが一点。これは、歩が多国語を覚えるのが面倒だったからという理由が大きいわね。だから、“陣”を学園のある土地に展開したの」
まったく想像していなかったレベルでショボイ理由だった。
「もう一つは、多くの人の意思が集まる場所で“式”に“負の感情”を記録させたかったという理由よ。そのため、私は歩の協力の元、エルサレムの地下200mの位置にラスト・ワンの拠点を設けたわ。
空調やら家具やら、生活に必要な様々な設備なんかは転移の魔法陣を駆使して二人で準備していったのよ。ふふ…初めての共同作業というやつね。新婚生活の準備みたいで楽しかったわ~」
なんか楽しげに語ってるけど、規模がとんでもねぇな。地下200mに拠点とか…。そりゃ俺の作った魔導具を、ローラー作戦で使ったところで隠れ家が見つからないわけだ。防衛軍に渡したのは、球状に半径100m程度の範囲でしかサーチできない代物だったんだから。
つか、「新婚生活の準備みたい」って、まさか師匠10歳とアリサ20歳のおねショタコンビで準備してた状態を言ってたりしないよなコイツ。その時の師匠の年齢にもよるけど、十中八九「お巡りさん、コイツです」案件ものだぞ。個人的に、おねショタには興奮するがな!
……って、あれ。ちょっと待てよ…?
「なぁ、教祖アリサ。たしか4月末に潜水艇を使って30人を上陸させた事があったよな? まぁ、海水を転移魔法陣で引き込んで、エルサレム地下拠点のドックに注水して出発。そして、海水を引っ張ってる転移魔法陣を使って地中海へ…って流れは想像できる。けど、ジブラルタル海峡を抜けたあと、北回りだろうと南回りだろうと物凄い遠回りだったんじゃないか?
アンタが那覇空港に来たように、国際線でも何でも使って成田や羽田経由で学園まで移動させりゃよかっただろうに…。実際、体育祭や学園祭の時はそうしてたよな?」
「渉、あなた誤解してるわ。潜水艇を外海に出した手順は合ってるけど、転移先が間違ってる。拠点のドックにある巨大転移魔法陣はね、太平洋の海中に繋げてあるのよ。まぁ、それでも日本からだいぶ離れた位置にあるから、到着までかなり時間は掛かるけどね。
それに、あの潜水艇はもともと72人全員を運べるように設計してたから、人数分のパスポートを偽造してなかったのよ。だと言うのに、2番のアガレスが余計な事を言うもんだから、半数以下での出撃になっちゃって…。
本当だったら、今年の4月に儀式を行う予定だったのよ? おかげで、丸一年お預けだし、偽造パスポートもちまちま用意せざるを得なくなってしまって! っもぅ!」
思ってもみなかったところで教祖アリサの地雷を踏んでしまったらしい。
とりあえず、知りたかったことも聞けたのでアリサを宥めつつ、来年のワルプルギスの夜について考えられる限りの打ち合わせをすることにした。
師匠もそうだったが、教祖アリサも“負の感情”の実体化については、どれほどの規模の存在になるのか想像もつかないらしい。まぁ、俺もこれと言って想像がつかないわけなんだが…。
何にせよ、実体化させる以上、物理攻撃は効くだろう。もし貫通しちまったら、ノーマンと天野の戦力が半減しちまうから勘弁して欲しいものだ。
そんなこんなで、想定していたよりも早くに打ち合わせが終わってしまった俺達は、部屋の隅で気絶しているヤツを手渡せる時が来るまで、喋ったりトランプで遊んだりして時間を過ごした。
時期が時期だけに、クリスマスパーティをしているようで楽しい一時となった。
その後、テロリスト輸送用の車が到着したとの報告を受け、ノーマンが部屋の窓から男を抱えてダイブ。男を車の荷台にぶち込んで、本日の集まりは終了した。
彼が目を覚ました時、誘拐された人質の気分を嫌ってほど味わう事だろう。同情はしないけどな。
何はともあれ、聞きたい事も聞けたし厄介事も片付けた。
こんなドタバタ、今日だけで勘弁して欲しいものだ。
「BB、それフラグって言うんだぜ?」
「心の中の呟きを勝手に言い当てるんじゃない!」
新年、明けましておめでとうございます。
ペースだけは守って完結させたいと思いますので、本年もどうかよろしくお願いします。
次回も金曜日更新予定です。




