第05話 - 温泉、浴衣、夕飯そして……テロリスト?
前回のあらすじ。
修学旅行初日の見学工程を終えたものの、渉、俊之、薫の男子三人はバス移動中語られ続ける教祖アリサのマシンガントークに疲れ果てていた。
そして、割り当てられた部屋に辿りついた渉達は、ついに一時の安らぎを得る事となる。
しかし、そこに部屋の用意がされていなかった教祖アリサが転がり込み、「何とかして欲しい」と頼まれるのだった。
「──という訳で、今日、明日と教祖アリサを由子お姉ちゃんの部屋に泊めて欲しい」
教祖アリサが俺達の部屋に転がり込んできたあと、俺は由子お姉ちゃんに連絡を取り、彼女が泊まるスウィートルームへと教祖アリサを連行していた。
「……普通に“部屋を取る”という選択肢はなかったのかしら?」
どこか落胆を含んだ表情の由子お姉ちゃんが、ため息交じりにごもっともな言葉を返してくる。
「いや、俺もそう考えてフロントに掛け合ってみたよ? そしたら、ツインルームのシングル利用ならできるって言われたんだけど……」
「そんな勿体ないこと出来ないわ! 私の他にも、当日利用のお客さんが駆け込んでくるかもしれないじゃないの。そうなった場合、私のせいで締め出しを食らう人が出るかもしれないのよ?」
俺の言葉を引き継ぐ形で、教祖アリサが続ける。
胸を反らし、若干ドヤ顔で言い張っているのが腹立たしい。……いや、様になってはいるんだけどな。
俺達が平和に暮らす学園に対し、自分の手駒である狂信者達を問答無用で送り付けておきながら、「なに思いやりのある発言してるんだよっ!」とツッコミたくてしょうがないのだ。
まぁ、それもこれも師匠と企てた計画みたいだし、ワルプルギスの夜を完遂するためにも乗り越えなきゃいけない事なんだろうが…イマイチ釈然としない。
「……とまぁ、この通り、貧乏性なのか、勿体ないお化けに憑りつかれているのかしらないけど、頑として譲ってくれなくて…。見た目は若いけど、中身が年寄りだからなのか妙なポリシーを持っちゃってて困ってるんだ」
「ちょっと、人を年寄り扱いしないでもらえる? 私は今でも若いつもりでいるんですけど?」
「はぁ……わかったわ。一応、予備のベッドも一台あるし、修学旅行の年長者組として仲良くしましょう?」
教祖アリサの発言をスルーしつつ、由子お姉ちゃんが手を差し伸べる。
俺に不満気な顔を向けていたアリサだったが、由子お姉ちゃんの言葉はありがたかったようで、「ご厚意に甘えさせてもらうわ」と素直に握手に応じていた。
「よし! じゃあ、教祖アリサの宿泊問題も解決したことだし、夕食の時間になるまで俺たちは一足先に風呂入って部屋でダラダラしてるわ。由子お姉ちゃん、その人をよろしくね~」
「ちょっと待ちなさい!」
「え…? 由子お姉ちゃん、何? どうしたの?」
俺が踵を返して帰ろうとすると、由子お姉ちゃんが肩を掴んで止めてくる。若干、怒気が含まれている事を察して、俺の声が少し震えた感じになってしまった。
「『何?』ですって? それはこっちのセリフよ! さっき連絡してきたこの内容こそ“何”よっ! すっごく期待しちゃったじゃないのっ!」
そう言ってすごい剣幕で見せてきたスマホの画面には、俺がここに来る前に送ったメールが表示されていた。
“由子お姉ちゃん。
大事な話があるからそっちに行って話したいんだけど、お邪魔しても良いかな?
もし迷惑じゃなかったら、部屋の場所を教えて欲しい。 ──渉”
「いや、だから大事な話だったじゃない。実年齢が三桁の老女とは言え、見た目だけだったら由子お姉ちゃんクラスの妙齢の美女だよ? そんなのが男子部屋に泊まるとかダメでしょ、絶対。…かと言って、他の女子部屋は定員いっぱいでベッド数も足りないはずだし、相談できる人間なんて由子お姉ちゃん以外に考えられな──」
「私はてっきり、プロポーズしてくれるのかと期待して待ってたのよ!?」
「ねぇよっ! だいたい、『莉穂姉一筋だ』って夏頃に明言したよね、俺!」
「それでも、万が一ってこともあるでしょう!? 例えば、今日なんかは大半の時間一緒にいられなかったけど、そのおかげで私への想いが再認識される…なんて可能性も──」
「そんなん、学園で授業している平日なんかいつもの事じゃん」
「………ハッ!? 確かに!?」
今更過ぎる事実にも気付いてなかったようで、由子お姉ちゃんは愕然とした表情で床に沈んだ。
まぁ、意味深な捉え方されてもおかしくない書き方をしたけど、いくら何だって冷静さを欠き過ぎでしょう。これは由子お姉ちゃんの過失であって、俺は悪くねぇ。
「じゃ…じゃあ、納得してくれたみたいだし、俺は行くね。……あぁ、教祖アリサ。夕食が終わったら、ワルプルギスの夜とかについて改めて聞きたいから、主要メンバーをここに集めるんでよろしく」
「え? えぇ、私は構わないけど…いいの? 彼女、このままで?」
四つん這いになって打ちひしがれる由子お姉ちゃんを見ながら、アリサが遠慮がちに言う。
「……まぁ、少し時間を置いて、立ち直り始めてから慰めてあげてくれ」
「わ、わかったわ」
床にくずおれる由子お姉ちゃんの姿に若干の罪悪感を覚えつつ、俺は部屋をあとにした。
部屋に戻る道すがらフロントの近くを通ると、御嶽見学の終わった後続バスの一組が到着した直後らしく、数十人の女性陣が自分の部屋割りを確認している姿を見かけた。
バスの方は順次到着しているようだが、全員が揃うまで暫くかかるだろう。去年、俺が最後尾付近のバスに乗ってた時なんて、夕食開始の30分前に到着したくらいだったしな。
さて、このまま部屋に戻って夕食までダラダラするのも良いが、さっき宣言した通り風呂に入ってさっぱりしておくか。ちょっと今日は、珍客のマシンガントークで疲れちまったし…。
▲▽△▼△▽▲
「「「ふぃ~…いい湯だった~」」」
大浴場から部屋に戻り、ソファーに腰かけた俺達三人の口から同じ言葉が漏れる。
三人とも部屋に用意されていた浴衣に着替えており、見た目の若さに目を瞑れば今の俺達は有給を満喫しているサラリーマンと言った雰囲気を醸し出している事だろう。
我ながら17歳の現役高校生にあるまじき態度だと思うが、今日は予想外の方向で疲れてしまっていたので人工温泉がほど良く身に染みてしまったのだ。今なら、疲れを取るために温泉に行くアラサーの気持ちが、よく分かる気さえする。
少し角度の高い夕日を眺めながらのオーシャンビューの人工温泉。
露天風呂を含めた豊富なお風呂の種類。
さすがは、高級リゾートホテルだ。見事な至れり尽くせりっぷりである。間違いなく、高校生が泊まっていい類のホテルじゃあない。
この辺、籠月学園のサービスの良さは正直おかしい。
修学旅行中は籠月グループが管理するホテルにしか泊まらないので、宿泊費は破格の安さらしいのだが、値段に対してこの豪華さは頭がおかしいとしか思えない。いや、まったくもって文句はないのだが、なんとなく後ろめたい気分になるのだ。
「はぁ~…。それにしても、一介の高校生という身分でありながら、こんな豪華な修学旅行を満喫して良いものかね? ただでさえ、俺や紗友莉なんかは完全に部外者だから、なんか恐縮しちまうよ。……今は遠慮なくだらけさせてもらうけど…」
「いいんじゃねぇの? 俺達は普段、タダ働きでテロリストを相手にしてたんだ。それに、天野は“謎のライダー”として社会に無償で貢献してるんだし、これくらいの贅沢を堪能してもバチは当たらんだろう」
どうやら、天野は俺と似たような気持だったようだが、ノーマンの返答は堂々…というか実に図太いものだった。
しかし、ノーマンの言う事ももっともで、そう考えると俺達は十分にこの環境を満喫する権利を得ている気がしてきた。普段は「ふてぶてしい奴だ」と引っ叩きたくなることが多々あるが、こういった時はこの図太さのおかげで少し気が楽になる。
そんな感じで部屋でだらけること暫く、教祖アリサによる師匠自慢話マシンガントークの疲れを癒しきった俺達は、夕食の会場であるレストラン会場へと向かった。
事前に決めていた待ち合わせ場所に到着すると、既に女性陣の方は教祖アリサを含め全員集合していた。
しまった、莉穂姉を待たせてしまうとは…俺としたことがだらけ過ぎていた。まぁ、辛うじて救いだったのは莉穂姉達も到着してすぐだった事だろうか。
どちらかと言うと、俺達を待っているほんの2~3分の間に、一般の男性宿泊客からの好奇の目線に晒されていた事の方が不快だったそうだ。うん、そう言った意味でも遅れてしまったのは申し訳なかったと思う。
それにしても、改めて皆を見てみると全員風呂上りだったようで浴衣に着替えていた。
男性客の目線を浴びていたとの事だが、それも致し方ないだろう。浴衣の中にTシャツを着ているとは言え、プロポーションも良く顔立ちも整っている女性陣がずらりと十人以上並んでいるのだ。自然と目線も吸い込まれてしまうだろう。
……いや、マチュアはアンドロイドなので、人としてカウントしてよいものか疑問だな。見た目からは判断できないレベルで人間っぽいけど。
それに、網谷に至ってはカツラを被った上で伊達メガネをしているとは言え、アイドルっぽいオーラを隠しきれていない。間近で注意深く確認したりしない限りまずバレないだろうが、人目を引き易い状態で数分も待たせてしまったのは失態だった。
俺達は素直に遅れたことを謝りつつ、夕食の会場へと足を運ぶ。既に学園の生徒や教師陣が数人来ており、思い思いにバイキング形式のディナーを楽しんでいた。
会場にいるのは最後尾付近のバスに乗っていたであろう人達が大半だったようで、浴衣を着ている人よりも入浴前の私服姿といった感じの人達が多い。
設置されているテーブルは四人掛けのものだけなので、総勢十五名の大所帯の俺達は男三人一組とその他女性陣三組という形で近場の席に分かれて座る事になった。
テーブルをくっ付けても良かったのだが、莉穂姉達が座席配置でもめそうだったので、下手に時間を割かないようにするための処置である。どうせ一人分席が余る計算なんだし、男三人だけで集まった方が平和だろうと言う判断もあった。
それに、この後は由子お姉ちゃんの部屋に集まって話し合いをする予定だしな。“誰が誰の隣に座るか”でもめるのはその時だけで十分だろう。
……それに──
「男だけで分かれて食えるのは助かったぁ。もし莉穂姉達があの姿で目の前にいたら、目のやり場に困って落ち着いて食えなかったわ」
──露出度は控えめなものの、薄手の生地を押し上げる暴力的な胸部装甲というのは、なまじ肌が見えているよりも扇情的に感じてしまうから落ち着かないのだ。……俺の個人的な感想かもしれないけど。
「え? でもBB、学園祭の時は二日連続でコスプレエッチ……っと失礼、コスプレあ~んをしてもらってたんだろ? 耐性ができたんじゃねぇの?」
「あれは莉穂姉達が狙ってそういう恰好してたから、なんというかこう…すぐに心構えができたんだよ。でも、今の浴衣姿って気負うことなく自然体な感じだったろ? それに、髪が長い莉穂姉とかはうなじが見えるようアップにする髪型になってるし……とにかく、コスプレとは違った感じっつーか」
「あぁ、でも渉が言いたい事は何となく分かる気がする。コスプレをするという意思の元で服装を変えてると、自然体で普段とは異なる服装しているのとでは、女子の纏う雰囲気が違う気がするからな」
「「ほほぅ?」」
ノーマンの疑問に返答していると、予想外にも天野が俺の意見に同意を示した。それを聞いた俺とノーマンは、面白いものを見れたとばかりに目を輝かせる。
「そういう感覚が『分かる』と言うことは──」
「薫は紗友莉に対して、そういう気分を味わったという事だな?」
「「さぁ、正直にゲロっちまいな」」
「カツ丼は用意できないけど──」
「代わりにラフティ丼、食うか?」
俺がスタンドライトを当てる仕草をすると、ノーマンが自分のお椀によそっていた沖縄炊き込みご飯の上にラフティを乗せてそっと天野の前に差し出した。おい、せめて白米の上に乗せろや。
「あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ! 『俺は渉の意見に同意したと思ったら、いつのまにか弄られていた』……な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺もも何をされたのか以下略」
シリアス表情を作った天野が、額付近にそっと手の平を添えてポルナレフの真似をする。
いやぁ、怒らずにノってくれるあたり、持つべきものはオタク友達だなとしみじみ思ってしまった。
「くくく……いやスマンスマン。天野が俺の意見に賛同したのが意外だったってのと、着々と網谷との関係に進展があったっぽかったってのが喜ばしいやら面白いやらで、つい…」
「…ったく失敬な奴らだ。さっきの同意だって、二次元キャラを見た時の感想から…って可能性も十分にあったろうが。この、自他共に認める二次元オタの俺が発言したんだからよ」
「「いやそれは無いな」」
「なんで言い切ったし!?」
天野の反応に対し、ヤレヤレという雰囲気を漂わせながら俺達は肩をすくめる。
「いいか、薫? もしもアニメでそう言った感覚を味わっていたのなら、お前はもっと以前から自主的に俺達に熱弁してたはずなんだ」
「その通り。しかし、ノーマンの言った通り、この半年の付き合いの間にそう言った会話は一切なかった。そして、今期やっていたアニメでも、浴衣や和服を纏った女子が出てくるような作品は俺達が知る限り存在しない」
「「つまり、さっきの発言こそが、現実の女子に何かしら思うような事態があったということの証左だったのだよっ!」」
「チッ。貴様らのような勘の良い友達は嫌いだよ…」
天野め。自分の妻や娘を、犬と悪魔合体させちゃうような国家錬金術師めいた事をぬかしよる。
「で、薫。実際のところはどうなんだよ?」
「うるせー、このグラサン変態マッチョめ。無駄口叩いてねぇで、とっとと食えっての。今後の事について色々話し合いするんだろ?」
「え~、ケチ。……BBも黙ってないで言ってやれよ、気になってるんだろ?」
天野に絡んでいたノーマンが、味方を得ようと俺に話を振ってきたが、俺はかぶりを振って乗らないでおいた。
「いや。確かに気にはなるが、今は人の目が有るから止めておこうと思う。……というか、主に黒薔薇三連星のランランとした目が有るから、これ以上ネタ提供したくないってのが本音なんだけどな」
俺はチラッと黒薔薇三連星と新腐女子メンバーが固まっている方向に目線を向ける。
彼女達はそんな視線を受けても、悪びれる事も無く堂々とラフ画やメモを取っていた。なんという逞しさだろうか、いいから飯を食えってんだ。
……え? 俺達こそが、おかずでメインディッシュだって? ははは、こやつらめ。火力発電所と連結させて、どれだけの規模の電力が作れるか試してやろうか。
「ま、そういうわけだ。大人しく飯を食って、とっととずらかろうぜ?」
「ちぇっ、しゃーねーな。俺はネタにされても構わんが、ここは素直に引いておこう」
そんなわけで、黒薔薇三連星達の熱い眼差しに晒され続けたものの、いたって平和に夕飯を食べ終わった俺達は、由子お姉ちゃんの泊まるスウィートルームへと移動した。
そして、部屋に入ろうとした刹那──
「教祖アリサ様! 何故、こやつらと共に行動をされておられるのですか!?」
「「「「「……えっ?!」」」」」
──ごく一般的なサラリーマン風の男性が、俺達の方を睨みながらそう叫んだのだった。
……義姉さん、事件です。
毎度読んでいただきありがとうございます。
最後の一言は、ホテル内の出来事だけに入れたくなりました。
まぁ吾輩、あのドラマをちゃんと見たことはないんですが、フレーズだけ妙に覚えてて…。
今回が今年最後の投稿となります。皆様、良いお年を。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




