第04話 - 自然の奇跡が垣間見える谷と、ホテルでの一瞬の安らぎと…
前回のあらすじ。
教祖アリサから儀式の手順を聞き終えた渉達は、修学旅行最初の目的地“平和祈念公園”へと到着した。
戦争当時の裏話をアリサから聞くことになった渉達だったが、俊之が呟いた下らない一言が渉達の腹筋を襲う。
かくして、“笑ってはいけない修学旅行 in 平和祈念公園”が幕を開けてしまうのだった。
「……ぐっ…疲れた。あと腹筋が微妙に痛い」
「「「「「右に同じく…」」」」」
バスに戻ってくるなり、俺は崩れ落ちる様に椅子へと腰かけた。
俺の呟きを聞いたノーマン以外の面々が、ぐったりした感じで同意を返してくる。
「おいおい。莉穂姉や天野達のメンツならともかく、BBやマージなんかはどうしたってんだ? こんなの軍の訓練を経験してりゃ、大した移動でもないだろ?」
「お前がアリサの説明に対して、変な合いの手をちょいちょい入れてくるからだろうがっ! 俺達ゃ単に、笑いを堪えるのに疲れただけだよっ!」
俺の力強いツッコミに対し、周りの皆が「うんうん」と深く頷く。いつもだったらノーマンの肩を持つ事の多いマージちゃんや篠山ねーちんですら、頷いているあたり余程キツかったのだろう。
やはり、真面目な話をしている中で笑いを堪えるってのはかなりきついよな。
ノーマンのヤツ、黙れと言ってるのにちょいちょい下らない発言をするもんだから、笑いを堪え続けるのが本当に難しいのなんのって…。結局、堪えるのが厳しくなったもんだから、咳込んだり咽たりするフリをして、笑いを小出しにするという苦肉の策を取ったくらいである。
そのせいで資料館の人から、「暖房、強めましょうか?」と心配されてしまったが。
「どうも渉と俊之を中心に雰囲気がおかしいと思ってはいたけど、そんな状態だったのね。まったく…」
俺のすぐ後ろの席──最後尾ど真ん中に腰かけた教祖アリサが、呆れた感じに呟く。つい先ほどまで師匠の凄さを織り交ぜつつ、戦争体験談を語って聞かせていただけあって、俺らの様子がおかしかったことには気付いていたようだ。
まぁ、何度か注意してきていたから当たり前か。
「笑いを我慢して疲れたのかよ。皆してだらしねぇな」
「ガチムチパンツレスリングの空耳みたいな発言しやがって…。お前、いつか“笑ってはいけないシリーズ”みたいな状況を作って、地味に疲れるって事を分からせてやるからな」
もちろん、笑った際のペナルティも用意するぞ。ノーマンの無駄に強固な防御力を貫通できるよう、オリジナルの魔法陣を刻んだ警策──座禅で集中を乱した際に使われるアレでもって尻バットしてやるんだ。
「皆様お席に着かれたようですので、これより次の目的地“ガンガラーの谷”へとご案内いたします。ガンガラーの谷を見学後、徒歩にて“おきなわワールド”へと移動し、施設内にて昼食を取る流れとなります。その次は“ニライカナイ橋”を下るルートにて“斎場御嶽”へ移動。御嶽を見学したのち、長時間のバス移動を経て本日のホテルへと向かう予定となります」
ノーマンへの復讐計画を考えているとバスガイドさんのアナウンスが聞こえ、程なくしてバスが動き出す。
そして、俺達の乗ったバスを先頭に、十数台のバスが“ガンガラーの谷”へと移動するのだった。
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ガンガラーの谷は事前に予約してツアー申込しないと入れない場所であるが、定員数に空きがあれば当日でも見学ができることがある。ただし、本日は午前中から正午一杯まで籠月学園の修学旅行ツアーで貸し切り状態だ。
とはいえ、流石に700人オーバーの人数を一気に見学させられるほど道幅は広くない。したがって、バス一台分の人数を一組として、数分の時間を置いてから順次案内していくという流れが毎年恒例となっている。
去年は最後の方のバスに乗っていたので、入るまでに30分ほどバスの中で待機するハメになったっけ。まぁ、待っている間は莉穂姉と二人でイチャイチャしてたから苦ではなかったが。
「なぁ、BBは去年もココを見てるんだよな? 今回は戦争とは無関係っぽいし、何かオススメのポイントとかあったりしないのか?」
バスガイドさんに続いて、バス前方の席に座っていた面々が一列になって歩いて行くのを余所に、ノーマンがワクワクした感じで話しかけてくる。
ちゃんとした近代の歴史を交えた平和祈念公園の見学とは違い、こっちは大昔の遺跡や地形を見るといった事がベースなので純粋に楽しめそうと思っているのだろう。アリサが戦争の話している最中、ちょいちょい下らない話を振っていたのは単に退屈だったからだな、このお子様め…。
「あ~……うん。お前が喜びそうなポイントが有るっちゃあ有る。ただ、それは実際に見てもらった方が良いだろうな。先に話してるとハードルが上がって、見た時に『え~?』って反応されそうだから」
「ほほぅ? じゃあ、焦らされた分、期待しておくとしようか」
「……どっちにしろハードルは上がっちまうんだな」
「ほら、渉、俊之そろそろ私達も移動する頃合いよ」
「さっさと歩け」とでも言わんばかりのアリサに急かされ、俺達も列の最後尾を歩き始める。
そして、歩き始めると同時に、左右と背後から“たゆん”とした柔らかい感触が俺を包み込んだ。
「……ところで、莉穂姉が俺の左腕に絡んでくるのはデフォだとしてだね。滝川はおろか、教師勢である由子お姉ちゃんやマチュアまで俺と一緒に居るのは何故だ?」
あんまり先頭の状況を見てなかったけど、由子お姉ちゃんとマチュアはバスガイドさんのすぐ後ろを歩いてなかったか? 一緒にバスを降りて行く姿を確かに見たんだぞ、俺は。
それと、これでもかと言わんばかりに「当ててるのよ」スタイルで俺を囲むのは止めて頂きたい。莉穂姉に集中できなくなるし、何より動き辛ぇ…。
「それはもちろん──」
「伊藤さんと渉君を──」
「二人きりにさせないため──」
「「「私だって少しくらいはイチャイチャしたいのよっ! 折角の旅行だものっ!」」」
滝川、由子お姉ちゃん、マチュアが示し合せたかのように続け、最後に三人が力強くハモった。
いや、確かに旅行っちゃ旅行だけど、“修学”って付くからな。泊まるホテルもリゾートホテルではあるけど、バカンスじゃないんだぞ。
「お~い、BB達~。早く来ないと、後続のバス組がつかえるだけだぞ~。アリサもジト目で睨んでるんだ。はよ来~い」
三人の勢いに気圧され言葉に詰まっていると、マージちゃんと篠山ねーちんを左右に侍らせたノーマンが、振り返りながら俺達に声を掛けてきた。
慌てて周囲を確認すると、俺達のやや前方にはノーマンの言った通りジト目でこちらを見ている教祖アリサの姿が。背後には、なんとも言えない表情で俺達を見ている後続バスの一行がスタンバイしていた。
俺達は謝罪の会釈をヘコヘコと繰り返しながら、早歩きで列に合流した。
自然溢れる道を、美女・美少女4人に囲まれながら歩く事しばらく。ついに、ノーマンが喜びそうなポイント“イキガ洞”のとある鍾乳石へとたどり着いた。
「うぉぉ~!? 超立派なチンコがぶら下がってやがる!? スゲェー!!」
「「「「「言うと思った」」」」」
鍾乳石を見たノーマンの叫び声に対し、俺や天野、その他女性陣も想定の通りの反応に苦笑する。
まぁ、ノーマンがそう言いたくなる気持ちも分からんではない。何しろ、先端が良い感じに丸くなった太い鍾乳石の柱が、天井からぶら下がっているのだ。
普通であれば、氷柱のように鋭利な形になる鍾乳石だが、これは太さがほぼ均一な上に先端が男性のナニのように太く丸まっているのである。話しによると、大昔から子宝信仰の対象として拝まれていたんだとか…。
「いやぁ…、こんな太いのが入るんだったら、スカルファックも余裕だろうな」
「うん。そんなマイナーなプレイが出てくるとは、さすがの俺も想像してなかったな。とりあえず黙っとれ」
その後、イキガ洞を出てすぐの場所にある“イキナ洞”へと入る事になるのだが、こちらでもノーマンの自重しない感想が炸裂していた。
「おぉ、見事な釣鐘型のおっぱいがワンセット! しかも、両方とも乳首にしか見えない突起部分まで再現されているあたり、まさに奇跡だ! コレ、突起部分をアニメっぽく光で隠すと、逆に卑猥さが増すヤツじゃね、BB?」
「俺に振るんじゃねぇよ。あと、下半身みたいな鍾乳石もあるんだから、そっちにも反応してやれ」
「フフン…。この洞窟も、歩が元居た世界では落盤によって中に入れなくなり、写真でしか見れなくなっていたらしいわ。だけど、『観光客や地元の人達が、生で見られるように』と、歩が洞窟全体を魔法で補修・補強したのよ! 目立たないように、永続的な魔法陣も埋め込んでね! こんな芸当、彼以外にはできないでしょうね!」
教祖アリサがノーマンの反応を華麗にスルーした挙句、またもや師匠の凄い所アピールをドヤ顔で混ぜ込んでくる。…つか、そんな理由で魔法を使うとか何考えてるんだあの爺。いや、決して悪い使い道じゃあないんだが…。
去年入った時は、素直に自然の奇跡として眺めていたが、アリサの裏話のせいで何かもう色々と微妙な気分である。
俺は天井からぶら下がった乳房のような鍾乳石と、下半身のように並ぶ鍾乳石の柱を、何とも言えない表情で見上げるのだった。
ノーマンが、河原でエロ本を見つけた時の小学生みたいにはしゃぎ回ったガンガラーの谷見学も終わり、俺達のグループは一足先に昼食を頂くことになった。
このあと向かう“斎場御嶽”へは、バス一台ずつでの移動となる。御嶽周辺の道幅が狭いという事と、駐車場が広くないという二つの理由から全員での移動が困難であるためだ。
ガンガラーの谷でバスごとに時間差で見学を開始しているのは、この流れを意識してのことだったりもする。
そんなに移動し辛いのなら、端から修学旅行のルートから除外してもよさそうなものだが、「沖縄を代表する最上級の聖地だから、絶対に外せない!」という師匠の強い要望により実現する運びとなったらしい。
ちなみに、修学旅行が毎年全生徒対象で行われているので、飽きないよう2日目、3日目は年ごとに行く場所が異なるのだが、初日だけは毎年同じ工程となっている。
斎場御嶽への順番が後の方になればなるほど、食後の空き時間でおきなわワールド内を見て回れるので暇つぶしはできる。…が、さすがに高校の3年間、大学の4年間の計7年も連続で初日が同じ予定だと飽きがくるのではと思ってしまう。
「──というわけで、在学中から現在に至るまでほぼ毎年参加している我らが担任仁科先生と、理事長こと由子お姉ちゃんに感想を聞いてみたいのですが。……実際のところ、どうなんでしょうか?」
「「ん~…。マンネリ化は否めないけど、退屈はしないわね」」
意外にも問題はないらしい。まぁ、そうじゃなきゃ初日の工程に対して、教師、生徒問わず改善要求くらいは出るか…。
「では、第一陣で昼食を取った皆さ~ん。そろそろ、次の目的地へと移動を開始いたしますので、トイレ等に行かれる方は今のうちにお願いしますね~」
「「「「「は~い」」」」」
こうして、俺達は次の目的地へと出発した。
移動時間中、教祖アリサから“御嶽を完全防衛した際の師匠のエピソード”をずっと聞かされる事になるとは夢にも思わずに…。
▲▽△▼△▽▲
──ドサッ!
本日の見学ルートを全て終え、ホテルの部屋に着くなり俺達の肩から鞄がずり落ちる。
「………ようやくホテルの部屋に着いたな」
「………あぁ、NKTだった」
「………俺達、ようやく休めるんだな」
少し赤みを帯びた陽が差し込む部屋の中で、ノーマン、俺、天野の三人の口から疲れた声が漏れる。そして次の瞬間、俺達は室内のソファやベッドへと自身の体をダイブさせた。
「………っはぁ~~~~……。女の話が長いって本当だったんだな。紗友莉のヤツ、もしかしてまだ三段階くらい変身を残してたりしないよな。『私の会話力は53万です』とか言われたら勝てる気がしねぇぞ…」
天野がベッドに倒れながら絞り出すように呟く。
教祖アリサのやつ、斎場御嶽に行く時もトークが止まらなかったくせに、ホテルへの移動中もずっと師匠の話をしまくってたもんな。こうして疲れてるのも、そのせいだし…。
だが安心しろ、網谷はお前に合わせてカスタマイズされていくタイプの女子だ。教祖アリサみたいに、惚れた男の事を延々と語るようになるのはもっと年老いてからだろうし、今は心配は要らないハズだ……たぶん。
──コンコン…
「「「……ッ!?」」」
部屋に漂っていただらけた空気が、ドアをノックされた音で一気に張り詰める。
一体誰が来たというのか。莉穂姉を始めとした幼馴染メンバーやいつものメンツであれば、まずは携帯に一報を入れてから訪問してから来るはず──
「居るわね~? 入るわよ~?」
──ガチャッ…
「「「何ぃっ?!」」」
この部屋はオートロックだぞ! マスターキーでも持ってない限り……って、今の声は教祖アリサか!?
ぐだっていた姿勢から一気に飛び起きた俺達の視線の先には、悪びれた様子の無い教祖アリサの姿があった。
「アンタ、どうやって鍵を開け……そうか、開錠魔法だな? アンタも俺やノーマンと同じで、学園にある制約魔法の魔導具を使われてないから、魔法を発動させる上でのストッパーが無いんだ…」
「えぇ、そうよ。種明かしする必要がなくて良かったわ。ところで──」
「一体何の用があって来た?! まさか、まだ師匠のエピソードを話足りないって言うんじゃないだろうな?! もう食傷気味なんだ、断固として俺達は断るぞっ!」
俺の切った啖呵に、天野とノーマンがコクコクと頷く。
しかし、アリサは溜息を一つ吐くと気怠そうに髪を掻き上げた。…くそっ、ババアの癖にいちいち表情とか仕草がエロいな、もぅっ!
「そんなつもりで来たんじゃないわよ。最後まで言わせなさいな。
…私って、今日飛び入りで参加したでしょ? だから、ホテルの部屋が押さえられてなかったのよ。で、権限を持ってそうな理事長がどの部屋に居るかも分からなかったから、とりあえず隔離されてた男子部屋の位置を聞いて相談しに来たの。これが訪ねてきた真相よ…。
ま、最悪この部屋で一晩お世話になるって手もあるけどね」
「「「昔話が終わりそうにないから、絶対に却下だっ!」」」
毎度読んでいただきありがとうございます。
ガンガラーの谷にある鍾乳石ですが、実在します。吾輩はまだ見たことないですがね。
ちなみに、イキガ洞とイナグ洞は、昔はそれぞれ“珍珍洞”“満満洞”と呼ばれていたみたいですね。まんま過ぎてビックリです。
まぁ、沖縄には“漫湖”と呼ばれる干潟も存在しますし、色々と凄い所だと思っています。個人的に、夏・冬のビッグサイトよりも沖縄が好きです。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




