第03話 - 乱交パーティー扱いされたワルプルギスの夜と、笑ってはいけない修学旅行 in 平和祈念公園
前回のあらすじ。
籠月グループ所有の旅客機で沖縄に着いた皆との合流した渉達は、ついにテロ組織ラスト・ワンの教祖であるアリサとも合流を果たす。
そして、次の襲撃日と儀式について聞くことに成功したのだった。
“ワルプルギスの夜(もしくは、ヴァルプルガの夜)”とは、ざっくり言ってしまえば中欧から北欧にかけて広く伝わっているお祭りである。
古代ケルト人達は1年を暖季と寒季の二つに分けていたらしく、暖季に行う祭りが“ワルプルギスの夜”の元ネタと言われている。もう一つの寒季に行う祭りは“ハロウマスの祭り”と呼ばれていたらしく、現在の“ハロウィン”の由来となっている。
ちなみに、“ワルプルギスの夜”の名前の由来だが、これはキリスト教の聖女“ワルプルガ”から来ている。
何故、キリスト教由来でもない祭りなのに聖女の名前がくっついているのか?
その理由は、お祭りを行う日にある。
ワルプルガの没後、彼女の遺物がドイツのアイヒシュテットに移される事になったのだが、その日が5月1日だったそうだ。実際、フィンランドやスウェーデンの典礼暦には、5月1日に彼女の名前が記載されているのだとか。
そのため、“4月30日の日没から5月1日の未明にかけて行われるお祭りと、ワルプルガの聖なる日が混ざった”とする話や、“異教の風習だからと言って排除するのではなく、聖なる日と合体させてキリスト教を馴染ませようとして結びつけた”とする話がある。
まぁ正直、今から1000年以上前の話なので、何が正解なのかはよくわからない。
名前の由来は一旦置くとして、次にお祭りの中身である。
とある風習によると、祭りの日は主神オーディンがルーン文字の知識を得るために死んだ日とされ、この夜は死者と生者の境が弱くなる時間と言われているそうだ。そういった死者や無秩序な魂を追い払うためにかがり火を焚き、光と太陽が戻る5月1日を祝うのだとか。
そんなお祭りの日なのだが、いつの頃からか“魔女達が悪魔を率いて夜の儀式を行う日”として伝わるようになっていた。
古代ケルト人が祭りをしていた頃からそう言われていたのか、はたまた近年になってから言われた事なのか…こちらもハッキリとはしてないようだ。
ただ、1800年代の頭に発表されたゲーテの戯曲『ファウスト』の中で“ワルプルギスの夜”の描写があるのだが、その描写が控えめに言って「魔女と悪魔の乱交パーティー」以外の何ものでもない内容だったらしい。その話を聞いた時から、「ワルプルギスの夜のイメージが変わってしまったのは、だいたいゲーテのせいじゃね?」と俺は思っていたりする。
これは俺の想像だが、きっとゲーテは“ワルプルギス”なんていう中二病を刺激される名前から、スケベな想像をしてしまったんだろう。まったくけしからん、もっとやれ。
ちなみに現在だと、“ワルプルギスの夜=魔女達の宴”というイメージが定着しているようだ。乱交パーティーから凄まじくマイルドになったものである。……まぁ、伝聞させるにはアレな内容だもんな。マイルドにならざるを得なかったんだろう。
今でもヨーロッパでは、ワルプルギスの夜に魔女の仮装をして楽しむ人々が居るとのことだ。
「──俺が知ってる“ワルプルギスの夜”についての情報は、こんな感じだな」
「よし、BB。せっかくだから時間遡行する魔法を作って、今から名前の由来を調べる旅に出てみないか? 本当に悪魔と乱交パーティーしてたら、新しい世界が見えると思うぜ?」
一通り説明し終わった俺に対して、ノーマンが真っ先に言ったセリフがそれだった。
何が「せっかくだから」だと言うのか。俺の方こそ、せっかく莉穂姉と沖縄旅行を満喫できている状態だというのに、わざわざ大昔のヨーロッパを練り歩きたくねぇっての。
「嫌だよ、あらゆる意味で面倒臭い。悪魔との乱交パーティーを見て広がる新しい世界とか、ろくな気がしないから却下だ!」
「『そんな魔法作れるわけがない』って言わないあたり、BBからすりゃできなくはないんだな?」
「いや、出来る気もしないよ? つか、もし仮に過去に行けたとしても真っ先にキリスト教に捕まって、異端審問にかけられるオチしか見えないんだが…。今でこそ大人しいアイツらだけど、15~18世紀にかけては1000人ほどが魔女狩りで処刑されてたんだぜ? しかも、そのうち200人以上がマシュー・ホプキンズとかいうキチガ……え~っと、狂信者によって殺されてたらしいじゃないか。
もし、そんなキチガ…狂信者めいた連中と出くわしちゃったら、いくら俺でも、頭にきてつい殺っちゃうかもしれないぜ? 『汚物は消毒だー!』とか言いながら……ハッ!? まさか、ノーマン。俺にこの手を汚せというのか?!」
「またぞろ古いキャッチコピーを出してくるなぁ。“タクティクスオウガ”だっけ?
……そういや、一昨年リメイクが発売されたよな。なんでも、カチュア姉さんをプリーストで育てて“聖水(意味深)”を覚えさせる輩が後を絶たなかったとか何とか…」
俺が最後に言ったフレーズに引っかかったのか、天野が席の向こうから顔を出して会話に入ってくる。
……うん。俺も莉穂姉の聖水(意味深)なら食らってみたいという好奇心があるな。ちょっと、そのプレイヤー達には親近感を感じざるを得ない。
「お姉ちゃんの意味深な聖水というのは、実に赴き深い響きがあるな。そして天野、キャッチコピーに関しては正解だ。
……って、本来の話からだいぶ逸れたな。それで、ワルプルギスの夜について話を戻すけど…。やはり、学園でやる理由ってのは、学園の地下に刻まれた巨大魔法陣の円陣だけが関係してる…って事で良いのかな、教祖アリサ?」
脱線し始めていたので話を戻しつつ教祖アリサに振ると、彼女は目を瞑ったままコクリと頷き補足した。
「えぇ。理由は渉の言った通り、学園に仕掛けられている“ちゃんとした魔法式が刻まれていない魔法陣”よ。予定通りなら、今までに送り込んだテロリスト56人分の感情を吸い込んで、魔力として蓄えているハズね。あとは、4月30日の日中に残り16人の信者を倒してもらい、合計72人分の感情を吸収させれば第一段階はクリアとなるわ」
「「「「「第一段階?」」」」」
「そう、あくまで第一段階ね。第二段階は、4月30日の日没後、歩からもらったこの宝石を学園の広場にある巨木の根元に埋め込むこと…。それで、地下の魔法陣が発動するのよ」
そう言うと教祖アリサは胸元のペンダントを手に取り、鈍く輝いている宝石を愛おしそうに眺めた。
なるほど、今の話で学園の地下魔法陣にちゃんとした魔法式が刻まれてなかった理由が、ようやく分かった気がする。
たぶん師匠は、学園建設に着工してた頃から、教祖アリサとワルプルギスの夜に関して計画を練っていたのだろう。その結果、学園には魔力を蓄えるための魔法陣を準備し、実際に効果を発動させるための魔法式は教祖アリサに預かってもらっていたわけだ。
なんでわざわざ回りくどい仕掛けを施したのか、その理由はさっぱり分からんだけどな。
そもそも師匠は、なんで自分がこっちの世界に居る内に終わらせなかったのだろう? 異世界に行って話を聞いた時の印象から見るに、面倒だったから俺達に丸投げした…ってわけでもなさそうだったし。
このイベントを無事に乗り越えさせて、俺達の成長を計りたかったとか? …あり得なくはないが、学園を建て始めていた頃──80年前から計画していたとは考えづらい。
まぁ、その辺の理由はアリサに聞いてみるか。答えてくれるかわからんが。
…それにしても、魔力を通して地下まで調べた時に、宝石をはめ込むような物なんて見当たらなかった気がするんだよな。
以前ざっくりと調べた時に、巨木の根が一本だけ魔法陣に達するように植えられていたのは確認したが、それを導体代わりにして陣と宝石の魔法式を連携させる計画じゃないだろうな。
確かに、動物だろうと植物だろうと、生命体であれば魔力を伝達させる導体代わりになりはする。しかし、植物の成長による魔法陣への浸食だとか、陣自体が破壊される可能性があるとか怖くなかったのだろうか。
いやそれとも、あの巨木自体にも何か魔法なり魔法陣なりと言った仕掛けがあったとか…。ありうるな。前に調べた時は地下の陣にばかり集中していたから、巨木自体に魔法陣解析魔法をかけてなかったし。
「皆さま。バスは間もなく“平和祈念公園”に到着致します。貴重品等をしっかりとご確認頂き、降りる準備をして頂きますようお願い致します」
バスガイドさんのアナウンスが響くと、それまで雑談に興じていた他の生徒達が外の景色に注意を向ける。
教祖アリサの話を聞いて色々と考えている内に、最初の目的地である“平和祈念公園”の近くへと移動していたらしい。時計を確認してみると、空港を出てから既に30分あまりが過ぎていた。
「そういえば、歩が元居た世界では那覇空港から平和祈念公園までの間に、“ひめゆりの塔”っていうのがあったって言ってわね。あの子が頑張って色々と手を打って回ったおかげで一人の犠牲者も出なかったから、こっちの世界では塹壕跡が公開されているだけになってるらしいけど…。
フフッ…。犠牲者が出なくて良かったとか喜んでおきながら、元の世界にあったものが無くなっている事に対して寂しそうにしてたのが可愛かったのよね」
莉穂姉と一緒に外の景色を眺めていると、背後から教祖アリサの呟きが聞こえる。首を後ろに向けて確認してみると、彼女はとても誇らしげな表情で流れていく町並みを眺めていた。師匠の努力が報われた事が本当に嬉しいようだ。
師匠が回りくどい仕掛けをした理由を聞こうと思っていたが、今は師匠との思い出に浸らせてやるとするか。
そう考えた俺は、青空の下に広がる平和な街並みへと視線を戻した。
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……なんて考えてた俺は甘かったと言わざるを得ないな。
いくら見た目が妖艶な美女だろうと、中身は歴とした100歳オーバーのばっちゃなのだ。油断していると、長話に巻き込まれて大変な目に遭うという事を忘れていた。
「──でね、歩が元居た世界で国内外合わせて20万人以上の戦死者を出した第二次世界大戦も、こっちの世界では1000人未満に抑える事が出来たのよ。決して少なくは無い犠牲だったし、本人も『犠牲者をゼロに出来なかった…』って嘆いていたけど、あれだけ大量殺戮兵器を投入されたのに200分の1以下に抑えられたのは快挙の一言に尽きると思わない? 思うわよね? 一応、私も少しは手を貸したんだけど、歩ったら私のサポートをしながら世界を股にかけて裏工作したり、ホントもう凄かったんだから! …ねぇちょっと、あなた達聞いてるの?」
「「はいはい、聞いてます聞いてます」」
文句を言いたげなアリサの問いに、俺とノーマンが投げやり気味に答える。
…まったく、バスを降りてからというもの、教祖アリサによる“師匠の凄い話”マシンガントークが止まらない。
しかもたちが悪い事に、戦争を止めるために“裏工作と言う名の嫌がらせ”を実行していた魔女グループの一人によるガチ体験談なので、修学旅行本来の目的に則った話の内容だったりするから止めるに止められないのだ。
おかげでさっきから、バスガイドさん達が驚きつつも真剣に話しに聞き入ってしまっている。更に、本来はバスガイドさんが話をする場面だというのに、彼女らがアリサにアナウンス役を譲って話を促すもんだから止まらないの何の…。
ちなみにこのバスガイドさん達だが、俺達のOGに当たる人なので軒並み魔女である。ゆえに、こんな荒唐無稽にしか思えない当時の裏話も真剣に聞いてくれるし、魔法が絡んだ内容があっても問題無いという点もたちの悪さに拍車をかけている。
教祖アリサもその辺を知った上で語っているらしく、籠月グループの一社員でしかないバス運転手さん達からは聞こえない距離になってから話し始めていた。
そんな感じでマシンガントークをBGMに歩くこと数分、広場の中心にずんぐりむっくりした円錐のオブジェが鎮座する場所へとたどり着いた。
広場にはオブジェを中心として薄い扇状の巨大な石碑が、円を書くように等間隔に三つ配置されている。上空から見ると、まるで放射線マークのように見えるだろう。
広場の周囲は広範囲にわたり綺麗に石畳が敷かれている。オブジェ群の正面には見晴らしの良い高台から望める海があり、左手にはなだらかな丘陵の上に立つ戦争資料館が見える。今日は天気も良いので、実に眺めが良い。
まぁ、俺達の前にある石碑には、教祖アリサが説明していた決して少なくない犠牲者の名が一人残らず掘り込まれているので、景色は良いものの如何ともしがたい気分である。
「聞いているならいいわ。それで、石碑に刻まれている人達だけど、歩の元居た世界では“ウシ”や“カメ”という名の人も犠牲者として刻まれていたらしく──」
「カメか…それ、男性の名前だったら直接的過ぎるよな」
「「「「「ブフッ……」」」」」
アリサの異世界うんちく話が再開される中、ノーマンが漏らした一言が俺達を襲う。
「──だから歩は、こっちの世界では民間人の被害を最小限に……って、そこどうしたのよ? 今は吹き出すような話をしてないはずよ。真面目に聞きなさい」
「「「「「す…すみません……」」」」」
突然吹き出した俺達に気付いたアリサが、もっともな注意をしてくる。
そして、腹筋の痙攣を押さえながら謝る俺達に対し、ノーマンが更に追い打ちをかける一言を放った。
「ところでさ、ウシときたらカエルも居ないとパペットマペットできねぇよな?」
[[[[[ノーマン、お願いだから少し黙って!]]]]]
またも吹き出しそうになった俺達は、なんとか笑を押し殺しつつ精神感応魔法でノーマンに抗議するのだった。
しかし、その努力も虚しく、このあと小一時間ほど“笑ってはいけない修学旅行 in 平和祈念公園”に俺達は巻き込まれることとなる。
一体何が悲しくて、まじめな話の合間に入れられるノーマンのボケで笑いそうにならなければいかんのか。「笑いを我慢していると、ちょっとしたことで吹き出しそうになっちゃうよね?」という人体の不思議を、心底体験する時間となった。いやマジで笑を堪えるのに必死過ぎて、後から思い返してもアリサが何を話してたのかほとんど記憶に残っていなかったくらいである。
ちなみに、この笑ってはいけない修学旅行だが、ノーマンの一人勝ちであった事をここに記しておこう。
毎度読んでいただきありがとうございます。
今回は、“ワルプルギスの夜”についてと、“この世界での第二次世界大戦”についての説明が大部分を占めてしまいました。
ワルプルギスの夜については、『ウィキペディア』や『萌える魔女事典』、その他ウェブサイトで調べた事を参考に記載しています。
よくよく調べてみると、西暦が3桁の時まで遡るような昔からの風習だという事がわかり、「よく今世紀まで残ったよな」という感想が真っ先に思い浮かびました。何だかんだで、国を問わずお祭り騒ぎが好きなんでしょうな、人類ってやつぁ。きっと、そういう根本的な部分に人種の違いってのは無いんだろう。
だから、どの国でも“童貞”や“処女”といった言葉に該当する単語が存在するんだ。そうに違いない!
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




