第02話 - 仲間との合流、教祖アリサとの邂逅
前回のあらすじ。
ようやく完成した可変型戦闘機“魔改造ラプター”のテスト飛行を兼ね、北海道から沖縄まで30分も掛からずに移動した渉と俊之とマージ。
俊之の無茶な操縦と、那覇空港基地に到着してからの質問責めにぐったりしつつ、莉穂達が乗る飛行機の到着を基地内で待つのであった。
今更だが、俺達が居る籠月学園には、高等部と大学とで600名以上の生徒がいる。それに対して教職員の数は40名足らずで、警備員の数はその倍近い70名、その他に学園寮1Fで働く店員さんや食堂の栄養士さんなどを含めて合計150名弱である。
生徒の数と合わせると、学園全体で現在750名程度が共同生活を送っている事になる。まぁ、既婚者の関係者は皆、旦那さんと暮らしている家へと帰宅しているので、実際に寮で衣食を共にしているのは未婚の人達ばかりだ。
ちなみに、既婚者の方々は家の近所にある籠月グループの会社…にある転移魔法陣から通勤しているので、表向きはオフィスレディということになっている。
さて、どうして突然この様な話をしたのか。それは人数を考えてもらいたかったからだ。
現在、籠月学園には数十名の学園関係者しか残っていない状態である。
逆に言えば、700名近くの人数が沖縄へ向けて飛行機で移動中というわけなのだが…お分かり頂けるだろうか。そんな大人数を一気に運べるような機体が、通常は運行されていないという事実を…。
現在、日本の上空を飛んでいる旅客機では、多くても400~500人乗りがせいぜいである。普段空港で目にする機会が多いのは、それよりも更に少ない200~300人乗りばかりだ。
何にせよ、700人を一気に収容できる代物ではない事は分かって頂けただろう。
では改めて、学園の皆は一体どうやって移動してくるのか。
正解は、“籠月グループが自社で造ったオリジナルのジャンボジェットを所有しているので、それを使って移動してくる”である。このジェット機は二階建てとなっており、最大で900名を乗せることができる大型機なのだ。
ところがこの機体、人間だけではなくその他の積載物──機内で提供する飲み物、利用者の荷物、ジェット燃料等を合計すると、ギリギリ飛べるか飛べないかという状況になってしまう欠陥品な代物だったりする。
しかし、そこで登場するのが籠月グループとは癒着レベルで切り離せない人物、俺達の師匠こと伊藤歩である。
揚力だけでは浮けるかどうか怪しいこの機体に空中浮遊魔法の陣を刻み、機体全体を無理なく浮かせるようにしたのである。そのため、普通の飛行機よりもスムーズに離陸する事が可能なのだ。
浮くだけの空中浮遊魔法よりも、飛び回る事ができる飛翔魔法の方が良さそうなものだが、飛行機にあるまじき機動が可能になってしまうので自重したらしい。確かに、そんな動きをする機体をレーダーで発見したら、管制塔が大騒ぎしかねないもんな。…どれだけ正確に動きを把握してるかは知らないが。
尚、魔法陣発動のための魔力は、エンジン起動後のタービンの回転による発電を魔力へと変換して使うので、外から見る分には普通の旅客機と同じく滑走路で加速して浮いてるように見えるという点も良いカムフラージュとなっている。
「伊藤特佐、野間特佐。どうやらご学友が到着されたようです」
「あぁ、アレですか。……って、こうして見ると確かにデカくて長いですね。去年乗った時は、特にそんな感じもしなかったんですが、外から見るとだいぶ違うなぁ」
俺達は今、「せっかくだから、皆が乗っているジャンボジェットの着陸シーンを見に行こうぜ」というノーマンの提案を受け、那覇空港の展望デッキに来ていた。
俺達の横には、那覇空港基地で休憩室へと案内してくれた士官さんが私服に着替えた上で同行してくれている。だって、高校生くらいの少年少女が軍人に同行されながら展望デッキに来るとか、一般人からすれば注目の的になっちゃうもの…。
「やだ、BBったら。デカくて長いだなんて卑猥!」
「旅客機としての話だよっ! 何の話だと思ってやがるんだ、テメェはっ!」
「もちろん、ナニの話だと思ってたに決まっている!」
「くそっ、上手い事言いやがって…」
ったくもうコイツは、隙あらば下ネタに持って行こうとしやがる。俺としたことが、迂闊な発言をしてしまった。
「あの……到着ゲートへ向かわれなくてもよろしいのでしょうか? ご学友をお迎えする予定だったのでは?」
「あ…はい。そうでした。…それじゃ、ノーマン、マージちゃん。皆が出てくるゲートまで移動すんぞ」
「「了解」」
士官さんのやんわりとしたツッコミを受け、俺達は到着ゲートへと足を運んだ。
▲▽△▼△▽▲
「渉~」
「莉穂姉~」
“ヒシッ”という擬音が聞こえてきそうな勢いでハグをする俺と莉穂姉。嗚呼、数時間ぶりの莉穂姉の匂いが愛おしい。
俺達が抱き合ってる横で、滝川、マチュア、由子お姉ちゃんが「ズルイ」だの何だのと文句を言っているが、姉に抱き着くのは弟の特権で、弟に抱き着くのも姉の特権である。素人は黙っていてもらおう。
他にも、網谷が物欲しそうに天野を見ていたり、関口やマジカルゆかりんの視線が妙に冷ややかだったり、美希姉が生温かい目で見てきたりしているけど、今は莉穂姉成分の補充タイムである。
そんな感じで姉弟の逢瀬を堪能していると、士官さんが遠慮がちに声を掛けてきた。
「あの…伊藤特佐。無事に合流できたようですので、本官はこれにて失礼させて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、はい。ご足労頂いてすみませんでした。また明後日、帰宅する際にはご挨拶に伺わせて頂きます。お疲れ様でした」
「ありがとうございます。それでは、野間特佐も失礼致します」
そう言って士官さんは俺達に敬礼しようとしたのだが、わざわざ私服に着替えてもらった意図を思い出したのか、やや強引に腕を振る動作へと変え去って行った。
「さて、俺らのお守り役の士官殿も行った事だし、そろそろ移動しようぜ、BB。あまり待たせるのも悪いし」
「そうだな。あちらさんも、言った通り一人で来てるようだし、ちゃんとお迎えしましょうかね。……それに、出口付近で団子になったままだと、あとの人が詰まっちゃうしな」
今の所、到着ゲートから出てくるのは学園関係者しか居ないから「またやってるよ、この姉弟」くらいの目で見られているだけだが、そろそろ次の便のお客さんも出てくる頃合いだろう。早いところ場所を変えた方が良いのは確定的に明らかだ。
俺とノーマンとのやり取りを聞いて、マージちゃん以外の面々が頭上に「?」を浮かべるが、それを余所に俺達は学園が用意したバス乗り場へと向かった。
空港の外へ出ると、沖縄のイメージにそぐわない肌寒い空気が俺達を出迎える。しかしながら、つい数時間前まで居た関東周辺の気温と比べれば多少は我慢できる程度である。
今回が初修学旅行となる一年生組は、コートに袖を通そうとした姿で一度固まり、軽く羽織る程度にとどめるといった行動をとっていた。去年の自分達を見ているようで少し懐かしい気分になる。
そんな後輩達の姿を視界に映しながら、俺とノーマンは横を通り過ぎようとした一人の女性に声を掛けた。
「「それで、アンタが教祖アリサなんだな?」」
「なんだ、バレていたのね?」
「「「「「えっ!!!?」」」」」
俺達のやり取りを聞き、莉穂姉達を含めた学園関係者から驚愕の視線が向けられる。
ごく軽い感じで言葉を返したその女性は、ウェーブがかったダークブラウンの長髪を翻らせ俺達の方に体ごと向き直った。
その容姿は、ヨーロッパ系のハッキリとした顔立ちの美女で、唇の左下にある黒子が艶っぽさを際立たせている。
黒いタートルネックにアイボリーのアウターを着ており、腰元をキュッと絞る感じの白いロングスカートでシックにまとめた服装。肌色のストッキングに包まれた足はスラリと長く、ヒールは高さが少なめの物を履いている。
全体的に露出度は少ないのだが、腰のくびれをハッキリと見せる服装のせいで自己主張の激しい胸部装甲が更に主張を強めている。そして、その立派な胸部渓谷には、鈍く怪しげに輝く紫水晶と思しきペンダントが収まっていた。
なるほど、確かにこんな色気を出されていたら、テロリスト連中が夢中になるのも分からないでもない。まぁ、俺には莉穂姉という最強の義姉ちゃんがいるから、そんな簡単には誘惑されないがな。
………あれは絶対に老女、師匠と知り合いって時点で見た目通りの年齢のハズがない。騙されるな、賢者タイムを思い出すんだ。惑わされてはいけない。
「ふぅ…実年齢が幾つかは知らないが、ずいぶんな美魔女っぷりだな。莉穂姉という存在が居なけりゃ、危ないところだったぜ!」
「BB。威勢よく言っても、発言内容自体はだいぶ情けないぞ?」
「うっさいわ! なんでこういう時ばっかり冷静なんだよ、お前は! いつもは率先してアホな発言するくせにっ!」
「フフフ…、想像以上に仲が良くて安心したわ。さて、それじゃあ立ち話も何だし、バスに乗りましょうか」
「「なんでアンタが仕切ってるんだよ」」
「だって肌寒いじゃない。早く室内に入りたいのよ」
そう言って教祖アリサは、俺達が乗ろうとしていたバスへと足を踏み入れた。
教師とも生徒とも思えない女性が入ってきたことで、運転手とバスガイドから驚きの声が上がる。しかし妙な事に、それ以上声が発せられることはなかった。
不思議に思いノーマンと一緒に中を覗くと、胸元のペンダントに触れながら催眠魔法を掛けているらしいアリサの姿が見えた。
「…そういや、教祖アリサって師匠の仲間なんだもんな。魔法の一つ二つは使えて当たり前か…」
「え? あれって、ペンダント型の魔導具を使ってるわけじゃねぇのか?」
「あぁ、あの宝石っぽいのに魔法陣は刻まれてるみたいだが、こうして見た限り不完全なんだよ。陣として閉じてないと言うか…。魔法陣解析魔法を使えば詳しく調べられると思うけど、ぱっと見た感じでは増幅器的な役割しかしてそうにないんだよな、アレ」
俺達が話しているうちに運転手とバスガイドの催眠が終わったのか、アリサは堂々とした足取りで一番後ろの席のど真ん中に腰かける。優雅に足まで組おり、その姿はかなり様になっていた。
「二人とも何してるのよ。さっさとこっちに来なさいな。私だって、単に観光に来たわけじゃないのよ? 今後の予定や、私と歩の目的なんかをしっかりと伝えるために来たんだから」
「「え?! そうだったの?!」」
「……一体何が目的て来たと思ってたのよ?」
「「皆目見当も付いてなかったよ!」」
今まで散々ぱら言いたい事だけ言って通信を切ってたくせに、ここにきてまさかの超協力的な姿勢をみせてきおった。
師匠の仲間であることは間違いないので、嘘をついたり裏切ったりといった心配はしていなかったのだが、なんだろうこの「もっと早く言ってくれよ」感は…。
「『それなら、もっと早く協力してくれよ…』とでも言いたげな顔してるわね。でも仕方ないのよ。こっちも、私を妄信してる信者がいつ聞き耳を立てに来るかわからないんだし、長く話しているとリスクが高まるもの…。さ、分かったらさっさといらっしゃい。後続がつかえてるわよ?」
俺達が外を確認すると、アリサの指摘通り行列ができてしまっていた。
沖縄での修学旅行中は、学年を問わず好き勝手にグループを作って移動して良いので、バスの数は羽田に向かう時より少なく、ほぼ満席で座るよう計画されている。
他のバスは入る人数が決まったのか、もう旅行バッグをトランクに積み込んで生徒の誘導に入っていた。
俺達は慌てて旅行バッグを係員へ渡すと、アリサの座っている一列前の席へと座った。
横に座ると距離が近すぎて話しづらいし、色気に当てられて内容に集中できそうになかったからだ。ヘタレと言いたきゃ言うがいい。童貞にはちょいと刺激が強すぎるんだよ。
座席の配置としては、最後尾の五人掛けの席の真ん中に教祖アリサ。その一列前の二人掛けの席二組に俺とノーマンが別々に座っており、ノーマンの隣には一緒の飛行機に乗れなかった埋め合わせとして篠山ねーちんが、俺の隣には莉穂姉が座るという配置になった。
更にその一列前には、“マージちゃん、マジカルゆかりん”ペアと、“滝川、由子お姉ちゃん”ペアがそれぞれ座り。その前には“網谷、天野”ペア、“関口、妹尾”ペア…といった感じで順次座っている。
先生である由子お姉ちゃんやマチュアなんかは、最前列の席に強制固定されてしまい、悔しそうにこちらを見ていた。
「さて、お友達の皆も座ったみたいだし、そろそろ話しを…って言いたいところだけど、どこから話そうかしら? やっぱり、私と歩の馴れ初めから語った方が良いわよね? あれはそう、私が二十歳になったばかりの頃。当時10歳だった歩はとても可愛くて──」
「待った! その話は確実に長くなるから禁止だ! とりあえず、次回の襲撃予定日と、儀式とやらの日程をまずは聞かせてもらいたい!」
この世界に居たままだったら、今年で94歳の師匠が10歳の頃の話とか…80年以上前の話じゃねぇか。現代に来るまでに時間が掛かりすぎるわ。
そして、教祖アリサの年齢が推定104歳という事が判明した件。見た目が20代を維持しているあたり、この女の魔力保有量は相当なものだろう。師匠に匹敵するレベルだろうから、下手すると俺よりも高い可能性すらある。
しかし、教祖アリサがガチで敵側の人間じゃなくて良かった。本気で戦う事になっていたら、確実に苦労していただろう。
「──しょうがないわね。じゃあ、楽しみはホテルまで取っておくわ」
(((((話すのは決定事項なんだ…)))))
別に精神感応魔法が飛んできたわけではないが、今確実に俺達の心の声は一致していたと思う。まったく、年寄りは話したがりな上に話が長いもんだから大変だ。
「次回の襲撃は来年の4月30日よ。儀式も同じ日だから、残りの襲撃はあと一回だけね。これで満足かしら?」
「儀式の日が4月30日……それって、ひょっとして?」
俺の言わんとした単語が分かったのだろう。アリサが大きく頷いて言葉を続けた。
「えぇ、割と有名な“ワルプルギスの夜”を学園で行わせてもらうわ。残念ながら、“魔女達が集う祝宴の夜”とはいかないでしょうけどね…」
毎度読んでいただきありがとうございます。
また、新たに拙作を評価して下さった方がいらっしゃったようで恐縮です。
楽しめる作品……を書けるかどうかは自信がありませんので、これまで通り毎週投稿できるよう頑張らせて頂きます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




