第18話 - エピローグ
前回のあらすじ。
ヒーローショーの最中に起きた爆発騒ぎは、それまでの物とは一線を画していた。
騒ぎ出す参加者性質であったが、演劇部部長の咄嗟の機転のおかげで、渉達は混乱を収束させることに成功する。
その後、最後のテロリストを無事に確保したものの、特撮好き達との約束を思い出した渉は、演劇部へと足を運ぶ準備をするのだった。
「あ。昨日の怪人コスとライダーコスの人、来てくれたんですね。…けど、すみません、さすがにサイズやデザインの差が激しいので、本日の撮影はライダー抜きで行わせて頂こうと……」
「「ですよね~」」
最後のテロリストを捕まえ、全員に催眠魔法で暗示をかけ、他に爆発物を設置していないことを確認した俺は、天野を引き連れ演劇部の部室へと足を運んだ。昨日約束していた撮影会を行うためである。
そして、部室に顔を出した俺達を見て、特撮好きなオッサンが申し訳なさそうに言った言葉が冒頭のセリフというわけだ。
まぁね、分かってはいたんですよ。そもそもスーツの形状というか、もう全体的に何もかもが異なる作りをしているから、一緒に撮ると違和感が凄いだろうって。
それに、オッサンも言ったようにウルトラマン達は軒並みビルより大きいのがデフォルトだから、サイズ差的にもアンマッチこの上ない。
一応、昨日居合わせたから天野と一緒に連れ立ってきたが、オッサン達からも了承を得られたので俺達は素直に退散することにした。
「ヘァッ!」
「……えっと、自信は無いですけど、そのウルトラマン姿はたぶん部長ですよね? 今はステージ上でもないので、普通に喋って貰えませんか? 聞き取れはしますけど、理解できないので…」
顔を向けて元気よく掛け声を挙げたウルトラマンに対し、俺は何とも言えない声色で返答する。口調の方も、素の俺が出てしまっていた。
昨日は人物特定されないよう、頑張ってキャラを変えて喋っていたのに無駄な努力になっちまったかもしれない。そんな事を考えていると、ウルトラマンが納得したように“ぽんっ”と手を打ちヘッド部分を取り外した。
「ごめんごめん、籠月グループの技術部が作ったっていうウルトラ変換機がマスクに固定されてたの忘れてたわ。えっと、今さっき言ったのは、『ごめんね。すぐに連絡しておけば無駄足を踏ませなくて済んだのに…』って言ったの」
「そんな長文喋っても、勝手に変換されるんですか?! 籠月の技術力すげぇっ!」
「なに言ってるのよ。お化け屋敷の出し物では、すっごくリアルな恐怖のプロジェクトマッピングやら、立体映像やらが楽しめるって話を聞いたわよ。だったら、音声技術方面でこれくらいできても不思議でもないでしょう? [もぅ、自分が作った魔導具の方が凄い事してるんだから、音声変換で驚いちゃだめでしょ?]」
「あ…、あぁ。そういやそうでしたね。ヒーローショーの大立ち回りとかで必死過ぎて、お化け屋敷のギミックを忘れてました[いやぁ、俺の場合は魔法陣っていう不思議パワーでごり押ししたものだから、純粋な科学技術だけで作り上げられた物って感動しちゃうんですよね]」
部長にツッコミを入れられてしまったが、確かにお化け屋敷の映像技術は“籠月グループの最新技術によるもの”という触れ込みで稼働しているのだった。
「しっかりしなさいよ、も~」
「ははは…。いやぁ、参りましたなぁ。あ、じゃあ、俺達はそろそろ帰りま~す。お疲れさまっした~」
こんな感じで、「籠月グループの技術力は世界一ィ!」なイメージをオッサン達にあからさまに植え込みつつ、俺と天野は部室からフェードアウトして行った。
「よし、期せずして最終日にフリータイムができたな。ってことで、お前さんはバトルスーツを脱いで彼女とデートしてきてやれ。俺は莉穂姉とデートしてくるから!」
「いや、まだ彼女じゃねぇし」
「ほほぅ? “まだ”ね?」
「ぐぬっ…ウゼェな、もぅ! さっさと退散しちまえ、この怪人めっ!」
「ハーッハッハッハッ…、あとで網谷にお前との嬉し恥ずかしなデートの感想をきかせても~らおっと」
「チッ、さっさとスーツ脱いでそれぞれの持ち場に行くぞ。お前だって、折角できた貴重な時間なんだろ? 俺をからかってる余裕なんて無いんじゃないか?」
そう言うと天野は部室の近くにあるトイレへと駆け込み、一瞬にしてベルトの変身を解いて戻ってきた。
演劇部の周辺では出し物が無いためか、人通りが皆無である。人の目が無いからこそできる変身解除ではあるが、一々スーツを脱がなきゃいけない俺と違って便利だなと思ってしまう。
「ま、からかうのもこれくらいにしないとな。天野のいう通り、降って沸いたデートタイムだ。お互い、学園祭デートを楽しむとしよう。そうだ、天野は先に行っちまっていいからな。俺はスーツ脱いだら別ルートで莉穂姉のクラスに向かうから」
「あいよ。んじゃ、また夕飯時にな」
こうして、俺と天野はそれぞれのデートへと繰り出すことに──
[渉には、先の爆発騒動で大破した非常階段のドアを魔法で修復してもらえるよう、理事長である由子から依頼が来ています。先にそちらを片付けてからデートに興じて下さい]
──マチュア・コピーから、ヒーローショー中に起きた爆発騒ぎの後処理依頼が舞い込んできた。
[……はいはい、後処理ってのを忘れてましたよ。了解、スーツを脱いだらすぐ向かう]
折角のウキウキ気分に水を差されてしまったが、あれだけの大爆発だったのに負傷者はおろか死人も出なかったのは本当に僥倖と言えるだろう。まぁ、テロリストの方も人目に付かないように行動していたみたいだから、必然的に人気の無い場所に爆弾を設置せざるを得なかっただけなんだろうが…。
ともあれ、俺は莉穂姉とのデート前に、一仕事する羽目になってしまった。
テロリストめ。軍に引き渡す前に、芸人がよくやる“太いゴムを咥えさせてバチィン!ってやらされるアレ”を実践してやる。あとで、寮のコンビニの裁縫コーナーにあるパジャマ用のゴムを買って来よう。
俺はそう心に決めると、大破した非常扉のもとへと急ぐのだった。
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非常口のドアを魔法で修復したあと、俺は莉穂姉とデートに興じてしばしの癒しを得。デート後はお化け屋敷の片付けを行い、寮のコンビニでゴムひもを購入してテロリストに芸人の真似事をさせた。
暗示をかけてるから、素直に言う事を聞いてくれるのなんの。おかげで、少し気分がすっとした。
その後、無事に軍へとテロリストを引き渡し、「さぁ、莉穂姉と後夜祭デートするぞ~」などと思っていたのだが──
「二人きりになんてさせないわよ」
「莉穂姉ばかりズルいと思う」
「という訳で、私達も同行します」
──莉穂姉に張り付くように同行していた由子お姉ちゃん、滝川、マチュアの三人がもれなく同行することになってしまった。
「お。BBがいつものメンバーに絡まれてら。面白そうだから、俺達は付かず離れずな距離で観察しながら後夜祭を楽しもうぜ?」
俺達の様子が面白かったのか、いつも通り篠山ねーちんとマージちゃん二人を侍らせたノーマンまで寄ってきてしまい、最早ちょっとした団体といった有様である。
「渉君、俊之君、丁度良かったわ。来週の私達の文化祭について打ち合わせしたいから、少し時間を貰ってもいいかしら?」
「あ、みんな一緒に居る。私達も混ぜてもらって良い?」
「ちょっと、久恵ちゃん。トリプルデートかもしれないんだし、邪魔しちゃ悪……くもなさそうね。折角だし、ご一緒してもいいかしら?」
塊になって移動する様が目立ったのか、網谷、天野ペア、そして妹尾を始めとした幼馴染メンツとマジカルゆかりんのグループまで合流し、もう完全にデートどころではなくなってしまった。いやまぁ、出だしから失敗してはいたのだが…。
そして、更に間が悪いというか、それとも狙ってやっていたのか、あとで連絡を取ろうと思い持ってきていた“教祖アリサ直通の通信機”から、突如として連絡が入ったのである。
『渉、俊之、さすがにもうウチの信者達を片付け終わってるわよね? ……ねぇ、聞こえてる? 聞こえてたら10秒以内に返事しなさい。じゃあ、カウント開始するわよ。じゅ~う、きゅ~う……』
「だー、もぅ! 聞こえてる! 聞こえてますよ! つか、俺の仲間が丁度揃ったところで連絡が入りましたよ! 何、見えてるの? それともニュータイプなの、アンタ?」
マチュア・コピーが操っている監視カメラの映像を、本当にハッキングしているのではないかと疑いたくなるほど確証を持った教祖アリサの言い方に、半ば戦慄を覚えながらも慌てて返事をする。
ちなみにこの通信機、見た目も構造もトランシーバーのそれなので、本来ならハードウェアの仕様的に双方向通信はできない。しかし、教祖アリサとやり取りする際は、内部に刻まれた魔法陣を介して音声による魔力通信を行っているので、お互いに魔力を流しながら会話している限り双方向通信が可能になり、通信距離の制限もほぼ無くなるのだ。
ホント、これがトランシーバーの構造を再現した魔法陣じゃなくて良かった。もしそうだったら、向こうがカウントしている間、どうやっても俺達側の反応を届ける事が出来なかったもの…。
『やっぱり聞こえてたわね。まずは、雑兵20名の確保お疲れ様。…とは言っても、あなた達なら苦も無く捕まえられただろうけど』
「最初の二日間は確かに楽だったよ。被害も無く、アンタが渡したであろう粘土細工をC-4と思い込んで仕掛けてたし、動きが分かり易かったからな。でも、今日は違ったんだよ! 合計三回も…あ、いや一回はただの事故だったから実際は二回か。とにかく、その雑兵の内の一人がやたら厄介で、なかなか尻尾を見せないわ、花火の火薬を集めて作った大火力の爆弾を爆発させるわで大変だったんだぞ!」
「そーだ、そーだ! BBの言う通りだぞ! というわけで、謝罪と賠償を要求する! 手始めに、アンタの自撮りエロ画像をだな──」
「ノーマン、ちょっと黙って」
ノーマンが珍しくしゃしゃり出てきたと思ったら、とんでもない事を口走りやがった。
あとで、透明化ベルトを使って女生徒のパンツを覗き見たていた件と併せて説教上乗せしてやる。
「「俊之、年増の写真より私達の方が──」」
「篠山ねーちんとマージちゃんも、ちょっと黙ろうか? 話進まないから」
『な、何よ。あなた達、私の身体に興味があるの?! でも、この容姿を保っているのは歩のためなんだから、そんな厭らしい写真なんて見せな──』
「俺は莉穂姉のエロ画像以外興味ねぇよ! 勝手にノーマンと一括りにすんじゃねぇ!」
俺の言葉を聞いた莉穂姉が、横で小さくガッツポーズをする。…うん、可愛い。
ただその代り、由子お姉ちゃん達は悔しそうに苦悶の表情を浮かべ、妹尾は引き気味、関口やマジカルゆかりんなんかは冷めた目で俺を見ていたが…。いいんだよ、莉穂姉の好感度が上がってくれれば、それ以外の評価なんて些細な問題だ。
『……あれ、ちょっと待って。さっき、「花火の火薬で作った爆弾を爆発させたのが居た」みたいな事を言ったかしら?』
「ずいぶん遅い反応でビックリだが…。そうだよ、居たんだよ一人厄介なのがな。おかげで、こちとら急遽想定外のアドリブをすることになって大変だったの何の…」
『アドリブって何の話しよ?』
「……いや、何でもない。こっちの話。で、アンタのその反応、何か心当たりでもあるんだな?」
『…えぇ、まぁ、有ると言えば有るわね…』
教祖アリサの話を纏めると、学園祭に潜入させるにあたり、周りから怪しまれないようテロリスト全員に急きょ日本語の練習をさせたらしい。
その際、ある程度日本語を理解できるようになった連中には、師匠が教祖アリサに“暇つぶし用”として渡していた日本のアニメやドラマ作品などを貸し出し、更なる勉強をさせていたというのだ。その作品のどれかに、花火を利用した爆弾なり、粉じん爆発なりが出てくるものがあった気がする…とのこと。
『歩ったら、「これらは布教用だから、是非見てくれ。気が向いたらでいいから。な?」って言って、私が「要らない」と言っても持って帰らなかったのよね…。で、今回の日本語の勉強教材として、バリエーションが多かったから、ビデオやレーザーディスク、DVDなんかを皆に貸し出して自習させてたのよ。……まさか、フィクションを実行して成功させる信者が居たなんて…』
「よっぽど、アンタの好感度を上げようと必死な奴だったんだろうな」
「つまり、そう思わせるほどの美魔女って事だろ? さぁ、エロ画像早ぅ」
「二人とも、その浮気性なデコ助野郎を押さえといて」
「「ラジャー」」
まったくノーマンのヤツ、隙あらばアホな事を言いおって…。
「え~っと、爆弾の件はイレギュラーだった事は理解した。それで、今日は何の用で連絡したんだ? 今まで、一度たりともそっちから連絡をよこさなかったくせに…」
『そうね、忘れるところだったわ。来月のクリスマス時期、学園恒例の沖縄への修学旅行があったわよね?』
「やっぱ、そっちは学園の全予定を把握してるみたいだな。で? まさか、修学旅行中に襲うってことは無いだろうな? そっちが送り込んでくるテロリスト…アンタからすれば信者だっけ? そいつらの無念の意思を蓄えるための地下魔法陣は、学園にしかないんだから無駄な事をしないでくれよ?」
何しろ、この学園の修学旅行は一味違って、高等部、大学含め学生は全員沖縄旅行ができるのだ。
そう。つまり、何も予定を立てなくても、莉穂姉と一緒に年末にリゾート地へ旅行ができるのである。間違ったって邪魔されたくはない。
尚、担任教師は確実に同行するのだが、その他の学園関係者は数名以外同行する事は許されず、残りは学園の留守を任されることになる。そのため、例年くじ引きによる激戦が行われたり、裏取引で隔年ごとにローテーションを約束し合ったり…などのあれやこれやが行われているそうだ。
『やぁね、そんな無駄なことはしないわよ。単に、私もあなた達と一緒に行動させてもらいたいから、「バスの座席やらホテルの手配やら、宜しくね」って言いたくて連絡したの』
「はぁ~、良かった。じゃあ、テロリストの襲撃に気を張る必要は……えっ?!」
「「「「「えっ?!」」」」」
俺の疑問の声と、周りで聞いていた皆の声が重なる。
今、この女、しれっととんでもない事言わなかったか?
『あぁ、心配しないで。私は那覇空港で合流させてもらう予定だから。もう私の分の飛行機のチケットは用意しているから大丈夫よ。それじゃ、さっきの件、よろしくね~』
──ブツッ。
切れる通信、訪れる一瞬の静寂。そして、怒涛の驚愕が俺達を襲う。
「「「「「な、なんだってー!!?」」」」」
「あ…? アイエエエェ~? 同行? 教祖アリサ、同行ナンデェ~?」
「落ち着け、BB。まずは素数を数えて落ち着くんだ。そして、良く考えろ。俺達が何をしなくちゃいけないのかを…」
「ノ、ノーマン…。あぁ、そうだったな。混乱したって何も始まらない。まずは、俺達に準備できるものを考えていこう」
「うむ。じゃあ、まずは女湯をバレないように盗撮する魔方を開発してくれ」
「よし。ノーマン、そこに正座!」
こうして、ノーマンを説教するうちに俺はだんだんと普段の調子を取り戻すことができ、由子お姉ちゃん達とも話し合って急遽対策会議を行う事となった。
教祖アリサが俺達と行動を共にするという真意はわからないものの、今まで彼女が有言実行してきたのは事実である。教祖アリサが一人で合流すると言ったのであれば、本当に俺達の前に姿を現すことになるのだろう。
俺達は、万が一の際の対応策、そして教祖アリサへ真意を聞くための質問などを考え付く限り列挙して行き、徹夜をする羽目になるのであった。
▲▽△▼△▽▲
「さぁて、これでバカンスの準備は整えてもらえるわね♪ ここのところ、信者達の相手ばかりで気が滅入ってたし、良い気分転換になりそうだわ♪ ん~、楽しみ!」
遠い異国の地下深くの一室にて、渉達を混乱の渦に巻き込んだ張本人“教祖アリサ”は、一月後の沖縄旅行を考え気分を高揚させるのであった。
彼女が、“信者の説得”という骨の折れる作業を思い出すのは、それから数時間経ってからである。
毎度読んでいただきありがとうございます。
やはり投稿が一日遅れました。申し訳ありません。
次回はまた金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




