第17話 - 学園祭三日目 ~午後の部・テロ騒動の終焉~
前回のあらすじ。
トイレで起きた爆発騒ぎは、テロ行為ではなくただの粗悪品バッテリーの暴発事故であった。
その後、計6人のテロリストを捕える事に成功した渉達だったが、残っていた最後の1人がヒーローショーの最中に大きな爆発騒動を起こすのだった。
時は少し戻り、ヒーローショー開始前の一幕──
俺はステージ裏の控えスペースで頭を抱えていた。
その最大の原因は、本日潜入しているテロリスト。その最後の一人が見つかっていないという事だ。
ヒーローショーの最中に、爆発騒ぎが起きたら面倒だよなぁ。どうか無事に済みますように…。
ガチャリ──
「俺、参上! ……って、昨日に引き続き、今日も元気無いな、BB? 風邪でも引いたか?」
モモタロスな感じのセリフと共に、怪人スーツを着たノーマンが控えスペースに現れる。そして、俺を見るや否や、さらっと恐ろしい事を口走りやがった。
「お前の神力精製量には及ばないが、俺だって人類史上断トツの神力を持っている人造人間の一人だぞ? おかげで、エイズだろうと何だろうと、現時点で医学界が認識している病気には一切罹らないレベルの身体なんだ。そんな俺が病気になるとか、人類終了のお知らせ過ぎるだろ。お前しか生き残りがいなくなるわ。
……はぁ。単に、テロリストの最後の一人が見つからないから、頭を抱えてただけだよ」
俺の返事を聞いたノーマンは、どこか納得したように「うん、うん」と頷くと徐に怪人スーツのチャックをずり下ろし始めた。
そして、下半身部分だけ脱ぎ終わりズボン姿になると、静かに…しかしハッキリとこう言い放った。
「やらないか?」
「そいやっ!」
気付いた時には、自分が腰かけていたパイプ椅子をノーマン目掛けてぶん投げていた。ノーマンがアホな事を言ったら、とりあえず物理的にツッコミを入れるという事を繰り返していたからこそできてしまった動きである。これも一種の生活習慣病と言えるのではないだろうか。
パイプ椅子がノーマンにぶち当たり、“ゴワシャァッ!”という凄まじい音が控えスペース内に木霊する。ここは防音処置とかしてないから、ステージ最前列に居る観客には少し聞こえてしまったかもしれない。……まぁ、聞こえても問題は無いが。
「ヒュ~、ビックリしたぜ。俺じゃなかったら股間が大変な事になってた」
「チィッ! やはり神力製リダクションアーマーの展開速度には負けちまうか…」
パイプ椅子の方はどうしようもないほど変形してしまったが、ぶち当たったはずのノーマンはケロリとしていやがる。まったくもって出鱈目な存在だ。
「ハッハッハッ、そう簡単にクリーンヒットできると思うなよ。…ま、それはともかく、俺のおバカな言動にツッコミ入れる程度には元気みたいだな。良かった良かった」
どうやら、先ほどの発言は俺の調子を見るためのノーマンなりの冗談だったようだ。怪人スーツのせいで表情も見えないし、声のトーンも普段通りだったから紛らわしいったらありゃしない。
「お前が言うと、冗談なのか本気なのか分からんから勘弁してくれ…。そんな事を言ってると、またぞろ黒薔薇三連星が湧き出して……そういや、テロリストの捕縛に気を取られて忘れていたが、あいつらにしては静かだな。いつもなら、虎視眈々と俺らの会話に耳を傾けてるイメージがあるってのに…」
「BL本の布教活動に忙しいんじゃねぇの? 外部の仲間を増やす絶好の機会なんだし」
「あいつら、内容をソフトにしたものを配るって約束してくれたけど大丈夫だろうか。お化け屋敷の初期ギミックがエグかったから、どこまで抑え込んだ表現の物を配布しているか不安だ…」
「まったく、さっきまで『テロリストが捕まえられてねぇ』と不安がってたと思ったら、今度はBL本の中身で頭を抱えてやがる。
ほら、BB。ここで悩んでたって、何も始まらないし解決もしねぇぞ。そろそろ時間なんだし、ヒーローショーを無事に終わらせる事を考えようや」
いつの間にか怪人スーツの下半身を穿き終えたノーマンが、背面につけるC-4爆弾を片手に準備を促してくる。こういった思い切りの良さは羨ましい限りだ。
俺は素早く怪人スーツを装着し、使い捨て背面パックにC-4を詰めて装備すると、お互いのスーツの安全確認をした。
スーツ内に刻まれている魔法陣に魔力を通し、不発になるような陣が無い事をチェックした俺達は、最後のヒーローショーへと向かう。懸念していた事態が起きてしまうという事も知らずに…。
▲▽△▼△▽▲
昨日と同様に、マネキンが祭壇から消えるまでのやり取りを終えた俺達の前に現れたヒーロー達。その姿は何と──
「デャッ!」
「デュワッチッ!」
──銀と赤のツートンカラーでお馴染みのウルトラシリーズである。銀色部分が多いか、赤色部分が多いかで種族的な違いはあるものの、地球のために戦ってくれる遠い宇宙から来た巨大ヒーロー達だ。
昨日までは東映シリーズだったくせに、今日になって突然の円谷プロか。想定外だったなぁ。ただ一人、アーマー部分の多い天野のバトルスーツ姿が浮くったらない。
それに何より、コスプレしている連中が女性という事もあって、一つ問題点が露呈していた。
「いや~。昨日のメタルヒーローはコスチューム的な特徴から誤魔化せていたが、今日のソレは無理があるだろう。…なぁ、相棒?」
「あぁ。俺も兄弟ほど詳しくはないが、デザインでセブン、A、タロウくらいの違いは分かるぜ。ただ、軒並みウルトラの母化しちゃってるよな。“どこが”とは言わんが」
確かにノーマンは“言ってはいない”。ただ、胸部をガン見してるのでモロバレではある。
「「「「「ジャッ! ヘャァッ!」」」」」
俺とノーマンのセクハラめいたアドリブに、これまたアドリブで講義の声を上げる演劇部員達。
ウルトラマンの掛け声でお馴染みの、「ジャ」とも「デャ」とも聞き取れる声を見事に再現している所は凄いと思うが、ぶっちゃけ何を言っているのかはサッパリである。
「あ~…。えっと、『その嫌らしい視線を止めるんだ! この卑劣な怪人共めっ!』だそうだ」
俺達が微妙に首を傾げていたのを見かねたのか、唯一日本語を話せるポジションに居る天野が通訳をし始めた。
演劇部員達のアドリブに対し、よくそれっぽい翻訳を入れられるなと感心していたら、どうも魔力通信で訳を伝えられていたらしい。なんて想定外な使われ方だろうか。
…とまぁ、そんな感じでウルトラ兄弟達の掛け声を天野が訳しながら戦うこと数分。そろそろ盛大にやられようかというタイミングでそれは起こった。
チュドォォォォンッ!──
「「「「「!!!?」」」」」
突然の爆発に、動きが止まる俺達。
そんな俺達に気付くことなく、にわかに騒ぎ出す観客達。
ステージの前だけではなく、学園内全体で騒ぎが広まっていくのが周囲の喧騒から分かる。
まさか、起きて欲しくない方向に事が進んでしまうとは…。テロリストめ、やってくれたな。
[伊藤君、私達が驚いている場合じゃないわ。まずは、ステージ周辺だけでも落ち着きを取り戻させるのよ]
[部長さん? …いやしかし、落ち着かせるってどうやって?]
[今の爆発を、ショーの余興として用意したサプライズって事にするのよ。即興劇は任せて、私に考えがあるわ]
[わ、分かりました]
歯噛みしかできなかった俺に、演劇部部長さんが魔力通信で解決策を提示してくれた。
何と頼もしいお方だろうか。マンガのキャラじゃなくても、「ステキ! 抱いて!」って言いたくなっちまうイケメンっぷりである。
[私達はコスプレの関係上しゃべるわけにはいかないから、セリフに関しては天野君と伊藤君、野間君ペアでお願い。やり取りの内容は──]
ステージ上で急遽打ち合わせする形となってしまったが、魔力通信を用いてのやり取りだったので、実際の時間は2~3秒程度しか経っていない。
細かい言い回しなどは俺達に丸投げする形となったが、部長のおかげでしっかりと劇の方向性は定まった。あとは、ここ数ヵ月練習してきた俺達の演技力次第である。
俺は意を決して両手を広げると、声高らかに即興劇を開始した。
「ハーッハッハッハッ! ヒーローの諸君! 我々とてこの二日間、無様に爆死していたわけではないぞ! 見たか、今の爆発を! ……ちょっと予定より早かったせいで、ビビって動きを止めてしまったが…これと同じものを、学園のあちこちに設置してやったわ! 我々を倒しても、無事ではすまい! ハーッハッハッハッ! 死なば諸共よ!」
「くそぅっ! 何と卑劣な! だが、正義のヒーローを舐めないでもらおう! お前達を倒し、すぐに爆弾を探し出して解除してみせる!」
「フッ…やらせはせん。やらせはせんぞぉ! 行くぞ、兄弟! 我らの意地を見せてやるっ!」
俺達のセリフがちゃんと耳に届いたのか、ステージ前の観客達の喧騒が落ち着きを取り戻し、そこかしこから安堵の呟きが聞こえてくる。
予定よりも大立ち回りの時間が長くなったが、通常通り劇を続けているように見せかけたおかげか、ステージを中心に他の参加者達も落ち着きを取り戻し始めていた。
「くっ! 怪人め、なかなかやる! ウルトラの皆さん、そろそろ決着を着けましょう! 各々の必殺技を叩き込むのです!」
「「「「「ヘァッ!」」」」」
天野の声に合わせ、胸の前で腕を直角にクロスさせたり、両手の人差し指と中指を伸ばした状態の拳を額の中心付近に持って行ったりと、それぞれの必殺技のポーズを決めだす演劇部員の面々。しかも、スーツのギミックとして用意してあったのか、必殺技を打ち出す辺りがそれっぽく光を放っている。…なんてハイスペックなもんを作っているんだ、うちの家庭部は…。
それはそうと、皆が必殺技を放っているので俺達も食らったフリをしてしまおう。
「「ぐわぁぁ! しまったぁぁ!」」
「これでトドメだ! 謎ライダー、キーック!」
ウルトラ兄弟達の必殺技を食らいつつ、最終的に天野の飛び蹴りで吹き飛び爆発する俺達。とりあえず、まずは第一段階終了と言えるだろう。
続いて、第二段階として網谷に魔力通信で事前連絡を取り、ステージに上がった後のセリフの打ち合わせを開始。
[網谷、さっきの爆発騒ぎの件なんだけど──]
[大丈夫、薫から大体の事は聞いてるわ。渉君達の用意した演出という話を、登場した後のMCに入れておけばいいのよね?]
[──話が早くて助かる。すまないが、あとは宜しく頼んだ]
[任せて]
続いて、監視カメラの確認をしているであろうマチュア・コピーに魔力通信を繋ぎ、現在のテロリストの動向を調べてもらう。
[マチュア。爆発による被害と場所、それとテロリストの動向を教えてくれ]
[爆発による被害は、高等部校舎3Fの体育館側非常階段の扉が一枚大破した程度、爆心地も同地点となります。この爆発による人的被害はありません。
テロリストの動向ですが、爆発の直前にトイレへ入ったのち透明化ベルトを発動。爆発を確認したあとは、人混みを避けながらゆっくりと入場ゲートへと向かっています。体育祭の時と同じく、レーダー情報を俊之と渉に常時表示致しますので、素早い確保をお願いします]
マチュアが宣言した通り、以前にも見たことのあるレーダー画面が視界の端に映り込む。魔力通信で直接脳内に送られている映像なので、実際に顔の前に浮いてるわけではないから一般の参加者にもバレない安心設計だ。
[サンキュー、マチュア。…そんじゃ、ノーマン。本日最後の仕上げと行こうか]
[あいよ、BB]
こうして、俺とノーマンは最後のテロリストの捕縛へと向かった。
▲▽△▼△▽▲
警備員棟と校庭との間には、何箇所か垣根で囲まれた芝生の空間が存在する。その中で、最も入場ゲートに近く、ゲートの状況を確認しやすい垣根の中に最後の一人は隠れていた。
「まったく、手の込んだ嫌がらせをしてくれたもんだぜ。なぁ? テロリストさんよぉ?」
「あぁ。まったくもって、ノーマンの言う通りだ。だが、一つありがたいことがある。それは、ここに来て透明化ベルトの使用を解除してくれたことだ。おかげで魔法が掛けられる」
「な…?! き、貴様ら、いつの間に…?! い、いや、テロリストだの透明化ベルトだの、一体何の話をしているのかな?」
ノーマンと俺の存在に驚いたテロリストが、苦しい誤魔化しを述べる。
「ったく、この期に及んでしらばっくれやがって。往生際の悪い…。BB、やっておしまい」
「言われずとも。…催眠魔法!」
「……ッ!!?」
「さぁ、大人しく透明化ベルトを起動して、俺達の後を付いてくるんだ」
「たしまし知承」
こうして、俺達を散々ぱら引っ掻き回したテロリストは、あっけなく御用となるのであった。
これにて一件落ちゃ……そういや、今日も演劇部で撮影大会が行われるんだった。やっぱ、俺が天野を連れて行った方がいいよなぁ。
はぁ…、テロ騒動は収束できたけど、もう一頑張りしなきゃならんのか…。
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です…が、所用があるので土曜日更新になるかもしれません。
そんな拙作ですが、お暇でしたら宜しくお願いします。




