第16話 - 学園祭三日目 ~昼の部・テロかと思ったらただの事故~
前回のあらすじ。
学園祭の最終日に日潜入してきたテロリストは、今までの連中とは一味も二味も違っていた。
単独行動の危険性を認識して人数の嵩増しを行い、C-4に見せかけた粘土を使うことなく自前の爆弾を起爆させるという行動に出たのだ。
何とか一人目のテロリストを捕縛した渉達だったが、その直後、第二の爆発騒動が起きてしまうのだった。
気絶から目覚めていないテロリストを檻にぶち込んだ俺達は、寮1Fの玄関ホールを抜けて外に出た。
ちなみに、ノーマンは怪人スーツ姿が目立つので、透明化ベルトで姿を消している。
爆発のあった高等部校舎は、寮の南側──玄関から見るとほぼ真正面の位置にある。とは言っても、ざっと400mは離れているので、近くにあるように見えて微妙に遠かったりする。
校舎と寮の中間地点辺りには、“中央広場の大樹”と“網谷ライブ用のステージ”があり、観客用スペースには既に多くの網谷ファンが集まっているのか、俺達の居る場所までざわついた声が聞こえてきていた。
「あちゃあ…、少し黒煙が上がってるな。トイレの個室に配置していた予備トイレットペーパー辺りが、いくつか燃えちまったかな…もったいない。
それにしても、ステージ前にはかなりの人数が居るみたいだな。こりゃ、俺とマジカルゆかりんで本腰入れて広範囲の催眠魔法を掛ける必要がありそうだ」
[そうか? あの様子なら、ボヤ騒ぎってことでゴリ押しすればイケそうな気もするが? どうせ、「私達の身近で、爆弾が爆発するかも」なんて考えて生活してる人間なんざ、まずもって居ないんだからよ]
辟易した感じで呟いた俺に、ノーマンが魔力通信で力技な誤魔化し方法を提案をしてくる。
確かに、この国で爆発騒ぎがあるとしたら“ガス漏れによる引火”か、“電子レンジに生卵を入れてチンしちまった”か、“花火工場で事故が起きた”か…くらいなものだろう。間違っても、「今の爆発は…ハッ! 爆弾!?」といった事を考える人なんて、中二病患者でもない限り居ないハズである。
ノーマンの案も、それっぽい理由付きで放送すれば、ボヤ騒ぎとして納得させられる事だろう。
ちなみに、ノーマンが魔力通信で俺に話しかけた理由だが、周りから姿が見えていない状態という点を考慮してではない。透明化ベルトの特性の一つ、“内部の物理的な音が外にほとんど漏れない”という特性ためである。
透明化ベルトは、使用中に飛翔魔法を発動させる事が出来るあたり、透明化膜の“内部から外部に対しての魔力的干渉”はできるものの、“外部から内部への魔力的干渉”はほぼ受け流されてしまう。
ところが、物理的な干渉に関しては、この逆の現象が起きるのだ。つまり、光だの音だのは“外部から内部へと割とすんなり伝わる”くせに、“内部から外部へはほとんど伝わらない”のである。
物理的な塊が透明化膜に干渉した場合は、“外から内に入る”のも、“内から外に出る”のも、少し力が要るという特性を持つが…。
考えてみれば、一昨日の夕方に網谷ファンに見つかりそうになった時、莉穂姉と一緒に息を止めて極力音を立てないようにしていたが、あれって意味は無かったんだよな。つい反射的に黙っちゃっただけで…。
いかん。透明化ベルトの特性を考察して、現実逃避してる場合じゃない。さっさと爆発の事後処理をしにいかんと…。
「誤魔化す方法については、今は置いとこう。まずは怪我人の有無や、現場の状況確認が先だ。火が燃え広がると大変だし」
[おうよ]
こうして、高等部校舎の一角から出ている煙を見上げる人々をかき分け、俺とノーマンは現場へと向かったのだが──
「──まさか、ノーマンのセリフがフラグだったとは…。コレ、お前が仕込み人…って事ぁないよな?」
[失敬な。いくら俺だって、こんな人様で溢れかえるような状況で、性質の悪いドッキリなんて企てねぇよ。…それとBB、俺の方に目線を送りたかったんだろうが、俺が居るの“逆方向”なんだ。テヘペロ♪]
横に居るであろうノーマンに向かいジト目で呟くと、心外とでも言いたげな口調の魔力通信が飛んできた。最後、からかい気味に「テヘペロ♪」されたのが、恥ずかしいやらムカツクやらで引っ叩きたくなる。
野次馬達から、可哀想な人を見るような視線をもらう事になりそうなので絶対にやらないけど。
何にせよ、爆弾の件を誤魔化す必要なく、起きた事をそのまま放送で説明すれば良くなったので、懸念事項が減ったのは喜ばしい限りである。このあと、もし爆発騒ぎが起きたとしても、バッテリーが火を吹いた事にしてやろう。
まぁ、それはともかくとして、トイレの惨状についてだ。
マチュア・コピーからの報告通り小規模な爆発は起きたものの、テロリストの手作り爆弾によるものではなかった。
では、一体何が爆発したのか。答えは“携帯用のバッテリー”である。20代前半の男性参加者が使っていた、海外製の超安物粗悪品バッテリーが破裂したというのが騒動の原因となったわけだ。
この男性、昨日からチケットの参加枠に余りがあるグループが居ないか、下田駅周辺で声を掛けまくっていた人物の一人だったらしい。そして本日、めげずにグループ探しをしていた所、「エクソダス、するかい?」とチケットを持っていた人物に声を掛けられ、ホイホイと付いて行ってしまったそうな。
[それ何てキングゲイナー?]
「ノーマン、今の話を聞いて第一声がそれか? 普通、『よくそんな怪しい話にホイホイと付いて行ったな』ってのが真っ先に浮かばねぇか?」
[いやぁ、懐かしかったんでつい…。あ、なんか突然スクライド観たくなってきた]
「何でそうなるんだよっ! でも、クソッ。そんな事聞いたら、何だか俺まで観たくなってきちまった。ちょっと魔法でアルターを再現して、衝撃のファーストブリットをぶちかます練習してみっかな…」
[あ、BBズルい。俺にもその魔法を教えろ下さい]
「…渉君? さっきから何か呟いてるみたいだけど、どうかしたの? あ…もしかして、この人に何か質問したい事でもあった?」
「へ? あぁ…いや別に…。何でもないんで、美沙都さんは気にせず事情聴取を続けて下さい」
俺とノーマンが小声でアホなやり取りをしていると、警備員の美沙都さんが男性との話しを中断してこちらに声を掛けてきた。本気でどうでもいい事しか言ってないので、慌てて事情聴取の続きをお願いしてもらうことにする。
さて、今更だが現在までの経緯を説明しよう。
人波をかき分けて爆発現場であるトイレに辿り着いた俺達は、下半身をチラ見せさせながらパニックを起こしている男性と、それを取り押さえている美沙都さんの姿を目撃する事となった。
美沙都さんに話を聞くと、校舎内を巡回中、現場となったトイレの前を横切った直後に爆発が起きたらしい。
男性用トイレではあったが、緊急を要すると考え中へと入る美沙都さん。しかし、そんな彼女の目に飛び込んできたものは、ズボンをずり下げたままの男性が、パニックを起こしながら個室トイレから飛び出てくる瞬間であった。
幸い、“男性の象徴がモロ見え”という状況は上着のおかげで軽減されていたが、そんなチラリズムを醸し出す男性を廊下に出すわけにもいかず、慌てて取り押さえたのだそうだ。
パッと見たところ火の手は上がっていなかったので、まずは落ち着かせてズボンを穿かせ事情聴取するつもりだったらしいのだが、男性のパニック状態が収まる事はなかった。魔力通信を使って応援を呼びはしたものの、爆発に驚いた参加者達がパニックを起こさないよう宥める為に人手がかかり、すぐに応援が寄越せないという連絡を受けてしまう。
そんなこんなで、美沙都さんが四苦八苦していた所へ俺達が到着。透明化状態のノーマンには、爆発のあったトイレの個室を見てもらい。俺は美沙都さんと協力し、男性に催眠魔法を使って落ち着かせつつズボンを穿かせ、今に至るという訳である。
「う~ん…。事情聴取の続きって言っても、もう聞くべきことは聞き終えた感じなのよね。一応、事故現場の写真も撮ったけど、彼のカバンとその中身がいくつか燃えた程度で学園側の損害はないし。警察沙汰にするほどの事でもないかしらね。
ただ、上長の判断も伺いたいので、一緒に警備員棟まで来て頂きます。よろしいですね?」
「……はい。従います……」
「ご協力に感謝します。……それじゃあ、渉君。もう少ししたら何人か警備員が来ると思うから、状況説明と現場処理の引き継ぎをお願いしてもいいかしら?」
「え? 俺が伝えるんですか?」
「うん。渉君なら皆からの信頼も篤いし、横で聞いてたから内容説明もできるでしょ? だから、お願いね」
そう言うと、美沙都さんは良い笑顔で手を振り、男性を連れて行ってしまった。
[ところで、BB。さっきの兄ちゃん、『よ、用を足しながらソシャゲープレイしてたら、バッテリーが爆発しました』ってキョドりながら言ってたが、本当は個室で何やろうとしてたんだ? パニクって出てきた割に、便器の中は綺麗なもんだったぞ?]
引き継ぎ相手が到着するまで手持無沙汰になっちまったなと思っていたら、ノーマンから魔力通信が飛んできた。
「え? 精神感応魔法で探んなかったのか──って、あぁそうか。一方的に魔法を飛ばせても、返ってくる魔力情報が遮断されるから相手の考えが見聞きできないのか。地味に不便だな」
[そうなんだよ。階段の踊り場に寝転がって、女生徒のおパンツを仰ぎ見るには凄く便利な魔導具ではあるんだがな]
「ノーマン。オレサマ、アトデ、オマエ、セッキョウスル」
[俺を捕まえる事ができたらな]
こいつめ、さっきから“キングゲイナー”といい“スクライド”といい、10年くらい前の懐かしいタイトルばかり言いおる。
「ったく、余裕ぶっこきやがって…。あとで覚えてろよ。…で、あの男性がやってた事だが、ぶっちゃけると自家発電だな。難しく言うとマスターベーション。
どうにも、現役の美人な女子校生や女子大生を間近で見過ぎたせいで、『もぅ我慢できない!』ってなっちまったらしい。そんで、個室に入ってお気に入りのエロサイトでオカズを探してたら、安物バッテリーが先にイッちまった…これが今回の顛末」
[うっわ。はた迷惑な上に凄く下らない!]
「お前も人の事言えないからな?」
[ふぅむ。しかしそうなると、さっきの兄ちゃんはテロリストではなく、ただの助平な一般人って事か。二人目ゲットなるかと思ってたんだがなぁ]
俺のツッコミをスルーし、ノーマンが残念そうに言う。確かにテロリストじゃなかったから少し肩透かし感があったが、収穫がゼロだったわけではない。
「フッフッフ…。ノーマン、その点に関しては嘆く必要はないと思うぜ? 少なくとも、テロリストらしき人物5人は既にマークできているのだからな」
[え? マジで? ナンデ?]
俺は何も、美沙都さんにドナドナされた男性が、トイレの個室でナニをしていたかを調べるために精神感応魔法を発動させていたのではない。男性を誘ったという“チケットを持った人物”の顔や全体像を詳しく見るために魔法を使っていたのだ。
そして、その成果は思った以上に大きいものとなった。なんと、ドナドナされた男性及び、その周辺に居た網谷ファンらしき人達に対し、チケットをチラつかせて話しかけている人物の容姿が5人も記憶に残っていたのだ。しかも、既に俺達が捕えたテロリスト以外の5人なのである。
「──ってわけで、当該人物の情報を魔力通信でマチュア・コピーに報告し、現在その5人は監視カメラでマーク済みなのさ。
まぁ、十中八九テロリストで間違いないだろうが、普通にチケットの制限人数に余裕のあった人がたまたま誘っただけという線もあり得るからな。一応、確保する前に、マークされた人間の記憶を俺が精神感応魔法でチェックするつもりだ」
[おぉ。それならもう、爆発騒ぎを起こされる前に確保できそうだな]
「だといいんだけど…。あと一人だけ、姿が判明してないヤツがいるからなぁ…」
[あ~…。そうか、今日潜入してくるテロリストは7人だったっけな。さっき言った5人が全員テロリストだったとしても、あと1人居るってわけか]
そう、ノーマンの言う通り、少なくともあと1人は自力で探し出すしかない状況にある。
テロリストの記憶を調べれば姿が分かりそうなものだと思われるだろうが、残念なことに認識阻害の魔導具を発動させている者同士だと“本来の姿”でしか認識できず、周りからどのような姿に見えているかが分からないのだ。そのおかげで、面倒な事に最後の1人が見つからないのである。
「ごめんなさい、大隈さん。人の整理誘導に手間取っちゃって──あら? 伊藤君だけ?」
7人目のテロリストをどうしたものかと唸っていると、警備員のお姉さんがトイレの中に入ってきた。
美沙都さんの引き継ぎ担当という話だったので、てっとり早く状況説明するために精神感応魔法を使い、映像から何から色々と情報を送り込む。大量の情報を一気に送られたお姉さんは、初めこそ驚いていたものの、すぐに現状を理解してくれたようだ。
「精神感応魔法って、こんな使い方もできたのね。ちょっと驚いたけど、凄く分かり易かったわ。後片付けは私の方でやっておくから、伊藤君はテロリストの疑いのある人物を調べてきて」
「ありがとうございます。では、失礼します!」
「頑張ってね。怪我人を出すことなく、無事に学園祭を乗り切りましょう!」
お姉さんから許可をもらえたので、俺とノーマンは早速テロリストと思しき5人を調べに行くことにした。そして、一人一人調べた結果、全員クロと判明。即座に演劇部員と連携を取り、ノーマンが掻っ攫うというルーチンワークに移る事と相成った。
これで、捕えたテロリスト6人。「残りの1人も、さっさと行動してくれないだろうか」という俺達の願いも虚しく時間だけが過ぎてゆき、とうとうヒーローショー開催の時間となってしまった。
そして、ヒーローショーが行われる中、“俺達が自爆する時の演出並み”の大爆発が高等部校舎内で起きてしまうのだった。
爆発騒ぎが起きたら、バッテリーが火を吹いた事にしてしまおう。そう考えていた俺の目論みが、見事に台無しになった瞬間である。
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




