第10話 - トロイア作戦
くっ…12:00ぴったりに予約投稿してやろうと思ってたのに、間に合わなかった…無念。
訳:遅れてしまって申し訳ありません。
2017/4/8 16:00追記
今回からアラビア語部分を省略させて頂いています。アラビア語にルビ振るのがすんごく大変だったから。
それと、追記ついでに本文も微妙に表現を付け加えたりしてます。本筋はまったく変わってません。
─ 2012年4月20日(金) 09:54 ─
カラカラカラカラ──
高等部校舎と教職員棟を繋ぐ屋根付きの開放廊下を、俺を乗せた大型の台車が通る。むろん、それを押しているのはAK-47を右手に構えた元・気絶テロリストである。台車の持ち手を左手で握り、AK-47を俺の背中に押し付けるような状態で押してもらっているのだ。
俺の状態はと言うと、元・気絶テロリストを拘束していた方法と同様に、両手を後ろに回し、親指同士をケーブル纏め用のプラスチックワイヤーで固定している状態である。
俺たちに気づいた西側ドアの見張りの一人が、さっそくこちらに近づいてくる。
「(?だ何はついそ。いお)」[人間兵器は居ないはずじゃなかったのか?]
「(なてっ思とうよし告報へ様祖教で由経ーダーリ、ずえありと 。た来てれ連で車台たいてれさ置放、らかいなか聞をとこう言 。んらか分はくし詳も俺)」
「(ぞんらか分かるきでもれそ、がだ。かとこういうそ)」[俺らだってとばっちりが嫌だから、外で見張りしてるくらいだからな…]
見張りの話によると、各教室に向かったテロリストたちが教室を制圧した頃合いで、リーダーが教祖様に制圧完了の報告をしたとのことだった。
しかし、待てど暮らせど何の通達も来ない。初めの1時間ほどはリーダーも大人しく待っていたらしいのだが、ここ30~40分ほどで焦り始めたらしく「教祖様のために生贄を捧げた方が良いのではないか? 試しに、誰か一人殺した方が良いのではないか?」と言い出したそうだ。
幸い「人間兵器が来た時、既に人質に死人が出ていた場合、逆上される可能性があります。 犠牲者が出る事も厭わず行動されるような事態になってしまえば、我々が全滅しかねません。ここは耐えて待つべきです」と、冷静な牽制役の一人が諌めてくれたらしい。
ありがたい話ではあったが、たぶん殺そうとしてもできなかっただろうな。教員は物理攻撃に対しての防御用魔法もいくつか使いこなせるし、銃自体に例の魔法陣が仕掛けられていた場合は殺傷能力も無いに等しい。
その後、リーダーの精神状態が芳しくないのか「私は見放されたのか?」などと独り言が止まらず、部屋をうろうろし始めたというわけだ。見ていられなくなった牽制役以外の4人が、他にやれることも無かったため外に出て見張りを始めた…という流れらしい。
ノーマンが侵入して来た時点では、まだ見張りがいなかったのか、通りで何にも起きなかったわけだ。いやまぁ、見かけたところで教祖様の命令遵守な連中に、どこまで各自判断の行動ができていたかは謎だが。
しかしなるほど、確かにそんな精神状態では教祖様に連絡させてもらえるかは怪しいところだ。だが、俺たちとしては、中に入ってさっさと解放作戦を完遂させたいので、元・気絶テロリストにごねる演技をしてもらおう。
[「しかし、このまま何もしないわけにもいかない」とかなんとか言って、中に入れてもらえ]
「(いたみてい聞けだく聞、にし試 。いなかいもにけわいなしも何、しかし)」
目出し帽装備の連中なので表情は分からないが、「仕方ないな」という雰囲気を出しながらも中に入れてもらうことができた。
俺たちの会話を聞いていた他の見張りたちも、気になったようで一斉に室内に入ってくる。よし、ここまで上手くいくとは思わなかったが僥倖だ。一気に片を付ける準備ができた。
「(……てれさ放見は私、りはや !?っだんる居が男故何)」[嗚呼、予定外の事ばかり起きている。何故この様な事に……私が何をしたというのです!教祖アリサ様!]
テロリストのリーダーが半泣き状態で喚き、捕えられていた教員たちが俺の姿を見て実力行使に出ようと殺気立つ。実に生徒思いの良い先生ばかりだ。でも大丈夫、わざわざお手を煩わせるまでもございません。
「先生方、心配不要です。これらは全て、計画の内ですので…防御壁魔法魔法陣展開! やれっ!ノーマン!」
「もう二人目を落としたところだぜっ!」
室内に入る前から構築していた魔法式を、魔力を込めた言葉をトリガーとして発動させ、空中に魔方陣として展開する。室内の幅いっぱいに広がった帯状の魔法陣が教員たちと牽制役の間に現れ、天井から床にかけて長方形の形状に広がり、帯の内側に防弾ガラスのような透明で強固なシールドを生成する。
大きさが大きさだけに、映画館のスクリーンのようだ……透明だから裏がスケスケだし、枠が光り輝いているので、これで映画を投影しても全く集中できないだろうが。
俺が魔方陣を展開するということ自体が合図となってはいたが、念のためノーマンに声で合図を送ったところ、既に西側ドアの見張り2名が瞬殺されているところだった。実際は、顎を回転式拳銃のバレル部分で殴打し、的確に気絶させているだけである。ノーマンの卓越した業前によるものだ。
目の前で急に現れたノーマンに対し、俺と元・気絶テロリスト以外は驚きを隠せていないようだ。実に良い反応である。わざわざベルトの機能を確認して、侵入方法を考えるのに少し頭をひねった甲斐があった。
さて、今までノーマンがどこに居たのか種明かしをしよう。
答えは“俺の背後”…正確には、台車の持ち手、俺、AK-47に囲まれた手狭な空間に、ベルトの効果で隠れていたのだ。大型の台車だったためにできた芸当である。「わざわざそんな手間をかけず、普通に歩いて侵入すれば良いのでは?」と思うだろう。
しかし、このベルトの機能を発揮した状態で移動した場合、隠密行動を行う上で致命的な欠陥が出るのだ。音がうるさいのである。とは言っても、雑踏の中で移動していれば気づかれることはない程度の音量だ。だが、静まり返った学園内で動くにはあまりにも向いていなかった。
音の発生原因だが、“光学迷彩膜(俺命名)”が動く際、地面に存在する埃や微粒子を擦ってしまうからだと考えられる。膜自体は見えないが、物理的に存在しているために起こる現象である。イメージとしては、物凄く柔軟性に富んでいて頑丈なシャボン玉が地面を擦っている感じだろうか。
そして、その音というのが“台所の黒い悪魔”こと“ゴ○○リ”の移動音にそっくりなのだ。教室内で試した時の、クラスメイトたちの嫌そうな顔と言ったらなかった。なんでも美味しくかけ算できそうな黒薔薇三連星ですら、一瞬身を強張らせたくらいである。まぁ、その直後「でも、ガチムチな少年が“G”に蹂躙され、後ろの穴に無理やり入られて悶えながらも快楽を感じる場面というのは実に美味しいシチュエーション…」などと逞しい妄想の世界にシフトしていたが。…見た目は清楚な大和撫子、妄想時の表情は扇情的で「ドキッ」としてしまう事もしばしば……だが腐女子だ。
他にも光学迷彩膜の欠点はあるのだが、とりあえず今は割愛させて頂こう。まずは教職員棟の解放を行いたい。
魔法陣は一度刻んでしまえば、あとは展開時に注入した蓄積魔力が尽きる或いは、意図的に消去作業を行わない限り持続する。消去する際は、効果を消せるだけの知識や魔力がある人間であれば、術者以外でも構わないので、本来は放置しない方が良い。だが、このテロリストたちが相手であれば防御壁魔法魔法陣は暫く放置でも良いだろう。
皆がノーマンに注目している間に、俺はすぐ近くにいた牽制役の一人に催眠魔法で暗示をかける。相手の集中力が欠けていたのが原因か、はたまた今日一日だけで俺の技量が上がったのかは分からないが、10秒程度で催眠状態にすることに成功した。早速、次のターゲットを決めようと──
「BB、終わった?」
「……うん。ようやく一人目がな」
──したが、既にノーマンが他の連中を気絶させてから数秒経っていたようだ。改めてノーマンとの戦力差にため息を吐きつつ、空中に展開していた魔方陣を消去する。ぶっきらぼうにノーマンへ背中を向け、親指を固定しているワイヤーを見せつける。
「じゃ、どっかその辺にカッターがあるだろうから、さくっと切ってもらえるかな、コレ」
「あいよ」
「では先生方、現在の状況を軽く…本当に軽く説明しますね──」
ノーマンに指の拘束を外してもらいながら、教員たちに現状を報告を行う。ついでに、気絶させた連中を拘束できそうな物はないかと尋ねたところ、古新聞を縛ったりするときに便利な“スズ○ン○ープ”があったので、数人で分担しながら念入りにグルグル巻きにしていった。
「──とまぁ、詳細や質問については大講堂をお借りして改めてさせて頂きます。 理事長には僕の方から話しますので、先生方にはお手数ですが高等部の教室に残っている生徒や、まだ寮から出ることができていない大学課程の生徒にその旨通達頂けますようお願いします」
「教師としても一魔法使いとしてもにわかには信じられない話ばかりだけど、この手際を見ちゃうと何でもありに感じてしまうわ。 渉君たちは、このあとすぐに上の理事長室へ行くの?」
俺のお願いを聞いた教員の内、我が2-Bの担任である“仁科 恭子”先生が代表として返答してきた。教員の中でも若手となる26歳だが、この学園のOGでもある恭子先生は、学生時代からしっかりした委員長タイプとして有名だったため、先生方からの信頼は厚い。年齢も学生に近く、俺の担任という事もあって率先して話しかけてくれたのだろう。
恋人が居るのか居ないのかなど、この学園に在籍している教員たちには恐ろしくて問いかける気にもなれない話だが、右手の薬指や左手の薬指に指輪をしていないところをみると、未婚で恋人無しなんだと思う。勿論、いい歳をした教員も在籍しているので、何名か既婚者はいる。“いい齢”と言っても、最高で41歳なのだが。
そういや以前、「このクラスの子は良いわよね、渉君という出会いがあるから。……重度の義姉好きだけど。 私も、街へ買い物に行ったときにナンパはされるけど、そういう軽薄な男は嫌いだし…」とぼやきながら、俺にチラチラと何かを訴える視線を送ってきた事があったな。あれは間違いなく、「渉君なら、まじめで頼り甲斐がありそうな男性を知ってそう」と期待の入った眼だった気がする。
確かに、恭子先生は飾り気はないものの、落ち着いた感じの清楚な美人である。ナンパ野郎が声をかけるのも当然の話だ。控えめな茶髪で、長さは肩にかかるかかからないかのボブカットなので、髪型はあまりいじれないかもしれないが素材は一級品である。余程派手な格好をしなければ、イメージを崩すことなく更に光ること間違いなしだ。
赤いアンダーフレームにレンズを入れたタイプの伊達メガネをしているので、同じ伊達メガネ仲間として手を貸すのも吝かではない。…俺の場合はレンズ無しなので完全な仲間というわけでもないが、是非とも幸せになって頂きたいものである。
GWに研究所に帰った時、マチュアの話し相手探しついでに20代中盤の独身男性所員に、先生の写真を見せてみるか。
そんな恭子先生から予定を聞かれたので、首を横に振りつつ警備員棟を解放しに行く旨を伝える。
「いいえ。まず先に警備員棟を解放させてきます。 早くしないと、教職員室が解放された事が監視カメラを通して敵にばれてしまいますか…ら……あぁああああ!しまった!」
「どうしたBB、いきなりでけぇ声出して」
「監視カメラだよ! 考えてみれば、学園敷地内や敷地周辺だけでなく、各教室にもそれぞれ一台はせっちされているんだ。 最初に俺がテロリストをぶっ倒した時、マチュアがタイミングよく通信してきたのもソレがあったからこそだったのに…」
まずい、完全に「テロリストをどうやって倒していくか」しか考えてなかったせいで、こっちの行動が見られているという考えを失念していた。
警備員棟のモニタールームには、常に4名の警備員がローテーションで常駐している。一人につき8台のモニターが割り振られ、学園内に設置されたカメラの映像が数秒毎に切り替わり広範囲の監視を行っているのだ。とはいえ、かなり膨大な範囲を少人数で見ることになるので、大まかに東西南北の区画に分け、各担当区域のカメラ映像のみが切り替わるようにしている。
カメラの台数に対し、モニターの数が足りていないため、最大で3分程度の空白が発生する。しかし、それでもランダムでカメラ映像が切り替わっているので、確実に3分の空白が生まれるとは限らない。そもそも、ランダムで切り替わっている以上、余程の幸運の持ち主でもなければカメラに映らないという事はほぼ不可能だ。
既に俺とノーマンが教室を解放して回ってから1時間は経過している。高等部校舎の一部と教職員棟、大学校舎の一部は南区域カメラの担当のはずだ。この区域は7割ほどが室内カメラの映像なので、どう少なく見積もっても高等部教室内の様子が数回は映し出されている事だろう。
「…くそっ、すっかり忘れていた。 すまねぇ、ノーマン。手伝ってもらったのに、俺が間抜けだったばかりに…」
「悲観する必要はありませんよ、渉。 私が監視カメラの映像を操れないとでもお思いですか?」
俺の腕時計から、マチュアの得意げな声が室内に響き渡る。左耳の後ろに貼り付けていた魔力通信機は、もしもの時のために2-Bの教卓に連絡用として置いてきている。いざという時のスペア用に、腕時計にも魔力通信用の仕掛けをしていたのを忘れていた。
脳までの距離が遠くなるので精神感応魔法モードでの会話が難しく、スピーカーモードでしか話せないので隠密作業では向いていないのが欠点と言える。でも、腕時計で会話をするのは、ヒーローものの主人公みたいで「カッコイイな」と思っており、地味に気に入っている。
恭子先生をはじめ教員たちが驚いているのが分かるが、その辺は後回しだ。
「…マチュア? それって…まさか?」
「はい。モニターに映る映像は、渉たちが行動を開始する前の映像と差し替えています。 教室内のカメラを映す頻度自体も少なくし、違和感を感じられないように操作をしています。それでも、あくまで時間を稼いでいるだけですので、早めに対処してもらえるとこちらも助かります」
「さっすが、俺の頼れる相棒にして娘!」
「ですから、そこは妻と──」
「すみません、先生方。先ほどの件、宜しくお願いします! 僕らはさっさと警備員棟を解放して、その足で大講堂に行きますので! あ。念のため、スズ○ン○ープを3巻もらって行きますね。 ノーマン、あとお前もついでに来い」
「おうよ」「(知承)」
展開の速さについていけなくなった教員たちを置いてきぼりにし、俺とノーマン、元・気絶テロリストの3人は最後の砦へと移動を開始する。
「──もう!意地悪っ!」
腕時計から、マチュアの声が軽いドップラー効果入りで学園内に木霊していた。何も叫ばなくたっていいだろうに…思った以上にボリュームが大きいから帰ったら調整だな。
アクセス頂いている方が、10名近くいらっしゃるようでありがたい限り。
でもごめんなさい、明日も投稿できるかどうかわからないです。
投稿ペースは安定しませんが、全7章構成で大まかなプロットや設定自体はまとまっているので、エタることはないです。
楽しんで頂けるかどうかは別として…。




