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冬の童話祭2017『季節巡る国の童話』

四季綴りの女王たち~Storyteller of the Seasons~

作者: Win-CL

『季節の女王』に選ばれた四人の女王は交代で塔に住み、その季節を綴ります。


 選ばれ方は誰も知りません。

 ただいきなり選ばれて、塔へと連れてこられるのです。


 性格も、年齢も。てんでばらばら。

 文字が書けること、言葉を話せることが最低条件です。


 塔へと連れてこられた女王は、ひたすら季節を綴る毎日。

 扉を開けて外に出ようにも、不思議な力で出られません。


 誰かが代わりに書くこともできず。

 彼女たち自身の言葉で、紡いでいく必要があるのです。


 その季節の始まりから終わりまで。

 書き終わらないと、その季節はずっと続くことになります。


 春が終われば、夏が来て。

 夏が終われば、秋が来る。

 秋が終われば、冬が来るし。

 冬が終われば、また春がやって来る。


 そうやって、四つの季節を繰り返しながら時は巡っていきます。


 女王によって、季節の長さはバラバラです。

 夏が短い時もあれば、秋の長い時もあります。


 ですが、一つの季節がずっと続くなんてことは――

 いままで一度も無かったのでした。






 春の女王は、幼い少女でした。


 生まれて十年かそこらだった彼女にとっては、世界のなにもかもが新鮮で。

 自分が見てきたままの春を、勢いに任せて綴っていたのでした。


 そのこともあって、その年の春は波乱万丈。


 嵐が起きたり、大雨が降ったり。

 それでも、それが止むと花が咲き乱れ、虹がでました。


 良い意味で若さに溢れる春の訪れに、国民たちは新しい風を感じるのでした。




 夏の女王は、活発な貴族の娘で。


 自分の好きだった夏を、これでもかと綴り続けました。


 おかげで、いつも太陽がカンカン照りです。

 国の端にある浜辺にはいつも人で溢れかえっていました。


 水不足などの問題も起きることもありましたが――

 その時は、思いっきりやってしまえと台風を呼びます。


 何もかもが勢い任せでしたが、それも夏ならではと国民たちは笑います。




 秋の女王は妙齢の女性です。

 ほっそりとした眼鏡の奥で、冷静に物事を見つめます。


 女王に選ばれたときも落ち着きを払って。

 静かに筆をとり、順調に季節を綴っていきました。


 木の葉を黄や赤に染め、木の実や果実を実らせ。

 冬のために蓄えを生みださせます。


 自らの知識を活かして、国民たちの望んでいるものを的確に、適量に与えます。

 厳しさと、優しさを持って秋を送らせるのでした。






 そして、既に三つの季節を越え――

 順番が訪れたのは、ごく普通の町娘。


 いままで小説を書こうと思ったことすらありません。

 季節についてもあまり真剣に考えたこともなく、冬は一番嫌いな季節でした。


 小説の書き方が分からないだけではなく、何を書けばいいのかすらも分からない。

 塔の中へと連れられて、最初の数行を書いたところで手が止まります。


「うーん……? 冬って……何を書けばいいの?」


 ――冬は寒く、厳しいもの。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 書いては消しての繰り返しで、あっという間に数日が経っていました。


 自分がいままで冬を過ごしていた時にあった、厳しい体験。

 それを何とか書いて進めていましたが、途中途中で手が止まってしまいます。


 気が付けば――


 いつもならば春が来てもおかしくない。

 そんな時期にまで、時は迫っていたのでした。






 そこで困り果ててしまったのは、その国の王様でした。


 なにせ暖かい春が来ず、冷たく厳しい冬がずっと続いているのです。

 辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。


 王様でさえ、塔の中で行われていることに手を出すことはできません。

 どうすれば女王に冬を綴りきってもらえるのかも分かりません。


 どうしようもなくなった王様は、国中にお触れを出したのでした。


―――――――


 冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を廻らせることを妨げてはならない。


―――――――


 多くの人が、褒美を求め塔へと向かいましたが――

 焦っていた冬の女王の耳には、どんな言葉も届きませんでした。






 冬の女王は塔の中で一人、孤独に震えていました。


「みんな口々に『ああすればいい』『こうすればいい』って言うけれど……。

 それじゃあダメなのよ。皆が思うようには私は書けないし。

 皆が言った通りに書いても、それでは私が綴ったことにはならない」


 窓の外に見える大きな木も、雪を被って真っ白になって。

 一年中葉っぱを付けた、素晴らしい木だったのに。


 私に春の女王のような無邪気さがあれば。

 私に夏の女王のような情熱があれば。

 私が秋の女王のように博識であれば。


 この冬は、もっと素晴らしいものになっていた筈なのに。


「私のせいで――」


 重たく圧し掛かってくる責任感に、冬の女王は目を瞑ります。耳を塞ぎます。

 塔の扉を閉めきって。窓も全て閉めきって。誰も入れない様にしてしまいます。


 皆がこぞって冬の女王に季節を綴ってもらおうにも。

 何をしても逆効果。もうお手上げ。八方塞がりです。


「これでは一向に春が来ないではないか!」


 そんな困り果てた国民たちや王様のもとにやってきたのは――

 たった一人の青年でした。


 この青年は、いろいろな国を旅していました。

 王国に訪れた際、王様のお触れを耳にしてこうして城までやってきたのです。


 かといって、最初から冬を終わらせるために来たわけではありません。

 青年は、まずは王様から事情を聞くことにしました。


「冬の女王は――‟冬”を綴り切らないと外に出ることができないのだ」

「‟冬”を、ですか」


 青年は他の季節の女王にも話を聞きます。


「季節の女王は、この国に季節をもたらすために選ばれたのよ」

「私たちはそれぞれの季節を綴るために、神様に女王の位を与えられたの」

「綴り終わらないと塔の外には出られないし、その季節が終わることもないわ」


「……だから、この国では冬が続いてるのか」


 辺りは既に雪に覆われ、真っ白になっています。

 青年が吐いた息も、あまりの寒さに雪のように真っ白です。


「彼女は冬があまり好きでないのよ……。何を書けばいいのか分からないの」

「冬は真っ白で、なにも無いからって。みんなが辛い思いをするから、それでもなんとかしなくちゃって」

「今となっては、窓も締め切って。そんなことをしたら、もっと辛いだけなのに」


 女王たちは皆、冬の女王のことを心配していたのでした。


 青年はそんな人々の様子を見て。ここに来るまでの街の様子を見て。


 もしかしたら、冬を終わらせられる。

 冬の女王が‟冬”を綴ることが出来る。


 そんな案を思いついたのでした。


「――みなさん。僕にいい考えがある。……協力してくれるかな?」






 机についたまま、頭を抱えて。

 いったい、どれくらいの時間が経ったのでしょう。


 少しでも冬を感じ取ろうと、塔の中の気温も外と同じにしています。

 塔の不思議な力で凍死することはありませんが、ただただ辛いだけ。


 それでも、冬の女王は止めることができないのです。


 外の国民たちに辛い思いをさせて――

 一人だけこうして座っていることに耐えられないのです。


「いったいどうすればいいのよ……」


 その瞳は涙に滲んで。

 それでも、机の上に置かれた用紙は濡れることなく。


 なんで自分なんかが選ばれてしまったのだろう。

 自分さえいなければ、こんなことにならなかったのに。


 そう呟いては、自分自身を追い詰めていきます。


 そんな時――


 ドンドンと窓を叩く音がしたのです。


「あぁ――」


 痺れを切らした国民達が、とうとう実力行使に出たのかな。

 そんな悲観的な想像しか浮かんできません。


  でも、私はこの塔から出ることはできない。

  もちろん、他の人が塔に入ることもできない。


 こんなボロボロになっている私を見て――

 彼らは一体どんな罵詈雑言を浴びせかけてくるのだろう。


 そう覚悟を決めて、窓へと近づいていくと。


「冬の女王、窓の外を見て! 凄いんだから!」


 とても弾んだ声が聞こえてきたのでした。


 ――外は吹雪のはずなのに。

 まだ幼いはずの、春の女王の声が。


 他にも、夏の女王、秋の女王。王様や国民みんなの声がします。

 塔の中にいる自分とは違って、この寒さの中にずっといると危ないのに。

 

「一体なにを――」考えているんだと。


 一言言うつもりで、窓を開けた冬の女王でしたが――


 外の光景を見て、最後まで言うことが出来なかったのでした。






「なにを――なに……? これ……」


 そこにあったのは、真っ白な大木――ではありませんでした。


 赤や青。緑や黄色と。

 大木は色とりどりに輝く光の球を纏っていました。


 依然として降り注ぐ雪の白が、光によって淡く照らされています。


 ――知らない。

 こんな光景、私は知らない。


 その光景は、何よりも美しく。見ている人を不思議な世界へと誘います。

 視界いっぱいに広がる光の幻想に、冬の女王はため息を漏らしていました。


「こんなもの……見たことない……」


 こんな冬を――私は知らない。


「よその国では、冬になったらこうやって街を照らすのですって」

「こんなに綺麗な季節、私は見たことないよ!」


 その空間一帯が、まるで別の世界へと移ったかのように。

 吹雪の中でも、全員が笑顔で大木を囲んでいるのです。


「この世界には、私たちの知らない冬がたくさんあるんだよね。

 私の春だって同じ。まだまだ知らないことばかり。

 どんな楽しみ方をしたっていいんだよ? 私たちは季節の女王なんだから!」


 いつの間にか、他の季節の女王たちは窓のそばに駆け寄って。

 冬の女王を励ましているのでした。


「たった今、あなたが感じたその感動を――」

「ここにいる人たちだけじゃない。この国中のみんなに届くように――」

「――難しいことなんて考えないで、ね?」


「……うん――!」






 それからの冬の女王の筆は、驚くほど速く進みました。


 あの時の大木のように、国中が幻想的な空間へと変わり。

 国民全員、毎日がお祭り気分。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。


 気が付けば、あっという間に冬も終わり。

 国中が新しい春を迎える準備を始めていました。


 あれだけ辛い思いをしたはずの冬だったのに――

 終わるころには、もう少し続いても良かったと言う人がいる始末。


 今年の冬こそはと意気込む人々でしたが、来年は別の女王が選ばれます。

 もちろん、春の女王も去年とは違う女性が選ばれました。


 今年の春の女王に選ばれた女性は、どんな春を綴るのでしょうか。


 去年はあまりに天候が荒れ過ぎていたから、ぽかぽかと暖かい季節?

 それとも、楽しくて気に入ったから自分の時にももう一度?


 今年の夏は? 今年の秋は? 今年の冬は?


 国民たちは新しく巡ってくる季節に、たくさんの想いを馳せます。


「王様、褒美の件ですが――私に一軒の家をください。

 ここまで移り変わる季節を楽しめる国なんて、他にはありません」


「……いいのかね? どんな季節になるのかは、その時の女王の気分次第だぞ?」

「いいんですよ。どんな季節であっても――」


 王様が確認するように尋ねると――

 青年はゆっくりと横に首を振り、目を輝かせて言うのでした。


「それが何よりも素晴らしいことに、変わりはないのですから」






 おしまい

ここまで読んでくださったみなさん!

そして原案のみぺこさんに感謝です!


『小説家になろう』らしい童話になっていたでしょうか

スランプになったときは、外から刺激を受けるのが一番ですよね

いろんな作家がいるなろうで、誰か一人の心にでも響けばいいなと思います


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