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最後に笑う者とピエロたち

作者: 安斎 薫

お金持ちの老婆で身勝手な佐羽野志乃の世話をする事になった鈴木陽子は介護施設から派遣されるも

決して喜んでではなく今の自分が食べる為で志乃の財産を見た時から彼女の人生は変わって行く。

 その家では年老いた女性が今は一人で退屈な毎日と付き合いのない近所との寂しい暮らしをしていた。

子供たちは皆、結婚し以前は正月や祝日連休にお盆と毎年のように訪れ楽しませてくれたが今は孫の手

も掛からなくなるや自分が楽しむように休日は海外やテーマパークとかに行き楽しんでいるようだ。

今の彼女には時より来る介護施設の20代前半の女性と話す事が唯一の楽しみで彼女には何でも話せた。

別に体が不自由な訳でもなかったが近所との付き合いもない老婆は勧められるままに持て余した資産で

退屈を凌ぐ一つの手段に施設を利用しているだけだった。

 そんなある日のことであった、老婆はいつも指名の介護施設での陽子さんに奇妙なことを言い始めた。

「実はね、昨日かな。息子から電話で会社で大きな不始末をやらかしお金が必要だと言い困ってか

 私に頼ってるんじゃよ」

「!?」

そんな話しは鈴木陽子にしてみれば関係のない事だが詐欺の疑いがあるも彼女は静かに頷き答えた。

「そうですか、それは大変ですね」

ええ、と老婆は答え内容を伝え始めた。何でも企業との契約で自分が先走りし相手に融資の約束をして

しまうも上司や会社側は検討した結果に相手企業への融資は出来ないと判断したとかで・・。

「もしも、その企業に融資しないと破産し家族は露頭に迷い主は大袈裟に一家心中せにゃならんと

 言うとるそうで何でも自宅の工場で部品を作っとる会社らしいけど息子の明夫が昔から世話になり

 今の自分があるのも彼のお陰だと泣きそうな声で言うんですよ」

その息子の明夫は銀行家で老婆の長男のくせに親の面倒を見る訳でもなく同じ銀行の上司の娘と結婚し

今は地元から離れ支店を任され近くに家も立て家族で暮らしている。

その広い部屋でゆったりと座り肩掛けをし語る老婆の肩を後ろから揉みながら陽子は普通に答えた。

「それは大変なことですね」

素っ気なくだが彼女にとって老婆と今までの自分の生活基準が違い過ぎたのである。

その鈴木陽子は幼い頃に父を亡くし母子家庭で暮らし母は自分が成人すると直ぐに世を去り今は親戚の

付き合いもない天涯孤独にし自分が食べて行くだけの仕事をと最近に介護資格を取得するも思った程に

収入も良くなく誰からも愛されることなくアパートで一人で暮らしていた。

それから老婆は肩はもう良いから今度は腰をと長い大きなソファーで横になり言われるままに陽子は

老婆の腰にタオルを置き軽く揉み始めた。

気持ちが良さそうな顔で退屈な老婆は話しの続きをし始めた、いつもの事だが老婆は話し相手と自分の

言う通りに従う者だけを選び従事させていた。

その為か今までに老婆が言うには施設では陽子で3人目だと他にもお手伝いさんを雇った事もあったが

直ぐに辞めさせたと車の運転手なども居たが今じゃ欲しいものがあったら電話で済み銀行も来てくれ

役所の者でさえ電話一つで来るからねと言い自慢なのか老婆の孤独を主張した。

それは陽子には良く分かる気がした、と言うのも老婆が話し始めたら一方的で俗に言う自己中心的な

女性で他者の意見を聞こうとしない。

それにお金に当て付け何でも出来る自分に逆らえる者など居ないとさえ考えているフシさえ感じられ

るも陽子は逆に関わりたくないのといつも話しを聞く仕草で合わせ会話を勧める。

「それで奥さまは、息子さんにどうされるんですか」

それもあたかも少し心配そうな顔と声で語り掛ける陽子であったが本意ではない。

そう答え会話に入ってくれる陽子だから気に入られ指名されるのである彼女には生い立ちや夫に息子

と娘の話しもしたし後は天国に行くだけよ、なんて話す老婆に「まだお若いですわ」と微笑み賭けて

答える陽子を老婆の佐羽野志乃は何度も入れ替わった者から好んで残した者であった。

「そうだねえ、3千万円となると大金だろう。それに何度かに分けて振り込んで欲しいと言うんで

 私は面倒だから家に取りに来いと言ってやったよ」

「!?」

何度かに振り込め?。それはまさしく流行りの詐欺だと思う陽子は親切な振りで話し仕掛けた。

「奥さま、それって詐欺ではありませんか。一度、警察に相談なさった方が良いと思いますよ」

すると老婆は得意そうに笑顔を混ぜて言った。

「大丈夫だよ、本当に必要なら私の所に取りに来いとハッキリ言ってやったんだから振り込みだの

 面倒な事は一切しないよ。どうしても必要で欲しければ実家に取りに来れば3千万だろうと1億

 だろうと用意すると言ってやったら黙って切ったよ」

それを聞き陽子はまさしく詐欺だったに違いないと思うがこの家に1億もの大金がと思い何気なく

気まぐれに尋ねた。

「それなら詐欺でも家には取りに来れないですね。しかし奥さまも分かっていたのですね、自宅

 に1億でもなんて言えば相手もさすがに諦めるし有りはしないと思うでしょうから・・」

すると佐羽野志乃は腰を揉む陽子の顔を振り向きながらが得意げな顔で言った。

「ないと思うかい、あるよ。今の金の価値はまた上がったからね」

「!!?」

まさか金の延べ棒がと知識のあった陽子には直ぐに分り数本もの数なら1億の価値は上回ると判断

するも自分には関係のない事なのだと普通に少し驚きを加え答えた。

「そ、そうなんですか。奥さまは金を所持されていたのですか」

すると志乃は自慢気に聞きもしないのに語り始めるのだった。

「ええ、そうよ。金だけじゃないわよ、ダイヤにルビーサファイアなど宝石もよ。なんたって

 銀行は信用ならない、何よ、あのバブルが崩壊ってよく知らないけれど預けたお金が金利と

 違うだけでなく倒産合併で失い掛けて以来は息子の言う通りに金は世界価値で変わらないを

 信じてなのよ」

その銀行家の息子になりすまし詐欺を装った者がいたのか本当に息子が困り親を頼ったのかどうか

陽子には関係のない事の筈であった。

それから陽子は時間通りの介護という名の老婆の退屈を凌ぐ時間を済ませると帰り支度になり志乃は

玄関まで見送りながら今日もありがとうと言ってお金の入った封筒をさり気なく手渡す最初は陽子も

何度も断っていたが今では10ヵ月が過ぎると週に3度も会う仲で断れず当たり前化し貰っていた。

中には3千円が入っていて介護施設にも内緒であり陽子には少ない給与からすれば多少の残業代とし

今まで老婆の佐羽野志乃の相手に困っていた施設からすれば当然の報酬と受け取るようにした。

それに志乃も陽子を気に入り退屈な人生の毎日を少しでも癒してくれる彼女を失いたくなかったから

にしお金を包み手渡すようになっていた。

それを受け取り陽子は夕暮れの街なかを歩き帰る彼女は大金を持つ佐羽野志乃に自分の母を比べると

世の中はなんて惨めで不公平なものなんだろうと思った。

その日は気を紛らすつもりで陽子は街なかのクラブに駆け込み酒で絡み付く思いを消そうと飲み明か

してアパートには帰れずにホテルで過ごす事になってしまった。 

その日はホテルで目覚め慌てて会社に出勤するも上司はあの変わり者の婆さんの世話をする建前に

陽子は叱られる事はなく遅刻も許された。

そんな上司が昼休みが終わる頃に陽子の前に来て言った。

「すまないが鈴木くん、今日は施設での介護はもういい。実は昨日の佐羽野志乃さんの所に行って

 欲しいんだ。なんでも君に頼みがあるそうでな、また、ご指名なんだ。頼むよ」

「あ、はい。分かりました」

机でコンビニで買ったサンドイッチを食べながら陽子は同僚からは気の毒そうな視線と妬まれてか

変わり者の患者にして変わり者の陽子をと鼻で笑う者もいた。

 それから陽子は上司に言われた通りに佐羽野志乃の家に行き玄関のベルを鳴らすとスピーカーは

遠慮は入らないから入っておいでよと声がした。

そして中に入ると志乃はテーブルの上に置かれた三百万円の札束を前に陽子にメモを手渡しながら

内容を話し始めた。

「実はね、午前中に明夫がね。電話で今は三百万円で良いから振り込むようにと言って来てね」

「私は銀行の機械はほらATMかい?」

「良く操作が分からないんだよ、だからね、陽子さんにお願いしようと思って他の者だと信用が

 出来ないから、わざわざ施設に電話したんだ。銀行に頼んだら本人じゃなきゃ扱えないってね

 特に相手先が不鮮明な場合は保証問題だのどうかと言い必死で断るから明夫もね自分の名前が

 務める銀行に知れたら大変だとかで偽名らしいんだよ」

「もちろん、お礼はするよ」

それを聞きながら陽子は詐欺なのではと下から目線で心配そうに話すも志乃はフンッと鼻で笑い

それならそれで三百万ぐらいと言いながらだがあれは息子の声だよ、と自信有り気に答えた。

それから志乃は居間の奥にある隠し金庫に向い開けて中の宝石と言った通りに金の延べ棒があり

明日にもまた三百万欲しいらしいから次いでに同じ口座に明日に振り込んで欲しいと陽子に手渡し

中に入った現金を取り出した。

その金庫はテレビや映画で見るような大きな金庫で人が一人は入れるくらいのスペースだったし

中の金と宝石を見た陽子は金額にすれば二億以上はあるんじゃないかと思った。

 その日は佐羽野志乃に言われた通りに銀行に行き書かれた口座に三百万円を振り込み明細を手に

して志乃の所に帰り報告すると彼女は明細を受け取りながら嬉しそうにお金の入った封筒を陽子に

くれた中には一万円札がありトイレで確認しながら今日は終わるも明日もかと思うと少し陽子は

本当に詐欺だったらどうしようと考えるようになった。

それで自分が責任扱いされ嫌々で行っている今の仕事を一生に続ける事にでもなったらと不安し

ていた時であった。

帰り前にトイレから出ると志乃が電話で喧嘩腰に話していた。

「・・何だよ、今更にお前は嫁いだ身だよ。それも私や父さんの反対を押し切って父さんの

 商売敵の息子と結婚するなんてお陰で一時は経営が傾いたって嘆いて父さんは言ってたよ」

「・・・・」

「それを何とか立て直し死んだ父さんは許すと言っていたけど私は許さないよ。父さんがね

 早く死んだのはお前の所為だよ。旦那の会社が倒産したのも罰だよ、遺言書だってお前に

 渡すような金は一円足りともないね」

そう言って一方的に電話を切ってしまった志乃の前で陽子は聞いてはいたが娘の明子からだと

会話の内容から分かった。

この世話をする10ヵ月間に家族構成や旦那さんや息子に娘の話しは何度も聞かされ普通の者なら

嫌気が差し辞めてしまうのだろうが陽子は本気で聞いてはなく聞き流し同じ言葉に同じ返事をし

この老婆の退屈な時間を共に過ごしていた。

その娘とは反対を押し切って結婚した長女の明子でもう何年も前から旦那とは別れたが父の遺言

で遺産があるらしく裁判に持ち込もうとしたくとも志乃には優れた弁護士が彼女を寄せ付けず

こうして明子は直接に母である志乃に時より電話をし金を要求していた。

それに父親が生きている時は孫を連れ来ていたが旦那が来ないで挨拶もない時点で志乃は快く

受け入られずにいた。

 そこへ毎日の食事を持ってやって来る委託業者の者がやって来て志乃は玄関で愛想良くなり

前は男の配達員であったがこれも彼女の気分でお気に入りの女性の伊藤みゆきという陽子とは

同じ年齢くらいであろう。

その娘と話し込み出し直ぐには食事を受け取らず笑顔で自己中心な会話に夢中である。

そして再び電話が鳴ると志乃は先程の自分の娘であろうと無視し出ようとせずにいると帰ろう

とする陽子に向かって鳴り続ける電話に出るように言った。

「すまないけれど、陽子さん。あの電話に出ておくれよ、ああ、うるさんじゃ敵わないわ

 どうせ明子だから話すことはないと言って切っていいわよ」

「あっ、はぁ」

そう一方的に言うと委託業者の女性と座り込んで話し出している。

まったく身勝手は今に始まった訳ではないが陽子は志乃からお金を受け取っている恐らく玄関の

伊藤もいつも直ぐに帰れず時には食事の支度などで上がり帰りにはお金を貰っているのだろう。

そのまま鳴り止まない電話の受話器を手に取り陽子はタメ息交じりで答えた。

「はい、佐羽野でございます」

「ああぁ、やっと出た?」

「あれ、母さんじゃないの?」

「!?」

しばらくが一瞬なのだがお互いには相手が誰なのかを想像し判断するのに手間取った。

しかし相手の男性は落ち着いて話しをし始めた。

「どうして、母さん以外の人が家にいるの?」

「母さんに何かあったら真っ先に僕に連絡が来るように施設には頼んである筈なのに・・」

それで我が社の介護施設はこの傲慢で身勝手な夫人と契約を切れずに何人もの介護者を何人も

送り付けて自分にお箸が回って来たという訳だと陽子は思った瞬間に答えた。

「あ、明夫さん?」

「ん、ええ・・、はい。姉さんなの?」

電話の向こうで明夫が少し興奮した感じで慌てて勝手に話し始めた。

「そんな姉さん、酷いよ。親父の遺産は母さんから僕に来るはずだったのに弁護士の奴等が

 親父の遺言だと会社危機管理費とかになると言って来ないんだぜ、俺も一昨年に離婚して

 独立したけど事業に失敗で金が必要なんだよ」

「だいたい姉さんだって親父が死んでからは実家には帰ってないって聞いたぜ、それを今に

 なって許してもらい遺産目当てなんだろう。母さんには離婚した事を伝えてないから実家

 に帰ってないけど俺が後を継がなかった事で快くは思ってないのは承知だけど・・」

「今のお袋が親父の会社から毎月に唸る程の金を貰えるのも社長だった親父のお陰でもあり

 会社側はお袋が死んだ後には遺産が来ることを承知なんだよ!」

「・・・・」

とっさに出て聞く内容が余りに陽子には突然過ぎるも前から何度も聞かされ知っていた事柄

を相手に話し答えた。

「なによ、あなただって母さんが腫瘍の手術の時には見舞いにも来なかったじゃない」

「あ、あの時は妻の直美と離婚調停の段取りで行けなかったんだよ」

「それに一刻も早くに金が必要なんだよ。今日の礼にと電話したんだけど母さんと変わって

 くれよ、あんなんじゃ全然足りないよ、一刻も早く今は3千万は必要なんだよ」

すると陽子は玄関から食材を運ぶ伊藤と共にやって来る志乃に聞こえるように大きな声で

受話器を手に言った。

「今は話したくもないそうよ、もう諦めなさい」

と言って受話器を置いて切ると二人の方を見てにこやかに微笑んだ。

その笑みに二人は共に個々の微笑みで返すと志乃が陽子に向かって言う。

「ありがとう、陽子さん。本当にしつこい娘でね、良かったら一緒にお食事でも食べて

 行かない食材は冷蔵庫に沢山あるし伊藤さんも自分の分と私のとで二人でいつも食べ

 てから帰るのよ、たまには三人で食べるのも良いでしょう」

その心使いに陽子とみゆきはその日は一緒に食事をし帰りを共にした。

 その帰りに陽子はお互いに佐羽野志乃を世話する者同士としてみゆきを喫茶店に誘うと

彼女は思ったより素直に待ち望んだように付いて来た。

街の喫茶店に入ると奥のテーブルにみゆきが連れ込むように入って行き座りウエイトレスに

アイスティーを二つ注文すると背筋を伸ばし楽な姿勢になり首を横に左右に振る。

「あ~疲れた、あの婆さんの相手をするのは根気が必要よね。今日はチップもなしよ」

その佐羽野邸にいた時とはまるで違うみゆきに陽子は微笑しながら答えた。

「そうね、なら今日は私のおごりよ。クラブに今日も行く?」

するとみゆきは笑顔で頷き明日は平日だけど共通の休みねと二人は以前から仲良い友達と

なっていた。

 その日も行き付けのクラブで楽しむ陽子とみゆきは自分達を金づるだと思い込むホスト

のタカシに気前良く酒をおごり派手に飲みながら陽子は言う。

「やっと分かったわよ、隠し金庫」

「あの家のどこかにある事は毎月に届けて来る銀行員から聞いてはいたのよ。でもね

 居間の壁が扉になっていたなんて気付かなかったわ」

するとみゆきが嬉しそうに陽子に向かって尋ねた。

「それで幾らくらい持ってるのよ。あの婆さん」

グラスを片手にドンペリをススリながら陽子は答えた。

「そうね~、通帳には手を付けれないけれど丁度良い具合に純金なのよ、それと宝石

 だから海外でお金に替えればざっと二億くらいかしら後は債権や株もあるようで噂

 の資産が何十億ってのは本当だったようね」

「だけど急いだ方がいいわ、バカ息子が開き直って実家に来たらあの夫人はお金を実

 の息子に渡すでしょうね」

それを聞くみゆきは慌てた感じで陽子に迫って尋ねた。

「そ、それってどういう事よ。あそこの息子は九州で銀行の支店長じゃなかったの?」

「それが実家に来るなんて私は聞いてないわよ」

小声で事情を説明する陽子にホストのタダシが酒を注ぎながら相方もお代わりの要求を

迫り陽子は勝手にどうぞと受け飲み明かすとアパートには帰らずにホテルに泊まる時間

までクラブで飲み明かすと陽子とみゆきはタダシに誘われ二人ずつに部屋に泊まり翌日

の朝を近くのファミレスで共に朝食を取りながら段取りを進めた。

 そして決行の日が訪れ陽子は段通り通りに介護施設から出勤し佐羽野志乃の邸に行く

と玄関のベルを鳴らすも志乃の声がせず入り口にあるナンバーセンサーで鍵を開けた。

それは時々にある事で朝食を済ませた後また横になり寝入ったり時には面倒で出ない

のが本音だろう。

しかし、その日は少し様子が違った感じが中に入った陽子には受け入れられた。

余りに静か過ぎる室内と暗い部屋にし陽子が来たら志乃の方から声が掛かり呼ぶ筈が

何の声もしない。

すると居間の奥では手足を縛られ口を塞がれた佐羽野志乃が横たわり開いた金庫の前で

タダシと相棒がスーツケースに現金と宝石に書類債権や株まで詰め込みながらに言う。

「なんだ、思ったより早かったな、陽子」

「だがな諦めな、金は俺たち三人が全部頂くからな」

「三人?」

三人という言葉に眉を斜めにし顔をしかめる陽子の後ろで気配がした。

そう話し隠し金庫から金を入れるタダシの尋ねる陽子の背後から腕を組み首を斜めにし

苦笑しながら近付き申し訳なさそうに言うみゆきが居た。

「ごめんなさい、陽子。ホントはタダシだけに話したら彼が言うのよ、俺なら債権や

 株も裏で金に替えてざっと10億には出来るって、そしたら私には分け前を4億でね」

「あなたとだと2億で半々でしょう、どっちが得か考えたら迷わず彼と一緒にね、でも

 陽子の情報があっての事だからお礼はするわよ、ねぇ、タダシ!」

ああ、と答えるタダシは金を入れるのを相棒に任せると注射器を取り出し佐羽野志乃の

腕に注射し薬物を注入した。

「これで誰が見ても介護に来た女が婆さんが発作を起こしとっさに打った注射が誤り

 致死量に至ったと判断するだろう」

「むんん、ぬんん・・」

悲鳴を上げながらだろうが口を塞がれ志乃は注射器を見ながら怯え喚こうとしていた。

だが既に遅く次期に彼女は薬物により死ぬであろう。

 それから全てをスーツケースに入れるとタダシは座って眺める陽子にホテルでの一夜

は良かったが自分は前からみゆきと付き合っていてねと話しマスクとサングラスをして

金を奪って去ろうとする三人に陽子はカバンからシャンパンを取り出し暗い表情で言う。

「せっかく二年以上も前から計画してたのに残念だわ、みゆきが裏切るなんて・・」

すると彼女はムキになって陽子に言い返した。

「なによ、それ。もともとタダシは私が目を付けクラブに通ってたのに横から来て

 金で自分の物のようにしたクセにホスト・クラブはね金さえ出せば誰でも良いと

 いうわけじゃないのよ」

「それに陽子は私と同じ年齢だなんて言ってたけど嘘よね、化粧してるけど26か7歳

 なんでしょう。タダシも言ってたわよね、あの体は二十歳前半じゃないって・・」

テーブルに置かれたシャンパンを見ながら暗い表情で陽子は残念そうにみゆきを見て

からコルクのフタを開け抜こうとするが気が抜けたせいか力が入らない。

それを見たタダシがシャンパンを奪い笑いながらフタを開けて用意してあったグラスの

二つに注ぎみゆきと相棒に手渡し自分はビンのまま入ったシャンパンで乾杯をする。

それを見た陽子はカバンからみゆきの為の偽造パスポートと旅券を取り出して言った。

「もう必要ないわね、あなたには・・」

「私と来れば一億よ、馬鹿なホスト通いの女が稼げるような金額じゃなかったのに

 残念ね、みゆき。あなたの言うとおりよ、私は年齢もごまかしてたわ」

う、うぅ、あぅあぁぁ・・シャンパンを飲んだ三人が胸に手を当て嘔吐しそうな顔で

苦しみ始めるのを眺めながら陽子は話しを続ける。

「それね、お祖母さまへの還暦祝いなのよ。苦しいでしょうけど直ぐに楽になるわ

 青酸カリって早いのよ、私の母はお祖母さまやお祖父さまに勘当され私を大学に

 通わせ直ぐに死んでしまった」

部屋の床で横たわり手足を縛れられる志乃の口に巻かれた布を解きながら陽子は語る。

「知らなかったでしょう、私の母が佐羽野志乃あなたの娘なのよ、明子よ。私の顔

 も整形したから幼い頃とはだいぶ違うでしょう、でも、あなたの孫なのよ」

「!!!?」

ぐうぅぅあっぁぁ・・三人は揃って床に倒れ込み息を引き取ると穏やかな顔で陽子は

志乃を見つめながら驚き見開く老婆は何度も首を横に振りつつもかすれた声で訴える。

「そ、そんなのは嘘よ。前に明子から電話があったわ、それより早く医者を呼んで

 私を助けなさい!」

平気な顔で陽子は見下ろしてその答えを言った。

「ああ、あれね。あれも私とみゆきが仕組んだ事よ。ついでだけど息子さんもなの

 あれは私がそこの男に流行りのオレオレ詐欺を試してみなさいってお金で頼んで

 なのよ」

少しづつ息切れして行く志乃を見ながら陽子は彼女が死ぬ姿を見てから家を出ようと

心に決めていた。それが身内で祖父への彼女への最後の手向けと思ったからである。

「私が近付いた時にお祖母さまが気付いて優しくしてくれたなら・・・・」

陽子がそう語ると佐羽野志乃は安らかに目を閉じ逝ってしまった。

「でも、やっぱり・・変わらなかったでしょうね。さよなら、お祖母さま」

そのまま志乃を放おって倒れるタダシから重たいスーツケースを二つ奪い車に運び

込もうと陽子は一つづつ手にし玄関前の車のトランクに押し込み入れる。

二つ目のスーツケースを両手で持ち玄関を開けた瞬間に背の高い男が立ちはだかり

眼と眼が合うと思わず思い出した口調で陽子は叫んだ。

「叔父さま!?」

それは幼い頃にここの実家で構ってくれた本人の佐羽野明夫だった。



その後は読者の想像にお任せって感じです。というのもやって来た叔父も結局は母の遺産が欲しく

その手間をはぶいてくれた姪の陽子をどうするか否で判断は現代社会の日常化しつつ問題だからです。

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