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1話「スタート地点はエンディングから」

昔、ライトノベルを書こうに投稿したもののリメイク版です。色々とご指摘いただけると幸いです。

 紫の炎が灯る。

 ぼっ、ぼっ、とリズムを刻みながら、台座が怪しく輝く。

 床には、赤い絨毯が一直線に敷かれていて、それは玉座と思わしき場所へと向かっていた。

 その先に視線を走らせる。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 銀色の髪に、紅い瞳。小さめの身長に、未成熟に見える体つき。

 黒いゴスロリが、その幼さを際立たせているようにも見える。

 少女の人形のような瞳が、ゆっくりと見開かれる。

 その瞳に映るのは、一人の青年。


 銀製の胸当てと肩当て、脛当てに緑のジャケットを着ていて、ひと振りの剣を携えた青年だ。

 青年はキッときつい視線を向けると言い放つ。


「お前が……魔王か!」


 少女が口元を歪めて答える。


「いかにも」


 青年は、剣を強く握りしめると、構える。


「俺は勇者だ。お前を倒すためにここまで来た!」


 青年は、力強く言い放つ。その声が、深い青色をした魔石で出来た部屋に反響する。

 少女は、玉座に腰を掛けると、品定めするような目で青年を見る。


「……貴様が、勇者じゃと?」


 少女は笑う。


「笑わせるな。威光が足りぬ、圧が足りぬ。勇者足りえる波動を感じぬ」


 少女の言う通り、青年からは特別な何かは感じ取れない。見ただけではごくごく普通の剣士だ。

 しかし。


「しかし、ここまで来たのは褒めてやろう」


 青年は歯噛みする。全く相手にされていない。

 しかし、怯えてはいない。挫けてはいない。戦える。

 まっすぐ向き合う。


「お前の野望もここまでだ!」


 まっすぐ見る。見る。見続ける。

 視線が重なる。目を離せなくなる。いや、目を離したら負けだ。だから見る。

 青年は、まっすぐ見つめる。見つめて見つめて、見つめて。


「……ぽっ」


 魔王の頬がリンゴのように染まった。

 ……あれ?


「え、えっと、その……」


 魔王が視線をそらし、身を捩らせる。

 な、なんだ? いったい……? 何かの罠か?

 青年は、身構える。しかし、見えるのは頬を染めてくねくねとしている魔王だけだ。


「……あの」


 しびれを切らし、青年が声をかける。


「……勇者よ」


 それはさっき否定したじゃねぇか。


「……われのものに、なるがよい……」


 ボソボソと魔王が言う。え? 今なんて?


「我の物になれ勇者よ!!」


「なんで!?」


 突然だった。大声を上げた魔王に、勇者は驚きを隠せない。

 あれか!? 世界の半分をお前にやろう!的なノリなのか!?


「我の……婿になるのだ!」


「いや、余計わからねぇよ!!」


 婿!? ってことは、もしかして今プロポーズされたのか俺!?

 とはいえ、魔王の目は真剣そのものだ。その思いには真面目に答えなければならない。


「俺は勇者だ。魔王を倒し、世界征服を止めるために来た! だから無理だ! ごめんなさい!」


 これが正真正銘の正解だろう。勇者と魔王は敵同士。


「なら―――」


 えっ、おいまさか……。


「じゃあ世界征服やめる!!」


「おいこら待てぇ!!!」


 思わず剣を床に叩きつけて突っ込みを入れていた。いや、俺こそ待て今戦闘中!

 冷静になって剣を拾い上げると、もう一度しっかりと握り構える。


「勇者よ、名を何と言う?」


「魔王に答える名は無い」


 ばっさりと切り捨てる。魔王がちょっと涙目なのが、良心を襲う。


「……教えて」


 ええい、目を潤ませるんじゃない。ちょっと声震わせるのも止めろ。理性と良心が!


「……」


「……白鷺、和真だ」


 魔王の顔がぱぁぁっと明るくなる。


「カズマ、カズマ……ふふっ、カズマ♪」


 小さな声で反芻する。嬉しそうに笑う表情は年相応に可愛らしいものだった。


「カズマよ!!」


「は、はいっ」


 びしっと指さされてついつい背を伸ばしてしまう。

 魔王はそのまま和真のほうに、つかつかと歩み寄り、手の届く距離までやってくる。

 …………チャンスじゃ?


「我……いや、わたしの名はアリエスト・ルルブランシェ。三代目魔王じゃ」


 すっと手を差し出す魔王アリエスト。

 雰囲気は柔らかく、裏はなさそうに見えるが、相手は魔王だ。まだ油断してはいけない。

 その証拠に。


「姫様ああああああああ!!!!」


 和真が立っていた場所に巨大な影が差す。和真が後ろに飛びのくと、先ほどまで彼がいた場所に巨大な人影が降ってきた。

 ゆっくりと立ち上がる人影は、身長二メートルはあるかという、モノクルを掛けた筋肉隆々の初老執事だった。


「姫様に手を出すとは言語道断!! 勇者よ、覚悟せいッ!!」


 やっぱりこれが真の狙いか!!

 和真は、繰り出された拳をバックステップしながら剣で受ける。衝撃を逃がすようにガードしたにも関わらず、強い衝撃が体を突き抜け、数メートル吹き飛ばされた。


「くっ……なんだこのジジイ!?」


 驚いている間にも、追撃は来る。吹き飛ばした数メートルを一歩で詰め、体当たりをぶち込まれた。

 今度こそ体勢を崩される。剣ごと突き飛ばされ、大きく仰け反る。


「これで終いだあああああああ!!!」


 魔力を纏って紫に輝く拳が迫る。ただでさえ破壊力がある拳に魔力の塊を乗せられたらひとたまりもないだろう。

 拳が当たる。その瞬間に、和真は自ら後ろへと倒れる。

 ぎりぎりの高さを拳が掠めていく。その倒れる勢いを利用して、和真はバク転。

 勢いのまま頭を上げると同時に、一閃。振りぬかれた右腕を切り裂いた。


 構えを解いて、初老が向き直る。その右腕がぼとりと床に落ちた。


「ほぅ、ますます気に入った」


 アリエストは感嘆を漏らす。

 

 白鷺和真は見たところ平凡なごく普通の人間である。

 特別な力を感じるわけでもなく、魔力すら感じられない普通すぎる人間だ。

 本来、そんな普通の人間が玉座の間へと辿り着くこと自体、恐るべきことなのだ。


 更に特筆すべき点はある。

 先ほど一太刀を交えた初老の魔族。彼は魔族の中でも高位に属する大魔族だ。

 それと互角以上に渡り合う人間など、存在し得るはずがない。


「ふふ、流石じゃ。噂は本当のようじゃな」


 アリエストは満足げに頷く。彼は勇者ではない。だが、実力は本物だ。

 魔王軍に匹敵するほどの個人など、こんな面白い人材も他にはいまい。

 それに。


「おぬしはわたしに、まっすぐ向き合ってくれた最初の人間だ。その強い瞳に、わたしは惹かれたのだ」


「……はい?」


 和真は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 流れから察するに、つまりは―――。


「おぬしに惚れたぞ、カズマ」


「えええええええ!?」


 勇者和真、魔王から一目惚れされた上に、いきなりプロポーズされる。

 って、待て待て待て。


「そのために、世界征服をやめると?」


「うむ」


「俺はお前の部下を何人も倒してるんだぞ?」


「ふむ」


 アリエストはややあってから。


「代替わりしたばかりのわたしを快く思っていない者も多かったし、まぁ良いじゃろ」


 あっさりと、そう告げた。いいのかよ。

 しかし、ここでハイよろしくというわけにはいかない。和真は退路を意識しつつ、じりじりと下がる。

 ここは一旦仕切り直して……。


「そうはいかぬぞ! ガーゴイル!」


 突然、天井から石の彫刻が降ってきた。

 禍々しい翼と角を持った悪魔の彫刻は、まるで生き物かのように自在に手足を伸ばしている。


「やべっ……」


 その瞬間の和真の判断は早かった。

 ガーゴイルが床に着弾すると同時に、大きく後ろに飛んだ。そのまま空中からアリエストの姿を視認すると、彼女に向って思いっきり剣を投げつける。


 アリエストは全く動じずにその場に立っているだけだ。

 しかし、アリエストも和真も、同じく信じていたのだ。初老の執事が、割って入り、剣を叩き落すまでの作業を。

 それこそが、和真の狙いでもあった。


 これで、動き始めたばかりのガーゴイルと防御に回った執事、二人からの追撃の可能性は消え去った。

 和真は、着地と同時に脱出を試みようとして。


「チャーム!」


 失敗する。

 アリエストからピンク色の光が発され、和真の体に直撃した。


「うわあああ…………あ? なんともな……い?」


 和真は自分の体を見下ろすが、特に外傷はなかった。一体なにをした、と聞こうと顔を上げた瞬間、理性が弾けた。


「きゅん……アリエスト、超ラブリー……」


 瞳の中にハートの光が灯った。

 ああ、ちくしょう、なんだこれ。アリエストが可愛くて仕方がない。今すぐ駆け寄って、抱きしめてぺろぺろしたい。


「ふっ、逃がさぬのじゃ、婿殿……」


 和真は魅了魔法によって、完全に骨抜きにされていた。


「それにしても、即落ちじゃったの。普通は多少抵抗されるものなんじゃが」


 アリエストは和真にステイと言うと、その場でおとなしく待つ彼のもとへと歩み寄った。

 そして、和真の額に手を翳すと、白い魔法陣が現れる。


「こ、これは……!?」


 魔力耐性値が完全にゼロだった。この男は、魔法に対する抵抗力を一切持ってない。


「なんというガバガバ耐性。よく魔族に勝てたの。不思議じゃ」


 しかしこれで、和真を確保することができた。

 アリエストはこれからのことを考える。まずは結婚式。それから人類との和平交渉。やることは山ほどある。


「あああああああアリエスト、ラヴリー! めっちゃラヴリー! はぁぁぁぁ♪」


 和真が壊れ始めた。

 妙に高い声で、アリエストの頭や頬を撫で始める。


「ん、む、くすぐったいぞカズマ」


「はぁぁぁぁ、癒し。尊い」


 アリエストも撫でまわされるのを心地よく感じていた。

 彼女の周りに、こんなにべったり接している存在はいなかったためか、久々の触れ合いにアリエストは、ほっと息を漏らす。


「カズマ、わたしの物になれ」


「はい。もちろん♪」


 こうして、白鷺和真は魔王軍へと取り込まれたのだった。


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