トラック、異世界行き
「異世界に入る小説だと、冒頭で主人公が死んでしまうことが多いですよね」客足が無いのをいいことに、烏丸はやや驚かれるような話題を振った。
「ああ、可哀想だよなトラックの運チャン。ドライブレコーダーを用意しても過失は免れないし何より人の死体を見るんだぞ」
「いやそうじゃなくて」古谷のボケを烏丸はあえなく返す。
「物語の始まりには死体を転がせ、って言うから。インパクトの有るシーンを冒頭に持っていくのは大事なんだよ」
「……なら、わざわざ死のシーンを描く必要は無いんじゃないですか? 冒頭で異世界に入るシーンでも構わないかと」
烏丸の疑問に対し、やや考えこむ古谷。
「タロットカードは知ってるよな」烏丸はちょうどこの前漫画で読んでいたので知っている。
コクリと頷くだけに留めておくと、古谷は続けて良いのを確認する。
「13番目の死神には『決着と再開』の意味合いが有るそうな」
「正位置と逆位置がある、とは聞きますけど。どちらがどちらなんですか?」
「正位置で『終了』、逆位置で『再開』。だけど占い師さんの中にはそれの2つを同じものとして考える人もいる」
「オワリはハジマリとはまた詩的ですね」表情に困るも、この話の着地点が見当たらない烏丸。
「死ぬこと自体を新しいスタートと考えればポジティブなんだけど、死後の世界なんて分かんないしなぁ」
「……古谷さんはどう考えてるんです?」烏丸はふと浮かぶ疑問をぶつけてみる。
「……ミステリで散々人死なせてるし、死んだらあの世で登場キャラに怒られるかもしれん」口元に困ったような笑みを浮かべ古谷は答える。
「おお、クワバラクワバラ」
「古っ」




