7小説の動機(烏丸)
「ひょっとしたら私は、単なる記録として物を書こうとしているのかもしれません」
「記録、か」今度は古谷が言葉を詰まらせる。
「毎日どこと無く思いついたことを忘れながら、ずっと生き続けて死ぬまで忘れ続ける。そうやって生きていくのがどうも勿体無いような気がして」
「……徒然なるままにってか?」高校の頃の僅かな知識を思い起こす。
「或いは、写真のような単なるデータ集としての扱いかもしれません」
「写真をデータとして扱うかはともかくだけど」
「考え方が怠惰でしょうか」
「いいや、ある意味純粋なんじゃないかな」何かをごまかすように、半分笑みを浮かべながら古谷は返す。2人共しばらく考えこむ。
しばらくたって、言い出したのは古谷だった。
「僕も、もう一度小説を書いてみようか」
「面白いかもしれません、それ。古谷さんがどんな小説を書かれるか想像もつかないですけど」
「期待して待ってて下さいな」
「黒歴史小説をですか」
「やっぱり黒いわアンタ」
「それでは次に会うときにでも、テーマ程度は持ち寄って」
「うん、考えておこう」
残ったコーヒーを、2人とも一気に飲み干す。熱さは感じなかった。