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◆10 彼女の名前
「竹内藍子さんはご存知ですよね」
名前を聞いた途端、古谷は思わず目を見開く。
「彼女はこちら側についています、もちろん高磯さんを助ける側として」
「……意外だな、あの人は音頭を取りたがるタイプだと思ったのに」焦りをひた隠しにするように、古谷は反論する。
「竹内さんが手段を問わなくなった、という事態ってことですよ」
「それほどアンタのチームが大きいのか、高磯の事態が危険なことになっているのか」
その質問に対し辰巳はどちらでしょうかね、とお茶を濁した。
「そろそろ時間ですので、俺は先に出させて貰いますよ。依頼を受けて頂けるなら連絡をお願いします」
最後だけ妙に礼儀正しく頭を下げて、早々に席を立つ辰巳。しばらく古谷は動けないでいた。
テーブルに置かれたドリアの皿を見る。いつの間にか辰巳は平らげていたが……
レシートは残されたまま、お金は全く置かれていない。結局僕のおごりになっている、と呟く古谷であった。




